【特集インタビュー/ユーグレナ取締役・永田氏】国内有数の大企業が出資するユーグレナ。資金調達を成功に導くノウハウとは。
ミドリムシを原料に、食品からバイオ燃料まで、様々な商品の開発に取り組むユーグレナ。その事業内容はもちろん、日本の大学発ベンチャーとして初めて東証一部上場を実現したことでも注目を集めている。驚くのは、2012年の上場前から伊藤忠商事、新日本石油(現・JX日鉱日石エネルギー)、日立プラントテクノロジー(現・日立製作所)、清水建設、電通、東京センチュリーリース(現・東京センチュリー)、全日本空輸(現・ANAホールディングス)といった日本を代表する大企業が出資者として名を連ねていたことだ。ユーグレナはどのようにして、大企業との提携を実現したのか。大企業とベンチャーによるオープンイノベーションを成功させるには、何が必要なのか。取締役 財務・経営戦略担当の永田氏に聞いた。
▲株式会社ユーグレナ 取締役 財務・経営戦略担当 永田暁彦
慶応義塾大学商学部卒。2007年インスパイアに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。数々のベン チャー投資およびコンサルティングに従事する。2008年12月に投資先の一つであったユーグレナの社外取締役に就任。2010年4月に取締役 事業戦略部長として完全移籍。2015年4月にユーグレナ社のグループ会社として設立した「リアルテックファンド」(http://www.realtech.fund/)の代表を務める。
■自分自身と会社のファンになってもらう
――上場前から、名だたる大企業から出資を受けていましたが、どのようにして大企業との提携を実現してきたのでしょうか。
理由は2つあります。1つ目の理由は、本気でその企業に出資してもらいたいと考えていたということです。実は2011年、電通、清水建設、東京センチュリーリースなどからの出資を受けたところで、弊社代表の出雲に「資金はかなり集まりましたし、すべて事業会社からのファイナンスなので、これで終わらせていいですよね」という話をしたんです。そしたら出雲から「ミドリムシで飛行機を飛ばすんだ。そのためには航空会社からの出資が絶対に必要だ」と言われて(笑)
そこから航空会社からの出資を実現するために、細かいネットワークからあらゆる手段を使って局地戦もしながら社長に直接プレゼンをする場を得るまで努力し続けました。結果的にANA社へのトッププレゼンまでたどり着きました。ただ、やるまでやるか、ということと、提示している価値が本当に相手にとって価値があるか、ということです。その分岐となるのが「本気でこの企業に出資して欲しい」と考えているかどうかなのだと思います。
——では、大企業との提携を実現できた2つ目の理由は?
はい。2つ目の理由は、いざ会った時、最初の30秒で「もう一度会いたい」と思ってもらえるよう印象付けることですね。まずは自分自身と会社のファンになってもらわなければ、出資にまでつながらないでしょう。
――ではファンになってもらうには、どうすればいいでしょうか。
目を見た瞬間「こいつ本気だな」と相手に思わせるくらい、自分の事業やサービスを強く信じていること。そしてそこに驚きや感動があるかどうかですね。トップアプローチではなくても、例えば伊藤忠商事の場合は1人の担当者の方が「ユーグレナいいね」とファンになってくださったんです。その方に社内を突き進んでいただき、そして私たちは突き進むための燃料を投入し続け、最終的に出資に至りました。
エレベーターピッチがそうですけど、企業のトップに短時間会うチャンスがあったとしても、「こんなサービスなんですけど、どうですか?」と単に説明するだけでは印象にも残りません。会った瞬間にどう印象付けるかが重要です。これも、特別なことは何もありません。今、自分が上場会社側になって感じるのは、表面をなでるようなコミュニケーションで、相手が振り向いてくれたらラッキーだな、みたいなプレゼンを受けることが多い、ということです。絶対この会社からもぎ取る、という熱感があるかどうか、です。
■オープンイノベーション成功に必要なのは、「確固たる自信」と「謙虚さ」
――スタートアップや、大企業の新規事業担当など、オープンイノベーションで事業を拡大させようとしている方々に、成功させるためのアドバイスをいただけますか。
「確固たる自信」と、「謙虚さ」の共存ですね。これは、大企業もベンチャーも同様に重要だと思います。弊社でいうと、私たちは世界で唯一、ミドリムシで10年以上もの間事業を行ってきましたし、ミドリムシを大量に作れるという確固たる自信があります。ミドリムシを培養することに関するノウハウや知的財産権について、誰にも譲るつもりはないし、譲ってはいけないんです。しかし、それを燃料にする石油の技術は持っていません。そうした自分たちが持っていないファンクションについては、他社に助けていただく謙虚さもないといけません。
——なるほど。
今、ベンチャー側に足りないのは、「確固たる自信」だと思います。自社の唯一性・非代替性を確信的に持ち、世の中のオープンイノベーションに接することができるかどうか。もちろん謙虚さを持って「この部分は助けてください」ということも大切ですが、「この部分は絶対に譲らない」と言い切ることも必要だと、私たちも学んできました。
一方、大企業側は「オープンなマインド」を持つべきだと思います。大企業とはいえ、1つの会社の中でできることには限界があるはずです。その限界を認識したうえで、自分たちが達成できないファンクションを外部とどうつなげていくかを探る姿勢が重要だと思います。
――「確固たる自信」と「オープンなマインド」。確かに、オープンイノベーションが上手くいかない時、これらがネックになっているような気がしますね。
大企業がベンチャーと接する時、オープンなマインドとともに「長期視点」が必要ですね。投資したり、共同研究を始めたりすることもあると思うのですが、研究開発は2歩進んで1歩下がることの繰り返しです。私たちも、最初の何年かは提携している大企業に頭を下げっぱなしでした。短期間で結果を求めてしまったら、ベンチャーとは絶対に付き合えないと思うんです。2~3年落ちこんでもいいんだという、覚悟と、懐深さが大切だと思います。
■取材後記
ユーグレナが名だたる大企業から出資を受けられた背景には、特別なテクニックがあったわけでも、強力な人脈があったわけでもない。本気で投資して欲しいという理由と想いを持ち、行動を起こす。その地道な積み重ねで一社一社、理解者を、そして出資者を増やしていったのだ。自らの信念を強く持ち、道を切り開く。それが一番の近道なのかもしれない。
そして、「確固たる自信」と「オープンなマインド」が、オープンイノベーションの成功には欠かせないということ。これは永田氏が、数々の企業と提携してきたベンチャーサイド、そして近年はリアルテックファンドを運営する出資者サイド、その両方の立場を経験しているからこその結論だろう。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)