【イベントレポート】 OKIのイノベーションを牽引する横田氏が登壇!「日本企業はどうすればイノベーションを起こせるのか」――識者が活発に意見交換
「イノベーションの学校」として2009年東京大学に発足した「i.school」と、i.schoolの活動を支えるJSIC(一般社団法人日本社会イノベーションセンター)のシンポジウム「みんなで考える、日本企業におけるイノベーションの方法論」(JIN共催)は17日、東大本郷キャンパス内で開かれた。シンポジウムでは、元ソニー株式会社社長でJIN理事の安藤国威氏らが講演を行い、イノベーション創出への取組みや提言を示したほか、沖電気工業株式会社 理事兼政策調査部長(4月以降、執行役員経営基盤本部長 兼チーフ・イノベーション・オフィサー)横田俊之氏ら、イノベーションプロジェクトのリーダー達が集い、パネルディスカッションが繰り広げられた。
このうち、横田俊之氏は、約30年にわたる経済産業省での経験を経て、2016年にOKIに入社。2017年10月からは、イノベーション推進プロジェクトチームの責任者を務めている。2018年4月にはイノベーション推進部が発足予定で、同氏がチーフ・イノベーション・オフィサーとして牽引する。このほか、同社はアイデアソンを行ったり、経営層によるSDGsのワークショップを開催するなど、全社を挙げてイノベーションに注力。1月には、イノベーション創出力が評価され、トムソン・ロイターが選んだグローバル・テクノロジー・リーダー100社にApple、Google、ソニー等の企業と並んで選出された。4月からは、社長が社員との対話を進めるほか、「Yume Pro(ユメプロ)」と銘打った、イノベーション創出活動を行っていくとのことだ。
▲沖電気工業株式会社 理事兼政策調査部長(4月以降、執行役員 経営基盤本部長 兼 チーフ・イノベーション・オフィサー)横田俊之氏
本会に先立ち、i.schoolエグゼクティブ・ディレクターでJSIC代表理事の堀井秀之氏が挨拶。i.schoolの設立の経緯などを説明すると共に「今後どのように発展させるかを考える機会としたい」と話した。引き続き、安藤氏が基調講演、堀井氏が講演を行った。
イノベーションの時代、日本に大きなチャンスが到来している。
安藤氏はi.schoolが設立された2009年を振り返り、当時はリーマンショックが起きて間もなく、ソニーも「壊滅的な状況だった」という。リーマンショック前後から、ソニーを含め日本の家電業界は急速に衰えていったが、安藤氏はその理由を「さまざまに言われているが、日本からイノベーションが興らなくなったからということが一番大きいのではないか」と推測。パラダイムシフトが起こったことに気づかず「より高い性能を持ったハードを作ろうとしていた」と話した。その後、ソニーは原点に立ち返り、再生に結びつけたと解説。また、JINの目的は「大企業からイノベーションを生まれないという通説を覆すこと」「日本をイノベーション・ネイションにすること」と強調し、新しい価値が生まれている今は「イノベーションの時代に来ている。日本にも大きなチャンスがある」と述べ、締めくくった。
日本をイノベーティブな国へ。
堀井氏は「日本をイノベーティブな国にしたい」との考えのもとi.schoolを発足させた。当初、学生は東大生に限定されていたが、現在は他大学の学生たちも受け入れるなど、イノベーションの裾野を広げている現状を紹介した。同団体では社会イノベーション、つまり、「新たな社会的価値を生み出す」ことを目指しており、そのためには、「社会的セクターとのコラボレーションすることが欠かせない」と強調した。講演中、i.schoolが開発するオンラインシステム「APISNOTE」を用いてのワークショップが実施され、参加者はイノベーションへの理解をより一層深めた。
識者5人がパネルディスカッション。
引き続き、「日本企業におけるイノベーションへの取組み」と題してパネルディスカッションが開かれた。MCを紺野登氏(多摩大学大学院教授、JIN代表理事)が務め、パネラーとして横田俊之氏(沖電気工業株式会社=OKI=理事兼政策調査部長(4月以降、執行役員 経営基盤本部長、チーフ・イノベーション・オフィサー))、金智之氏(NTTコミュニケーションズ株式会社 経営企画部 デジタル・カイゼン・デザイン室担当課長)、道家民樹氏(株式会社明治 加工食品営業本部 加工食品商品開発部部長)、横田幸信氏(i.schoolディレクター、i.lab代表取締役)が登壇した。その模様を一部抜粋し、紹介していく。
大企業でのイノベーションには、下準備が欠かせない。
JIN・紺野氏 : 大企業では、イノベーションに対し抵抗が起こりがちです。どのように推し進めるべきか、あるいは、進めているのか、ご紹介いただければと思います。
明治・道家氏 : 縦割り主義をすぐになくすのは難しいと思います。ただ、組織を横断するチームを作ることで、ある程度の解消は見込まれます。クロスファンクショナルなチームが作れない場合は、仲間を集めていくということが必要になるでしょう。
OKI・横田氏 : 社内でインタビューをしていくつかの課題が見つかりました。その中で大きな課題として挙げられたのは、お客様の言う通りの商品を作り、それで事業がうまく回ってきたということです。ところが、今は、お客様も何を作っていいかわからないという時代になっており、こちらから提案することが求められています。経営陣を含め、全社員が同じベクトルを向く一つの切り口としてSDGsを持ち込み、社会課題の中から事業機会を見出す取組みを始めました。また、イノベーションが日常活動となるのには時間がかかりますが、今やらないと5年後には会社の存続が危うくなっているかもしれないとの思いで取り組んでいく方針です。
積極的な人材育成と、新たな人事制度の構築が求められる。
JIN・紺野氏 : 社内でイノベーションの教育を行うと、人材が独立しスタートアップを立ち上げるなどといった事態が出てくるかもしれません。自社の改革へとつなげるために、教育の勘所のようなものはあるでしょうか。
i.school・横田氏 : 教育については、加速する必要あると思います。というのも、今は人材が圧倒的に足らないからです。一方で、教育の中で利他精神や社会的使命感を伝えなければいけないでしょう。そうしたものがないと、経済的価値を出せるから、重たい組織を背負うことはないと考えがちになります。大きな組織があるからこそ、社会にも大きなインパクトが与えられるという思考を身につけさせることは大事です。また、イノベーターを高く処遇する、柔軟な人事制度を作ることも求められるのではないかと思います。
NTTコミュニケーションズ・金氏 : 非常に重要な観点ですね。離職する問題は実は起きています。イノベーション教育を進めながら、会社のビジョンを立て直すことも行っています。
OKI・横田氏 : 利他性はとても重要な観点だと思います。ただ、経営が厳しい時は、どうしても売上が強調されがちです。そういう時には、会社の原点に戻るのが大事でしょう。多くの会社は、何らかの社会的意義を持ち設立されたからです。OKIも売上を追ってしまう傾向があったので、一度原点に立ち返り、SDGsという観点を導入しました。本来、売上は、会社が社会的意義を果たすための手段であるはずです。
JIN・紺野氏 : 会場からの質問が寄せられています。大企業からのイノベーションが必要な理由を教えてください。ベンチャーに頼ってはいけないのでしょうか。
OKI・横田氏 : 二元論で語ることではないと考えます。大企業がイノベーションを起こすのにベンチャーの力は必要です。一方、ベンチャーも大きなイノベーションを起こすには大企業とコラボしたほうがいいはずです。
NTTコミュニケーションズ・金氏 : ベンチャーだけ、大企業だけ、では限界があるでしょう。
取材後記
今回のシンポジウムは、大企業とイノベーションということが大きなテーマだった。やや今さらではあるが、大企業が国を引っ張ってきたという側面がある。当然のことながら、大企業には知識、技術、人的資源、ネットワークなどさまざまなモノが蓄積されている。これを使わない手はないし、使わずして大きなイノベーションが起こせるとは考えにくい。OKIの横田氏も指摘していたように、イノベーションは本来、ベンチャーから、大企業から、などと二元論では語れないはずだ。両者が協業し、日本だから起こせるイノベーションに期待したい。
(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:佐々木智雅)