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模倣品の防止・製品追跡・オリジナルマーク保護・One to Oneマーケティング――模倣に強い個体識別技術 『Yoctrace®』との共創で、情報社会への新たな価値を共に考えるプログラム

模倣品の防止・製品追跡・オリジナルマーク保護・One to Oneマーケティング――模倣に強い個体識別技術 『Yoctrace®』との共創で、情報社会への新たな価値を共に考えるプログラム

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富士フイルムビジネスイノベーション株式会社は、オフィス向け複合機やプリンターを主力に事業を成長させてきた。昨今は企業経営の変革支援や働き方を変えるIT環境構築などのビジネスデジタルトランスフォーメーション(ビジネスDX)も拡大させている。そんな同社の研究開発から生まれた模倣に強い個体識別技術『Yoctrace®(ヨクトレース)』を活用したオープンイノベーションプログラムを立ち上げる。このプログラムでは、消費者・販売者・製造者の安心と、モノを通じた顧客との新たな接点を求めるパートナーを募集するという。プログラムを主導するのは、Yoctrace®を開発した技術開発グループ。技術者と共に課題解決に向けた検証を進められることが大きなポイントだ。

TOMORUBAでは、パートナー募集開始に伴い、技術開発グループのトップを務める菊地氏、およびYoctrace®の研究開発を担う3名の技術者にインタビューした。同社がオープンイノベーションに取り組む意義や、この技術の特徴、共創で実現したい世界観などを聞いた。

オープンイノベーションを通じ、将来有望な技術でビジネスを創出する

――最初に、技術開発グループを統括する菊地さんのキャリアについてお伺いしたいです。

菊地氏: 1993年に富士フイルムビジネスイノベーションの前身である富士ゼロックスに入社し、電気系の商品開発からキャリアをスタートしました。技術開発や研究部門を経験した後、中国の深圳にある子会社工場で、取引先様から納入される部品の品質責任者として3年間従事しました。帰国後は研究所の所長を務め、現在はビジネスソリューション事業本部の技術開発グループを率いています。

▲富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 ビジネスソリューション事業本部 技術開発グループグループ長 菊地理夫 氏

――本プログラムを主催する「技術開発グループ」は、どのようなミッションを持った組織なのですか。

菊地氏: この組織のミッションは、ソリューション事業において技術で他社と差異化を図ることです。新しい技術を駆使して商品・サービスの価値を高めて事業に貢献することが、私たち技術開発グループの役割です。元々、本組織は事業部を横断して新しい技術を提供する研究組織でしたが、2022年7月より事業本部内に統合されました。技術開発と事業の距離が近くなったと感じています。

――技術開発グループの実績や今後の方針についてもお聞かせください。

菊地氏: これまでは複合機のなかに、画像処理機能や自然言語処理機能を追加していくような技術開発を多く手がけてきました。既存の商品に対して、新しい技術を入れていくという形です。現在は、複合機とは異なるソリューション商品を提供するための技術開発に重点を置いています。

――今回、オープンイノベーションプログラムを開始されます。技術開発に長く携わってこられた菊地さんから見て、オープンイノベーションはどのような観点で、必要な手段だとお考えですか。

菊地氏: 弊社だけでお客さまに価値を届けることは非常に難しいと感じています。すべてを自前主義にしてしまうと、技術や提供先の選択肢も限られてしまいますよね。多様な企業と強みを統合しなければ、競争に勝ち抜けない時代になっているのではないでしょうか。また、他社と協力することにより、時間的なメリットも得られると考えています。こうした観点で、オープンイノベーションは有効な手段だと思います。

――本プログラムの開催目的や期待についてお聞かせください。

菊地氏: このプログラムでは、弊社のYoctrace®という独自の個体識別技術に興味を持っていただいた方々とともに、課題解決を目指していきたいと思います。これまでは私たち1社だけで事業化するという方法も取ってきましたが、すでにお困りごとを抱えている方々と協力したほうがより早く、エンドユーザーに価値をお届けできるのではないかと考えています。Yoctrace®は有望な技術です。皆様と協業して、この技術を早く社会に届けたいと思っているので、ぜひご応募ください。

複合機の研究から派生した、模倣に強い個体識別技術『Yoctrace®』

――今回のオープンイノベーションプログラムでは、Yoctrace®という御社独自の技術を軸にパートナーを募集されます。まず、Yoctrace®の開発背景や特徴からお伺いしたいです。

内橋氏: Yoctrace®の始まりは、複合機に使用する紙を見分ける研究でした。紙を細かく観察すると、紙の繊維の絡み具合が1枚1枚異なっていました。人の指紋がそれぞれ異なるように、紙の繊維の絡み具合にもそれぞれ異なる模様がありました。Yoctrace®は、この固有の模様を見分ける技術として誕生しました。

▲富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 ビジネスソリューション事業本部 技術開発グループ チーム長 内橋真吾 氏

1995年入社。複合機の画像処理で研究を積み、アメリカの研究機関に出向。静止画から動画まで広く研究してきた。現在はYoctrace®の技術開発を担当。

私たちの研究は紙から始まりましたが、研究途中で紙以外の様々なモノにも固有の模様があることに気づきました。そして、同じYoctrace®の技術で、様々なモノを見分けることもできるようになってきました。ただ、ミクロな模様を撮影する場合は顕微鏡などの特殊な装置を使う必要があり、多くの方に使っていただく際の課題になっていました。そこで「身近にあるスマホのカメラで撮れる模様を作れないか」と発想を転換。「スマホのカメラで見分けられる模様」を開発し、その模様をラベルに印刷しました。

さらに、スマホで簡単に撮影するアプリを開発すると同時に、撮影した画像を処理するシステムも開発しました。今回のプログラムではこのラベル・アプリ・システム一式を利用して価値を検証いただけます。

▲ 富士フイルムビジネスイノベーションのトナーカートリッジで活用されているYoctrace®ラベルのサンプル。

――では、固有の模様を印刷したラベルと、そのラベルをスマホでスキャンしてモノを識別できる一連の技術が、今回のプログラムの主役でもあるYoctrace®ということですね。独自性や優位性はどういった点にあるのでしょうか。

本杉氏: 印刷された模様が模倣しづらいことが、他にはない独自性です。この模倣しづらい模様を、工業的に安定して作れる印刷技術を使ってYoctrace®ラベルとして提供し、さらにスマホを使ってスキャンするだけで、誰でも簡単に識別できることが強みです。

▲富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 ビジネスソリューション事業本部 技術開発グループ 本杉友佳里 氏

2011年入社。インクジェット技術の研究に従事した後、Yoctrace®担当へ。画像処理技術や識別用スマホアプリの開発を担う。

――すでに導入実績はあるのですか。それは、どのような分野や用途で使われているのでしょうか。

前後氏: 現在、弊社が中国で販売している複写機のトナーカートリッジに、模倣品対策としてYoctrace®を使用しています。以前はホログラムシールのようなもので対策していましたが、より模倣に強い技術が必要でした。

また、トナーカートリッジは一般のお客様も使うものですから、誰でも簡単に正規品であることを判定できる必要があります。流通過程で誰でも何度でも繰り返し使えることも重要です。こうした観点から、模倣に強く、スマホで簡単に正規品を判定できるYoctrace®を、2023年に中国市場に導入しました。

▲富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 ビジネスソリューション事業本部 技術開発グループ チーム長 前後武志 氏

2004年入社。インクジェット技術や情報セキュリティ技術の研究に従事した後、Yoctrace®担当へ。Yoctrace®ラベルや正規品判定サービスプラットフォームの開発責任を担う。

――トナーカートリッジに貼られたラベルを、スマホでスキャンすれば、それが正規品か模倣品か調べられるということですね。裏側の仕組みについても少し教えていただけますか。

前後氏: 製品出荷時などにYoctrace®ラベルの模様を撮影し、サーバーに登録します。これは、指紋認証の際に、事前に指紋を登録するのと同様の流れです。正規品かどうかを判定する際は、スマホカメラで撮影した画像をサーバーに送り、事前に登録をした画像と照らし合わせて個体識別し、正規品であるかをスマホアプリに表示する仕組みになっています。

▲Yoctrace®ラベルをスマホでスキャンすると、正規品か模倣品かの判定が瞬時に行える。

――なるほど。今回、オープンイノベーションプログラムを通じて共創パートナーを探す狙いは?

前後氏: この技術をトナーカートリッジだけでなく、他の商品でも広く活用してもらいたいからです。たとえば酒類など様々な商品に応用できる可能性があると考えており、簡単に正規品判定ができるビジネスなどの展開を目指しています。このプログラムを通じて、模倣品対策に取り組んでいる企業や新しい活用方法をお考えの企業の皆様と出会い、社会に役立つソリューションを一緒に生み出したいと考えています。

「模倣品の防止」や「ライフサイクル全体での製品追跡」など、『Yoctrace®』が活かせる4分野

――共創イメージとして、「①模倣品の防止」・「②製品ライフサイクル全体での製品追跡」・「③オリジナルマークの保護」・「④商品を起点にしたOne to One Marketingの実現」の4つを挙げています。それぞれについて詳しくお聞きしたいです。1つ目の「模倣品の防止」に関してはいかがでしょうか。

前後氏: 模倣品による被害は世界で約50兆円に達しているそうです。とくに新興国などでは模倣品が大量に出回っているといわれます。日本から輸出する際に模倣品が混じることもありますし、その逆に日本に輸入する際に模倣品が混じることがあります。私たちはこれらの対策にYoctrace®を有効に活用いただきたいと考えています。利用方法は、先ほどのトナーカートリッジと同じです。

――どのような企業だと、この技術をうまく活用できそうですか。

前後氏: 自社のブランドを大切にしており、自信をもってそのブランドを提供したいと考える企業であれば、企業規模の大小にかかわらず、この技術を有効活用いただけると考えています。一例を挙げるなら、酒造メーカーや製薬会社などでしょうか。模倣品対策を一層強化したい企業や、今後、模倣品対策に取り組みたい企業などの課題解決に貢献できると自負しています。

――2つ目に示された「製品ライフサイクル全体での製品追跡」は、どのようなイメージですか。

前後氏: 昨今、サーキュラーエコノミー(循環型社会)が注目されています。とくにEUでは2026年以降、循環型社会を推進するために製品のトレーサビリティを管理するDPP(デジタルプロダクトパスポート※)が導入されます。日本企業がEUに製品を持ち込む際も、厳格に製品のライフサイクル全体をデータで管理することが求められるようになるそうです。ブロックチェーンのような仕組みを構築し、製品データを誰でも公平に閲覧できるようにする必要があります。

ここで、Yoctrace®がどう役立つかという話ですが、製品をデータ化する段階で、製品のシリアル番号などをブロックチェーンなどに書き込みます。書き込む際、その製品が模倣品だと偽物のデータをブロックチェーンで管理することになってしまいます。製品を正しくデータ化するために、まずは正規品であることを保証する必要があります。Yoctrace®は簡単に模倣できません。モノをデジタルで管理していく循環型社会において、偽物が混入することを防ぐという意味で、この技術が大いに貢献できると考えています。

※DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは…製品のライフサイクル全体にわたる情報を一般消費者等も容易に取得できるようデジタル形式で提供する施策。とくに環境への影響や製品の持続可能性に焦点を当てている。

――どのような製品に活用できる可能性が高そうですか。

前後氏: 一例を挙げるとしたら、バッテリーです。今まで、使用後のバッテリーは廃棄されていましたが、今後、例えば70%程度使用可能なバッテリーであれば、メンテナンスして再利用していく流れになっていくでしょう。その際に、70%でメンテナンスされたバッテリーであることを保証するために、Yoctrace®のラベルを貼るという使い方ができます。そういった用途で役立つ可能性があると考えています。これは、バッテリーメーカーに限らず、あらゆるメーカーで活用できるはずです。

――続いて、3つ目の「オリジナルマークの保護」についてはいかがでしょうか。

前後氏: 世の中の商品には環境負荷が低いことや不正労働を認証するマークがついていたり、ワインなどに品質を保証するラベルがついていたりするのを見たことがあるのではないでしょうか。これらのマークは、特定の協会などが保証したことを証明するために貼っています。こういったマークが模倣されてしまえば、せっかく保証するためにマークをつけているのに、エンドユーザーは騙されてしまいますよね。

そこで、模倣が困難なYoctrace®の技術を使って、模倣ができない認証ラベルを作成してはどうかと考えています。提示しているサンプルは正方形ですが、別の形に変えることも可能です。この技術はインクがポイントなので、Yoctrace®の識別に必要な面積が確保できれば形状は問いません。たとえば、ワインに貼付するラベルなら葡萄の形にできる可能性もあります。

――認証ラベルを発行する機関や企業の模倣品対策につながりそうですね。最後に、4つ目の「商品を起点にしたOne to One Marketingの実現」についても教えてください。

前後氏: Yoctrace®ラベルは印刷で製造できるので、ブランドロゴにも対応できる可能性があり、そのロゴをスマホで読み取ることで購入者とつながることができると考えています。

内橋氏: 直営店の販売では、ユーザーにアカウントを作成してもらえば、ユーザーの購入履歴などを追跡できます。しかし、直営店以外で購入した場合、誰がいつ購入したのかを把握することが困難です。そこで、Yoctrace®でラベルを作成すると同時に、アプリのようなものを用意して、インセンティブを設けて購入者にスキャンしてもらう。そのアプリを使っている人のアカウントと連携できれば、物理的なモノとユーザーアカウントをつなぐことができます。

――物理的なモノと顧客のデジタルデータを紐づけられると、どのような業界や企業で活用できそうですか。

本杉氏: 化粧品や健康食品メーカーが候補だと考えています。販売チャネルの多い業界なので、どのようなお客様が購入されたかがわからないケースが多いのではないかと思います。購入者も正規品であることを確認したうえで、安心して個人に応じた情報をもらえるという、One to Oneマーケティングが実現するという流れですから、そういったことに取り組みたい業界や企業と相性が良いと思います。

Yoctrace®ラベルを試作し価値の検証へ、技術開発グループのメンバーが全面協力

――共創パートナーに対して提供できるリソースがあれば教えてください。

前後氏: ひとつは、Yoctarce®ラベルです。「ラベルを試作してみたい」というご希望があれば、弊社で試作して提供することが可能です。試作段階で、印刷するデザインなども一緒に検討できればと思います。

また、照合用のテストアプリやアプリの開発キット(SDK)を提供することもできます。仮に自社アプリをすでにお持ちなら、この開発キットを使って自社のアプリに撮影や識別の機能を追加することができます。それと、私たち技術開発グループの開発メンバーが、プロジェクトの成功に向けて積極的に協力します。

――それは心強いですね。最後に、応募を考えている企業へのメッセージをお願いいたします。

本杉氏: Yoctrace®が提供できる価値について確信が持てていない方も、ぜひともPoCという形でお試しいただければと思います。とくに、One to Oneマーケティングで価値を高めたいような分野は、PoCを通じて具体的な効果を実感していただけるのではないかと考えています。

前後氏: 模倣品やトレーサビリティへの対応など、今まで以上に商品の管理に力を入れたい企業は増えています。しかし、この分野はPoCを行うにしても、商品にラベルを貼って市場に流し、お客様に判定してもらうまでに、相当の時間がかかります。半年か1年程度の期間を要するかもしれません。一緒に忍耐強く価値検証に取り組んでいただける企業にご応募いただけると嬉しいです。

内橋氏: 一緒に考えることを重視した取り組みにしたいと思います。モノを接点としてお客様とつながったり、デジタルデータを有効に活用したり、これらの領域は弊社でお手伝いができます。

モノを製造している企業のなかには、モノとデジタルデータを結びつけることで価値を生み出すことができそうだと感じている企業もあるでしょう。そうした企業と弊社がモノとデジタルをつなぐ取り組みを一緒に考え、試していければと思います。PoCを通じて、どんな価値提供ができるのかを実感できるような活動にしましょう。

取材後記

『Yoctrace®』という類を見ない技術を軸に、「模倣品の防止」「製品ライフサイクル全体での製品追跡」「オリジナルマークの保護」「商品を起点にしたOne to One Marketingの実現」という4つの共創イメージが示された。すでに自社で活用中であることから、技術の大部分は完成している。共に考えながらカスタマイズを行い、より広く普及させていく――そうした段階でのオープンイノベーションとなるだろう。興味のある企業はぜひ、本プログラムへの応募を検討してほしい。(※応募締切:2024年3月22日)

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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  • 奥田文祥

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