【連載/4コマ漫画コラム(2)】「オープンイノベーション!」って言っているアナタ自身は?
(漫画・コラム/Creable 瀬川 秀樹)
■「組織」のオープンイノベーションの前に
「オープンイノベーションが必要だ!」との掛け声がとてもよく聞かれるようになってきた。それはとってもいいことだと思う。 ただ、気を付けてほしいとしばしば思うのは、「組織視点」だけではオープンイノベーションはうまくいかないということだ。 「オープンイノベーション」というミッションを持った「組織」が、大学や他社やベンチャーという「組織」と結びついて、なんらかの活動を起こしてイノベーションを生み出す、という「組織間のつながり」も、実は殆ど全ては「まずは個人のつながりから」であり、「始まった後も個人がうまくつながらないと進展しない(そのうち崩壊・消滅する)」のだ。
■オープンイノベーションのメッカもシリコンバレー
1997年~2002年に私がシリコンバレーに駐在していたときによくあったシーンを紹介しよう。 その駐在期間の丁度真ん中に当たる2000年の4月に「ドットコムバブルの崩壊」が起きた。1994年にネットスケープというブラウザのおかげで一気に世界に広がったインターネット。そのインターネットを活用してビジネスを興そうとする熱気があっという間にバブルを生み、はじけた時だ。株価が急激に上昇し、あっという間に大きく下落した。そのインターネットのメッカであるシリコンバレーに私はCVC設立を提案して、駐在していた。 (CVC: Corporate Venture Capital会社としてファンドを持って、ベンチャーに投資)
ずいぶん前の話だが、すでにシリコンバレーは思いっきり「オープンイノベーション」の場であった。長く培われた文化としてすでに定着していたのだろう。 当時、CVC活動のために、沢山のVentureを訪問していた。 会議室に入った途端に、同僚のSteveが会議室にいる人を見て「あれ?XX(人の名)、なんでここにいるんだ?」と話しだす。知り合いと思われるその人は「実はさ、前のYY社は半年前に辞めて、今はこの会社にいるんだ」と近況などを話し出す。そうしているうちに「俺は今リコーという会社にいるんだけど、ぜひ一緒になにかやろうぜ」みたいな話に発展していく。
シリコンバレーでは転職は当たり前で、あちこちの会社に散らばった「知り合い同士」の個人が、会社という組織がつながる「オープンイノベーション」のきっかけを作っているのだ。「個人と個人」がつながってから「組織と組織」がつながる比率が圧倒的に高い。
■コツは「自分がオープン」
では、どうすればオープンイノベーションをできる「個人」になれるのか。 まずは、「自らがオープンであること」だ。 シリコンバレーでは、みんな色々な人に会ってむちゃくちゃ「オープンに」話をする。当時の私には「おいおい、そんなことまで他社の人に話していいの?」みたいな驚くような会話が多かった(駐在直後の私にまだ日本的感覚がどこかで残っていたのだろうけど)。
翻って、日本では「全部秘密にすること」をデフォルト(初期設定の状態)にしているのが当たり前だと思っている人が多い。そして、「できるだけ自分の情報を漏らさずに、相手から情報を沢山搾取できるかどうかが勝負」みたいな態度の人を良く見る。 当然だけど「give and take」や「win win」がベースにないと、うまく行くはずがない。
■それって秘密?
「そうは言っても秘密事項を話すわけにはいかないでしょ」と思う人もいると思う。 その通り。 会社の命運を左右するような秘密事項は漏らしてはいけない。 「Paten化できる技術の詳細内容」や「顧客リスト情報(これは本コラムのテーマとはあまり関係ないけど)」は漏らしてはダメだ。 だけど、実は他の殆どの情報は「漏らしても何の問題もない」ものなのだ。私の感覚では、「秘密だ」と思われているものの90%以上は、単に「恥ずかしいから秘密にしておこう」という類のこと。
つまり「へー、まだそんなことやってんだ」「その技術って他社には勝てないよね」とか思われないように、「秘密」というレッテルを貼って保身に走っているだけだ。 特にイノベーションに関わる新規事業などの「未来のコト」に関しては、どんな構想を持っているかなどはどんどん喋った方がいい。どうせ不確実だし実現するかどうかも分からないし、魅力があるアイデアであれば、どうしたって(今小さな秘密を守ったって)当然激しい競争は起こるし、人類が70億人もいるこの地球で同じことを考えている人が全くいないなんてありえないから。
大事なのは、「ここまでは話しても大丈夫」の『判断力』をつけること。ある技術についても、「その目的」とか「効果」は話して、それをどうやって実現するのかの技術のキモ(Patentになるレベルの技術内容)だけは秘密にする、など、一つ一つの話題について、「どこまでを話すか」を考える癖をつけて、判断力を磨くことが大事。結構面倒くさいし、話していると調子に乗ってついつい「本当の秘密」までバラしてしまう危険性もあるから「やっぱり全部秘密にしておこう」と安易な方に流れてしまいがちだが、それはダメ。
■大事な「醸し出し」
こうやって上手く秘密の量を減らして「オープンな会話」ができるようになっても、それ以上に大事なことがある。 それは「オープンな雰囲気をいつも醸し出している」こと。 「明るく」「どんな話も聞いて」「ポジティブにアイデアを出して背中を押して」「あるところまでは実際にやる」ことがその雰囲気を作りだす。 社内の別部署の人間からの相談や、知らない社外からの売り込みに対して、なんだかんだと難癖をつけて「会わない」のではなく、とりあえずいつも「会って」、前向きな雰囲気で話をする。「この人に話をすると乗ってくれるよな」という評判が立つと、自然とオープンイノベーションにつながるチャンスが舞い込んでくる。 いつもしかめっ面で偉そうに腕組みをして「ダメな理由」をあげつらうのが得意、というのでは何も起こらない。(よくいるけど・・・)
もちろん、そういう「オープンな雰囲気作り」に成功すると、通常業務以外の話がどんどん舞い込んできて、とてつもなく忙しくなってしまう。それは仕方ない。 私は会社を辞めてからも会社員時代以上に様々な相談や話が舞い込み、訳が分からない毎日になってしまっているけど・・・楽しいぞ。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。