【連載/4コマ漫画コラム(26)】CVCで世界を広げる② これが「戦略的リターン」だ!?
CVCの設立提案の押さえどころ
CVCについての2回目です。(Corporate Venture Capital: 企業がファンドを作ってベンチャーに投資する活動) 今回は、「CVCをこれから始めようとされている方」に、社内での「CVC設立提案」に必要なポイントをお伝えします。
まずは、前回お話しした「CVCはあくまで手段なので、なぜCVCをやるべきなのか」の目的をはっきりさせておきましょう。「XX領域の新規事業を今後立ち上げていくため」などです。
そして、CVCの設立の提案を行おうとすると、必ず「それってどんなリターンがあるの?」と言われます(殆ど全ての新しい提案での常套ケチ付け質問ですが)。
CVCでメインに狙うリターンは「戦略的リターン(Strategic Return)」です。一番シンプルで分かりやすい「リターン」は「いくらお金が儲かるか」ですが、CVCの場合は、そんな確約はできないので、「戦略的リターン」というカッコイイ言葉を使います。実態は「よく分からないけど未来を創っていくために役立ちそうなコト」というようなボンヤリとしたものですが……。碁でいうと「未来に『布石』を打つ」ことです。
しかし、できるだけ具体的な「戦略的リターン」を想定している方が説得力があります。そこで、私の実体験をベースとした「戦略的リターン」の事例をお伝えします。
戦略的リターン①:マジックスタート
その一つは、「開発の立ち上げ」です。それも「自社内でまだ全く開発体制がない場合」でも「開発を開始できる」というワザが使えることです。「XX事業領域の新規事業を今後立ち上げよう」と掛け声をかけても、みんな現状の仕事が忙しくて、具体的な開発活動にリソースを割いたりできません。
そこで、その事業領域で最先端の開発をやっているベンチャーに投資をして、そのベンチャーと打ち合わせをしたり、プロトタイプなどを作ってもらったりサンプルを分けてもらったりして、それを社内に見せたり聞かせていると、あら不思議、言葉や掛け声だけでは何も起こらなかったのが、急に「これ、やろう」という人たちが出てきて、具体的な開発活動が始まります。もしくは、ベンチャーが開発した新製品を自社の販路で販売するだけでも、沢山のその「新規事業領域の知見」を得ることができます。
戦略的リターン②:唾をつけて仲良くなる
また、大きな戦略的リターンの一つが「唾をつけておく」ことです。優秀なベンチャーが成功への階段を上っていけばいくほど、後になって関係を作るのはとても難しくなるので(ライバル会社に先に関係を作られてしまう)、先に「投資」という形で「唾をつけておく」のは大きな効力を発揮します。将来、買収(というか一緒になる)の場合もやりやすくなります。
そして、前回も書いたのですが、その新規事業領域の市場や競合の内部情報が得られ、戦略作りに大いに役立ちます。そのためには、少なくとも「オブザーバー権利(取締役会に出席して、発言権はないけれど、資料がもらえる)」が得られるような株保有率の株数を確保しましょう。このポジションでは、ベンチャーの経営に対してモノ申すことはできないのですが、ちゃんと人間関係を作って、信頼を得られれば、頼られるようになっていき、「仲間化」できます。これは新規事業にチャレンジしていくために、大きな価値となります。
戦略的リターン③:言えないけれど
また、言い訳に聞こえるので、あまり社内説得には使えないことですが、実は「人が育つ」という超重要なリターンが「戦略的リターン」として得られます。社内で「オープンイノベーションが必要だあ!」とか「のたまわっている」だけより、CVC活動に関わると格段に人は育ちます。また、その経験を活かし、社内での新規事業立ち上げに必要なプロセス・制度・組織の設計もできる人物になっていきます(私もそのパターン)。
儲かっちゃっていいの?
実は、CVCでは「戦略的リターン」だけでなく「金銭的リターン(Financial Return)」も結果的には得られることがあります。しかし、「わあい!儲かっちゃった!」と素直に喜べません。社内の財務部から「CVC活動でお金を儲けるなんて頼んでいないぞ。お前らは『戦略的リターン』を狙うと言っていたじゃないか。運用益を得るための仕事は我ら財務部の仕事なのに何を素人がいらんことやっているんだ!」とか、「急に今年度の利益が増えたら、来年度は今年度より利益が下がってしまう(ように見える)じゃないか。増収増益が難しくなる。いらんことするな!」とか(以上、実話(^o^;))。
だからといって、「じゃ、金銭的リターンが得られそうもないベンチャーに投資をして戦略的リターンだけを得るようにしよう」と考えてはいけません。「戦略的リターンが得られる」ような「いい会社」は「成功して金銭的リターンにもつながる可能性が高い」からです。金銭的リターンには絶対につながらないような「つまらない」「ダメな」ベンチャーだと、戦略的リターンも得るのは難しいと考えた方がいいでしょう。
対策としては、「儲けてしまったお金を、次の投資や未来のための開発に使ってしまう」という提案がいいようです。案外すんなりと受け入れてもらえます。
CVC設計で最重要ポイントは
そして、CVCの制度設計にとても重要なのが「決裁権限」と「いかに任せるか」です。
シリコンバレーなど投資が活発な地域は、とにかくスピードが速い。「では、投資するかどうかは本社にお伺いを立てるので2か月ほど待ってください」なんて言っていたら、投資チャンスは全て逃げて行ってしまいます。現地で活躍できる現地で通用する人物をリーダーとして採用し、通常の社内規定とは異なる大きな決裁権限の額を与えて、任せることが重要です。「そんなことして大丈夫か」とばかり言うような会社ではCVCは向いていませんので、このコラムのことは忘れてください(^o^;)。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。