【連載/4コマ漫画コラム(34)】 新規事業に向かない”最悪のリーダー”
最悪のリーダーとは
今回のお題は「新規事業に向かない”最悪のリーダー”」。前々回の「新規事業に向かない”最悪の部下”」のリーダー版です。前々回の「最悪の部下」のパターンは、ほぼ、そのまま「最悪のリーダー」にも当てはまります。
●既存事業と同じ感覚で「きちんと」仕事をしようとする(不確実性へのチャレンジが理解できない)
●自分の評価を気にする、上長にばかりいい顔をする
これらに加えてリーダーならではの「最悪になりうる点」があります。「大きな方向性を打ち出せない」「リソース(予算や人員)を確保する力がない」などですが、一番最悪なのは「部下の邪魔をする」です。
最悪のリーダーは不安から
実は新規事業には向いていないのに、新規事業の部門のリーダーを任されてしまった人の多くは、上記の「きちんと仕事をしよう」「目に見える成果を出そう(そして上長に気に入られたい)」という気持ちが強いのですが、「不確実なことだらけ」の新規事業では「見えないことばかり」に囲まれて、真面目であればあるほど辛い毎日を送る羽目になってしまいます。そのため、その「見えないことばかり」に「部下の活動」が含まれるのが耐えられません。
新規事業には「たまたま」の要素(かっこよく言えばセレンディピティ)が重要なので、新規事業の立ち上げに優秀な部下であればあるほど、一見無駄に見える様々な動き(外出したり、色々な人に会ったり)をします。それもどんどん状況に応じて、一つのことをやったら、次のことに活かして動いていく……という風にやるので、上司にいちいち報告したり説明したりする間がありません。そうすると、上司から見ると、部下の動きも見えなくなり、不安ばかりが増大していきます。
なぜ管理しようとするのか
その結果、「最悪のリーダー」は部下をとにかく細かく管理しようとします。
ちょっと外出しようとするだけで、「どこに行くのか」「誰に会うのか」、そして「それが何になるのか」と問い続けます。「何のために」をしっかりロジカルに説明しないと、いつまでもケチつけのような指導が続きます。しかし、そんな「何のため」を言語化するのに時間をかけるより、動いてしまって、次につなげることの重要性を動物的な感覚で身に着けている部下にとっては、単に時間の無駄で邪魔でしかありません。
こうなってしまうリーダーを一言で言うと「人間が小さい」のです(元も子もありませんが)。
私の知り合いでもこの「上司による妨害」に苦しんでいる素晴らしい新規事業創出能力を持っている若い人が何人もいます。
この手のリーダーは、「見えないこと」が嫌いなので、「機会」という(これも)見えないことが理解できません。そのため、自分が部下を邪魔することで、如何に「機会損失」を招いているかを全く気にしません。「機会」も「機会損失」も見えないものです。機会損失を重ねていては新規事業の成功はありえません。
最悪のリーダーの対処法
そういう上司に当たってしまった時はどうすればいいのでしょうか。
まずは心構えから。
そんな「小さな人間」と真っ向から口論したりケンカしたりすると、相手のレベルに知らぬ間に引きずられて、自分自身も「小さな人間」になってしまいます。ムカっとくることがあっても、ちょっと幽体離脱して、「こんなヤツとケンカなんかしないぞ」と自分に言い聞かせましょう。
まだ状況がそれほど酷くない時がまずは重要です。
色々とケチをつけるようになってきた上司には、「そうですね~」と理解したようなフリをしておき、実際は「無視」して行動してしまいましょう。人間としてある程度の大きさを保っているリーダーであれば、そのうち細かいことを言うことを諦めて「あいつはああいうやつだ」という(いい意味での)レッテルを貼ってくれます。
そして自由に動いて、たまに、いいネタをその上司に報告してあげましょう。お土産です。そうすれば、このレベルの上司であれば、細かい管理はしなくなります。
最終手段
しかし、「最悪のリーダー」はこれだけでは終わりません。状況は悪化していきます。酷くなると、「全てのメールに私をccに入れろ」とか「全ての外出は許可が必要、報告書も毎回提出」とか言うようになります。
こうなると、普通の対応ではどうしようもありません。
ある意味最終手段に打って出る必要があります。そのためには、まずは、自分の心に聞いてみましょう。
『自分が本当にやりたいことは何か』
単に「この上司から逃げたい」ではダメです。「何を創りたいか」「世の中に何を出していきたいか」というようなことです。ここでしっかり自分を見つめて、その「やりたいこと」が今の会社でないとできないか、会社をやめてもできる可能性があるか、を考えましょう。
恐らく、殆どの場合、「この会社でなくてもできる」か、むしろ「他でやった方ができる」ということになるはずです。でも、同時に、「今の会社自体は嫌いではないし、使えるリソースも一杯あるし、仲間もいる。単に今の上司が邪魔しているだけだ」というふうにも思って気持ちが揺れ動くでしょう。
「やるだけやって、ダメだったら会社を辞めて、他でやる」という覚悟が醸成されるかどうか冷静に考えましょう。そして、いよいよ行動です。上司を飛ばしてエライ人に直訴するのです。上司の上長でもいいし、別の組織のおエライさんでも構いません。その人が管轄する部署への異動を願うのです。
その際、「上司が悪い」ということよりも「自分がやりたいこと」を中心に話をするように心がけましょう。当然、「どうして今の部署ではできないのだ」と聞かれますので、その時には多少現状を伝えるのは必要でしょう。「上司を飛び越えて話にくるなんてとんでもない」と言うようなおエライさんに直訴しても仕方ないので、事前に周囲からおエライさんの情報をしっかりと得ておくことも大事です。会社には色々なタイプのおエライさんがいます。必ず「なんとかしてやろう」と思ってくれる人がいるはずだと信じて動いてみましょう。
そして……そういう人がいなければ辞めちゃえばいいのです。
つまらない人間やつまらない会社のせいにして自分の人生をつまらないものにしてしまうほどつまらないことはないので。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。