【連載/4コマ漫画コラム(25)】CVCで世界を広げる① 飾りじゃないのよ CVCは♪
ブームや人マネでなく
CVC(Corporate Venture Capital)がここ数年「第2期ブーム」を迎えています。私は、今思えば「第1期ブーム」の時にシリコンバレーに駐在して、CVCの活動を行っていました。
CVCとは、「会社(Corporate)が行うVC(Venture Capital)」です。VCがベンチャーに投資を行うように、会社でファンドを用意して、ベンチャーに投資する活動です。ベンチャーに直接投資をする場合と、別のファンドを通じてベンチャーに間接的に投資する場合(Fund on Fundsと言います)があります。
2000年前後に第1期ブームがあって、多くの日本の大手製造企業がシリコンバレーで投資活動を始めました。最近の第2期ブームは、日本の産業界の変遷を表すように、製造業ではなく、ネットサービスや金融関係が多いようです。
私はCVCの設立を自ら提案して、シリコンバレーに駐在して、現地でチームを作って活動を始めたのは1997年でした。ある意味、第1期ブームの先駆けだったのですが、実は、その時は私はCVCという言葉も知らなければ、他の日本企業がCVCをやっていることも知らなかったのです。お恥ずかしい……。
でも、その分、「人マネで始めたのではない」とだけは言い切れます。
私がCVC(名前は知らなかったけど)を行うことになったのは、会社の偉い人から「CVCを作れ」とか言われたからではありません。結果的にCVCの活動を始めることにしたのです。
1994年は
もう23年も前になってしまった1994年って、どんな年だか覚えて(もしくは知って)いますか?インターネットが一気に世界に広がった年です。ネットスケープというブラウザーが、インターネットを普通の人が使えるような道具にした年です。それ以前もインターネットはあったけど、特殊な人だけが使っていました。
企業で「企画」に携わる人たちにとっては「インターネットの勃興」は大きなうねりでした。間違いなく世界は変わる。……でもどう変わる?
色々な人が色々なことを言っていました。会社の中でも様々なインターネットについての検討が行われていましたが、会議の休憩時間などに小声で「ところでさ、お前、インターネットで見たことある?」「……ない」とかいう会話が平気に交わされていました。
どんな武器?答えが「投資」
これではいかん。日本人が日本の会議室で議論していたって、何も分からない。
「やっぱりインターネットのメッカであるシリコンバレーで何かをやろう」と、当時の私の上司が言い出し、私に「その『何か』を考えて」と依頼してきました。
私がやったのは、色々な人と話をすることでした。特に、既に当時シリコンバレーにあったソフトウエアを中心とする研究所の所長に何度も話をしたりして、段々と「何をすべきか」を明確にしていきました。
その結果、「大事なことは、シリコンバレーで通用する『武器』を持つこと」ということになりました。もちろん、『武器』とは言っても、ヤリや鉄砲ではありません。単にシリコンバレーで調査を行うなどでは、本当に意味のある活動にならない、シリコンバレーで当たり前に使われている方法(≒武器)を自分たちも持たなければならない。それが「ベンチャーに投資をする」ということでした。
当時、一気に広がったインターネットのおかげで、旧来は「行かねば得られない」と言われていた情報の多くは、インターネットのホームページに書かれるようになりました。どんなベンチャーがあって、何をやっているのかなど、昔は直接訪問して、説明を受けたり、パンフレットをもらったりしなければ分からなったのですが、「浅い」情報はインターネットで公開され、世界のどこからでも見られるようになりました。
そのため、単に「シリコンバレーに事務所を作って、日本人が駐在して調査する」のは、ほぼ意味がなくなってしまいました。
インターネットで得られる情報より、深く、本物の情報を得て、かつ、未来に向けての関係作りをする……そのための「手段」として「投資」という方法があることが分かり、CVCを作ることにしました。実際に「ウチの会社はおたくの会社に投資するかもしれないよ」と会話の冒頭で言うだけで、出てくる話の深さ・質が全く変わりました。
手段は目的・時代・場所で違う
CVCは、単に「手段」です。
最近、第2期CVCブームになっていることもあり、「CVCを作る」ことが目的のような社内検討活動をやっている方々をよく見かけますが、これはダメです。
世界のどこでどういう変化が起こっているのか。その現場で活動し、その潮流をいち早く感じ、取り入れて、未来に準備するためには、どういう方法が「これからの時代」また「その変化が起きている地域」で有効なのか。そういう風に考えて、結果としてCVCが有効である、ということになればCVCを行えばいいのです。
私がCVCを始めたころは、私の不勉強もありましたが、CVCという言い方はよく知られてはいませんでした。何事でもそうですが、「名前」が定着するころには、その中身や携わる人たちも思考停止になりがちで「形骸化」しがちです。CSR(企業の社会的責任)なんかもそうかもしれません。先行事例や他社事例の研究ばかりして流行に乗るよりは、「自分で考える」ことが大事です。しかし、今でもCVCは検討に値する強力な「手段」だと思います。
「次回は、もうちょっとCVCそのものの話をしたい」と思うけど、CVCの活動を思い出すと色々ありすぎて、なかなか本質の話にならないかも……Cheap Valueless Colum (安い価値無しコラム)にならないように頑張ります♡
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。