ソニーと共につくる新規事業「ウェルビーイング」―豊富な技術やアセットを活用できる共創プログラムが始動!
超少子高齢化の時代を迎え、人々の健康維持は社会的な重要課題になった。そのなかでは、身体だけでなく、精神的な安らぎや社会的な繋がりなど、より幅広い意味での健康が求められる。私たちはどのようにして豊かな社会の土台を支える「ウェルビーイング」を実現すればよいのだろうか。
そうした問いに挑む共創プログラム「OPEN INNOVATION 2023 with Sony」がスタートする。同プログラムは、ソニー株式会社のオープン・イノベーション部が主導。初の開催となる今回は「ウェルビーイング」をテーマに「五感(聴覚、嗅覚、視覚)もしくは身体機能の維持/補完・機能低下の予兆検知」、「認知症予防・進行抑制」、「新規規領域(Generative AI コミュニティ ビッグデータ)」の三つの分野でアイデアを募り、事業化に向けた共創にのぞむ。
プログラムのポイントは、ソニーが保有する豊富な技術やデバイス、ブランド、販路を活用できることだ。音響や映像、ウェアラブルデバイスなど、ソニーが開発してきた多種多様な技術やデバイスを利用したサービス開発が期待できる。さらに、共創内容に応じて資金の支援も検討されるという。
今回のプログラムを通じて、ソニーはどのような事業を目指しているのだろうか。また、同社が思い描く「ウェルビーイング」とは具体的にどのようなものなのだろうか。プログラムの窓口を務めるオープン・イノベーション部のメンバー4人に聞いた。
・ソニー株式会社 インキュベーションセンター インキュベーション推進部門 オープン・イノベーション部 統括部長 金丸 将宏氏<写真右から2番目>
・ソニー株式会社 インキュベーションセンター インキュベーション推進部門 オープン・イノベーション部 シニアビジネスプロデューサー 篠田 昌孝氏<写真左から2番目>
・ソニー株式会社 インキュベーションセンター インキュベーション推進部門 オープン・イノベーション部 事業探索課 統括課長 相澤 輝明氏<写真右>
・ソニー株式会社 インキュベーションセンター インキュベーション推進部門 オープン・イノベーション部 事業探索課 小杉 和也氏<写真左>
「外部との連携に適した部門」―多種多様な人材が揃うオープン・イノベーション部
――プログラムについて詳しくお伺いする前に、事務局の皆さんの経歴やプロフィールをお聞かせいただけますか。
金丸氏 : 私は新卒でメーカーに入社し、R&D部門での研究開発職からキャリアをスタートしました。その後、プロダクトを世に送り出す仕事に軸足を移すためVCに転職。7年ほど勤務したのち、大企業のリソースを活用し自身で事業を起こしたいと思い、2022年にソニーに入社しました。
相澤氏 : 私は新卒でSIerに入社し、事業会社へのシステムインテグレーションのほか、M&Aや海外イノベーション拠点の設立などに携わりました。その際、シリコンバレーや特に深圳でハードウェアビジネスに触れたことがきっかけで、センサー、デバイスなどのハードウェアとソフトウェアを組み合わせたサービス事業の開発に興味を持ち、ソニーへの転職を決めました。
篠田氏 : 私は新卒でソニーに入社した勤続30年目のプロパー社員です。キャリア初期には、光ディスクの研究者として、MDやBlu-rayディスクの開発に携わっていたのですが、その後アメリカへの留学を経て、ライフサイエンス事業の立ち上げに参画。その仕事がきっかけとなり、オープン・イノベーション部に配属され、新規事業開発に携わるようになりました。
小杉氏 : 私も篠田と同じく、2012年に新卒入社したプロパー社員です。もともとは電気設計のエンジニアで、PCや放送機器の設計業務を手がけていたのですが、30歳を節目に企画職にキャリアチェンジ。技術情報の広報業務などに携わった後、2021年にオープン・イノベーション部に配属となりました。
――新卒入社やキャリア入社。研究職やエンジニア、企画職など、皆さんのキャリアがさまざまですね。
金丸氏 : そうですね。そもそも、オープン・イノベーション部自体が多様性に富んだ部門で、約半数がキャリア入社です。この割合はソニーの他の部門に比べも特に多く、外部との連携や協業に適した組織だと思います。
プログラムを通じて、エンタテインメントをより長く、より多く楽しめる世界を築きたい
――今回、「OPEN INNOVATION 2023 with Sony」を立ち上げた狙いをお聞かせください。
金丸氏 : 現在、ソニーは幅広い事業を行っており、金融や新たに自動車事業などの事業も手がけていますが、主軸となるのはゲームや音楽、映画などのエンタテインメント領域の事業です。
エンタテインメントを楽しむには、前提として健康的で豊かな暮らしが欠かせません。しかし、近年、先進諸国では高齢化が進んでおり、なかでも日本での傾向が顕著です。他国に先んじて高齢化の壁にぶつかっている日本では、エンタテインメントを楽しむための前提が崩れつつあると言えます。
そこで、ソニーの技術やビジネスを通じて、人々のウェルビーイングを促し、エンタテインメントを人生のなかでより長く、より多く楽しめる世界を築きたいというのが、プログラムを立ち上げた狙いです。
――ソニーは2018年に社内起業プログラム「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」の社外提供を開始し、継続的にオープンイノベーションに取り組んできました。本プログラムとの位置付けに違いはありますか。
金丸氏 : SSAPは、ソニーグループが持つ起業のノウハウや開発環境を新規事業を創りたいと考える人に提供し、新規事業の立ち上げから販売・拡大までをサポートするプログラムです。一方で、本プログラムについては、ソニー側が共創テーマを設定し、それに適したアイデアを外部から募るものです。そのため、本プログラムについては、テーマへの準拠が重要になると考えています。
――本プログラムの支援体制についてお聞かせください。
相澤氏 : 私たちオープン・イノベーション部のメンバーが共創の推進役として、事業化に向けたディスカッションや事業探索、社内外との連携など、各種支援を担当します。提供リソースとしては、ソニーが所有するAIやセンシング、音響、映像技術などの先端テクノロジーやブランドの活用やPoCなどの際には資金の出資も検討しています。
金丸氏 : 資金については、弊社CVCファンド機能も有していますが、その違いとしては、我々はまず事業連携を重視させていただき、その過程の中で出資やジョイントベンチャーの形を模索していくというイメージです。
――ソニーが所有する技術を活用できるのは非常に魅力的だと思います。一方で「ソニーのような巨大組織に眠る膨大な技術に本当にアクセスできるのか」と懸念するパートナーもいそうです。
篠田氏 : その点については、私たちが連携のハブ役になって、パートナーの皆さんを支援する予定です。私自身、これまでR&D、事業部、新規事業など、上流から下流まで幅広い部門に所属してきたので、社内へのネットワークには自負があります。技術への知見だけでなく、私たちのソニーでの経験も支援の強みといえます。
金丸氏 : 一方で、私や相澤はキャリア入社ということもあって、パートナー側の視点での支援ができると思います。例えば、私は前職時代、スタートアップとコミュニケーションする機会が多かったですし、大企業との共創に携わった経験もあります。そのため、ソニー側だけに寄りすぎないWin-Winの共創をご提案できるのではないかと考えています。
共創パートナーには「我々が保有していないデータ」や「医療的知見、アルゴリズム」を求めたい
――本プログラムでは「五感(聴覚、嗅覚、視覚)もしくは身体機能の維持/補完・機能低下の予兆検知」、「認知症予防・進行抑制」、「新規領域(Generative AI コミュニティ ビッグデータ)」の三つの共創テーマを掲げています。それぞれの詳細をお聞かせください。
相澤氏 : 一つ目の「五感(聴覚、嗅覚、視覚)もしくは身体機能の維持/補完・機能低下の予兆検知」では、まず五感のうち今回は聴覚、嗅覚、視覚に、そして身体機能に着目しています。これら機能が落ちてくる予兆の検知や、残念ながら落ちてしまった機能の補完になるようなプロダクト、サービスの開発を想定しています。また、医療機関ではなく、自宅でのトレーニングや治療、リハビリを促進するサービスも期待しています。
共創パートナーが保有するデータ収集、解析、そして評価の技術を、ソニーのその他技術やデバイスなどと組み合わせることで、ユーザーの機能の維持や補完を目指します。
二つ目の「認知症予防・進行抑制」も一つ目と同様で、共創パートナーのデータに関する知見とソニーの技術の組み合わせにより、認知症の予防や進行の抑制に繋がるサービスの開発に取り組みます。
三つ目は「新規領域」。ここでは「Generative AI」、「コミュニティ」、「ビックデータ」の3つの領域で共創案を募集します。これらの技術を活用し、ウェルビーイングの増進に繋がる新規事業やサービスも考えていきたいと思っておりますので、ぜひアイデアをお持ちの企業からのご応募をお待ちしています。
――共創パートナーには、特にデータの利活用に関する知見を求めているわけですね。
金丸氏 : そうですね。ソニーはデバイスやセンサーなどには強力なケイパビリティを有しているものの、ヘルスケア領域におけるデータの扱いについてはこれからだと捉えています。そのため、共創パートナーには「このデータには、こんな意味があります」や「このペインを解消するには、こんなデータが必要です」といった角度の知見を求めたいです。
一方で、医療分野への知見も求めています。ウェルビーイングというテーマを掲げている以上、事業化にあたっては医療ビジネスの知見も必要と考えています。しかし、ソニーは医療分野の経験がまだまだ不十分なため、共創パートナーには、その点の補完を期待しています。
――逆に、ソニーから共創パートナーに提供できるアセットについて教えてください。
篠田氏 : 多くの方がご存知の通り、ソニーは音響、映像、ウェアラブルデバイスなど、人間の五感に作用する多種多様なデバイスや技術を保有しています。これらがソニーから提供できる最大のアセットだと思います。
例に挙げたもの以外にも、例えば、ソニーは独自技術で匂いを制御する「Tensor Valve™テクノロジー」を保有しています。この技術を活用し、過去には好きな香りを出して楽しめる個人ユースのアロマスティックを製品化しており、現在は医療機器への応用も進めています。
健康診断でも、視力検査に比べて、嗅覚検査はまだまだ一般的ではありませんし、嗅覚に関するサービスはブルーオーシャンだと見ています。本プログラムでは、こうした技術を活用して、私たちには思いもよらないアイデアをご提案いただきたいです。
▲「Tensor Valve™テクノロジー」を搭載した最初の商品として、「におい」に関連した研究や測定を行うためのにおい提示装置『NOS-DX1000』を発売している。(※画像はプレスリリースより抜粋)
――ソニーといえば、今年1月に発売したモバイルモーションキャプチャー「mocopi」が話題を呼んでいます。mocopiもアセットの一つと捉えてよろしいでしょうか。
金丸氏 : はい、そうです。mocopiは6つの小型センサーがユーザーの体の動きを検知し、専用のスマホアプリと連動することで、仮想空間上のアバターを操作できるデバイスです。
現在は、VTuberの皆さんを中心に主にエンタテインメントの領域で利用されていますが、健康増進や身体機能の拡張にも十分応用できるはずです。また、mocopiは他のサービスと連携するプラットフォームとしても活用できるため、そうした観点でのご提案にも期待しています。
▲直径32mm×厚さ11.6mm、重さ8gの小型センサーを6か所(頭部、両手首、腰、両足首)に装着し、専用アプリケーションをインストールしたスマートフォンとBluetooth®接続することで、アバター動画とモーションデータの制作が可能となる「mocopi」。(※画像はプレスリリースより抜粋)
大企業、スタートアップ、研究機関…さまざまな企業・団体との共創が可能
――皆さんが注目している領域や期待する共創イメージがあればお聞かせください。
金丸氏 : 私たちが今回テーマになっているウェルビーイング領域の基本はシンプルで「健康的な食事、十分な睡眠、適度な運動」と考えています。しかし、頭でわかっていてもこれらを行動に移すことは困難ですよね。これを解決するために、例えば、ユーザー同士のコミュニティを形成し何かしらコミュニケーションをとることで、行動変容を促せるようなアイデアであればこの問題が解決するかもしれません。
また、少し具体的になりますが、昨今、自動的にメッセージを出すことでユーザーの行動変容を促すプロダクトが出てきました。これによってある程度のユーザーが行動変容したとは思いますが、システムからのチャット文に行動変容を促されて、日常生活を大きく変えたという人は、それほど多くないと思います。
行動変容を促すには「誰に言われたか」ということも重要ではないかと思っています。かといって、それぞれのユーザーに対して、人間がコミュニケーションを行うのも当然限界があると思います。昨今、Generative AI技術が急速に発展してきており、ユーザー好みのキャラクターや声などもそれほど大きなコストをかけずに、生成することが可能になっています。これら技術を活用することで、多くの人がより行動変容するようなプロダクト、サービスを低コストで実現できるかもしれません。共創パートナーのみなさんが保有するケイパビリティと連携することでこのような事業を実現したいと思っています。
相澤氏 : 私もユーザーに行動変容を促し、それをいかに継続させるかが、本プログラムのポイントになると思っています。その意味で、コミュニティに関する新たなアイデアに期待しています。ユーザーの行動変容を促す適切な仕組みを設定できれば、それをWeb3のメタバース空間に展開することもできますし、スケールの可能性が一気に高まるはずです。
篠田氏 : 私は特定の領域というよりも、事業のスケーラビリティに期待したいです。特に、Generative AIやWeb3、DAOは、エマージング(新興)な分野ですから、斬新な新規事業を起こすチャンスが十分にあると思います。私たちも、3年後、5年後を見据えて共創にのぞむ覚悟ですので、多少アイデアが”ぶっ飛んで”いても構いません。スケーラビリティのあるご提案いただきたいですね。
小杉氏 : 私が注目しているのは認知症予防です。認知症は一度症状が出てしまうと完全な回復が難しいと言われていますが、その一方で、症状が出ないと予防に目が向きにくいのも事実です。ソニーは聴覚や嗅覚に関する技術を数多く保有していますし、robotics技術や人間拡張の取り組みを活用することで歩行やリハビリのサポートなどにも展開できると思いますので、こうした技術を活用したご提案に期待しています。
――応募を検討している企業向けに、オープン・イノベーション部の過去の共創事例をご紹介いただけますか?
相澤氏 : これまで「大企業同士」「スタートアップとの連携」「専門機関やアカデミアとの連携」と、複数のパターンで共創を実現しています。例えば、世界有数の補聴器メーカーであるWSオーディオロジー社(デンマーク)とは、補聴器の新商品を開発しています。
また、VRサービスのスタートアップであるVRChat Incとは、mocopiをVRChat Inc.のプラットフォームにサービス連携させるといった共創を行っています。そのほか、医療機関や大学、研究機関との共創事例もあります。――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
金丸氏 : 本プログラムは「いわゆる大企業が外部に開発などを委託する」といったものでは決してありません。むしろ、共創パートナーのケイパビリティをお借りして、ともに事業を立ち上げたいと考えています。そのため、共創パートナーの皆さんには「ソニーを使い倒してやる!」といったご提案を期待したいしています。
小杉氏 : 私たちだけでは気づけないアイデアや着眼点を求めています。私たちも共創パートナーの皆さんに学ぶ姿勢でのぞみますので、思い切ってご応募いただけると嬉しいです。
相澤氏 : 私がキャリア入社のため一際強く感じるのですが、ソニーの社内には実に多彩なアイデアを持った人材が数多く集っていると感じています。そうした人たちと、共創パートナーの皆さんが連携することで、どのような化学反応が起こるのか今から楽しみです。「自社のサービスにドライブをかけたい」「グローバルにサービスを展開したい」という意欲のある企業には、ぜひご参画いただきたいです。ご応募をお待ちしております。
篠田氏 : ソニーは非常にオープンな社風です。私自身、「まずは試してみよう」といった姿勢で、これまでさまざまな新規事業を立ち上げてきました。ぜひ「次の5年」をともに作れる共創パートナーにお会いしたいと考えています。
取材後記
「ソニーといえば?」と聞かれて、頭に思い浮かぶ製品は決して一つではないはずだ。音楽プレイヤー、オーディオ、ゲーム機、カメラ、スマートフォン……。私たちの人生で触れてきたソニー製品は数知れない。そうした製品の一つひとつが「OPEN INNOVATION 2023 with Sony」で活用できるアセットになる。そこから広がる可能性は計り知れないだろう。
本プログラムは3月20日にエントリーを開始し、書類選考や面談選考を経て、採択企業が決まる。窓口となるオープン・イノベーション部の面々は「長期的な共創も見据えている」と万全の体制だ。本記事を通じて、共創の糸口が見えた企業や団体には、ぜひ応募をお勧めしたい。
※「OPEN INNOVATION 2023 with Sony」の詳細は以下よりご確認ください。
https://eiicon.net/about/sony-oi2023/
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)