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【ICTスタートアップリーグ特集 #13:輝翠TECH】 SpaceXで働いた経験を持つ起業家が、人手不足に悩む農家の救世主に!

【ICTスタートアップリーグ特集 #13:輝翠TECH】 SpaceXで働いた経験を持つ起業家が、人手不足に悩む農家の救世主に!

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、東北大学発のアグリテック企業、輝翠TECH(キスイテック)株式会社を取り上げる。同社は月面探査機の研究で得た技術や知見などをもとに、農業ロボットを開発している企業だ。

創業者であるCEO Blum Tamir(タミル・ブルーム)氏は、イスラエル生まれのアメリカ育ち。UCLAで航空宇宙工学を学び修士号を取得。UCLA在学中にイーロン・マスク氏率いるSpaceXで勤務した経験もある鬼才だ。そんな彼が、なぜ日本で農業の課題を解決しようと考えたのか。そして、同社が開発する農業ロボット『Adam』の特徴・強みについて、話を聞いた。

▲輝翠TECH株式会社 CEO Blum Tamir(タミル・ブルーム)氏

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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■吉田翔(株式会社eiicon Enterprise事業本部 IncubationSales事業部 IncubationSales2G マネージャー)

・宇宙ロボットの研究で培った技術で地方農業の課題解決に取り組むスタートアップ企業です。なぜ宇宙から農業へ!?とまず思いましたが、「目の前の困っている人たちを救いたい」というCEOタミル氏の想いが強く込められているということがインタビューを通じてよく分かります。

・現在、自動運搬ロボットで高齢の方々による農作物運搬を支えるところがメインの事業でありつつ、得たデータと声から支援できることを広げていこうとしています。来日され、宮城を愛し、そこで出会った農家の方々を愛する。テクノロジー×愛が掛け合わさったスタートアップ企業として、私は注目しています。

宇宙分野の研究で得た知見をもとに、仙台でアグリテック企業を創業

――創業の経緯からお聞きしたいです。

タミル氏 : もともと私はアメリカの大学でロボット制御の研究を行っていました。初めて来日したのは2015年のこと。東北大学のロボット研究所に興味を持ち、サマーインターンとして約3カ月間、仙台で過ごしたのです。その後、2018年に、東北大学の博士課程に進学するため再び来日。博士課程では、月面探査機の人工知能に焦点を当てた研究を行いました。

来日中の旅先で、農家のおじいさん、おばあさんと話す機会があり、彼らが重い梨を運ぶのに苦労していることを耳にしました。特に地方では人手不足が深刻で若い担い手が減っています。これらの課題を目の当たりにし、農業にロボット技術を応用できるのではないかと考えるようになったのです。そこで、2021年に輝翠TECH株式会社を創業することにしました。

――宇宙開発領域で研究を続けていく道もあったと思いますが、農業分野に転じた理由は?

タミル氏 : 2018年の来日前、UCLAの修士課程在学中に、航空宇宙メーカー、SpaceXで少し働いたことがあります。SpaceXは有名な企業ですし、素晴らしい技術や仲間に恵まれていました。ただ、社会に貢献できているという実感を持てなかったのです。一方で、農業であれば直接、農家さんの課題を解決できます。目の前にある課題をじかに解決できる点が、宇宙から農業に転じた最大の理由となりました。

――農家の抱える課題のなかで、特に注目しているもの、解決を図りたいものは?

タミル氏 : 解決したい課題は大きく2つです。1つ目は「身体的な負担」。宮城や山形の梨農家さんとお会いして話を聞いたところ、果樹は非常に重いので運搬する際、体への負担が大きいことがわかりました。しかし、もっとも機械化が進んでいない分野でもあります。競合他社も少ないため、まずは果樹農家さんの身体的負担を軽減するところから始めようと考えました。

2つ目は「ワークライフバランス」。地元に残って農家として働くか、都会に出て企業で働くかを比べた場合、後者のほうが楽ですし、高い給与を得ることもできます。この格差も大きな課題だと捉えています。さらにつけ加えるなら、農家の人手不足と平均的な農場サイズの小ささ。農場の規模が小さいことから、農家さんが努力しても収入が高めづらい構造になっていると感じます。

追従モードや自動運転モードを持つ、有能な農業ロボット『Adam』

――続いて、御社で開発している製品の概要や特徴についてお聞かせください。

タミル氏 : 私たち輝翠TECHは『Adam(アダム)』という名の農業機械を開発しています。先ほどお話した農家さんの身体的負担の解消や人手不足への対策になるプロダクトです。農業機械への設備投資も削減できます。具体的には、3つの特徴的なモード(機能)を有しています。

▲『Adam』の動作イメージは、以下のYouTubeで公開されている。

https://www.youtube.com/watch?v=HUL5PFm_rqw

1つ目が、追従モード。画像から農家さん(人)を認識し、後ろについて行くことができます。このモードをうまく活用すれば、肥料の散布や枝の剪定・収集をする際、重いものを人ではなくロボットに運ばせることができます。

2つ目が、2地点間の自動運転モード。この機能を使えば、もっとも忙しい収穫シーズンに、収穫場所から選別場所へと収穫物を自動で運搬できます。自動運搬できる距離は、数百メートル程度。今まで人が行っていた運搬作業をロボットに代替することで、人は収穫や選別などの得意な仕事に集中することができるのです。

3つ目は、必要に応じてカスタマイズできるアタッチメントがあること。ロボット本体の上部や下部に、付属品をとりつけることができます。現在、農薬散布用や草刈り用のアタッチメントを開発中です。1つの農業機械に複数の機能を搭載できるため、とてもコストパフォーマンスの高い製品となっています。

――タミルさんが取り組んでおられた月面探査機の研究や技術が、『Adam』の開発にも活かされているのでしょうか。

タミル氏 : 活かされています。月面探査機と『Adam』には、3つの共通した特徴があります。まず、凸凹とした地形に強いハードウェアである点。月面も農地も傾斜のある地形が多いため、そのような悪条件にも対応できるサスペンション構造となっています。

2つ目が、複雑な環境でも自動運転ができる点。自動運転は私がもっとも注力した研究テーマです。農場は全体的に緑色ですし、木や岩などの障害物も多く存在します。このような環境下では自動運転が難しいのですが、これまでの経験を活かして実現しています。3点目が、データの収集・分析ができる点。月面だと水を探すために使いますが、農地では収穫予測や土の状況、有害虫の判断に使えると考えています。

――現在、どれぐらい導入が進んでいるのですか。

タミル氏 : もっとも導入数が多いのは、青森県のりんご農家さんです。それ以外では、12の農家さんや自治体と連携して進めており、梨・ぶどう・柿にも使用されています。2023年4月からパイロットプログラムを開始し、肥料散布や枝収集、剪定作業、収穫時の運搬に使ってもらいました。

――『Adam』導入による効果はどうですか。導入先からのフィードバックについてもお聞きしたいです。

タミル氏 : もっとも大きな効果は、収穫時に『Adam』を使うことで、約25%収穫効率を高められたこと。ロボット導入により、素晴らしい影響をもたらすことができました。農家さんのフィードバックで驚いたのは、「データを収集するだけのロボットでも購入したい」という声。データの価値を理解してもらうことは容易ではありませんから、「データだけでも価値がある」と言ってもらえて驚きましたね。

また、別の農家さんはもっと農地を広げたいと考えているものの、収穫時期が非常に忙しく手がまわらないため、拡大をためらっておられました。「『Adam』があれば、収穫時期のワークライフバランスを崩すことなく、農地を広げられそうだ」と期待する声をいただくことができ、嬉しかったのを覚えています。

2024年には限定販売を開始、東南アジアやヨーロッパなど海外進出も狙う

――最後に、今後の展開予定について教えていただけますか。

タミル氏 : 2023年は、農家さんに使ってもらいながら研究開発を進めました。2024年からは限定販売を開始し、2025年には量産体制を整え、正式な販売につなげていく予定です。2023年の秋頃に最新の第8号機が完成したのですが、第7号機と比べて製品レベルが格段に向上しました。優れた機能を備えていますし、価格も家族経営の農家さんの手に届きやすいよう設定しています。ですから次は、販売に協力してもらえるパートナーを見つけ、『Adam』をより多くのお客さまに提供していきたいです。

――満を持しての市場投入ですね。海外市場も狙っているのでしょうか。長期的なビジョンもお聞かせください。

タミル氏 : 直近5年間は日本で事業のベースを構築する予定ですが、それ以降は海外へも徐々に進出する計画です。すでに東南アジアやヨーロッパの企業と議論を開始しており、興味を持ってもらえています。長期的には、農作業全工程の完全自動化を目指しています。また収集したデータを農家さんだけにとどめるのではなく、自治体や農協などにも提供し、周囲の人たちが農家さんを支えられるような仕組みを構築したいですね。

取材後記

日本の農家の高齢化と人手不足に着目したタミル氏が、宇宙分野の研究で得た知見を惜しみなく投入して完成させたのが『Adam』だ。追従機能や自動運転機能のほか、必要な機能を1台に統合できるカスタマイズ性が特徴で、コストパフォーマンスもよい。『Adam』導入により、作業効率を大幅に高められたという実績もすでにある。日本の農業の深刻な現状を打開する可能性を感じられるうえに、タミル氏のバックグラウンドを考えると、海外進出も軽やかに進みそうだ。今後の展開が非常に楽しみである。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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  • 奥田文祥

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  • 眞田 幸剛

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