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“課題ドリブン”で進む事業共創。大企業のキーパーソンたちが語るオープンイノベーションの現在地とは――「ONE JAPAN CONFERENCE2022」セッションレポート

“課題ドリブン”で進む事業共創。大企業のキーパーソンたちが語るオープンイノベーションの現在地とは――「ONE JAPAN CONFERENCE2022」セッションレポート

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大企業の若手・中堅社員を中心とした、約50の企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」は、「挑戦の文化をつくる」をミッションに掲げ、大企業から挑戦する文化の醸成を目指している。メンバー同士で意見交換などをしながら社内外で活発に活動を展開し、内閣府の「日本オープンイノベーション大賞(第一回)」では「日本経済団体連合会会長賞」を獲得するなど、名実共に存在感を増している状況だ。

共創や新規事業をキーワードに多くの情報やノウハウが蓄積されているONE JAPANは、活動報告を兼ねて毎年「ONE JAPAN CONFERENCE」を開催。同コミュニティのメンバーをはじめ、豊富な知見を持つ各界のトップランナーや経営陣を招き、良質なインプットを提供している。

2022年はテーマを昨年に引き続き「変革 - Transfromation」とし、10月23日にリアルとオンラインのハイブリッドで12セッションを展開した。――本記事では、大企業においてオープンイノベーション/新規事業を牽引するキーパーソンたちが登壇した「イノベーティブ大企業ランキング(※)の上位企業が語る、事業共創の最前線」を紹介する。

イノベーティブ大企業ランキング……スタートアップとの連携を通じたオープンイノベーションに積極的な大企業の人気ランキング調査。イノベーションリーダーズサミット実行委員会と経済産業省が実施している。


<登壇者> ※所属企業・部署・役職等は、カンファレンス実施日時点のものです

【画像・上段左】 凸版印刷株式会社 事業開発本部 戦略投資部 課長 坂田 卓也 氏

2005年凸版印刷入社後、出版、広告、玩具、ゲーム、駐車場・カーシェアリング、コミュニケーションプラットフォームなどの業界のマーケティング・新規事業支援に携わる。2014年より、経営企画に異動し、経営戦略部に所属。次世代の事業の柱を構築するべく、社内の新事業支援を実施。事業開発本部戦略投資部にて、新事業創出を目的としたベンチャー投資およびM&A業務に従事。26社のスタートアップに出資。

【画像・上段右】 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 笹原 優子 氏

1995年NTTドコモ入社。iモードサービスおよび対応端末の企画、仕様策定にサービス立ち上げ時より携わる。その後携帯電話のラインナップおよびUI/ デザイン戦略を担当。2014年より新事業創出を目的とした「39works」プログラムを運営。社内起業家の支援を行う。2021年6月より現職。株式会社ローンディールのメンターとして社外の人材育成にも携わる。一般財団法人リープ共創基金、NPO法人 ETIC.にプロボノとして参画。2013年 MIT Sloan FellowsにてMBA取得。大阪大学招聘教員。

【画像・上段中】 東急株式会社 東急アライアンスプラットフォーム運営統括 武居 隼人 氏

2016年に東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)に新卒で入社。グループ会社に出向後、スマートホームサービスやガス事業の新規立ち上げに参画。主に、サービス設計や業務オペレーションの構築を担う。2019年より、東急グループとグループ外の企業との事業共創プラットフォームである「東急アクセラレートプログラム(現:東急アライアンスプラットフォーム)」の運営事務局として、オープンイノベーションによる東急グループの経営課題解決と事業変革を推進する。

【画像・下段右】 eiicon company 代表/founder 中村 亜由子

2015年「eiicon」事業を起案創業し2018年よりcompany化。現在はeiicon companyの代表として25,000社を超える全国各地の法人が登録する日本最大級のOIプラットフォーム「AUBA」、会員2万人を超えるメディア「TOMORUBA」等を運営する。年間60本以上の講演・コメンテーターなども務め、多くのアクセラレータープログラムのメンター・審査員としても幅広く活動。特許庁の委員会や客員教授等も務めながらエンジェル投資家として複数のスタートアップに投資・支援もしている。

<モデレーター>

【画像・下段左】 日本テレビ放送網株式会社 社長室経営企画部 福井 崇博 氏

1987年生まれ。2010年に日本郵便へ入社後、ローソン出向等を経験。出向後は地方創生プロジェクトのリーダー等を務めた後、オープンイノベーションプログラムの立ち上げを始めとするスタートアップ連携を推進。2018年10月より東急(株)に入社し、東急アライアンスプラットフォーム等を通してグループのオープンイノベーションを推進。2020年にはCVC活動も開始。2022年5月、日本テレビ放送網に入社。経営企画部で戦略投資等を担当。横浜国立大学大学院国際社会科学府経営学専攻博士課程前期社会人専修コース(MBA)修了。ONE JAPANでは広報担当幹事や事業共創プロジェクトリードを務める。

「課題ドリブン」の共創が増えている

本セッションではまず「肌で感じる、オープンイノベーションを取り巻く環境、最近の傾向は?」をテーマにディスカッションした。

東急・武居氏は「スタートアップ×大手企業の1対1で行うオープンイノベーションから、N対Nの形式が多くなったのではないか」と指摘した。その背景には課題意識があるようだ。よりスピード感を持って課題解決を実現するために自社にない力を外から持ってくる。そのためには1対1の形式にとらわれる必要はない。

また、優れた技術を有し熱意のある人材がスタートアップに集まっているのは事実だが、必ずしも協業先をスタートアップに限定しなくともよく、大手同士や中堅企業と行う事業共創もある。大切なのは、あくまで自社や社会の課題を解決することだ。武居氏は「課題ドリブン」になっていると自説を展開した。

凸版印刷・坂田氏はややもすればオープンイノベーションという言葉が陳腐化している傾向にありながら、期待されているほどの成果は生み出せていない現状を明かした。「当社は60社に出資し、ランキングに選出されるようになったが、会社や社会に対してインパクトを残せていない」と話す。もっと当たり前にオープンイノベーションが行われる状況にしたいと熱意をのぞかせた。

オープンイノベーションの支援事業を手がけるeiicon company・中村は、コロナ禍が一つの分水嶺になったとし、国や自治体の取り組みに触れた。コロナ補正予算の一部がオープンイノベーションに使われ出し、中でも、地方自治体の活用が目立っていると言及した。加えて、岸田文雄首相が「スタートアップ元年」と打ち出していることなどを紹介。「オープンイノベーションに対し国が資金援助を始めたことで使われる予算が増え、地方の企業が乗り出すなどすそ野が広がり出している」との現状を伝えた。

他方、NTTドコモ・ベンチャーズ・笹原氏は「社外のプレイヤーとの共創は昔から行っていること」との見方を示した。笹原氏は1999年にNTTドコモが携帯電話IP接続サービス「iモード」をスタートアップや他の事業会社などと共創しながら作り上げた例を出しながら「オープンイノベーションという言葉はなかったが、同様のことはこれまでも行ってきた」と解説した。

しかし、今はオープンイノベーションという言葉が先行し、経営陣などの要請に対し、「やらねばいけないと立ちすくんでいるケースも多いのではないか」と指摘。その上で、「大切なのは、何を行いたいかであり、どういう未来を創り出したいか。そうしたものがあると、社外との連携ができ、立ちすくむことはなくなるはず」と持論を述べた。また、社外のプレイヤーと共創を進めやすくするよう企業文化を変える必要性も伝えた。

各社のオープンイノベーションの好例紹介

続いて、オープンイノベーションの好例が、各社から紹介された。

■複数社でスタートアップスタジオ「株式会社コンボ」を運営

「未来の体験を社会にインストールする」を掲げるクリエイティブ集団PARTYが、スタートアップや新規事業の創出を目的にコンボを設立。パートナーとして、凸版印刷をはじめ、映像開発やPR戦略に強みを持つ株式会社ギークピクチュアズや株式会社ベクトルなどが参画した。comboはクリエイティブやマーケティングの力を活かしながら、新規事業アイディアやプロトタイプの実装を行う。凸版印刷からは社員一人が出向し、印刷の次の事業の創出を図っているという。

坂田氏は「新たな事業ポートフォリオを作るために、どんなケイパビリティが必要かという課題認識を持ち、かつ自分たちにない力を持つパートナー企業を互いにリスペクトしている。オープンイノベーションというより『コンボ』している感覚に近い」と説明した。これに対し、モデレーターの日本テレビ放送網・福井氏は「複数の企業が集まり、それぞれに『成功の型』を創り上げようとしている。オープンイノベーションのモデルケースになる」と感想を述べた。


■Avatour×NTTビズリンク×NTTドコモ×NTTドコモ・ベンチャーズ

360度の立体空間映像の生成・配信ソリューションを提供する、アメリカのスタートアップAvatour Technologies, Incは日本市場への進出を狙っていた。一方、NTTビズリンクはWeb会議ソリューション、NTTドコモは5Gのソリューションを必要としていた。そうした思いを束ねたのがNTTドコモ・ベンチャーズで、Avatourには出資を実施している。

笹原氏は「NTTグループの事業を伸長させ、アメリカのスタートアップのアジアマーケット進出を支援できた。その意味で意義が大きかった」と述べた。これに対し福井氏は「外に目を向けるのも大事だが、同時に自社にソリューションやリソースがないか確認することも大事。特に大手企業はグループを巻き込めば、さまざまなことが出来るはずで、可能性を広げられる」と解説した。


■アイリッジ(東証グロース上場)×東急建設(東証プライム上場)

東急グループの東急建設は線路の工事を手がけている。線路に工具を置き忘れてはならず、現場に入る前、工事が終わってから、紙のシートを使いながら複数回のチェックを行っていた。一方、工事の時間は終電から始発までと限られており、効率が求められる。そこで、RFID(無線自動識別)を用いたチェックシステムをアイリッジと共同開発。業務の効率化を図ると共に、システムの販売を行い新規事業の創出につなげた。

武居氏は「ただ開発を依頼するだけでは受発注の関係だが、共同で作り上げ販売につなげた点が特筆すべきところ」と強調。福井氏は「オープンイノベーションはスタートアップとの協業に限らない。課題を整理することで、適切な協業先が見つかる。紹介いただいたのは、その典型的な例」と言及した。


他方、中村からは特許庁のモデル契約書が紹介された。中村は契約書作成の委員と同委員会内の広報戦略ワーキンググループの座長を務めた。契約書が作られた背景には、片務NDA、無償PoC、無断の特許出願、不利益な独占契約などがあり、特に大企業×スタートアップでオープンイノベーションを進める場合、スタートアップに不利益が生じることも少なからずあるという。中村によれば、そうした事態を未然に防ぐための「フェアネスを意識した契約書」だ。福井氏は「契約書は、レピュテーションリスクを下げるなど大企業側にとっても有益」と付け加えた。


実現したい未来への思いの強さが、成否の鍵を握る

次に「ランキング上位の秘訣。どうやって世の中から評価を受けるようになったのか」をディスカッションテーマにした。武居氏は「東急は過去最高の6位にランクインしたが、まだまだ不十分」と前置きした上で、「上位10社に入っている企業は、いずれも長期にわたりオープンイノベーションを続けている。その点が評価されているのではないか」と分析した。継続できている背景には、トップから現場まで理解があるはずと推測する。


▲有望スタートアップ企業が選ぶ「イノベーティブ大企業ランキング2022」 (画像出典:ニュースリリース

続けて、成長や目的達成のためにオープンイノベーションを適切に活用し、組織に定着させる方法についてディスカッションした。笹原氏は、協業のコツや成果をメルマガにまとめ、社内に発信していることを紹介。さらに今後は「社外にも発信し、組織がオープンであることを伝えたい」と意気込んだ。坂田氏は社内のオープンイノベーションを担当する立場として、マーケットの動向や自社の強みを理解して価値を提供することが重要との見解を示した。その上で、「自分たちのチームと一緒に働くことが、楽しいと感じてもらわないことには社内に浸透させるのは困難」と述べた。

最後に、視聴者から寄せられた「苦労した点と、そこから得た学びは何か」という質問に答える形で、それぞれがメッセージを送った。笹原氏は、共創の提案が社内で1回では通らなかった事例を取り上げ、「実現したいという強い思いを持ち、根気強く続けるのが大切。ぜひ挑戦を続けてほしい」とエールを送った。

坂田氏は「スタート地点とゴール地点を明確にすること。ゴールは変化するものだから、ステークホルダーと対話しながら常に目線を合わせておくことが欠かせない」と紹介。

武居氏は「お互いの実現したいことを一致させないと、細かな点でもめ事が起こる。何をやりたいか互いに理解し、その上で歩みを進めることが大事」と共創のコツを解説した。

中村は「何をやりたいか、どんな未来を描くか、何に人生をかけたいかに尽きる。実現したいことにオープンイノベーションが有効なら積極的な活用をお勧めする。簡単にいかないことは多く大変なことばかりだからこそ、思いを持つことが欠かせない」と熱く述べ、ディスカッションを締めくくった。

取材後記

トップランナーたちが触れていた内容から、事業共創・オープンイノベーションの現在地というべきものがよく伝わってきた。ここ数年で耳にする機会は増え、地方にまですそ野は広まっているものの、日本には十分に浸透しているとは言えず、「黎明期」の段階との見方もできる。一方で、昔から行っていた側面もあるとの指摘も印象に残る。そう考えれば、日本は事業共創・オープンイノベーションのポテンシャルが十分に高いのではないか。現在はノウハウも蓄積され、少しずつ実例も増えてきている。数年後はわざわざ事業共創・オープンイノベーションと言わずとも、当たり前に行われている状態になっているかもしれない。そうなることを期待したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士)

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  • 根崎優樹

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  • 増山邦夫

    増山邦夫

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