【特集インタビュー】M&Aという手法でオープンイノベーションを成功に導くマイネット。新たな市場を創造し、文化の異なる企業を融合する手法とは。<後編>
M&Aという手法を積極的に用いながらオープンイノベーションを推進するマイネット。スマートフォンゲームタイトル・事業を買収し、ゲームのサービス運営を行って急成長を遂げている。その成長ぶりは有限責任監査法人トーマツの「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 日本テクノロジー Fast50」で第8位(成長率は270.21%)にランクインするほどだ。15年12月にはマザーズ上場を果たし、いわゆるゲームサービス事業の会社の上場という点でも注目された。今回は、代表の上原氏に加え、投資戦略室でM&Aを担当する執行役員の久保氏をお招きし、インタビューを実施。
前回は同社の戦略やM&Aの具体的事例をお伺いしたが、今回はM&Aを実施後、特に他社人材とのチーム融合に関するノウハウや、オープンイノベーションを成功させるために大切にしていることを語ってもらった。
株式会社マイネット/株式会社C&Mゲームス 代表取締役社長 上原 仁(Jin Uehara)
1974年生。小学校5年生の時に松下幸之助の著書に出会う。感銘を受け、起業を志す。神戸大学経営学部卒業後、1998年NTTに入社し、同社のインターネット事業開発に従事。2006年7月株式会社マイネット・ジャパン(現マイネット)を創業し同社代表に就任。
執行役員 投資戦略室長 久保 宗大(Munehiro Kubo)
1987年生。金沢大学経済学部、青山学院大学会計大学院卒。 在学中に日本公認会計士試験合格。卒業後大手外資系コンサルティングファームにて金融機関・製薬会社等への事業戦略策定、業務改革、組織再編、PMI、システム開発プロジェクトに従事。その後ITベンチャー、コンサルティング企業等の立ち上げを経験。2015年6月よりマイネットに参画。
■人に関することは、“アート”。
同社は、タイトルの買収にあたり、およそ4回に1回は開発チームごとの買収を行っているという。また、クルーズ株式会社のゲーム事業の買収ではゲーム事業のメンバーが合流した。背景の異なる人たちとどのように融合を図っているのだろうか。
――他社人材の合流は、非常にセンシティブで難しいと思います。どのように対応していったのですか。
久保:M&Aを実行する際には、合流される従業員の方々への対応が最も注意が必要となります。当然、多くの方々の生活に変化を与えることですし、合流後はグループ内で長くご活躍いただけるために、毎回必死で準備と対応に当たっています。また、最初は足りないことも多く大変でしたが、今は3カ月に1回くらいの頻度でチームが合流しており、社内もチームを受け入れることに慣れてきました。気持ちよくご活躍いただくための知見も溜まってきています。
上原:まずは同じ価値観を持つことです。企業文化もゲームタイトルも何も関係なく、一貫している価値を見出して伝えていきます。ゲーム運営をする段階になった時は、本質は同じです。それはつまり「ユーザーさんのほうを向いて仕事をする」ということです。この言葉には、ゲームに関わっているすべての人が納得できます。
――確かに、本質をついている言葉だと思います。
上原:一方で、文化統合は時間をかけます。枝葉末節なことかもしれませんが、勤怠管理や大事にしている言葉などは、時間をかけています。人に関わる部分は“アート”だと考えています。本質に関わる部分は再現性もありますが、人についてはありませんので、その都度、正しいことを行います。先ほど、買収はすべて数値に基づいているとお話しましたが、人に関することは本当にアートです。
■「100年続く企業」を目指す。
――マイネットは自然な流れでオープンイノベーションの一つの形態であるM&Aに行きつき、成功させています。オープンイノベーションを実施するに当たり、大切なのはどんなこととお考えでしょうか。
上原:誠実に、ということが絶対に大事です。当社が買収を行う時は、こちらだけ儲けてやろう、という気持ちはほんの少しもないんですね。何が正しいかを考え、理にかなってるかどうかを重視します。奪い合いをするつもりはありません。共存共栄を図ります。偉そうにするのも、もちろんだめです。同じ目線でいるか、それより下でもいいくらいです。クルーズさんについては、新しい会社をみんなと一緒に作るんだ、という思いでいます。彼らはこの5年ではゲーム事業について当社より多くの実績を出しています。そのことについてもちろん敬意は払っており、そういった気持ちは率直に言葉にしてお伝えしています。
――独り勝ちを目指さない、ということですね。では、最後に次の展開、視野に入れていることを教えてください。
上原:しばらくは、現在のゲームサービス事業に注力していきます。当社のビジネスが伸びるのはメーカーから2年遅れで、それがまさに今なのです。18年まではますますの急成長を目指していく方針です。その先は安定成長に入っていきますので、「100年成長する会社」を実現させるために、メガベンチャーになることを目指します。新規事業としては、IoTやAIなどを取り入れ、ゲームサービスに続く領域No.1の成長事業を創造することになるでしょう。
ただ実は、当社は設立当初から、人と人を結びつける会社を志してきました。同時に人のキャリア、社員のキャリアを大事にしようという思いがあるんです。戦略ありきより組織ありき人ありきで会社運営を行っています。その根底にある志と思いは、変わらずに持ち続けます。
■取材を通して得られた、オープンイノベーションの2つのノウハウ
(1)共存共栄を図る
同社の経営判断はすべて数値に基づくと話していた。しかし、その数値は決して「一人勝ち」を目指したものではない。あくまで、取引相手との共存共栄が図れることが前提となっている。その視点に立っているから、買収がソリューションということにもなる。そして、イノベーションにつながっていく。
(2)時間をかけるべきところはかける
スピーディーに事業展開をする同社だが、人の融合はアートであり、時間をかけると言った。当たり前のことだが、人の感情は簡単にコントロールできるものではないし、すべきでもない。焦る気持ちをおさえ、人に関することは時間をかけたほうが良い結果を導き出せるように思う。
(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:佐々木智雅)