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「think 2030」 vol.6 | 日本初の女性単独GP矢澤氏が語る、女性活用をポーズで終わらせない「経済につながるダイバーシティ」とは?

「think 2030」 vol.6 | 日本初の女性単独GP矢澤氏が語る、女性活用をポーズで終わらせない「経済につながるダイバーシティ」とは?

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先進国の中で女性の社会進出が遅れている日本。管理職に占める女性の比率は主要7ヵ国(G7)内でも最下位であり、アジア太平洋地域の平均と比較しても極端に低いのが現状だ。その中には管理職とは名ばかりの、決定権も発言権もない女性管理職もいるため、データで見える以上に事態は深刻だ。これから日本が、グローバルでの競争力を再び身につけるには、本当の意味での女性の社会進出が大きな課題となる。

シリーズ企画「think 2030」では、「2030年に向けた企業×オープンイノベーションの未来」という視点から、日本の企業・ビジネスパーソンの進むべき道を考えていく。

今回、話を伺ったのはサムライインキュベート、Plug and Playで豊富なスタートアップ投資の実績を持ち、2020年11月14日に株式会社Yazawa Venturesを設立した矢澤麻里子氏。これから「働く」の変革にかかわる領域のシードスタートアップのサポートを行っていくと言う。

日本では初となる女性単独のGP(general partner)を立ち上げた彼女が描くビジョンと、日本の女性活用における課題について語った様子をお届けする。

企業と個人、両方の視点から日本の「働く」を改革する

ーーこの度はVC設立おめでとうございます。まずはVC設立のきっかけについて教えて下さい。

矢澤氏:前職で働いているころから、自身でVCを立ち上げたいと想いは薄々とありました。「日本のベンチャー企業をもっとグローバルにしたい」「大企業とのコラボを促進したい」という思いで、前職のPlug and Play日本立ち上げにジョインしまして、しっかり私がいなくてもまわる組織・仕組みをつくることができました。

日本のオープンイノベーションをつくる組織が自走できるようになったので、そのときに私が改めて何をやりたいかというと、やっぱり自分が信じるスタートアップ一社一社と深く付き合ってサポートしていきたいという考えから、自分のVCを立ち上げるしかないと思っていました。

ーー投資テーマとして「働く」を掲げていますが、その背景を教えて下さい。

矢澤氏:人は人生の約3分の1の時間、睡眠と同じくらいの時間を「働く」ことに費やしています。その過程で人は成長していくのだと思いますが、今の日本の働く環境には大きな課題が散在しています。その結果、多くの人が働く時間を楽しめないことは、日本の未来にとって大きな損失です。本質的に日本を良くしていくなら、働く環境を変えていかなければなりません。

ーー働く環境を変えていくために、どのようなスタートアップに投資していくのでしょうか。

矢澤氏:働く環境を変えていくにあたって、「トップダウン」と「ボトムアップ」で考えています。「トップダウン」とは、働く環境を作っている企業や産業を変えていくこと。そのため、DXやSaaSスタートアップを中心に投資していきたいと思います。「この人じゃなきゃできない仕事」以外はテクノロジーの恩恵により減っていくはずです。

また「ボトムアップ」も重要で、企業や産業が変わっても、働く個人が変わらなければ意味がありません。これからテクノロジーによってなくなる仕事がある一方で、「個人を活かす新しい仕事」も生まれていくはずです。時間や場所にとらわれない、新しい働き方を提案するスタートアップにも投資していきたいですね。

テクノロジーによって仕事がなくなることに怯えたり悲観するのではなく、むしろ人は、「自分しか出来ない仕事はなにか」にフォーカスできる時代になっていくと思っています。

ーー理想としているスタートアップとの付き合い方に関しても教えて下さい。

矢澤氏:これまでの経験を活かして、スタートアップの「0→1」に伴走していきたいと思っています。特にスタートアップはお金がない中で、幅広い業務をこなしていかなければなりません。できるだけコアな業務に集中できるように、将来的にはスタートアップスタジオの進化版みたいなことを考えたり、スタートアップの負担を減らせることをしていきたいと思います。


Yazawa Ventures Founder and CEO 矢澤麻里子氏


女性活躍をポーズで終わらせない。「経済につながるダイバーシティ」を目指す

ーー今回、日本初の女性単独GPとなりますが、女性ならではのサポートもお考えですか?

矢澤氏:スタートアップにおける女性の労働課題についてケアしていきたいですね。男性だけで起業したスタートアップも、組織が大きくなるにつれて女性社員も増えていきます。しかし、それまで男性だけの組織だと女性にとって働きづらい状態が続いてしまうケースもあります。

投資したスタートアップでは、組織のバランスが保てるように、産休や育休なども含めた組織マネジメントなどもサポートしていきたいですね。しっかりと「経済につながるダイバーシティ」を実現できるようにしていきたいと思います。

ーー経済につながるダイバーシティ?

矢澤氏:今は世界規模でダイバーシティが叫ばれている時代なので、日本でも女性の雇用促進や女性ならではの強みを活用しようとする動きが増えてきました。しかし、その実態を見ると、ポーズで終わっていることも少なくありません。女性を役員に登用しつつも、発言権も決定権もなく、見せかけの女性活用で終わっている企業も見てきました。

しかし、本来であれば組織に女性が加わることで、事業の活性化にも繋がるはずなのです。たとえば、女性は出産・育児により一時的に就労しにくい期間がありますが、一方で女性が意思決定権のある組織のほうがイノベーションが起きやすい統計データもあります。

社会の流れに乗って仕方なく女性を登用するのではなく、ビジネスを成長させるために女性の強みや能力を活用する「経済につながるダイバーシティ」でなければ意味がありません。

ーー実態が伴っていない「女性活用」も多いのですね。

矢澤氏:これまでスタートアップ支援をしてきて「量が質に転嫁する」ことを肌で感じてきました。スタートアップも10年前と比べて圧倒的に数が増えたことで、自然と個社の質も高まってきています。女性のCXOや女性起業家のような「意思決定できる女性」を増やしていくことで、女性の能力の質、そして組織の質も圧倒的にあがると思います。そのために女性も働きやすい社会を作っていければと思います。

育児による1年のブランクを乗り越え、ファンド組成を目指していく

ーー昨年、出産もしたようですね。

矢澤氏:出産の経験も今回のVC設立の大きなきっかけになりました。子育てをしながら日本の未来について考えていた時に、コロナショックまで起きて「今やるしかない」と思いが強くなりました。子育てをしながらではありましたが、高まる気持ちにまかせて設立の準備をはじめたのです。

ーー子育てしながらVC設立の準備を進めるというのは、かなり大変だったのではないでしょうか。

矢澤氏:そうですね。自分でも思い切った決断だと思っています(笑)。加えて約1年のブランクも、出資を募るハードルになりました。日々変わっていくスタートアップ業界において、1年という期間は予想以上に大きかったようです。

そのため、ファンド募集が完全に終わってからリリースを出すほうがかっこいいとも思いましたが、今回は組成のタイミングでリリース発表になりました。

ですので、来年の5月をクローズ目標に引き続き募集活動も行っていきます。VCを立ち上げようと思っても、ファンドの組成しきれずに終わってしまう方も少なくありません。だからこそ、あえて退路を断つために先行してリリースを出したのです。

ーーご家族の反応はいかがでしたか。

矢澤氏:ありがたいことに、夫は全面的に応援してくれています。パートナーである私が社会で活躍することをポジティブに捉えてくれていますね。夫はAZXというスタートアップに強い弁護士事務所でCOOをしているので、リーガル面でサポートしてもらったのはとても心強かったです。

育児と仕事の両立は女性ひとりでできるものではありません。いかに家族を巻き込むか、そのためにしっかりコミュニケーションをとることの重要性を改めて感じました。「育児がいかに大変か、具体的に何を手伝ってほしいのか」夫婦でしっかり話しあえたからこそ、設立の準備を進めてこれたのだと思います。

Yazawa VenturesのWebサイトより抜粋

誰もが「自分にしかできない仕事」で活躍できる社会をめざして

ーー今の日本の「働く」の課題の根本はどこにあるのでしょうか。

矢澤氏:日本は今でも戦後の価値観が根強く残っているように感じます。大企業で働くのがよしとされるのも、男性中心で女性が活躍しにくい社会も、戦後の価値観に引っ張られているからではないでしょうか。そういう意味では、急速に新陳代謝が求められているように感じます。

それは男性だけに原因があるわけではありません。以前より随分変わりましたが、女性にとっても「女性は出産したら退職、もしくは休職」という考えを持たれている方もまだ一定残っています。

「子供を生んだから、当分は子育てに専念すればいいや」と思う女性もいるかもしれませんが、女性の人生にとって子育てがすべてではありませんし、人生いろんなことがあるので何かしらの理由で働かなければいけなくなってしまったときに出来ることが少ないというのはとても勿体ないと思います。

男性や社会に依存せず、自立して生きていくという考えを、女性自身が持つことが必要です。男性であれ女性であれ、「自分にしかできない仕事」を社会に提供していける時代にしていきたいですね。

ーーグローバルな環境で働いていた矢澤さんにとって、海外と日本の「働く」で大きく違うところはなんでしょう。

矢澤氏:海外では自分に合わないと思った会社はすぐに辞めて転職します。しかし、日本ではすぐに会社を辞めたり、転職を繰り返すことはキャリアにとってマイナスになりがちです。そのため、自分に合わないと思っている会社でも、我慢して働き続けている方も多いのではないでしょうか。日本でももっと人材の流動性を高めることによって、自分らしく働ける人や組織が増えると思います。

ーー日本の働き方が変わっていくために必要なことを教えてください。

矢澤氏:働き方は一朝一夕で変わるものではありません。もちろんテクノロジーによって急激に変わることもありますし、私もそのような企業を応援していきますが、どうしても時間に頼らざるを得ないことも多いです。

例えば、あと20年もすれば、今YouTuberをしている若者たちが親世代になるため、自然と「雇用されずに生きていく」という考え方も当たり前になっていくかもしれません

そういう意味では、これから日本の教育も変わっていかなければなりません。今は義務教育の延長のような高校が多いと思いますが、10年後にはそのような高校もなくなるでしょう。その代わりに、10代のころから自分にあった仕事や働き方を考え、見つけられる高校が増えていくはずです。

ーー最後に、これからの展望をお願いします。

矢澤氏:まずは1号ファンドをしっかりクローズし、伸びるスタートアップに投資、及びサポートをしていきたいですね。将来的には2号・3号ファンドも作ることを考えており、チーム、投資金額、テーマも拡大していきたいと思っています。

私がVCを設立しようと思って最初に考えたのが「人を幸せにするファンド」です。そして人が幸せになっていく上で、今一番ボトルネックになっているのが「働く」だと思ったからこそ、一号ファンドでは「働く」をテーマにしました。しかし、働くことだけで人の本質的な幸せは語れないとも思っています。

2号ファンド以降は、「働く」テーマで拾いきれないヒトの幸せに繋がるテーマを追加していきたいと思います。まだ、どのようなテーマがいいのかは模索中ですが、1号ファンドで投資をしながら次のテーマを練っていきたいですね。

編集後記

2019年にはフィンランドで「世界で最も若い女性首相」が誕生し、2020年にはアメリカで「女性初の副大統領」誕生の見通しが立った。世界では徐々に女性が活躍できる環境が整いつつあるように見えるが、一方で日本はどうだろうか。いまだに女性役員比率は先進国の中でも低く、それに加え矢澤氏が言うように「見せかけの女性活用」もあるというのだから、世界との差は大きい。

(取材・文:鈴木光平)

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日本では大企業やスタートアップの共創による新規事業創出が形になってきた。 ――しかし、新型コロナウイルスの感染拡大や米中対立問題など、明るいニュースばかりとも言えないのが現状だ。 シリーズ企画「think 2030」では、激動する2020年代以降の日本企業・ビジネスパーソンの進むべき道を考えていく。