【ICTスタートアップリーグ特集 #10:curioph】属人的なマーケ戦略を代替するAI『curioph LLM』が目指す経済モデルとは?
2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。
このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。
そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、生成AIを用いたプロダクト『curioph LLM』を開発しているcurioph株式会社を取り上げる。マーケティングを民主化する可能性を秘めたプロダクトと今後の展望について、代表取締役の玉木氏に話を聞いた。
▲curioph株式会社 代表取締役 玉木穣太 氏
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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>
■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)
・代表の玉木氏は、美大卒業後、クリエイティブエージェンシーを経て2017年にAI企業であるCogentLabsに参画。2019年に株式会社XCOGを設立、2020年カオナビCDOに就任。ブランディングから新規事業開発まで手掛ける行動変容デザインが得意という経歴の持ち主。2023年に玉木氏が立ち上げたcuriophは「ヒトの興味や関心・好奇心」をベースに、次世代の消費行動に合わせた企業活動を支援するプロダクト『curioph LLM』を開発しています。
・『curioph LLM』は、ターゲットの行動原理を発見できるという独自性のあるプロダクトです。すでに大手企業のHR系の実証実験を終え、広告・消費財メーカーといった企業とのプロジェクトが進行しているとのこと。また、2023年8月にはJETROとPlug and Playによるスタートアップ海外展開支援プログラム「Global Preparationコース」に採択されるなど、注目を集めているスタートアップです。
AIは何が得意なのか?予想外の進歩を遂げたAI
ーー玉木さんがcuriophを起業をするに至った経緯をお聞かせください。
玉木氏 : 起業する前の2017、2018年まで会社員として所属していたAIをソリューションにしている企業では、専門家たちが集まっていて「人間が得意なのは数字になっていないものを数字にすること」「AIは演算や記憶が得意だ」という哲学を持って働いていたのです。私も起業するならそういった考え方が起点になるかなと思っていました。そこから独立してXCOGという会社を立ち上げて、現在のcuriophに至ります。
ただ、起業の経緯をどう話そうか迷っているんです。というのも、1〜2年前からAIの立場が変わってきていますよね。おやおや、と思っているうちに人々はChatGPTを手にして神ツールだと重宝しています。例えば、これまで「クリエイティブな仕事はAIには難しい」と思われていましたが、蓋を開ければクリエイティブ領域でもAIの方がお利口だったりする場合がありますよね。
そういう意味でも、起業の経緯を聞かれると、技術の進歩が日進月歩すぎてどう答えるべきか迷ってしまいます。かわりに、curiophのビジョンをお話させてください。
好奇心を抽出するアルゴリズムと『OtakuToEarn』の経済モデル
ーーAIが専門だった玉木さんにとっても、ここ1〜2年のAIの進歩は予想外だったわけですね。では、ビジョンについて聞かせてください。
玉木氏 : curiophでは『OtakuToEarn』という経済モデルを創ることを目指しています。OtakuToEarnとは何かというと、「次世代の消費行動に合わせた新しい企業活動の形を創る」ことだと説明しています。
もう少し詳しく説明すると、今は企業がものを押し売りする時代ではなくて、消費者の行動(オタク活動)のその先に企業のプロダクトやサービスがあるべきです。そのソリューションとして、僕らが開発しているプロダクト『curioph LLM』が貢献できるだろうと考えています。
ーー『curioph LLM』は、どのような特徴を持つプロダクトなのでしょうか。
玉木氏 : 例えばAさんが週末にキャンプに行ったり、ハイキングに出かけたり、テラスのあるお店でお茶をしたり、といったように、現実世界で興味のある行動を起こしたとします。するとAさんの行動から「アウトドアなしでは生きられない」という好奇心を抽出します。
同時に「アウトドアなしでは生きられない」というラベルはcurioph内のコミュニティとなります。これまで既存ToCサービスの中でコミュニティは存在していましたが、運営側やユーザーといった「人」が作ったものでした。curiophではこれを自動的に作るよう仕掛けたいと思います。
半ば自動的に湧出するマイクロなコミュニティは企業側にとって貴重です。例に出ている「アウトドアなしでは生きられない」のコミュニティに所属している人がターゲットの企業、つまりアウトドアメーカーなどにとって、ここがマーケティングの主戦場になってくるわけです。
curiophの機能として、企業はコミュニティの人々に対して効果的に広告を打つことができます。そして、広告収入の一部はコミュニティに所属しているAさんに還元されます。Aさんは好きなことをしているだけでもリワードとしてトークンを得られるので、結果的に我々が目指している『OtakuToEarn』が実現できるんじゃないかという構想です。
ユーザーは、自分自身のライフスタイルを追求してほしいですし、企業は消費者を深く理解しないまま商品を売るのではなく、「消費者のライフスタイルに投資する活動」が取れるようになると、柔らかい世界に近づくと考えています。
▲企業は消費者のライフスタイルや好奇心を尊重し、そこへ投資する。言い換えればオタク活動がマーケットになるような世界『OtakuToEarn』を目指すというcurioph。その世界を実現するためのプロダクトが、『curioph LLM』だ。(画像出典:curiophホームページ)
属人的なマーケティングを代替する『curiophLLM』
ーー『OtakuToEarn』の構想についてよく理解できました。では、具体的にこの構想をプロダクトにどう落とし込むか教えてください。
玉木氏 : いま開発している『curioph LLM』は、これまで専門家が担ってきたマーケティングをサポートするツールです。
例えば、私が架空のお寿司屋さん「YamYam寿司」のマーケターだとします。最初のステップとして『curioph LLM』に「ターゲットにしたいモノやコト」として自分の売りたいものをフリーテキストで入力したり、もしくは、製品情報などやファイルを登録します。ここではYamYam寿司のメニューを登録することにします。
つぎに、「売りたい・届けたい相手」にも同様にターゲットの情報を登録します。ここではユーザーレビューをまとめたCSVを読み込ませてみましょう。
「ペルソナ生成」をクリックすると、入力した情報をもとにAIが生成したペルソナがいくつか表示されます。最後に、ペルソナを選択すると、入力したYamYam寿司の情報と選択したペルソナの間にどのような欲求や課題があるのかを『curioph LLM』が作成してくれます。
今までだと、このアウトプットを出すためには専門家が時間とコストをかける必要があったのですが、『curioph LLM』を使えば専門的な知識がなくてもこうした調査ができるようになります。
その他の用途として、例えば海外展開したい日本の企業と現地のマーケットとの間にどのようなニーズ・課題があるかなども調査できます。また、従業員が会社に対してどのような価値観や印象を持っているかなども言語化してくれます。要するに「概念と概念」であれば、その間でブラックボックスになっているインサイトを解き明かす助けができるんです。
ーーこの他にも想定している用途はありますか。
玉木氏 : 短期的には、データを持っているけど使えていない企業にプロダクトを届けていくことを目指しています。調査してみると、ほとんどの企業は顧客データを集めているものの、データが非構造的になっていて活用できていないとか、MAツールに溜まっているデータを分析できていないという課題があります。そもそも、ビジネス戦略ができるマーケターが社内にいない企業の方が大多数であることもわかっています。こうした方々に『curioph LLM』を活用していただきたいですね。
そのために実証実験も進めていて、大手様とHR系の実証実験をすでに終えています。まだ発表できないのですが、その他にも消費財メーカーや広告企業など、さまざまな領域でプロジェクトが複数進んでいます。
取材後記
企業がマーケティング組織を立ち上げるには高いハードルがあるが、『curioph LLM』はその課題を解決する可能性を秘めている。戦略的にマーケティングを行うには高い専門性が必要だが、そこにコストをかけられる企業は一握りなのが現状だ。本文でも玉木氏が触れているように、多くの企業は顧客データを持っているものの活用できていないため、そのギャップを『curioph LLM』で埋められればインパクトはとても大きなものになるだろう。
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(編集:眞田幸剛、取材・文:久野太一)