三重の7人の起業家たちが新たなビジネスアイデアを続々提案!―「Update Pitch Contest」レポート
2020年4月からスタートした「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想。三重県が県内経済の活性化を目指し、新規事業のエコシステム構築に取り組む同構想では、これまで「クリ”ミエ”イティブ実証サポート事業」をはじめ、数々のスタートアップ/新規事業支援が実施されてきた。
▲TOMORUBAでは、「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想をリードする三重県 創業支援・ICT推進課課⾧の上松真也氏にインタビューを実施している。
2021年3月10日、その一環となるオンラインピッチイベント「Update Pitch Contest」が開催された。同イベントでは、三重県に関わる起業家7名が、事業開発のプロフェッショナルであるメンターにビジネスプランを発表。ビジネスプランのレビューを受けるほか、メンターとの交流を通じて、起業家への第一歩を踏み出す。
登壇者の7名は、これまで全5回の事業開発セミナーや実践編のワークショップなどへの参加を通じて、ビジネスプランを磨き上げてきた。今回のイベントは、約6ヶ月間に渡る事業構想の集大成の場でもある。
そこで、TOMORUBAではイベントの取材を敢行。地方自治体のなかでも、先進的にスタートアップ/新規事業支援に取り組む三重県において、いま、どのような新規事業が生まれようとしているのか。その貴重な現場に迫った。
<登壇者7名・発表したビジネスプラン> ※順不同
①黄山 昇 氏/株式会社Dream3.0 代表取締役 「今こそ!地域企業と都市部兼業人財の新しい協創を!」
②加藤 宏明 氏/伊勢くすり本舗株式会社 代表取締役 「原料栽培からの薬づくり&みんなでつくる芍薬ファーム」
③川北 睦子 氏/株式会社Eプレゼンス 代表取締役 「女性活躍推進企業向けオンラインマネージャーMANECO」④小林 大輝 氏/株式会社pray 代表取締役 「働く女性向けのWellnessサービス」
⑤齊藤 巧 氏/株式会社寿美家和久 デジタルマーケティング部 部長 「ストデリ(地方デリバリーの小規模プッラットホーム集合体))
⑥中間 じゅん 氏/プロデューサー・プランナー 「女性の健康を応援するヘルステック」
⑦中村 太郎 氏 「三重の縁側コミュニティ〜手軽にアイディアを発信し繋がる〜」
<メンター>
●Spiral Innovation Partners LLP 代表パートナー 岡 洋 氏
●株式会社はんぽさき 代表取締役 小林 俊仁 氏
●株式会社EBILAB 最高戦略責任者 最高技術責任者 常盤木 龍治 氏
●eiicon company 代表/founder 中村 亜由子 氏
●三重県商工会議所連合会 専務理事 吉仲 繁樹 氏
人材マッチング、漢方薬づくり、女性活躍推進…多様な7つのビジネスプラン
①黄山 昇 氏/株式会社Dream3.0 代表取締役
「今こそ!地域企業と都市部兼業人財の新しい協創を!」
黄山氏が提案するのは、「関係人口」の創出による、人口減少の課題解決だ。関係人口とは、ある地域の人やコミュニティと関わり持つ、地域外の人々のこと。黄山氏は、三重県にゆかりを持つ人々による「Uターン型関係人口」を創出することで、将来的な移住を促し、豊かな地域資源を活かした産業を盛り上げたいと語る。
その実践が、株式会社Dream3.0が参画する、”応援したくなる、挑戦したくなる地方のプロジェクトが集まる兼業マッチングプラットフォーム「ふるさと兼業(運営事務局:NPO法人G-net)」”だ。ふるさと兼業は、全国各地の地元に密着した事業を行う法人などで運営する、地域企業と都市部兼業人材をマッチングするサービス。近年、地方の企業には戦略立案やマーケティングなどに知見を持つ中核人材が不足する傾向にあり、さらに、都市部人材には、収入よりもやりがいや自己成長を重視する層が増えつつあるという。
ふるさと兼業は、そうした両者を取り持ち、つなぎ合わせることで、関係人口の創出と地域産業の振興を図る。黄山氏はこれまで県内で、7件のプロジェクトに30人以上の人材をコーディネートした実績を持ち、サービスの規模も拡大中だ。ふるさと兼業のサービスを通じて、「都市と地方の新しい繋がり」を加速させ、これからの人口減少時代における、新しい協創の形をつくっていくと意気込んだ。
<講評・レビュー>
はんぽさき・小林氏は「三重県における人口減少」というマクロ視点での課題が明快に説明されていたと、黄山氏のプレゼンテーションを評価した。一方で、地域企業が具体的にどのような困り事を抱えているのかといった、ミクロ視点での課題に対する言及が少なかったと指摘。より具体的なニーズを掘り下げ、課題の解像度を高めるべきだとアドバイスした。
②加藤 宏明 氏/伊勢くすり本舗株式会社 代表取締役
「原料栽培からの薬づくり&みんなでつくる芍薬ファーム」
加藤氏が提案するのは、国産・無農薬の漢方薬づくりを通じた、新たな価値の創出だ。加藤氏が代表を務める伊勢くすり本舗は、1570年創業の製薬所「加藤延壽軒」をルーツに持ち、古くから伊勢神宮の門前で漢方薬を販売してきた。
そうした漢方薬づくりに対する深い知見や豊富なアセットを生かし、みんなで薬を学び、みんなで薬を創る「薬育」を事業化するのが、加藤氏のビジネスプランとなる。
三重県鈴鹿市に所在する芍薬(漢方薬の原材料)の花畑において、漢方薬・ボタニカル化粧品の製造販売事業のほか、レストラン・簡易宿泊所事業、農業体験などのファーム運営事業を手掛け、「芍薬ファーム」として観光農園化を目指す。原材料の栽培から収穫、製造、販売までを体験することで、「薬に対する疑問を、みんなで解決する」場所を創りたいという。
加藤氏は、優れた農家による薬草栽培の技術と日本の伝統的な薬づくりの文化を、芍薬ファームを通じて発信し、現代のライフスタイルにも通じる新たな価値を創造・再構築したいと語った。
<講評・レビュー>
Spiral Innovation Partners LLP・岡氏は、芍薬ファームの構想を「ややプロダクトアウト的な発想」と指摘したうえで、薬育に対する市場のニーズや地域農園の課題などを、さらに深掘りするべきだとした。一方で、加藤氏が掲げる「”薬草”を愉しみながら育てる」というコンセプトを評価し、芍薬ファームで漢方薬づくりに触れる楽しさを具体化していくことで、独自の価値が生まれるのではないかとコメントした。
③川北 睦子 氏/株式会社Eプレゼンス 代表取締役
「女性活躍推進企業向けオンラインマネージャーMANECO」
川北氏が共同代表を務める三重県の女性起業家・企業家ビジネスプラットフォームwiz:(ウィズ)が運営する「MANECO(マネコ)」は、ワーキングマザーの健康をオンラインでサポートするサービス。メンタルヘルスケアサポートや、コミュニティの提供を通じて、ワーキングマザーだけでなく、女性活躍を推進する企業の課題解決にも貢献している。
近年、多くの企業が女性活躍を目的に様々な施策を推進しているが、まだまだ課題が残るのが現状だ。特に、育児や家事の負担による、ワーキングマザーの身体的・心理的負荷は企業側にとっても解決すべき問題となっている。そうした課題が生まれる要因として、川北氏は「女性の健康に対する、企業のリテラシーの低さ」や「コミュニケーションの窓口の少なさ」などを挙げ、その解決策としてMANECOを提案する。
MANECOでは、女性活躍を推進する企業やワーキングマザーと、三重県女性起業家・起業家プラットフォーム「wiz:」の会員が提供するサービスをマッチング。美・健康・子育て・ITなどのサービス提供を通じて、ワーキングマザーの身体的・心理的な健康促進を図る。また、MANECOからも「ワーママ相談オンライン」や、昼間帯に開催される「オンライン異業種交流会」などのサービスを提供し、ワーキングマザーの健康やキャリアに関する悩みに答えていくという。
<講評・レビュー>
eiicon・中村は、MANECOから提供されるサービスに着目。夜間に外出しにくいワーキングマザーにとって、昼間帯に開催される「オンライン異業種交流会」は有益なサービスだと評価した。また、コミュニケーションの場だけではなく、子育てや就労に関する具体的な「負」を解消するサービスの必要性も語り、それらのサービスを提供する企業との連携を視野に入れてはどうかと提言した。
④小林 大輝 氏/株式会社pray 代表取締役
「働く女性向けのWellnessサービス」
小林氏は、近年の女性の社会進出の本格化や、サステナビリティへの問題意識の高まりなどによって生じる、女性の不安に対するウェルネスサービスを提案する。小林氏が代表を務めるprayの運営するヴィーガンライフスタイルサービス「One Bite」、そして総合ウェルネスサービスの「COCORISM」だ。
One Biteは、ヴィーガン食のミールキットを提供するD2Cサービス。日本の食文化を生かしたヴィーガン食の開発に取り組んでおり、将来的には日常食としてのヴィーガン食やグローバル市場への展開を目指している。他方、COCORISMは、食分野以外にも、カウンセリングやワークアウト、お出かけなど様々な分野を統合し、総合的なウェルネスサービスを提供している。
小林氏は「今後、日本でヴィーガンに対する見方・考え方が変化するタイミングが来ると見込んでいる」として、ヴィーガン市場拡大への期待を語る。それまでに、サービスの顧客層拡大や、商品・店舗のフォーマットの確立に取り組み、ヴィーガン食の国内トップブランドの地位を築くのが、今後の戦略だとした。
<講評・レビュー>
Spiral Innovation Partners LLP・岡氏は、ヴィーガン食は非常に興味深い分野だとしたうえで、ヴィーガンという名称を打ち出す是非についてコメント。岡氏によれば、D2Cサービスが持続可能であるためには、市場に一定以上の規模が必要だという。高品質な野菜を購入したい消費者や、健康意識の高い層にサービスを届けるためにも、ヴィーガンという名称以外も検討してみてはどうかとアドバイスした。
⑤齊藤 巧 氏/株式会社寿美家和久 デジタルマーケティング部 部長
「ストデリ(地方デリバリーの小規模プッラットホーム集合体)」
齊藤氏が料理部門の責任者を務める寿美家和久は、お祝い・おもてなし・おみやげ用の宅配和食料理を提供する「仕出し割烹しげよし」を展開する企業。全国400店舗以上のFC店舗を展開するなど、日本全体に事業の裾野を広げている。
そのアセットを生かした新規事業が「ストデリ」だ。ストデリは、地方向けのフードデリバリープラットフォーム。顧客がWebから注文したフードを、寿美家和久の従業員が配達するサービスだ。
齊藤氏は、ストデリが考案された背景には、地方だからこその課題があったと語る。近年、フードデリバリーサービスが世間的に高い注目を集めているが、地方では若者の人口流出などにより、配達員の確保が難しい状況が続いている。そのため、フードデリバリーのニーズは存在しても、配達員の不足がネックとなり、サービスを利用できないケースも少なくない。
その点、寿美家和久は宅配和食料理を主力事業とし、尚且つ、全国にFC店舗のネットワークを構築していることから、地方でのデリバリーにも十分に対応可能だ。2020年5月に三重県津市、四日市市で行ったテストマーケティングでは、両市ともに月間約500件の注文を記録するなど、ストデリのニーズの高さを実感していると、齊藤氏は語った。
<講評・レビュー>
EBILABの常盤木氏は、宅配員の不足は地方共通の課題であり、三重県だけでなく全国で展開可能なサービスだとコメント。「一見地味ではあるが、堅実に伸び続けるビジネスモデルだと思います」と高く評価し、数年後には様々なメディアで取り上げられるサービスに成長しているのではないかと語った。なお、本プランは、視聴者による投票で「オーディエンス賞」を獲得した。
⑥中間 じゅん 氏/プロデューサー・プランナー
「女性の健康を応援するヘルステック」
中間氏が提案するのは、「家族のための包括的な次世代ヘルスケア」を掲げる、新しい家族のヘルステック「well family(仮)」だ。
近年、女性の身体課題を解決する「フェムテック」がトレンドであり、世界的に市場規模の拡大が続いている。well family(仮)は、フェムテック領域のなかでも、妊活・不妊治療・妊娠に関する課題に焦点を当てたヘルステック事業。これらの課題に対する様々なソリューションを統合し、ユーザーごとの事情に合わせたサービスを提供していくという。
具体的なビジネスプランとしては、妊活・不妊治療・妊娠に関するメディアを立ち上げ、企業からの広告収入を得るとともに、メッセージアプリを活用したカウンセリングサービスを展開。ゆくゆくは行政機関や医療機関と連携し、ユーザーを適切な行政サービスや治療に導くハブとなることを目指している。
今後の展望としては、まず三重県でサービスを展開し、独自のサービスモデルを確立。その後、他の地方自治体への横展開を通じて、全国規模への展開を想定している。
<講評・レビュー>
はんぽさき・小林氏は、フェムテックは今後も拡大が見込まれる成長分野であり、事業領域には期待が持てるとした一方で、well family(仮)にはさらに綿密なビジネスプランが必要だと説く。特に、メディア事業とカウンセリング事業を、サービス立ち上げ初期から両立するのは困難だとして、「まず、どの事業で収益を出すのか」を明確にするべきだとアドバイスした。
⑦中村 太郎 氏
「三重の縁側コミュニティ〜手軽にアイディアを発信し繋がる〜」
中村氏は、三重県内のメーカーに営業職として勤務する人物。業務外では、イベント・ワークショップの企画運営をボランティアで手掛けており、2018年には世界的プレゼンテーションイベントの運営にも携わった経歴を持つ。
中村氏は、そうした経験のなかで培ったアイデア、ナレッジ、三重県内における人脈を活用し、誰でも自らのアイデアを広められる「縁側コミュニティ」の創出を狙っている。縁側コミュニティでは、主に個人事業主がスピーカーとなったイベントやセミナーを開催。オーディエンスの学びとなる情報を発信するとともに、スピーカーの販売チャネル開拓の場としても活用する。また、イベントの企画から集客、運営は中村氏が担い、その対価としてスピーカーから報酬を得るビジネスモデルを想定している。
直近では、オンラインによるウェビナーを中心としてイベントを開催していく予定だが、今後は三重県内でのオフラインイベントの開催も視野に入れている。そして、ゆくゆくはオンライン・オフライン双方の強みを生かしながらコミュニティの規模を拡大し、県外への事業展開も狙いたいと、中村氏は今後の展望を語った。
<講評・レビュー>
三重県商工会議所・吉仲氏は、当初からコミュニティの拡大を狙うのではなく、まずは小さな成功事例を積み重ねて、徐々にコミュニティを拡大していくべきではないかと助言。そのためにも、活動の当初はエリアやテーマを限定して、イベント開催を推進していくべきだと述べた。
三重ならではの事業開発で、地方自治体のモデルケースを目指す
イベントの最後には、締めくくりとして、メンターによる講評が述べられた。
Spiral Innovation Partners LLP・岡氏は「全体を通して、熱いハートを持つ方が多かった」として、登壇者の姿勢を賞賛。一方で、「そうした熱い想いを届けるためには、綿密なビジネスモデルが必要です」としたうえで、各登壇者にさらなる課題の掘り下げを求めた。
続いて、はんぽさき・小林氏は、岡氏の講評に同調。「事業を成立させるためには、まず何かしらの課題を解決して、その対価を得る必要があります」と課題抽出の重要性を述べた。さらに、課題抽出においては「困っている人のところに飛び込むのが一番いいです」と語り、実際に課題を抱える現場への訪問を勧めた。
eiicon・中村は、登壇者のプレゼンテーションについて「総じて、個人的な経験がもとになって、ビジネスプランが作りあげられていました」と共通点をあげ、各登壇者の事業への熱意を評価。「事業開発の過程では様々なスキルや計画が求められますが、最終的には熱意に戻ってきます」と語り、今後も熱意を絶やすことなく、事業開発に向き合い続けてほしいと述べた。
最後に、三重県商工会議所・吉仲氏は「地方創生は、多くの地方自治体に共通の課題です」としたうえで、「常若(とこわか)の精神を持つ三重ならではの視点で、他の地方自治体のモデルケースとなる事業を創出してほしい」と期待を語った。さらに、三重県商工会議所としても、そうした事業を積極的に支援していくつもりだと抱負を述べた。
イベント終了後には、以下画像のようにバーチャルオフィス「oVice」(オヴィス)を利用したネットワーキングが行われ、起業家やメンター、三重県の担当者たちが積極的に交流し、意見を交換した。
取材後記
今回の取材で最も印象的だったのは、登壇者の多様さだ。年齢や性別はもちろん、様々な背景を有するメンバーが登壇者を務めていた。経営者、会社員、料理人、薬剤師…それぞれがそれぞれの立場から新規事業を構想する姿には、古いものを作り替え、永遠に若々しくある「常若の精神」を感じずにはいられなかった。
以前の取材で、「とこわかMIEスタートアップエコシステム」構想を主導する三重県の創業支援・ICT推進課課⾧の上松真也氏は、同構想の第一段階として「機運醸成」を挙げた。三重県内でスタートアップや新規事業に対する好意を醸成し、様々な人が起業にチャレンジする土壌を作りたいというのが、その狙いだ。今回の登壇者の多様な顔ぶれは、機運醸成が成功に至っている証拠といえるだろう。
なお、当日の模様は以下YouTubeにてアーカイブが配信されている。
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)