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シリアルアントレプレナーが創るビジネスの設計図。「DUO」開発秘話に迫る

シリアルアントレプレナーが創るビジネスの設計図。「DUO」開発秘話に迫る

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今やコスメ業界では常識の「OEM」や「ネット販売」に10年以上前から注力して成長を果たしたプレミアアンチエイジング社。看板商品のDUO(デュオ)「ザ クレンジングバーム」をはじめ、次々にヒット商品を打ち出している。今回、シリーズ企画「トップの視点」では代表取締役社長・松浦清氏に、その経営ノウハウを聞いていく。

オイルやジェルが主流のクレンジングの中で、松浦氏が選んだのは当時、世に知られていなかった「バーム」タイプ。その後、コスメ業界では異例の男性タレントを活用したCMで、それまでほとんど認知されていなかったクレンジングバームを一躍有名にした。その勢いはコロナ禍でも衰えず、2021年9月にはバームシリーズの累計出荷個数が3000万個を突破。業界が大きなダメージを負ったにもかかわらず、会社の成長は止まらない。

過去にも起業・売却経験もある松浦氏は、なぜ知名度の低いクレンジングバームを商材に選んだのか、レッドオーシャンのコスメ業界でどのようにブランドを確立してきたのか。大ヒットの裏に隠された、スタートアップならではの戦略のエッセンスをお届けする。

不景気にみた「ネット販売」の可能性。3度目の起業はコスメで勝負

まずは起業に興味をもったきっかけから聞かせてください。

松浦氏 : 私の家は事業家の家系で、祖父も父も事業をしていたため、自然と自分も起業をするのが当たり前だと思って育ってきました。大学時代には自ら会社を興しましたし、プレミアアンチエイジング社の前には自分で作った会社を2社売却しています。

今の会社を立ち上げるきっかけになったのはリーマンショックです。その前に会社を売却していた私は、次のビジネスチャンスを探すため、世界的なテレビ通販会社「QVCジャパン」に入社しました。

そこで見たのは、世の不景気が嘘だと思えるほどの活況ぶり。当時は百貨店などが苦戦を強いられていたにもかかわらず、テレビ通販では飛ぶように商品が売れていたのです。「不景気ですべての業態がシュリンクしているわけではなく、販売チャネルがシフトしているだけ」そう思った私は、通販のマーケットに魅力を感じてプレミアアンチエイジングの立ち上げに踏み込みました。

なぜ「コスメ」で起業しようと思ったのでしょうか。

松浦氏 : 一つは「リピートされる商材」であること。もう一つの理由は「アンチエイジング」です。創業した2009年当時はアンチエイジングという言葉が生まれたころで、当時40歳を迎えた私も加齢を気にし始めていました。これからアンチエイジング市場は大きくなるだろうと思い、社名にもそのワードを入れたのです。

将来的にはアンチエイジングに関わる様々な商材を提供する予定ですが、最初にコスメを選んだのは参入障壁が低いから。まずはコスメで勝負して、他の商材にも広げていこうと思ったのです。

コスメの中でも「クレンジングバーム」は当時ほとんど知られていなかったと思います。なぜそのような商材を選んだのですか?

松浦氏 : 仰るとおり、当時は「クレンジングバーム」というのはほとんど世に知られていませんでした。だからこそ取り上げたのです。

世の中にはマーケットに知られていないだけのいい商品はたくさんあります。それらの商品が知られていないのは、マーケティングがうまくいっていないだけ。マーケティングのプロである私が手掛ければ手がければ売れると思ったのです。


▲主力商品「DUO」

また、一緒に会社を立ち上げた開発担当者が、クレンジングバームを「面白い」と評価したのも大きな理由です。私が起業する時に一番大事にしているのが「マーケット・イン」的な考え方。消費者の声を取り入れるには、消費者に一番近くで活動している人を巻き込もうと、まっさきに美容家を開発担当者として採用したのです。

そんな彼女が「面白い」というなら、世の女性たちにも響くはず。確固たる自信はなかったものの、まだ知られていない商品を世に広めるのは面白いと思いました。

知られていない商品もヒットさせる「ブランドの磨き方」

レッドオーシャンのコスメ業界で、どのような成長戦略を描いていたのか聞かせてください。

松浦氏 : 戦略を考える上で、最も大事にしていたのが「ブランド」です。私がアメリカで経営戦略を学んでいた時、市場での優位性を築く方法は3つあると言われました。それが「規模性」「パテント(特許)」そして「ブランド」です。

新規参入の私たちは規模やパテントで戦えるわけもなく、残るはブランドのみ。幸いにも私の実家は宝石商を営んでおり「ブランドの磨き方」を小さいころから見て育ちました。

過去に立ち上げた2社でもブランドビジネスを手掛けていたため、そこで培ったノウハウを活かしたのです。

また、当時のネット通販業界で、ブランドを意識してビジネスを展開していた企業はほとんどありませんでした。定期的にキャンペーンを開催して値引きしている会社が目立っていたので、自分が得意としてきた戦略で差別化できると思ったのです。

「ブランドを磨く」とは具体的に何をするのでしょうか?

松浦氏 : ブランドは様々な要素で構成されていますが、最も大事なのは「コンセプト」です。私は最初にコンセプトを定め「やるべきこと」「やらないこと」をはっきり決めました。だからこそニッチな商品が、しっかりターゲットに刺さったのです。

事業が軌道に乗ってからコンセプトを決める会社が多いのですが、一度ついたイメージを覆すのは容易ではありません。ブランドで勝負するなら、最初からコンセプトを固めるのが何より重要だと思います。

ブランドを確立していく上で、特にこだわったことがあれば教えてください。

松浦氏 : ブランドの「ロゴ」には特にこだわりました。こんな小さな規模の会社ですが「DUO」のロゴはこれまで2度作り直しています。最初は資金に余裕がなかったので低予算からスタートし、事業が少し軌道に乗ってきた時に作り直すことに。事業が本格的に軌道に乗ったころには予算を組んだうえでロゴをリニューアルしました。


▲「DUO」のロゴの変遷

なぜそこまでロゴにこだわったのでしょうか?

松浦氏 : 実家が宝石商のほかにアパレル業もしており、ブランドロゴに囲まれて育ったので、ロゴの重要性を身に沁みて感じていたからです。「目にした瞬間に、すぐにブランドが想起される」そんな印象に残るロゴが作れれば、それだけ市場に浸透しやすくなります。

ブランドビジネスをしていく上で、ロゴは強力な武器になるのです。

弱者ならではの「異例のCM」に隠された狙いとは?

コスメ業界では珍しい「男性タレントを起用したCM」が話題になっていますね。その意図を教えてください。

松浦氏 : CMは私たちにとって大きなチャレンジだったので、インパクトのある作品にしたかったのです。私たちがCMを打ったのは創業から8年目、売上が50億円に達したばかりのころ。最近はベンチャー企業もCMを打っていますが、当時はそのような売上規模でCMを打つことはありえませんでした。

失敗できないチャレンジだったため、5社くらいでコンペも行い様々な作品を提案してもらいました。中には感動する素敵な提案もあったのですが「素敵なCMなら、私たちではなく大企業がやるべき」と思ったのです。私たちのような弱者は「コスメらしさ」よりも、とにかく名前を覚えてもらわなければなりません。

逆に言えば、デジタルマーケティングに強い私たちは、名前を覚えてもらい検索さえしてもらえればいいのです。そのため「お肌の調子はDUOですか(どうですか)?」という「DUO訛り」で商品名を連呼し、とにかく名前を覚えてもらうことに特化しました。

CMの反響はいかがでしたか?

松浦氏 : おかげさまで「CM好感度ランキング」で一位にもなり、そのおかげで売上は大きく伸びました。大手の化粧品会社にとっては、名前も知らない会社が突然出てきたので驚いたと思います。

おかげで知名度は上がったのですが、一方でそれまでのような「弱者の戦略」もしにくくなりました。上場したことで、さらに知名度が上がったので少し後悔しています(笑)

コロナ禍で業界が大ダメージを受ける中でも成長を続けていますよね。その要因をどのように考えているか教えてください。

松浦氏 : コロナ禍でも成長しているのは、正直「運」によるところが大きいと思います。コロナ禍になるのは私も予想できませんでしたし、その中で対策をしてきたとは言え、売上を拡大できたのは完全に予想外です。


▲コロナ禍でも順調に売上を拡大している

しかし、ネット販売の市場は大きく伸びているので、その勢いは多少の逆風では止められません。創業する時にデジタルにこだわったのも、多少の逆風でも成長できると思ったから。それが今になって実感できています。

オンラインで事業を展開してきて、逆風を感じることはなかったでしょうか。

松浦氏 : その時々で決断を迫られてはきましたが、総じて順調だったとは思います。例えば私が創業した時はスマホもなく、ネット販売の売上は「1ブランド20億円が限界」と言われていました。事業が成長し、売上が20億円に近づくにつれ「他のチャネルを考えないとな」と思っている時にスマホが現れ、ゲームのルールが根底からひっくり返ったのです。

その直前に契約していた「インフォマーシャル」の枠もすべてキャンセルし、まだ海のものとも山のものともわからないスマホ市場に全てを賭けました。そのように難しい決断を迫られたことは何度かありましたが、どうにか成長を続けてこられました。

アンチエイジング商品で「その人らしい生き方」を支えていく

DUOに続いて「CANADEL(カナデル)」など続々とブランドを生み出していますね。プレミアアンチエイジング社ならではの強みがあれば教えてください。

松浦氏 : 私たちの特徴は「ラボを持たない」こと。開発はすべてパートナー企業にOEMで任せています。なぜラボを作らないかというと、自分たちで技術研究をすると、商品開発の際に技術にこだわってしまうからです。

「せっかく新しい技術を開発したのだから、この技術を使って商品を作ろう」とした結果、マーケットに求められない商品を生み出してしまいます。

そのため、私たちの会社の商品企画開発部の仕事は「マーケットが何を求めている考え」「それを実現できるパートナー企業を目利きすること」です。徹底したマーケットイン思考での商品開発が私たちの強みだと思います。

これからの事業戦略についても教えてもらえますか?

松浦氏 : 基本的にはこれまでやってきたことと変わりません。マーケットが求めている商品を作り、それをマーケティングの力で広めていく。その繰り返しです。ただし、今後は化粧品だけでなくアンチエイジングに関わるもの、例えばサプリや健康食品など商品カテゴリーは増やしていくつもりです。

それだけ広い範囲で事業を興すのは、私たちだけでは容易ではありません。そのため、今後はオープンイノベーションも積極的に活用していきたいと思っています。上場したのもそれが狙いで、会社として信頼してもらうことで共創を加速するためです。

既に子会社であるプレミア・ウェルネスサイエンスが東京大学や昭和大学と組んでいるので(※)、今後はさらにパートナーを増やしていきたいですね。

最後に松浦さん自身のビジョンを聞かせてください。

松浦氏 : 私が作りたいのは「誰もがその人らしく生きられる社会」です。今は「人生百年時代」と言われ、これまでになく長い人生を生きることになります。寿命が長くなると、大事になるのは健康寿命。どんなに長生きでも、そのほとんどをベッドで過ごしていたらあまり嬉しくないですよね。

いくら年を重ねてもアクティブに生きられる社会をつくりたいんです。平均寿命が100歳になったら60歳だってまだ中年ですよね。還暦を迎えてから起業したり、新しいチャレンジをしたっていい。そのためには健康な心と体が欠かせません。私たちの商品やサービスによって、そんな社会づくりをサポートするのが私の目標です。

※関連資料:プレスリリース

東京大学とプレミア・ウェルネスサイエンスが間葉系幹細胞培養上清液を用いた共同研究を開始

昭和大学とプレミア・ウェルネスサイエンスが カンナビノイドを用いた共同研究および事業化に向けた包括連携を開始

(取材・文:鈴木光平)

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  • 奥田文祥

    奥田文祥

    • 神戸おくだ社労士事務所
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  • 上床肇

    上床肇

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オープンイノベーションを成功させるための要素の1つに、「経営トップによる発信・文化醸成」が挙げられる。しかし、難しさを感じている企業も多いのではないだろうか。「なかなかトップの理解を得られない」という声や、逆に「社員にトップの熱量が伝わらない」という悩みもよく聞こえてくる。実際に、オープンイノベーションや新規事業に取り組み、全社で推進している経営者たちは、どのようなことを考え、どんな工夫をしているのだろうか。「トップの視点」シリーズでは、そこを紐解いていく。