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【ICTスタートアップリーグ特集 #15:河合大介氏】製造業における「試験」工程にフォーカスしたSaaSを開発ーー解決したい課題と描く未来とは?

【ICTスタートアップリーグ特集 #15:河合大介氏】製造業における「試験」工程にフォーカスしたSaaSを開発ーー解決したい課題と描く未来とは?

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、レガシーな製造業の非効率なモノづくりの開発現場を変えるエンタープライズ向けSaaS『arxive』を開発する河合大介氏を取り上げる。2024年に法人化を目指しながら、サービス開発を推進している河合氏にインタビューを実施し、サービスの特徴・強みや今後のビジョンなどについて話を聞いた。

▲河合大介 氏

ーーーー

<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・トヨタ、デンソーと日本を代表する大企業で、エンジニアとしてキャリアを積んできた河合氏は、そのリアルな現場の課題感から、新たなサービスの開発に着手。それが、製造業にターゲットを絞り、業界特化型の知見共有プラットフォーム×いつものワークフローを活用したSaaS『arxive』です。大規模言語モデルを用いた検索機能を実装することで、製造業における属人化しがちな情報の検索と共有をシームレスに行えるツールとなります。

・近年、日本の製造業はグローバルでのプレゼンスが大きく低下しています。その理由は様々ありますが、DX化の遅れも大きな要因の1つでしょう。DXというと製造現場に着目される傾向がありますが、河合氏のサービスはモノづくりの開発特有の「試験」というフローを起点にDXを目指すものです。そうした点に大きな特色が感じられます。

製造業の設計・開発現場を外から眺めたことで得られた気づき

――最初に、簡単にご経歴を教えてください。

河合氏 : 以前は、トヨタとデンソーで、7年ほどエンジニアとして仕事をしていました。主に、セラミック製品の設計、開発を担当しており、要素技術開発から詳細設計、量産移行までを一通り経験しました。1年ほど前に越境人材としてスタートアップに移籍し、新規事業開発やマーケティング、法人営業などを担当しています。

――現在もそのスタートアップに所属しており、これから起業なさるということですね。

河合氏 : はい。2024年には、法人を立ち上げたいと思っています。実は、現在所属しているスタートアップには、デンソーからの出向という形で来ているのです。ゆくゆくはデンソーに戻る予定なのですが、兼業で法人を作ろうと考えています。

――起業しようと思われたキッカケについてお聞かせください。

河合氏 : モノづくり企業の現場でエンジニアとして長く働いていましたが、スタートアップに移り、モノづくりとはかけ離れた仕事をするようになって初めて、以前の製造業での開発業務を、客観的に見ることができるようになりました。そして、以前は当たり前だと思っていた仕事のやり方が、まったく当たり前ではなかったことが見えてきたのです。

というのは、営業の業務ではCRMやSFAなどのソフトウェアが使われていて、顧客や営業プロセスは効率的に管理されていますよね。そういった効率的な管理ツールが、製造業の設計・開発現場では、あまり用いられていないことに気付かされました。

――設計や開発プロセスを管理するソフトウェアがなかったのですか。

河合氏 : まったくないわけではありません。例えば、化学業界に特化した「電子実験ノート」のような製品はありますが、電子部品業界や輸送用機器業界などではまったく普及していません。CRMやSFAの世界で、Salesforceのように定番として広く普及しているSaaSは存在しないのです。そのことに気付いたことが、起業のきっかけの1つです。

また、もう1つ印象的な出来事があります。2022年の年頭、私がまだトヨタに勤めていたときですが、トヨタの会長が「新年を迎えるにあたっての3つのお願い」というものを発表しました。その中に「社内の情報は個人のものではなく、会社の共有物だ」という話があったのです。要するに、経験知、暗黙知として属人化している情報を、顕在化、可視化させて社内で共有して活用しなければならないということです。

他の業界の人からすれば当たり前のことだと思われるかもしれませんが、製造の設計現場では、そうではなかったのです。

――ノウハウや知識が属人化していることが多いのですね。

河合氏 : そうですね。例えば、「エンジン作り一筋の熟練技術者」のような方がいて、ものすごいノウハウを持っているのですが、競争力がその人に依存しているみたいな世界なのです。そこで、そのような課題を解決するツールを自分が作って提供すればいいのではないかと思ったことも、開発を志した理由です。

データベースとLLMでエンジニアの情報共有コストを下げる

――そのような気づきを経て、製造業の開発現場向けのSaaS『arxive』を開発なさっているということですね。資料には「知のシェアリングを促進する一気通貫のプラットフォーム」とあるのですが、具体的にはどんなソフトウェアなのでしょうか。

河合氏 : 製造業の製品開発というと、CADやCAEなどを使って、デジタルだけで完結する世界のように思われるかもしれません。もちろん、設計はCADで行うのですが、実際にはモノをしっかり作って、さまざまな実験を繰り返すーーリアルとデジタルとをいったり来たりしながら進められている世界なのです。

そのリアルの部分のデータが、システム化されていない形(例えばPowerPointなどのファイル)で管理されているところに大きな課題があります。まず、実験データがどこにあるのかわかりにくく、その実験をした人でないと、データを引っ張ってこられないといったことがよく生じます。

また、データを後から見ても数値の羅列だけで、どういう意図で、どういう条件で取られたデータなのかわからないといったこともあります。そのため、エンジニアにはどういうデータが欲しいといった問い合わせが絶えず、情報の共有コストが非常に高いことが課題でした。同じ実験をもう1回しようみたいなことも、珍しくありません。

――ひとつの開発プロジェクトで、管理すべきデータというのはどれくらいあるものですか。

河合氏 : 最初の要素開発から、詳細設計、量産開発と進む中で、数万件に上ります。その膨大なデータを「試験」を起点にしながらデータベース化していくというのが、私の開発しているサービス『arxive』です。例えば、どういう背景から設計をしているとか、どんな計画や条件で試験をしたとか、そういった情報を試験結果の数値と紐付けながらすべてデータベース化しておき、後から他の人が引っ張れるようにするということです。

また、その際に大規模言語モデル(LLM)を用いて、あいまいな自然言語から検索できるようにするという機能も重要なポイントです。

――競合するソフトウェアはないのでしょうか。

河合氏 : ガントチャートが作成できるプロジェクト管理ツールで実験データの保存場所のリンクを入力して管理をしている企業があります。また、化学業界には電子実験ノートがあり、実験の情報を一元管理するツールがあります。一方で、部品を組み立てて製品化する輸送用機器業界や電気・電子業界では試験業務を中心に管理できる市販のソフトウェアはないと思います。

役割分担で製造現場を外から支える

――河合さんが、デンソー内の一事業として、いま開発されているサービスを展開していく方法もあると思います。あえて自ら起業するという選択をされたのはどうしてなのでしょうか。

河合氏 : 理由は2つあって、1つは大企業の中でこういったサービスを開発しようとすると、どうしても様々な人や部署の意見を採り入れることになって、結果的に、誰のためにもならない中途半端なものになってしまう危惧があることです。もう1つはスピード感です。やはり組織が大きくなると、なにを決めるにもいちいち稟議書を上げて、要件定義だけで1年かかる、みたいな世界になります。

今までにない新しいサービスの開発には、スピード感があわないですね。大企業の製造業では、本業であるモノづくりをしっかりやってもらって、それを裏で支えるソフトウェアなどは、スピード感のあるスタートアップが提供していくという役割分担のほうが合理的だと思います。

2025年中の正式版リリースを目指す

――先ほど、2024年に法人化を目指すというお話でしたが、現在の製品の開発段階と、今後の予定について教えてください。

河合氏 : 製品はまだアルファ版程度で、いろいろなお客様に使ってもらって、フィードバックを得ながら改良を進めています。2024年にはベータ版をリリースする予定で、その後、2025年に正式版をローンチできればと思っています。

――中長期的なビジョンは、どのようにお考えでしょうか。

河合氏 : このサービスを、一種のデータハブのような形で普及させて、様々な形での利活用できるプロダクト群を形成していきたいと思っています。

例えば、情報科学を用いて材料開発の効率を高める「マテリアルズ・インフォマティクス」という考え方がありますが、そうした分野への応用やデータ処理の自動化ツールとの連携といったところですね。

製造業の長いバリューチェーンの中で、このサービスがターゲットとしているのは、試験などの設計・開発工程です。まずはそこに絞ったプロダクト群を作りながら、その後は、下流の製造現場との情報連携なども模索していこうというのが、10年くらいのスパンでのビジョンです。

製造業は、下流の製造現場ではDX化が進んでいる部分もあるのですが、上流工程にいくと、まだまだペーパー文化の名残があり、暗黙知や非言語的なノウハウで進められている部分も多くあります。

それをデータ化すれば貴重な資産になり、バリューチェーン全体でのDX化を進展させられるはずです。

取材後記

日本の製造業企業の多くが、グローバルでのプレゼンスを失って久しい。河合氏は、製造業の開発現場でエンジニアとして長く働いてきた経験があるからこそ、その遠因となる現場の課題やボトルネックを肌で感じてきた。スピード感が求められるサービス開発のために、あえて大企業を飛び出すという気概を持った河合氏の挑戦には、多くのモノづくり企業との連携の可能性が感じられる。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:椎原よしき)

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「競争の場」を提供するプログラムです。TOMORUBAではICTスタートアップリーグに参加しているスタートアップ各社の事業や取り組みを特集していきます。