1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 「think 2030」 vol.5 | SUNDRED株式会社 留目真伸氏 “アメリカ型でも中国型でもない、日本型のイノベーションを創る”
「think 2030」 vol.5 | SUNDRED株式会社 留目真伸氏 “アメリカ型でも中国型でもない、日本型のイノベーションを創る”

「think 2030」 vol.5 | SUNDRED株式会社 留目真伸氏 “アメリカ型でも中国型でもない、日本型のイノベーションを創る”

  • 8168
  • 399
  • 372
4人がチェック!

東京オリンピック・パラリンピックの開催まで、いよいよ残り1年を切った。日本企業は新規事業の創出などに積極的に取り組んでおり、大企業とスタートアップによるオープンイノベーションもますます盛んになっている。――しかし、GDP成長率は伸び悩んだままであり、米中摩擦の影響、間近に迫った消費税増税など、依然見通しが立てにくい状況である。

シリーズ企画「think 2030」では、激動を予感させる2020年のその先、「2030年に向けた企業×オープンイノベーションの未来」という視点から、日本の企業・ビジネスパーソンの進むべき道を考えていく。

今回お話を伺ったのは、レノボ・ジャパンの元代表取締役社長で、現在は社会起点でのエコシステムデザインをもとに新産業を共創することを目指す「新産業共創スタジオ」をコンセプトとして発足したSUNDRED株式会社のCEO留目真伸氏だ。――日本企業、外資系企業、グローバル企業のトップ、新規事業の立ち上げ、スタートアップの経営など、様々な組織と立場を経験した留目氏ならではの視点や未来の展望をお届けする。

SUNDRED株式会社 CEO Partner 留目真伸氏

早稲田大学政治経済学部卒業。総合商社、戦略コンサルティング、外資系 IT、日系製造業等において要職を歴任。元レノボ・ジャパン株式会社、NEC パーソナルコンピュータ株式会社代表取締役社長。大企業のマネジメント経験、数々の新規事業の立ち上げ、スタートアップの経営を通じ、個社を超えて全体像を構想し自在に社会に対して価値を創出できる「社会に雇われる経営者(経営者 3.0)」が求められていると実感。HIZZLE(ヒズル)にて「経営者の育成」「未来型企業へのトランスフォーメーション支援」に取り組む。株式会社資生堂 CSO を経て 2019 年 7 月より SUNDRED の代表に就任し、「新産業共創スタジオ」を始動。2019年8月VAIO株式会社Chief Innovation Officer(CINO)に就任。

■「日本は、新しい産業を生み出せていない」その理由とは?

――留目さんは大企業のマネジメント経験、新規事業の立ち上げ、スタートアップといった多彩なご経験をお持ちで、さらに今年7月にはSUNDREDを立ち上げ「新産業共創スタジオ」をスタートさせたとうかがいました。まずは留目さんが、これまでのキャリアを通じて実感している今の日本が抱える課題についてお聞きしたいと思います。

留目氏 : レノボでは、新規事業を自ら旗振りながら進めたり、副業としてスタートアップに投資をしたりと、大企業とスタートアップ双方の立場から新規事業創造に関わりました。そこから見えてきたのは、「日本では、誰も新しい産業を創っていない」ということです。

もちろん、各社が新規事業の必要性を認識しており、実際に色々な取り組みを進めています。しかし、スケールさせる方法を誰も知らないのです。今の時代、「新規事業」とは、新サービスや新商品の開発だけではなく、バリューチェーンそのものを組み直していくことが必要です。それを、現状では各社既存のバリューチェーンの中で新規事業をやろうとしていたり、小さい予算しかつけてもらえなかったりします。かつ、スタートアップも隙間を狙うようなことしかできず、産業そのものを変える、といったことができない状況です。

今の日本の状況で、新しい産業を創っていくには、個人や個社の力では難しい。そこで、SUNDREDという新会社を作り、「新産業共創スタジオ」をスタートさせました。共創により、100個の新産業を生み出すことを目標としています。

――なぜ、日本では産業を新しく生み出せていないのでしょうか。

留目氏 : 誰も産業を創ることができていないのは、成長領域に対してリソースが集約されていないから――そこに尽きます。アメリカでは成長領域にスタートアップが立ち上がり、VCが投資して、大企業から一気に人材が流入し、新しい産業が生まれます。また、中国ではアリババのような企業があり、強力なエコシステムのもとで産業が大きくなっていきます。

しかし、日本にはそれが起こりません。みんな関心はあって、少しずつ手をつけている。だけどそれでは、成長領域にリソースは集約されない。だから産業化につながっていないのです。そのため、ご存知の通り日本経済は30年停滞してしまっているのです。

――日本企業も「なんとかしなければならない」という意識は強いと思うのですが…。

留目氏 : 決して、成長領域が分かっていないというわけではないんですよ。アイデアがないというわけでもない。私もさまざまなイベントやアイデアソン、ハッカソンに参加しましたが、本当にみなさん素晴らしいアイデアを持っていらっしゃいます。

しかし問題なのは、それが実現できないということです。その場では盛り上がるのですが、会社に戻ると、できない。なぜかというと、新規事業をやる人というのは、変人にならないといけないんですよね(笑)。

会社という共同体意識の強い組織の中で、保守本流の行動様式から外れて、付き合う人から着る服や持ち物、話す言葉も変えていく覚悟が必要です。しかし、それは会社員として非常に大きな葛藤を伴います。「本気でやるのなら変人にならないといけない。でも、そうしたら二度と保守本流には戻れない」と。そこで、なかなか個人がリスクを取って突き抜けていくのは難しいのです。保守本流が強く、そこから大きく逸脱できない。異質なものを過度に警戒し、嫌ってしまう。これは、根深い日本社会のカルチャーであり、個社の力でそれを変えていくことは困難です。

――新しいことにチャレンジしたいと思っていても、実行するにはさまざまな壁がありますね。 

留目氏 : これは、実はすごくシンプルな話だと思うんです。アイデアがあって、やりたい気持ちもあるが、できない。だったら、できない理由を取り除けばいいのではないかと。個社の力では、仮にすごく優秀な社員がいたとしても難しい。だからこそ、何社も巻き込んだエコシステムをデザインしていく必要があります。多様な人が参加できる「新産業共創スタジオ」という機能の中で、それをコーディネーションしていきたいと考えています。

■中小企業が、新産業創造のカギを握る

――こうした環境の中で、この先2030年までの約10年において、日本の経済環境や企業動向はどのように推移していくとお考えでしょうか。

留目氏 : SUNDREDを立ち上げ、新産業共創スタジオを始めてから、非常にたくさんの問い合わせや案件の持ち込みを頂いています。きっと、やり方さえ掴めば、日本も捨てたものではないと思っています。

高度経済成長期は、国が絵を描き、当時の先進国に追いつけ追い越せで一致団結し、政策主導で産業を創り上げてきました。しかし今の時代、それは難しい。また、1つの企業が引っ張っていくのも不可能です。ですが、みんなが持っているアイデアを創りにいけるような仕組みができ、コーディネーションさえできれば、日本は強いのではないかと思います。「こうすればいい」というものが提示された瞬間、一気に加速するのではないでしょうか。

――確かに、日本人はお手本というか仕組みができれば、それを学習して高めていくスピードは速いですね。

留目氏 : その中で、日本型のスタートアップエコシステム、日本型の産業創造が生まれてくるはずです。先ほどお話ししたアメリカのスタートアップエコシステムは、確かに機能はしています。しかし一方で、限られた投資家と限られた起業家に富が集中し、格差が大きくなっています。また、中国のように巨大企業だけが市場を席捲していくのも、違うと思います。

日本の場合、限られた人や企業が一人勝ちするような世界というよりも、みんなが共感できるものを、力を合わせて一緒につくる方が、合っていると思います。

――その中で、留目さんが注目していらっしゃる領域やプレーヤーを教えてください。

留目氏 : 中小企業に非常に注目しています。イノベーションや新産業の創出において、中小企業が果たす役割というのは非常に大きいと思います。大企業・スタートアップという枠組みだけではなく、中小企業も入れて産業化を実現させていきたいと考えています。

――中小企業の役割というのは、具体的には?

留目氏 : 大企業ができないドラスティックな事業転換や新規事業を成功させている中小企業って、少なくないんですよね。SUNDREDの共同創業者である金子智樹氏は、金子コードという東京・大田区の中堅企業の3代目です。金子コードという会社は、創業時は電話のコードなどを扱っていましたが、2代目社長はカテーテル事業を立ち上げました。そして3代目は、食の事業としてチョウザメの陸上養殖とキャビアの製造をスタートさせました。この陸上養殖の6次化を、SUNDREDで新産業として発展させようとしています。

このように、中小企業ならではのクイックな事業の起こし方やモノのつくりかたと、スタートアップのアイデアが合わされば、面白いですよね。そこに大企業の大きなインフラやアセットが組み合わされば、すごいことが起きるのではないでしょうか。

――なるほど。陸上養殖は非常に面白い事業ですね。

留目氏 : そうですね。テクノロジーの力で、陸上で魚を工業製品のように作ることができるようになった、ということはものすごいイノベーションです。それは単に生産技術の発展ということだけではなく、タンパク質クライシスという社会課題に対してのチャレンジという観点もあります。すると、バリューチェーンが変わってきますし、入ってくるプレーヤーも変わってくる。他にも医療など、SDGsに関わる領域は、すべて面白いと思います。

個別の業界や領域を挙げるとキリがないのですが、本当に面白いのは「イノベーションのプロセス」そのものだと思います。

――イノベーションのプロセスそのもの、ですか。

留目氏 : 先ほどもお話ししたように、アメリカ型のイノベーションが正解というわけでも、中国型が正解というわけでもありません。では、どんな形が日本にとって美しいイノベーションの創り方なのか。

昔は“会社”の中でイノベーションを興すという文脈だったと思いますが、今は“社会”の中でイノベーションを興すことが求められています。もはや、個社ではイノベーションは成立しないということですね。ひとつの商品・サービスを作ればいいという話ではなく、トータルとしてのソリューションや体験をデザインしていかねばなりません。そういう世界観の中でのイノベーションの創り方というのは、難しくも面白いテーマですね。

この新しいパラダイムにおいては「共創」のとらえ方自体、変えていかないといけないと思っています。今多くの人が捉えている「共創」は、自分が持っているものを持ち寄って、それを足し合わせて何か作ろう、という考え方だと思うのですが、これではむしろ余計なものが足されたり、個社のエゴが出てしまったりして上手く機能しません。今求められているのは、社会が求めている目的・意味を達成するために、関わるステークホルダーの間で新しい関係性を創っていくという「共創」なんです。足しあうのではなく、目的・意味を優先し、そのために引いたり割ったり、掛けたり、足したり、ゼロから作ったりという「共創」です。

■“村”を作らず、フラットにオープンに知恵をぶつけ合う

――2030年に向けて、そして新たな産業を創造していくために、ビジネスパーソンが身につけておいた方がよい視点・思考・スキルなど、アドバイスをぜひ。

留目氏 : 3つあります。1つは、本質を見極める力です。「アメリカで成功しているから」と方法を取り入れたり、オープンイノベーションや巨大プラットフォームを何が何でもやらなきゃと考えたりしている人がいます。しかし、それらはあくまで手段やツールでしかありません。目的は、成長する産業領域に対してリソースを集め、新しいバリューチェーンをつくっていくことです。その本質を見失わないようにして欲しいですね。

大企業もスタートアップも、イントレプレナーもアントレプレナーも関係なく、みんなが成長領域にリソースを集約できる仕組みを理解し、そこに飛び込んで、一緒に汗をかいていけばいいのではないでしょうか。

2つ目は、色んな人とフラットに付き合い、学んでいくことです。よく「スタートアップ界隈では」「大企業では」「新規事業では」と、“村”を作るじゃないですか。そうすると、「我々は大企業とは違うんだ」と、“村”であることの存在感を主張しがちになります。そんなものは、取り払った方がいい。一人ひとりと真剣勝負をして、フラットに関わっていくと良いと思います。

3つ目、これは色々な方がおっしゃっていますが、何ごとも興味を持って面白がってみることです。他の人がやっていることに対して関心を持って話を聞いたり、情報を集めたりする。否定をせずに拡張してみる。そんなことをやっていると、アイデアがどんどん生まれてくるし、知りたい領域が出てきます。産業化というものは、真剣勝負をして相互に作用し合い拡張していくものです。その根本には、面白がってアイデアを膨らませていくこと、否定して小さくするのではなく大きくすること。そこにエネルギーを使うことが大事ですね。

――マウンティング合戦をして相手を否定しても、そこからは自己満足以外何も生まれませんね。色んなものを取り払って、面白がって、アイデアを拡張していくことが大事ですね。

留目氏 : 私は社会人になって25年ほどですが、その間ずっと日本は負け続けているわけです。つまり、私たちの世代は誰も成功していないんですよ。もちろん、プチ成功している人はたくさんいますよ。私自身も、自分なりの成功体験はあります。しかし、未来に対して誇れるものを生み出せていません。GDPを上げられていないことが何よりの証拠ですね。

GDPをアメリカや中国みたいな成長率に持っていくことができれば、誇っていいと思うんです。今の危機的な状況を変えていくことができたら、皆で大いに称えあいたい。しかし現実は、平成時代を通して日本は誰も成功していない、これを自覚すべきです。だから、誰が誰に対してもマウンティングする必要はありません。これだけ成長しないものに対して、もっとクリエイティブになろうよ、もっとオープンに知恵をぶつけ合って、足を引っ張りあうのではなく、プチ成功を誇大広告しあうのでもなく、嫉妬するのではなく、共に前を向いて良いものを作っていこうよ、と言いたいですね。

……といっても、私は日本の未来に対しては、すごく楽観的に捉えているんです。

――そうなんですか!?

留目氏 : 日本の人口減を憂う人は多いですが、実はこの30年、40年、人口減はインパクトしているわけではありません。つまり、日本が成長しない理由は、人口減ではないということです。ですから、成長しようと思えば、それこそ1.5倍~2倍の成長速度を生み出せると思います。GDPではなくGNI(Gross National Income:国民総所得)にフォーカスすれば、ナレッジを国外に提供してナショナルインカムを増やしていくという考え方もあります。だから決して、悲観する必要はないと思います。

――少子高齢化=日本経済のシュリンクと結びつけず、もっと前向きになるべきだ、と。

留目氏 : 新興国に技術協力をするなど、世界規模で市場を見て、考えていけばいいと思います。実際、日本が停滞している間に、2倍3倍の成長をしている国はたくさんありますよね。ですから、日本も人口減のインパクトが吹き飛ぶくらいの成長が、今後10年でできるはずだと考えています。

■取材後記

今、日本に必要なのは、新しい産業の創出。そのためには、成長領域にリソースを集約せねばならない。それは個社では難しいため、オープンかつフラットに共創し、「日本ならでは」のエコシステムをデザインしていく――留目氏の提言は非常にシンプルで力強い。

中小企業への着目という視点も新鮮だった。オープンイノベーションというと、大企業×スタートアップを考えがちだが、実は日本の中小企業は豊かな特色があり、新規事業成功の独自ノウハウを豊富に蓄えている。それらをうまく取り入れられるかどうかが、日本型イノベーション成功のカギを握っているのかもしれない。

※8/28(水)に、SUNDRED株式会社と一般社団法人Japan Innovation Networkが共同で「Industry-Up Meetup –“社会起点”の”リバース”オープンイノベーションで新産業を共創する-」を開催。留目氏も登壇予定。興味をお持ちの方はぜひ足を運んでほしい。 

https://www.industry-up.com/

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント4件

  • 金谷敏尊

    金谷敏尊

    • 株式会社onnellinen
    0いいね
    チェックしました
  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

    • eiicon company
    0いいね
    “村”を作らず、フラットにオープンに知恵をぶつけ合う
  • Ayuko Nakamura

    Ayuko Nakamura

    • eiicon
    0いいね
    “村”を作らず、フラットにオープンに知恵をぶつけ合う。
    マウンティング合戦をしない。
    
    この辺り。本当にそう思う中村です。
    お互い牽制し合って不必要にガチガチに秘匿する、ともすれば競合潰しのような戦略を敢行する。
    なんというか、こんなことを私が言うのはおこがましいと思いつつも
    全ては『必要ならば、やるべし』。で、何に対してのそのアクションなのかがチグハグなことが多い。
    なんのために日々頑張るか、戦うのか常に会社として自問自答しながら進む力が日本企業にもう少し戻ってくる未来を目指したい。
    
    「think 2030」 vol.5 | SUNDRED株式会社 留目真伸氏 “アメリカ型でも中国型でもない、日本型のイノベーションを創る” https://eiicon.net/articles/1061

シリーズ

Think 2030

日本では大企業やスタートアップの共創による新規事業創出が形になってきた。 ――しかし、新型コロナウイルスの感染拡大や米中対立問題など、明るいニュースばかりとも言えないのが現状だ。 シリーズ企画「think 2030」では、激動する2020年代以降の日本企業・ビジネスパーソンの進むべき道を考えていく。