【イベントレポート】 ”インド最前線セミナー「ヘルスケア×IoT」”に、OKI・大武氏が登壇!インドからリバースイノベーションの機会を探る。
「“モノづくり・コトづくり”を通して、より安全で便利な社会のインフラを支える企業グループ」をビジョンに掲げ、2018年4月から「Yume Pro」というイノベーション創出活動を推進している沖電気工業株式会社(以下、OKI)。国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)17のテーマを起点として、社会課題解決に向けた様々なイノベーション活動に取り組んでいる。
▲OKIのYume Proメンバー ※「Yume Pro」特設サイトはこちらからご覧いただけます。
その活動の一環としてOKIは2018年3月4日~10日、東京大学発の教育プログラム「i.school」とJapan Innovation Network(JIN)が主催する、【SDGsビジネスプログラム in インド 「ヘルスケア×IoT」】に参加した。同プログラムは「ヘルスケア×IoT」をテーマに、インド工科大学ハイデラバード校(IIT-H)の学生やフェローとのワークショップなどを通じて新しい発想を喚起し、インドでのビジネス機会や日本へのリバースイノベーションの機会を探るものだ。
5月15日、同プログラムの報告会を兼ねたインドのヘルスケア市場最前線の情報を提供するセミナー「インド最前線セミナー『ヘルスケア×IoT 』‐インドからリバースイノベーションの機会を探る」が、ジェトロ本部にて開催された。当日は、プログラムに参加したOKI 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏による報告をはじめ、i.schoolが開発するオンラインシステム「APISNOTE」のワークショップや懇親会を実施。インド市場に注目する企業や、ヘルスケア分野でイノベーションを目指す企業が集った。
「スタートアップ・インディア」を策定し、起業支援を後押しするインド
▲Japan Innovation Network(JIN)専務理事 西口尚宏氏
本会に先立ち、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)専務理事 西口尚宏氏が開会の挨拶をした。大企業、中堅企業のイノベーション加速支援を実施するJINの設立の背景、そしてプログラムの目的について語った。
インドではモディ首相政権下で、インド発のベンチャー企業育成構想「スタートアップ・インディア」を策定し、若い世代の起業を後押しする具体的な支援を行っている。同施策によりインキュベーションセンターやコワーキングスペースなど、イノベーションのためのツールや環境が整ってきていること、それらを活用して若者がクリエイティビティやパッションを大いに育み発揮している姿を動画で紹介した。
シリコンバレーに次ぐR&D拠点として注目を集める都市、ハイデラバード
▲i.schoolディレクター/ JIN常務理事 堀井秀之氏
次に、i.schoolディレクター/ JIN常務理事 堀井秀之氏により今回のプログラム主旨と実施報告が行われた。イノベーション人材の育成を目的に2009年に設立された東大発の教育プロジェクト i.school。当初は東大の学生を対象としていたが、2016年に東大から独立後は、すべての大学から学生を受け入れている。同団体が標榜するのは、技術中心のイノベーションとは一線を画する、「人間中心イノベーション」。社会課題にフォーカスし、社会人や多様な専門性を持つ学生と議論を深め、ワークショッププロセスを重視した活動を行っている。
◆なぜ、インドなのか
堀井氏はインドに着目した理由として、日本とのギャップの大きさや、中東やアフリカへの進出のしやすさ、そしてリバースイノベーションを挙げた。プログラムの舞台となったテランガナ州ハイデラバードは、シリコンバレーに次ぐR&D拠点として欧米系のIT企業が注目している都市だ。i.schoolは、インドの理工学系高等教育機関の最高峰であるインド工科大学ハイデラバード校(IIT-H)と、2013年よりワークショップを中心としたプログラムを開催し、連携を深めてきたという。
◆現地の課題起点でビジネスアイデアを創出
今回のテーマとして掲げられたのは、「ヘルスケア×IoT」。インドの中間層が抱える健康・医療に関する課題を解決する新ビジネスを、IoT活用により発想することをゴールとして実施された。
参加者はハイデラバード市内の病院の現地視察やインド中間層の家庭インタビュー、ヘルスケア分野のスタートアップ企業訪問などフィールドワークを通じてニーズや課題を収集。その後、事実情報から課題を特定し、アナロジー発想によるビジネスアイデア創出などワークショップを実施したという。また、IIT-H内に設置されたヘルスケア分野のスタートアップインキュベーション施設Center for Healthcare Entrepreneurship(CfHE)との連携など、プログラム終了後も参加者がビジネスを現地で興すためのネットワーク構築ができる環境も提供されるなど、実りの多いプログラムとなったようだ。
OKI・大武氏が語る、「インドからのリバースイノベーションの可能性」とは?
▲沖電気工業株式会社 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏
次に登壇したのは、OKI 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏。プログラム参加者として、インド訪問の目的や現地で得た気付きなど具体的な報告を行った。
◆ヘルスケア領域のイノベーションに注力
アイデアソンの開催や、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)を起点としたオープンイノベーションなどに積極的に取り組んでいるOKI。そうしたアクションの結果として、2018年1月にはトムソン・ロイター社より「グローバル・テクノロジー・リーダー100社」に選出された。
同社は2018年4月から、社内のみならず社外のパートナーと共創を一層強化し、SDGsに掲げられている社会課題を解決すべく「Yume Pro」と銘打った新たなイノベーション創出活動を推進していくという。「Yume Pro」がフォーカスする領域は、「医療」、「物流」、「住宅・生活」の3つ。中でもトッププライオリティは「医療」だという。それが、「ヘルスケア×IoT」をテーマに掲げるこのプログラムに参加した大きな理由だと、大武氏は語った。
◆フィールドワークで得た気付き/ワークショップの成果
プログラムの前半は、フィールドワークによる情報収集。大武氏は、ハイデラバードを代表する病院や最先端の研究施設、そして一般家庭を訪問して調査を行った。まず病院訪問で驚いたのは、待合室が満員電車並みに混雑していたことだという。予約システムもなく、清算システムも一貫していないことなどが原因だ。大武氏はこれをIoTで解決できないかと考えた。また、家庭訪問では、セルフ健康診断へのニーズの高さ、保険請求手続きの煩雑さを解消するサービスの必要性を感じたという。
プログラム後半は、インド工科大学ハイデラバード校(IIT-H)でのワークショップが実施された。テーマを「病院における混雑の緩和」として、2日間議論を行った。現状、患者は受付~診療~会計~処方までずっと病院内に滞在する必要がある。大武氏のグループでは、IoTを活用して診療時間のみ病院内に滞在することで、混雑緩和を実現するソリューションを考案した。
◆リバースイノベーションの可能性
インド訪問にあたり、大武氏が設定した目的は3つ。(1)「インドにおけるヘルスケアの『課題』を知る」、(2)「課題とその解決策の『ヒント』をつかむ」、(3)「ヘルスケア分野のステークホルダーとの『人脈形成』」だが、それぞれ大きな収穫があったそうだ。
まず、(1)に関しては、衛生問題、病院におけるサービス品質、医療保険といった課題が見えてきた。 (2)に関しては、衛生対策(空調、浄水×センシング)、病院サービスの品質向上(予約・会計×IoT)、医療保険(気軽な保険×IoT)から、ソリューションを生み出していけるのではないかという。(3)は、現地の病院、研究施設、サービス機関、IIT-Hとのつながり。そして今後はインド政府やスタートアップとの提携も進めていくそうだ。
また、大武氏はリバースイノベーションの可能性についても触れた。ハイデラバードは「ヘルスケア」をテーマとして戦略的な街づくりをしていること。特にIIT-Hではインキュベーション施設CfHEの存在がグローバル連携に有効であること。さらに、インドの課題解決に貢献しようというパッションを持つ若者たちの存在があることから、リバースイノベーションの可能性が広がっていると強調した。
最後に大武氏は、今回のプログラムの魅力として、インドのヘルスケアの現状と課題を肌で感じられること、ビジネスモデル検討の実践プログラムであることを挙げた。そして魅力をさらに向上させるためには、企業メンバーの参加が不可欠だと語った。それぞれの知見を活かしてより深い議論をすることによりイノベーションを起こせるはずだと、積極的な参加を呼びかけ、プレゼンテーションを締めくくった。
OKI×インド・スタートアップ 「共創」への期待
政府のフラッグシップ戦略としてベンチャーエコシステム構築に取り組むインド。若き起業家たちが夢を描くスタートアップ大国として、その勢いを増している。その中でも、優秀かつ情熱的な人材が集うIIT-Hでのプログラムに参加し、OKIの大武氏が多大なる刺激を受けたことが、今回のプレゼンテーションで伝わってきた。
SDGsの実現に取り組み、「Yume Pro」を推進するOKIとインドのスタートアップとの共創、そしてインド発のリバースイノベーションは、どのような形になるのだろうか。期待は高まるばかりだ。