セイノーの莫大な「土地・建物・車両」等のアセットを解放!物流とは異なる視点での活用を目指す――『オープン・パブリック・プラットフォーム』構想を打ち出し数々の共創を実現してきたセイノーの共創プログラム始動
貨物輸送といえば鉄道を利用した大量・一括輸送が主流だった1930年代当時、時代に先駆けてトラックによる長距離定期便運行を開始し、現在に至る幹線輸送の礎を築いたセイノーホールディングスグループ。今では、グループ全体で3万台以上のトラックを保有し、全国各地に物流拠点と物流網を構築して、日本におけるモノの流れを支え続けている。
そんな同社は昨年6月、中期経営計画である『中長期の経営の方向性~ありたい姿とロードマップ2028~』を策定。そのなかで『オープン・パブリック・プラットフォーム=O.P.P.』という構想を打ち出した。これは、同グループが企業や業界の垣根を超えて連携していくことで、お客様の未来・日本の未来を変えていこうとするものだ。
そして今回、『オープン・パブリック・プラットフォーム=O.P.P.』を土台とした共創プログラムを、新たに開始することとなった。それが、4つのテーマを掲げた『SEINO O.P.P. INNOVATION PROGRAM』だ。(応募締切:2024年3月27日)
TOMORUBAでは、プログラムの開始にあたり、本プログラムをリードする4名にインタビューを実施。プログラム開催に至った背景、プログラムを通じて実現したいこと、提供できるアセットについて詳しく聞いた。
日本の大動脈を担う「幹線輸送」の雄が、なぜ今、オープンイノベーションに力を入れるのか
――1930年に創業し、90年以上の歴史を持つセイノーホールディングスですが、今の御社の主な事業領域や特徴についてお聞かせください。
田口氏: 西濃運輸を中核企業とするセイノーホールディングスは、トラックによる輸送事業をメインとしたビジネスを展開しており、特に「幹線便」に強みがある会社です。現在、約90のグループ企業を保有しています。全国的に幹線網を構築するトラック輸送事業と自動車販売事業、その他事業の3つの区分に分かれており、その他事業のなかには、地域に密着した農業事業やタクシー事業なども含まれています。多岐にわたって事業展開していることが特徴です。
▲セイノーホールディングス株式会社 ブランド戦略室室長 兼 ラストワンマイル推進チーム担当部長 兼 野球部部長 田口義展 氏
――昨年6月、『中長期の経営の方向性~ありたい姿とロードマップ2028~』を策定されました。どのような課題感から、この方針を目指すことになったのでしょうか。
田口氏: 最も大きな課題だと捉えているのは少子高齢化です。日本全体が抱えるこの課題にどう対処していくかが、事業規模の大きい当社のミッションだと思っています。こうした背景より『Team Green Logistics』というスローガンを掲げました。
従来、物流業界では各々がアセットを所有し、物流網を構築・強化することにフォーカスしてきました。しかし今後、人口が減少し、色々なアセットが不足していくでしょう。こうした状況に対して、我々の持つアセットを広く社会に提供し、オールジャパンで一緒に社会課題を解決していきたいと考えています。
髙橋氏: 外部環境について言うと、少子高齢化にともなう労働不足の深刻化に加えて、サスティナビリティや技術革新への対応も重要性が増しています。こうした変化に対して、『ロードマップ2028』に示しているように、地域連携や自社資産の有効活用などの切り口で、対応策を検討していく方針です。
▲セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 CVC担当 髙橋一馬 氏
――『ロードマップ2028』では、オープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P.)という構想も打ち出しておられます。その構想の中身についてもお聞かせください。
田口氏: 先ほどの話とも関連しますが、我々がこれまで築きあげてきたアセットを、自分たちだけで使用するのではなく、より多くの人たちに活用していただきながら、社会課題の解決や他社のビジネス効率化を図っていこうという構想です。オープン・パブリック・プラットフォームには、「Green」「One Stop」「Support」の3つのセグメントがあります。
「Green」では、アセットを効率化して環境に優しい物流網を構築することを目指しています。「One Stop」については、世の中に同様のサービスが多数存在するため、消費者はどこに何を頼めばいいのか迷うことがよくあると思います。そうした際に、とりあえずセイノーに頼めば、自社のアセットや様々なサービスを組み合わせてトータルで支援してくれる、そんなワンストップなプラットフォームの構築を目指しています。
「Support」に関しては、セイノーがお客様に成り代わり、ペインを先取りして解決していこうとする施策です。この3つを軸として、当社の施設やトラックを解放しつつ、より多くの方の不安を解消していきたいと考えています。
▲「Green」「One Stop」「Support」の3つのセグメントから構成される『Team Green Logistics』(画像出典:中長期の経営の方向性~ありたい姿とロードマップ2028~)
――オープン・パブリック・プラットフォーム構想を具現化するために、過去や現在において、どのような取り組みを進めておられるのでしょうか。
髙橋氏: M&Aの観点では、2022年8月にラクスル社と共同で、ハコベルというジョイントベンチャーを設立し、物流の効率化に取り組みはじめました。また、CVCの観点では投資先と積極的に共創を進めています。特にエアロネクスト社とは、ドローンを使った新たな物流網を構築しており、過疎地域に対する輸送を提供しています。これに関してはすでにPoC(実証実験)を終え、本格的な事業化に向けて当グループからも50名の社員を配置。自治体との連携強化を進めているところです。
新規事業(0→1)の観点では、ココネットというグループ会社が、まさしくゼロからの立ちあげで、従来のBtoBからBtoC領域へと新たに参入しました。地域に密着した物流網を持つココネットは、エアロネクスト社とも一緒にラストワンマイル物流に取り組んでいる企業でもあります。1号ファンド(Logistics Innovation Fund)の投資先のうち、ほぼ全社と共創に向けた議論をしていますから、今後さらに事例が生まれてくるでしょう。
――スタートアップに出資する企業は増えていますが、共創〜事業化へと繋げられるケースは稀です。御社が円滑に進んでいる要因はどこにありそうですか。
髙橋氏: セイノーの創業者は、幹線物流(長距離輸送)というものを築きあげた方なので、会社のDNAとして“スタートアップ精神”が刻まれています。ですから、スタートアップとの共創も進みやすいのだと思います。
また、共創に対する社内の周知を深める目的で、全体に対して投資先がピッチを行う「サミット」というイベントを年1回開催しておりました。今年からは事業会社の代表が集まる会議のなかでも同様のピッチを行い、経営陣の方々にもご認識をしていただきました。そうした形で、インプットの機会を増やしていることも、協業が円滑に進む要因のひとつになっていると感じます。
膨大な「土地」「建物」「車両」を解放、セイノーが始動させる『O.P.P. INNOVATION PROGRAM』
――続いて、新たに開始される共創プログラム『SEINO O.P.P. INNOVATION PROGRAM』についてお伺いしたいです。本プログラムを開始される狙いは?
田口氏: オープン・パブリック・プラットフォーム構想を打ち出してはいますが、一方で自社のアセットを十分に活用できていないという課題も持っています。社内からは「もっと上手に使えるのではないか」という声もあがっていますが、我々は長年物流業界で事業展開してきた企業ですから、どのように活用すればよいのか十分な知見がありません。
そこで、外部の知見もいただきながら、当社のアセットである土地・建物・車両などの活用の仕方を考えたいと思い、今回、このような共創プログラムを開始することにしました。
――御社のアセットを活用しながら、誰にどういう価値を提供していきたいとお考えですか。
田口氏: 対象はあらゆる企業です。というのも当社は、BtoBの物流企業ですから、基本的には日本経済に関わるすべての企業が、我々のお客様になりうると認識しています。そういう方々に対して、物流を超えた新しい価値を提供するような事業アイデアを、ご応募いただく皆さんと考えていきたいと思っています。
――御社側から提供できる有形資産の例として、「土地」「建物」「車両」を挙げていただきましたが、具体的にどのようなものなのか、教えていただけますか。
髙橋氏: 「土地」は、西濃運輸所有の物流拠点などがある広大な土地のことです。荷物の積み下ろしを行うバースも含みます。本社を構えているのが岐阜県大垣市ということから、特に中部エリアに多く分布しています。また、大型トラック輸送が主力ですから、幹線道路の近くに立地していることが特徴です。
「建物」は、物流拠点に付随する倉庫や営業拠点といった建物のこと。物流拠点にはトラックの駐車場がありますが、トラックが配送に出ている時間は空いています。大型トラックは夜間に稼働するため、夜間に空いていますし、街中を走る集配車は日中に稼働するため、日中に空いています。それに、従業員用の駐車場にも利用可能な空きスペースがありますし、老朽化により使用されていない社員寮も多くあります。それらをご活用いただけます。
「車両」については、グループ全体で合計3万台近いトラックを保有しています。西濃運輸に限っても、約1万3300台のトラックを保有しており、夜間に走行する大型トラックが約4000台、昼間に集配を行う中型・小型トラックが約9300台という内訳になっています。これらのアセットを活用し、新しい取り組みを実現できたらと考えています。
▲『SEINO O.P.P. INNOVATION PROGRAM』では、国内外約170カ所の自社拠点(物流センター、支店)にある空きスペースを活用することが可能だ。
――応募企業が本プログラムに参加することで得られるメリットには、どのようなものがありますか。
田口氏: 当社とうまくはまれば、爆発力のある成長ができると思います。実際、ハコベル社の事例では、同社メンバーが当社の全支店をまわり、システムの仕組みや使い方を丁寧に説明してくれた結果、今では当社の営業メンバーが同システムの営業を代行していたりもします。当社にとってもありがたいことですが、ハコベル社から見ても、全国に営業網を構築できたという意味で、大きなメリットがあったのではないでしょうか。
法人顧客の「コスト低減」「生産工程や梱包支援」「従業員エンパワーメント」など多彩なアイデア・ソリューションを募集
ここからは、オープンイノベーション推進室の岡﨑氏と武田氏も加わり、4名でどのような共創を実現したいのか、アイデアを出しあってもらう。すでに語られたように同社の「土地」「建物」「車両」などの有形資産を活用することが前提で、業界問わず広く法人顧客の課題解決や経営支援に繋がるアイデアであることが望ましいそうだ。募集テーマは次の4つ。
●募集テーマ①「お客様のコスト低減に繋がる新たな仕組み」
●募集テーマ②「運ぶだけではない生産工程の支援」
●募集テーマ③「セイノーのお客様先の従業員をエンパワーメント」
●募集テーマ④「その他セイノーのアセットを活用したオープンイノベーション」
――続いて、本プログラムの募集テーマについてお聞きしたいです。今回は4つのテーマを掲げられていますが、各テーマについてご説明ください。募集テーマ①の「お客様のコスト低減に繋がる新たな仕組み」では、どのような共創を実現したいとお考えですか。
岡﨑氏: 当社の顧客数は約20万社にも達し、その多くは中小企業です。こうした企業では人材面や営業面などで多種多様な課題を抱えておられると想定しています。それらの課題を当社のリソースも使いながら、解決する方法を探したいと思っています。
一例を挙げるなら、当社の空きスペースを使って、クリーンエネルギーを発電し、取引先のお客様に供給するような事業構想を持っています。稼働していないトラックの屋根で太陽光発電を行ったり、空きスペースで風力発電を行ったり、そんなイメージです。
▲セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 主事 岡﨑貴大 氏
髙橋氏: 物流拠点の大きな壁を使って、発電することも可能だと思います。また、全国各地に拠点はありますから、地域貢献という文脈で地域のデザイナーさんに、当施設の壁を使って絵を描いていただくような取り組みもできるかもしれませんね。あるいは、物流施設内にある荷受け場所に、カフェのようなものをつくっても面白そうだと思います。
武田氏: 私たちは車両もたくさん所有しており、これらを新しい取り組みに活用したいと思っています。中小企業の皆様も同様に、車両や営業所をもっと有効活用したいとお考えなのではないでしょうか。複数社で車両や拠点をシェアリングするようなアイデアにも可能性があると思います。1社だけでは困難ですが、これを機会に複数社が集まれば、実現できると思います。複数社でリソースを共有することで、お互いのコストを下げていくことができると考えています。
▲セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 主事 武田えりな 氏
田口氏: 我々の金融資産を使って、お客様のBSを圧縮する事業にも可能性があるのではないかと思っています。すでに、ファクタリング事業は展開していますが、それとは別で、物流と組み合わせることで生まれる新たな資金調達の方法を考え、事業化しても面白いと思いますね。
――募集テーマ②「運ぶだけではない生産工程の支援」についてもご説明をお願いします。
田口氏: 当社が取り組んでいるのは物流の効率化です。しかし、お客様の生産活動全体を見ると、物流の前後にも事業活動があります。そこに対して、当社の持つ人的リソースや土地、建物をシェアすることもできるのではないかと考えています。一例を挙げるなら、小ロット生産のシェアリングファクトリーやリサイクル工場を、当社の空きスペースに建設するなどです。お客様の小さな困りごとを機動的に解決できるような機能を付加していければと思います。
髙橋氏: 輸送だけを引き受けるのではなく、たとえば細かな組立や検査といった生産工程においても、私たちのほうで何か支援できることがあると思います。お客様のサプライチェーンのなかで、物流だけを断片的に引き受けるのではなく、お客様のサプライチェーンのなかに物流を溶け込ませる。そんなイメージですね。当社がお客様の課題により深く入り込み、物流と前後を密接に繋げていくような活動を、パートナー企業とともに実現したいです。
田口氏: ライブコマースの裏側の作業をすべて、当社で引き受けるような事業にも興味があります。以前、ライブコマース事業を展開するSHOWROOMさんと、共同でイベントを開催したのですが、日本でライブコマースを手がけている人たちは、販売後の梱包や発送を自分たちで行っているようです。ですが、それらの作業を当社にお任せいただければ、ライブコマースをより手軽で楽しく豊かな体験にできるのではないでしょうか。新たな市場や販売形態を構築できると思います。
あるいは、マーケティングのお手伝いもできるかもしれません。我々は物流の分野において、幸いにも日本全体でかなりの規模の輸送を担当しています。日本全体で何がどういう形で動いているのかを、比較的、把握しやすい立場にいます。当グループの持つデータ情報から分析をかけて、それぞれの事業者にとって何がベストソリューションなのかを提案することも可能です。そうした事業にも踏み込んでみたいですね。
――募集テーマ③「セイノーのお客様先の従業員をエンパワーメント」に関してはいかがですか。
岡﨑氏: 使用していない独身寮や会議室などを活用し、周辺地域に貢献できるような取り組みができたらと考えています。たとえば、空き施設を使って保育所を開設したり、地域イベントを開催したりです。建物が老朽化していたり、住宅地から遠かったりする課題はありますが、それでも何らかの形で地域やお客様に貢献できればと思います。
髙橋氏: 大阪の支店で福利厚生の一環としてジムを開設した例があります。サウナを設置することもできると思います。建物内が難しい場合でも、屋外の空いているスペースにサウナカーを置いて、従業員の皆様にリラックスしていただくようなアイデアも実現できるのではないでしょうか。
――募集テーマ④「その他セイノーのアセットを活用したオープンイノベーション」についてもお聞かせください。
岡﨑氏: 当社では日々、相当な数のトラックが走っており、走行距離も莫大です。時折、警察から「このエリアで事故があり、西濃さんのトラックが5台通っていたので、ドライブレコーダーの映像を見せてほしい」と依頼されることもあるほどです。こうした移動時のデータを有効活用し、新たなアプローチで新規事業を創出することもできるのではと思います。
武田氏: 環境問題への対策が求められている昨今ですが、当社では輸送時に使うプラスチックのパレットやラップを大量に廃棄しています。それらを活用して、循環させられるようなアイデアもぜひお待ちしています。
▲物流拠点内にある食堂や会議室、家族寮、独身寮、倉庫に加え、トラックなど車両といった様々なアセットを提供することが可能。
「自社では想像もしえないような物流とは異なる視点でのアセット活用・新しい価値を、一緒に形にしていきたい」
――最後に応募を検討している企業に向けてメッセージをお願いします。
岡﨑氏: 奇抜なアイデアというよりも、堅実で収益になるアイデアをお待ちしています。なおかつ、ワクワクするような内容であれば嬉しいですね。楽しみにしているので、ぜひ奮ってご応募ください。
武田氏: 社内のメンバーだけでアセットの活用を考えても、現実に則したアイデアはなかなか出てきません。ですから本プログラムでは、課題を抱えておられるお客様のリアルな声や実際の課題感を直接聞けるよい機会になればと期待しています。
髙橋氏: 熱のある方にぜひご応募いただきたいです。物流業界は今、大きな転換期を迎えており、変えるなら今しかないと確信しています。当社も変革の機運が高まっており、今なら様々な挑戦が可能です。だからこそ、本気で何かを成し遂げたいと思う方は、ぜひご応募ください。
田口氏: 本プログラムを通じて、我々が想像もしえないような新しい価値を、お客様に提供していきたいと考えています。どうしても物流企業である以上、物流の話が最初に思い浮かぶと思いますが、それよりも「もっとこれができたら、よりよい社会が構築できるのではないか」「お客様のビジネス環境を向上させられるのではないか」というようなアイデアを、一緒に形にしていけると嬉しいです。
取材後記
1930年の創業当時から積み重ねてきた、セイノーホールディングスの膨大な有形資産。それらをアセットとして活用できる本プログラムは、幅広い企業にとって魅力的なものとなるだろう。同グループがスタートアップとの共創実績を豊富に持つことから、共創プロジェクトも円滑に進みそうだ。新たな事業に繋げられる可能性も十分にあるのではないだろうか。提示された「土地・建物・車両」とのコラボレーションで、新たな価値を生み出せそうな企業は、ぜひ『SEINO O.P.P. INNOVATION PROGRAM』の応募を検討してほしい。応募締切は、2024年3月27日だ。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)