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ソラコムとの共創事例から紐解くオープンイノベーションの有用性――オープンイノベーションという手法が必要なワケ

ソラコムとの共創事例から紐解くオープンイノベーションの有用性――オープンイノベーションという手法が必要なワケ

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国内のオープンイノベーション先進企業に迫るインタビュー企画『大企業オープンイノベーションの実態』。今回ご登場いただくのは、経済産業省らが運営するスタートアップから見た「イノベーティブ大企業ランキング()」において4年連続首位に立ち、他の追随を許さない王者 KDDI株式会社だ。

同社の代表的なオープンイノベーション活動は2つ。1つ目は「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」という事業共創プラットフォームで、パートナー連合と呼ばれる約60社の大企業群とスタートアップを連携させ、新規事業の創出を目指している。2つ目が、「KDDI Open Innovation Fund」というCVC。すでに109社に出資をしているという(2022年3月23日現在)。

こうした活動において、約10年もの実績を持つKDDIだが、オープンイノベーションに注力する背景には、どのようなカルチャーや考え方があるのか。これまでの活動を通じて得られた成果は。KDDIが次に見据える世界とは。――本記事では、2017年にグループ会社化し、2021年に新たなプロダクトを共同リリースした、株式会社ソラコムとの共創事例に焦点をあてながら、オープンイノベーションを成功させるためのヒントを探る。


▲KDDI株式会社 事業創造本部 ビジネスインキュベーション推進部 オープンイノベーション推進グループ エキスパート 清水一仁 氏

2007年、KDDI株式会社に新卒入社。Google社との検索エンジン事業を担当。2011年、北米サンフランシスコ拠点立ち上げのため赴任。北米スタートアップへの出資と日本進出支援を担う。2018年に帰国し、「KDDI ∞ Labo」のリーダーとして、国内大企業とスタートアップの事業共創プログラムをリード。



▲KDDI株式会社 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部 IoT世界基盤企画グループ グループリーダー 中島康人氏

2006年、KDDI株式会社に新卒入社。コンシューマ向けの営業を担当。2010年、海外法人である KDDI Singapore(シンガポール)へと出向し、法人営業を担う。その後、KDDI Indonesia(インドネシア)、KDDI Thailand(タイ)での法人営業、商品企画をへて、2021年4月に帰国。現在は、サービス企画開発本部にて全世界の法人顧客に対するIoTの課題解決・支援に携わる。

KDDIに根づく「新しいものは 内側から生まれない」という発想

――KDDIさんは10年前からオープンイノベーションに取り組んでおられ、この領域の先駆者として定評があります。どのような考え方で、オープンイノベーションを進めておられるのでしょうか。

清水氏: 当社の場合、オープンイノベーションというもの自体が、私たちの部門だけのものではなく、全社的なものとして位置づけられています。社長も含めた全従業員の考え方として、基本的には「新しいものは内側から生まれない」という発想なのです。

会社の内側にあるアセットだけでは新しい価値は生まれないので、何を進めるにしても外部の知見やリソースを組み合わせて、私たちの通信というインフラに載せ、一緒に大きくしていきましょうというのが私たちの根本的な発想です。

ですから、「オープンイノベーションに取り組まなければならない」という認識ではなく、それが当たり前になっています。一緒に取り組むパートナーがベンチャー企業の場合もありますし、JR東日本さんのような大企業の場合もあります。

こうした全体像がある中で、私たちのチームが推進している「KDDI ∞ Labo」や「KDDI Open Innovation Fund」は、とくにベンチャー企業との関わりを通じて、新しいテクノロジーや新しいビジネスモデルを探索することが役割となっています。

――「新しいものは 内側から生まれない」という発想が根づいていった背景を、清水さんはどのように捉えておられますか。

清水氏: 外部との共創で新しいものを生み出すという発想は、「KDDI ∞ Labo」を立ち上げた2011年に、突然はじまったものではありません。1984年に稲盛さん(稲盛和夫氏)がDDI(第二電電)という会社を立ち上げたときから続いています。

というのも、KDDIという会社は60社弱の会社が合併を繰り返してできた会社です。2000年にDDIとKDD(国際電信電話)が大型の合併を行い、現在のKDDIが誕生しましたが、こうした背景から様々なカルチャーが混在しています。色々な出自の人たちがいる中、さらに外部から新しいものを取り入れ、時代に合わせた新規事業を立ち上げてきました。

また、成功体験もありました。2006年に創業間もないグリー株式会社に出資を行った数年後、ソーシャルゲームという一大エコシステムを共に築き上げることに発展し、同社上場後のキャピタルゲインと協業の両面で大きなリターンがあったのです。こうした会社の沿革や経験知の積み重ねが、今の考え方を形成しているのではないかと思います。

――なるほど。現在、事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo」と「KDDI Open Innovation Fund」の2軸で活動されています。それぞれ印象に残っている事例をお伺いしたいです。

清水氏: まず、「KDDI ∞ Labo」の事例に関してですが、21年度の新たな取り組みとして「∞の翼 (ムゲンノツバサ) 」という事業共創プログラムを開始しました。これは、「KDDI ∞ Labo」に参画する約60社のパートナー企業(大企業)に、課題や新たに取り組みたいテーマを開示していただき、それに対してスタートアップからの提案を募るというものです。さまざまなプロセスを経ながら1社の共創パートナーを決め、新規事業を創出します。

この取り組みから生まれた事例が、21年1月にリリースされた大日本印刷さんとGaudiyさんの業務提携です。アニメやマンガの権利元と非常に深いつながりをお持ちの大日本印刷さんと、デジタル技術を用いてファンエコノミーの構築を目指しておられるGaudiyさんが共創で、一部のファンコミュニティに対して特別なNFTを発行するといった事業を立ち上げようとされています。


▲2022年1月、大日本印刷とGaudiyは、ブロックチェーンを活用したコンテンツビジネスで業務提携を発表。KDDIが仲介したことで実現した。(プレスリリース

――CVCファンドでは、どのような事例が印象的ですか。

清水氏: CVCの事例に関しては、現在、当社のEコマース事業を一手に担っているauコマース&ライフというグループ会社がありますが、この前身はルクサというベンチャー企業です。ビジョナル(旧・ビズリーチ)さんの中の1事業からスピンアウトした会社で、当社のCVCからマイナー出資をしたところから事業を拡大し、追加でKDDI本体からも出資を行い、最終的にM&Aもさせていただきました。

その後、DeNAさんのショッピング事業と合併をして、auコマース&ライフという形になり、au PAY マーケットというKDDIを支える事業に仕上がっています。CVCのマイナー出資から始まり、KDDIの事業の柱になるまで成長した成功事例ですから、印象に残っていますね。こうした事例を2つ目、3つ目と生んでいきたいというのが、私たちのチームの想いです。

ソラコム社との共創――M&Aを契機にスケールアップ、そしてスイングバイIPOへ

――続いて、IoTプラットフォームを開発・提供されているソラコム社との共創事例についてお聞きします。どのような背景から協業に至ったのでしょうか。

中島氏: ソラコムさんとのおつきあいが始まったのは2016年頃だと聞いています。KDDIも国内では先行してIoT通信サービスを展開していましたが、その頃はホームセキュリティやガスメーターなど、大きな規模の企業さま向けに重厚長大なサービスを提供していました。

一方で、ソラコムさんは「IoTテクノロジーの民主化」を掲げておられ、新しいサービスをたくさんの人に使ってもらいたいというコンセプト。私たちとはアプローチ方法が異なりましたし、当社にはないものだったので、一緒に組めないかということで協業がスタートしました。

――翌年の2017年には、グループ化(M&A)をされました。双方、大胆でスピード感のある決断だったと感じますが、どのような背景があったのですか。

清水氏: ソラコム代表の玉川さんは「世界で戦える、グローバルのIoTプラットフォームになりたい」と当初から言っておられました。それを可能な限り短期間で達成する方法を考えたとき、IPOを積み上げていくよりも、KDDIの世界中にある拠点やネットワークを活用したほうが速いだろうということで、合理的にM&Aに踏み切ったとおっしゃっていました。また、当社代表の髙橋(髙橋誠氏)も、玉川さんに直接会って話を聞き、ビジョンが合致したことから、CVC出資をへることなく最初からM&Aを決断したと聞いています。

――トップのコミットがあったわけですね。やはりこうした活動に、トップのコミットは重要ですか。

清水氏: 重要だと思いますね。現代表の髙橋はDDI発足時の第一期生なんです。DDIというベンチャー企業に入社したところから、キャリアをスタートしているんですね。ベンチャー企業から今のKDDIという大きな会社へと発展していくプロセスをすべて見ています。そうした経験がある方が社長だとオープンイノベーションは進めやすいですね。

――2017年のM&Aの後、2021年6月に「グローバルIoTアクセス」という新サービスを共同でリリースされましたね。

中島氏: 協業開始後は、ソラコムさんのサービスをKDDIのau網につなぐという取り組みを進めてきました。それはそれでよかったのですが、「一緒に何か事業をつくろう」という話になり、ソラコムさんが海外展開を狙っておられたことから、双方の強みを活かして「グローバルIoTアクセス」を開発することになりました。


▲「グローバルIoTアクセス」は、KDDIの保有するグローバル通信サービスと、ソラコムの回線管理プラットフォームを掛け合わせて開発した新サービス。(画像出典:KDDI Webサイト「IoT世界基盤 グローバルIoTアクセスとは」

――共創で生まれた「グローバルIoTアクセス」は、双方のどのような強みを活かしたサービスなのでしょうか。

中島氏: KDDIの強みというのが、海外の通信会社とこれまで培ってきたリレーションです。具体的にはauのローミング契約をしているのですが、相当な数の契約を保有しています。海外200か国以上で使え、料金の安さやエリアの広さが私たちの持つ強みとなっています。一方でソラコムさんは、SIMを管理するプラットフォームをお持ちです。これらの双方の強みを活かし、安くてどこでも使えて、便利で簡単な、法人向けグローバルSIMを開発したのです。

サービスのグローバル展開を図る場合、大きく分けて2つのアプローチ方法があります。ある程度、統一した仕様を全世界共通で展開する方法と、各国のレギュレーションや商習慣にローカライズする方法です。グローバルIoTアクセスに関しては、前者の全世界共通に該当します。ですから、一元管理しやすいことも特長ですね。

――実際、どのようなクライアントに導入されているのですか。

中島氏: グローバルに展開する設備メーカーさんが多いですね。日本から世界中に設置している設備を監視したり、安全を管理したりといった用途で使われています。


――ソラコム社と共創したからこそ得られた、KDDIさんのメリットは?

中島氏: ソラコムさんと共創したサービスは、幅広い産業で使っていただけるものです。したがって、これまでKDDIが接点を持ちづらかった顧客に対してもアプローチできるようになったことが、私たちにとってのメリットだったと感じています。

――ソラコム社からすると、世界展開を強化する狙いを持ったグループジョインでした。実際にその成果は現れはじめているのでしょうか。

清水氏: ソラコムさんの契約数は、M&Aの後、約10倍になったと聞いています。2017年のM&Aの際、ソラコムさんはまだ創業2年でした。そこから数年で10倍ですから、普通では考えられないスピードだと思います。さらに次のステップとして現在、ソラコムさんはスイングバイIPO(※)を目指しておられます。KDDIがソラコムさんのグローバルIPOも支援しているので、非常におもしろい関係性を構築できていると思いますね。

※スイングバイIPO:大手企業の傘下で成長した後にIPOを目指す新しい成長モデル

KDDIが考える、オープンイノベーションを成功に導く秘訣と有用性

――共創を進めるうえで、直面した壁などはありましたか。

中島氏: 「あまりなかった」というのが正直なところです。これまでも、海外支店で外部企業と組んで共同提案をするケースが多かったですし、それが普通のことだと思ってやってきました。ソラコムさんに関しては、当社の本部長が社外取締役を務めていることもあり、情報も頻繁に共有されていましたし、とくに大きな壁もなく進めやすかったですね。

――オープンイノベーションを成功に導くためのコツは、どのような点にあるとお考えですか。

中島氏: 大企業の都合を押しつけない方がいいと思います。こちらの都合を押しつけすぎると、スタートアップの持つスピードなどのよさが消えてしまいます。例えば、何かを通す場合に書類が束のように必要だったりもするのですが、そういったものはスキップをするようにしています。

――清水さんからも、オープンイノベーションを成功に導く秘訣をお聞きしたいです。

清水氏: 突き詰めると、オープンイノベーションのあるべき姿は、M&Aだと思うんですね。そのきっかけとして、KDDI ∞ LaboやCVCを設けてはいますが、最初からM&Aができるのであれば、そうするべきだと思っています。M&Aをすることで、経営層のコミットが大きく変わりますから。

ただ、日本ではM&Aに対してネガティブな印象を持つ人も多いです。ベンチャーから見ると身売りというイメージがありますし、大企業から見ても取り込んでしまうようなイメージがあるのは事実でしょう。しかし、KDDIの発想はまったく逆。私たちはベンチャーの皆さんと、徹底して対等な関係で取り組んでいます。自分たちのアセットを惜しみなく提供して、大きくなって世界で戦ってほしい。そういった方針を貫いているのです。

――素晴らしいですね!M&A以外では、どのようなポイントを押さえておくべきですか。

清水氏: 大きな市場を狙っていくことも重要だと思います。どうしてもオープンイノベーションは、実証実験だけで小さく終わってしまうケースが多いです。もちろん、実証実験からスタートすることが、大きくしていくうえでの第1ステップではあるのですが、社内にそういう認識を持たれ続けると、いつまでたっても進みません。ですから、最初から大きな市場を狙ってビッグピクチャ―を描き、経営層や他の事業部も巻き込んでおく。そういった点を意識することも重要です。

こうした考えのもと、私たちは昨年末、スタートアップとKDDIのボードメンバーを直接引き合わせる会合を開きました。出資先のスタートアップ約10社の経営者と、当社の社長を含む経営陣を8名ほど呼んで、双方からプレゼンを行ったのです。そうすると、人間関係が構築されるんですよね。お互いに「何かやりましょう」という空気になります。わずか1時間の会合でしたが、これだけで色々なプロジェクトが一気に進みました。

――オープンイノベーションの「有用性」は、どういったところにありそうですか。

清水氏: 双方にとって、片方だけでは成しえなかったことを実現できることだと思います。一昨年、投資先であるクラスターさんと渋谷区の自治体の皆さんと一緒に「バーチャル渋谷」というものを立ち上げました。もともと、スクランブル交差点にたくさんの観光客が来てくれるものの、お金を使ってくれないという渋谷区の課題が発端でした。しかしそれが、コロナ禍で消費どころか誰も来なくなってしまった。そこで、街全体をメタバースに移植して「リアルの渋谷体験をデジタルで拡張したらどうか」という、元々いくつかあったアイデアの内の一つを一気に優先し、3者共創による「バーチャル渋谷」を構築しました。これは1者単独では絶対成しえなかったことです。

また、アイデアが出てから「バーチャル渋谷」の構築までにかかった期間はわずか1カ月。これだけのスピードで実装できた理由は、渋谷区さんの課題があり、クラスターさんの技術があり、さらにそれをお客さまに届けるKDDIのリソースがあったから。つまり、この3者がそろったからこそ、これだけの短期間で実現できたのだと思います。


▲コロナ禍中の2020年5月にオープンした「バーチャル渋谷」。同10月に開催された「ハロウィーンフェス」には、全世界から約40万人が参加し大きな話題となった。(プレスリリース

オープンイノベーション第二章――日本にM&Aという選択肢を増やす

――最後に、今後の構想についてお聞きしたいです。

清水氏: 日本において起業家を支援する環境は整ってきたと思います。当社でも10年間にわたって取り組んできましたし、他社でもCVCを組成する動きやアクセラレータープログラムを行う企業が増えています。一方で、日本からユニコーンが生まれているかというと、世界で1000社程度のユニコーンが誕生しているのに対して、日本では10社あるかないかです。ですから、私たちができることは、まだたくさん残っているはずです。

――ユニコーン輩出に向けた、さらなる支援体制の強化を行っていくと。

清水氏: はい。それと、スタートアップのイグジットに関してですが、日本だとスタートアップの大部分がIPOを目指しています。しかし海外に目を向けると、9割がM&Aです。IPOは目立ちますが、その裏でほとんどのスタートアップが大企業とのM&Aでイグジットをしているのです。こうした点を踏まえての私たちのメッセージですが、起業家に対しては、IPOだけではなくM&Aも重要な選択肢であることを知ってもらいたい。一方で大企業に対しては、「もっとM&Aをしましょう」ということを訴えていきたいと考えています。

これこそが次の10年で私たちが取り組むべき、オープンイノベーション第二章。ですから今後、もちろんシード・アーリーの投資は継続するのですが、レイタ―の非上場企業への投資や協業、場合によってはM&Aも積極的に行っていく考えです。こうした点から、日本経済を引っ張っていく存在になりたいですね。


取材後記

KDDIが見据えるオープンイノベーション第二章。それは、これまで日本で普及してこなかったM&Aの事例を増やし、より豊かなエコシステムを育むこと。オープンイノベーションの一つの手段としてM&Aを積極的に活用することにより、新しい価値を次々と生み出していくだろう。オープンイノベーションを取り入れながら、日本経済の牽引役として存在感を増していくKDDIの今後に注目していきたい。

なお、KDDI ∞ Laboは、「スタートアップス-日本を再生させる答えがここにある-」を発刊。過去10年で日本経済に影響を与えたスタートアップの経営者8名へのインタビューや、全国のベンチャーキャピタルが推薦する、次の10年を担うESG関連スタートアップ92社をまとめている。今回の取材とリンクしている内容になっており、気になる方はぜひ手に取っていただきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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  • 田上 知美

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