DXの社会実装を目指す、注目のスタートアップ5社によるピッチ!ここから社会を変革する共創が生まれるか?――eiicon meetup!!イベントレポート
3月8日、東京・大手町にてeiicon companyによるオリジナルピッチ企画「eiicon meetup!!」が開催された。同イベントは新規事業・イノベーションコミュニティの活性化を目的に行われ、スタートアップなどの出会いや共創を支援する役割を持つ。
この日は「Vertical DX ――21世紀のビジネスの勝機」をテーマに、DXの社会実装に向けて最前線で活躍する5社(TradFit/PocketRD/タレントアンドアセスメント/BitStar/シナモン)が登壇。ピッチを通じ、来場者に向けて熱いメッセージを送った。
冒頭、eiicon company Incubation Sales / Consultingの曽田が挨拶。同イベントがコロナ禍の影響などで一時中断していたことに触れながら、「多様な人たちの交流の場として意義があり、今後も継続する方針です」と述べた。その上で、「本日は、各社の会長・社長自らがピッチを行います。共創や新たな価値創造につなげるなど、有意義に過ごしていただければと思います」と来場者に呼び掛けた。
――以下にピッチの内容をダイジェストでお伝えする。
【TradFit】音声AI等のテクノロジー・国内外の知財戦略で宿泊施設等の題課を解決
■戸田 良樹氏
TradFit株式会社 代表取締役
TradFitは音声AIスピーカー上などで使用可能な「宿泊施設・宿泊ゲスト向けのコンシェルジュアプリケーション」のソフトウェア開発を手がけている。フロントへの問い合わせ、客室備品のリクエスト、ルームサービス/清掃依頼に音声操作、タッチパネル操作で対応が可能だ。
各国の個人情報保護に配慮した形で個人情報を特定せず、マスではなくよりパーソナライズされた属性データを蓄積し、業務効率化をはじめサービス導入企業が保有するあらゆるアセットなどのマーケティングにも活かすこともできる。
同社では欧米、アジアの男女10~60代、300名以上にインタビューを泥臭く行い、ユーザーが痛みを感じる課題を優先順位をつけて抽出した。
キーとなる機能として、多言語対応(音声・タッチパネル・AIと有人でのハイブリッドチャットシステム)、新型コロナ対策となる安全安心を担保できる非接触、雇用を守りながら設備投資コストを削減する省力化・フードロス・余剰在庫の削減等が挙げられる。
これにより、将来戻ってくるインバウンド対応はもちろんのこと、足元の宿泊施設が抱える収益性の改善、データに基づく客観的な業務改善によるコスト削減、差別化による稼働率向上、各所に散らばっているデータ統合、宿泊施設運営側のワークライフバランス向上など、サービス導入施設の抱える課題の解決が図れるようになる。
このほか、特徴の一つとして、管理画面がマルチデバイスで使用可能でリモート操作ができるため、施設内には少ない人数での運営が可能となる。
例えば、日本全国や世界各国に運営スタッフがいても、施設外で最適なオペレーションを組む事でさらなる業務効率化につながる。
また、他社と連携して客室内をIoT化し、テレビ、エアコン、照明、カーテン等のあらゆる家電等やインターネット動画などの起動や地デジへの切り替えも可能なため少子高齢化が進む日本、障害を抱える方、年齢をも問わずに最も自然なインターフェースである声で操作ができる。
こうしたソフトウェアは欧米、アジアを中心に海外で急速に普及し日本に爆発普及の予測が既に国内外の著名なリサーチ企業から出ている。
導入はホテル等の宿泊施設にとどまらず、介護施設や病院などにも応用可能で、不動産、民泊、小売り、モビリティーなどインダストリーを超えて国内外から新型コロナ禍で問い合わせが急増している。
戸田氏は「新型コロナ禍で苦しくむホテル業界等の収益性改善、ワークライフバランス向上や人手不足問題に貢献します」と話した。
「いくつの言語に対応しているのか?」との問いに、戸田氏は、「音声は8言語で、ハイブリッドチャットシステムは16言語です。技術的にはさらに多様な言語への対応が可能」と回答。
また、「なぜ最初にホテル業界の課題解決を目指したのか?」との問いには、「自らの海外旅行で痛みを感じたユーザー目線での原体験やコロナ前の米国やアジア圏での海外現地視察から最先端のテクノロジーを活用した宿泊施設などの業務オペレーションを実体験、調査し、国内の観光・宿泊業界の抱える大きな課題を解決したい」と自身の経験・体験を語りながら回答。
また、最後に創業当初より国内外の知財戦略に力を入れている事にも言及。
eiiconにて調べたところ、3月15日に発表された経済産業省・特許庁よりIP BASE AWARDにてTradFitの受賞ニュースリリースが発表されていた。
AIスピーカーのハードウェアやソフトウェアに限らずスマートフォン、タブレット、アプリ、ブラウザなど幅広く知財戦略を未来から逆算し、広範囲に知財を取得。世界展開を創業時より視野に入れている。
経済産業省ニュースリリース:
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220315003/20220315003.html
受賞理由:
https://ipbase.go.jp/news/2022/03/news-0315.php
TradFitプレスリリース:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000033116.html
【PocketRD】 独自の3Dアバターと、NFT 技術を持つマーケットプレイスを展開
■籾倉 宏哉氏
株式会社PocketRD 代表取締役 プロデューサー
PocketRDは革新的なXR技術でリアルとバーチャルを融合させ、コミュニケーションをより豊かに表現することを目指している。ゲーム会社大手スクウェア・エニックスの出資を受け事業を展開。3DアバタープラットフォームAVATARIUM(アバタリウム)と法定通貨NFT 技術を持つマーケットプレイスPocket Collection(ポケットコレクション)を手がけている。
アバタリウムのアバターはすべて同社が独自開発した技術で作成されており、大きな特徴としてカスタマイズ性の高いことが挙げられる。目の色や髪形、服装を変えるのはもちろんのこと、一般的なアバターでは実現が難しいとされる眼鏡をかけることも可能だ。まさに「なりたい自分」に変換し、さまざまな「場所」に行くことを実現する。
同社のアバターの表現の自由度が高いことの理由として、素体ベースで制作していることが紹介された。また、アバターの作成には専用の装置(スキャナー)を用いていたが、一般化を図るためスマホアプリでの対応も始めている。
現在、同社のアバターはeスポーツ、映画制作、ライブエンタメ、バーチャルフィッティング、ヘルスケア、学校など、さまざまな業界から引き合いを受けているという。中でも、オンライン会議での需要が高くなっている。既に大手総合通信社をはじめ、自治体やアパレル会社などで協業が進んでいる。籾倉氏は「アバターというとメタバースと言われますが、それ以外にも、変換できるという強みを活かしてこれまでにないビジネスの活用を見つけたいと思っています」と話した。
ポケットコレクションのコンセプトは「n次流通」「n次創作」で、デジタルデータの権利をブロックチェーン技術で保護し、3DCGデータなどの大量保存、2次創作、2次流通、販売が可能となっている。ブロックチェーンの発行と管理を同時に行うことで、創作物管理ができる仕組みで、1次創作、2次創作……とすべての段階でNFTを発行し、n次創作で販売がされた場合は、n次創作までの段階で売上を分配する。
一方、こうしたNFTを用いたビジネスには課題も多く、現在は投機的な状況にあるという。籾倉氏は「大事なのはクリエーターをNFTで守ることです。NFT に関するイメージも払拭しながらn次創作、 n次流通を基軸にビジネスの素案を定義し、その技術バックボーンにポケットコレクションが活きると考えています」と強調した。
【タレントアンドアセスメント】 AI面接サービスで、面接のプラットフォーム化を構想
■山﨑 俊明氏
株式会社タレントアンドアセスメント 代表取締役
タレントアンドアセスメントは対話型AI面接サービス「ShaiN(シャイン)」を提供している。面接というと、現在でも経験や勘などに頼りながら人材を見極めることが主流となっているが、山﨑氏は「そうした時代はいつまでも続きません」と強調する。一例として、今から30年ほど前は漁師の経験と勘による天気予報が一番当たるとされていたが、今ではAI予測の精度が高くなっている現状を示した。
SHaiNは、スマートフォンのアプリでいつでもどこでも面接ができ、その面接はAIが面接官となって受検者の話を引き出すための質問や深掘りをしていくというもの。これにより、人の面接で起きがちな評価のバラつきをなくし、受検者の資質特徴を数値化する。さらに面接時に話された内容は間投詞を含みすべて文字起こしされる。AIが聞き出した内容からの評点化となるため、人によるバイアスがなく、SDGsが提唱するようなジェンダー、人種、国籍などの差別の排除が可能だ。
SHaiNの効果的な使用方法の1つとして、プラットフォーム構想が伝えられた。つまり、1度面接を行えば、2回目以降の面接では本人の意思によりデータを活用することができ、他の会社で再度AI面接を受ける必要がなくなるということだ。SHaiNの導入社数は右肩上がりであり、現在は350社以上が導入している。企業のほか、地方自治体でも導入が進んでいるという。
会場からは、「選考のどの段階で使われることが多いか?」との質問が出された。山﨑氏は「多くは一次面接での導入が多くなっています。多くの候補者のことをよく知りたいという思いがある一方で、人事の方の人数が限られていることが背景にあります。他方、最終面接前での利用も見られます。受検後の面接評価レポートにより、人の感覚的な曖昧な評価ではなく、第三者視点をもった公平公正評価を出すためにAI面接を活用されています」と答えた。
また、「採用の基準は企業ごとに異なるのか?」との問いに対しては「企業が求める人材像を資質に落とし込み評価をしていきます。そのため積極性を重視する企業もあれば、感受性を重視する企業もあります」と回答。最後に山﨑氏は時代がわずか数年で大きく変わることに触れながら、今後ますますAI面接が広まることを予想し、マーケットをリードしていきたいと熱意を見せた。
【BitStar】 ロングテールクリエーター×テクノロジーで独自のビジネスモデルを形成
■渡邉 拓氏
株式会社BitStar 代表取締役 社長執行役員CEO
BitStarはYouTuberなど世の中に影響力のある動画クリエーターとテクノロジーの力を掛け合わせたエンターテックカンパニーとして事業を展開している。解決したい課題として、従来型の「1人のスターで8~9割の売上を出し、売れない人は売れない」というビジネスモデルを取り上げた。
一方、現在YouTubeでは登録者が50万人以下のロングテールのクリエーターが99.5%以上となっており、多くが収益化できていない現状もある。同社はロングテールのクリエーターに着目し、テクノロジーの力で活躍の機会を創出している。
同社の強みの一つとして45万人がいるデータベースが挙げられた。YouTubeをはじめ、Instagram、Twitter、TikTokなどで1000人以上フォロワーがいるクリエーターを独自のテクノロジーで発掘。さらに、データを分析することで、どうすればコンテンツを伸ばすことができるのかといった育成や、クライアント企業などとのマッチングが可能だ。同社の売上は、スタートアップながら数十億円あり、そのうち4分の3以上がロングテールのクリエーターで構成されている。一般的なエンタメ企業とはビジネス構造が大きく異なることが見てとれる。
事業としては、クリエーター支援とコンテンツ支援の2つがある。クリエーター支援では、エージェントとして専属・非専属に関わらず、マッチングなどさまざまなサービスを提供。これまでに、美容系企業とインフルエンサーを結び付けた事例などが紹介された。
また、コンテンツ支援としては、自社で動画制作や運営などを手がけている。これまでにテレビ、音楽、出版、酒造、人材など多くの企業のYouTubeチャンネルの開設などを行ってきた。このほか、自社でスポーツやアニメのチャンネルも作成しているという。
近年は、TVCMよりもYouTubeのほうがマーケティングの効果が高いとされ、ニーズは伸びる一方となっているという。実績として、年間クリエーターの取引数は約1500人、累計4000人。年間の報酬額は総額23億円超。自社作成のコンテンツ数は2500。取引社数は1250。
渡邉氏は「今後はサービスラインナップを広げ、より多くロングテールのクリエーターの支援し、職業インフルエンサーと言える方を増やしたいと思います。タイアップなどもさらに増加させる予定です。主力メディアがテレビからソーシャルメディアに移り変わる中で、『100年後に名前が残る産業・文化をつくる』というミッションを実現させます」と熱く語った。
【シナモン】「ハーベストループ」で少ないデータでも確かなAIの精度を実現
■加治 慶光氏
株式会社シナモン 取締役会長兼チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー
日立製作所 Lumada Innovation Hub シニア・プリンシパル
鎌倉市スマートシティ推進参与
シナモンは機械学習やディープラーニングを活用した AIに関連するプロダクトを提供している。ビジネスモデルは2つあり、AIのコンサルティングとプロダクトという両軸を行っている特徴を持つ。デジタルではない情報をデジタル化し、AIのエコシステムを構築。既に100社以上にサービスを提供している。
同社の保有するテクノロジーは音声認識で議事録を作成するもの、文章の文脈を読み取りまとめるもの、画像を認識して解析するものなど主に8つ。近年はこれらのテクノロジーを組み合わせ、例えば、電話の内容を音声認識し、その内容をまとめるなどと使い方が多くなっているという。
同社がこうした優れたテクノロジーを持つ背景には、AIの高度人材を約100人も抱えていることにある。日本全体に400人しかいないと言われる中で、同社はベトナムや台湾の優れた人材を発掘し、AIに関する教育・育成を行っていると紹介した。
同社が重視しているのは「ハーベストループ」と言われるもので、データをむやみに集めるのではなく、自動的にデータが集まる状態(ループ)を設計することだという。さらにループを2つ3つと組み合わせることで、少ないデータでもAIの精度を向上させることができるとのことだ。加治氏は「今あるデータを活かしたいという考え方はあまり好ましくありません。意味のあるデータを集めるという発想が重要です」と強調した。
AIを導入する際は、どのような場面でAIが必要かをブレストやワークショップで見つけ出すことから進めていく。これにより、「とにかくDXをやらなければいけない」と明確な目的もなくAIを導入する状況を避け、適切な活用が図れる。
会場からは「具体的な企業での導入事例を知りたい」との要望がされた。加治氏は保険会社での事例を取り上げ「保険は手続きの過程で、手書きの書類を多く発生します。その読み込みに当社のAIは非常に相性が良く、まず保険会社での活用が広がりました。その後、製造業でも使われるようになっています」と紹介した。
最後に加治氏は「ハーベストループはSDGsなど世界の社会課題の解決と馴染みの良い側面があります。SDGsでの活用も積極的に行っていく考えです」とさらなる事業展開の可能性を示した。
――各社のピッチの後、ネットワーキングが行われ、登壇企業やスタートアップ、大企業などが活発に意見を交換し、交流の輪を広げた。
取材後記
優れた技術を持つ、精鋭と言えるスタートアップが集った。いずれのピッチも非常にワクワクさせる内容であり、今すぐにでも使ってみたいと思わせるものばかりだった。登壇企業に興味を持ち、協業の可能性があれば、ぜひ積極的に連絡を取るなどしてほしい。これからどのような飛躍や活躍を見せるか。注目したい。
(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)