【連載/4コマ漫画コラム(58)】 新規事業に役立つ「学び直し」とは
学び直せるいい時代
新型コロナウイルスのせいで世の中の空気がとても息苦しくなってしまっていますが、長い目で見ると今は本当にいい時代です。「人生100年時代」と言われるほど寿命が延び、「自分の人生で何をするか」を自分で選択できる時代は人類史上過去に例がなかったでしょう。
「長く生きてしまうかもしれないから何かできることを増やしておかないと定年後に困るぞ」という恐怖心だけをあおるような言い方もできないことはありませんが、「長い人生と様々なチャンスのおかげで何度も違う人生を味わえる」と考えると、昨今よく耳にするようになった「リカレント教育(義務教育や基礎教育を終えて社会人になってから再度『学び直す』こと)」も当たり前であり魅力的です。
20年ほど前にアメリカに駐在していた時は20代の同僚の女性が2年ほど一緒に働いた後、「やりたいことが見つかった」といって再び(元の学校とは違う領域の)学校に学生として戻っていったのが印象的でした。日本もやっとその緒に就いた感じがしています。私の周りでもここ数年、「社会人大学に行くことにした」という人が増えてきています。
通常の義務教育や大学などの時代中に「自分の人生はこれに賭ける」と決め切れている人は殆どいないのではないでしょうか。実際に社会で働いてみて、色々経験して、様々な人達の生き様に触れて、何かが心の中に沸々と湧き出してきて「そうだ、私がやりたいのはこういうことだ」と気が付くものでしょう。「自分で自分の人生を選び取れる時代」だからこそ、「自分で自分がやりたいことを発見しその道を歩みだす」ことが可能です。本当にいい時代です。
新規事業部門になるのは学びのチャンス
今回のお題はその中でも「新規事業に携わる人の『学び直し』」です。
自らが手を挙げたのではないのに「新規事業開発」の部門に異動させられてしまって、これまでの知識だけでは分からないことばかりになっている方には、この「学び直し」の最大のチャンスがやってきたといってもいいでしょう。
特に技術系の方は、自分が担当している技術のことは詳しくても、財務や経理、マーケティングなどの基礎も知らない方が多いでしょう。「毎日が分からない言葉に囲まれている」ので大変だと思うかもしれませんが、「分からないことに出会って学ぶのが学びの基本」ですから、分からない言葉が会話で出てきたら、ノートの端っこなどにちょこっとメモしておいて、後で調べる癖をつけましょう。今はインターネットで調べれば大抵のことは分かるので「なるほど、そういうことか」というレベルの理解はすぐにできます。
新規事業の立ち上げは既存事業と違って、殆どの場合、メンバーの数が少なく、役割分担も明確にできていないので、一人一人がカバーしなければならない課題の幅がやたらと広い。そのためには言葉の理解くらいはしておかないと専門家の人とコミュニケーションが取れない。ただし、あくまで「会話をするために必要な理解」ぐらいでいいのであって、その道の専門家の人と深く議論できるレベルは必要ありません。
極端なケースで言うと、言葉なんか知らなくても立派に事業推進をすることもできます。あのヴァージン・グループの創設者リチャード・ブランソンが「売上と利益の違いを知らなかった」のは有名な話です。リチャード・ブランソンくらいになればそれでもいいかもしれませんが、専門家の方々と協力していくためには言葉の意味くらいは知っておいた方がいいでしょう。
MOTもいいけれど
ポイントは0から網羅的に学んで覚えるのではなく、分からない言葉が出てきたら理解してみる、というやり方でいいということです。
関連することとしてはMOT(Management of Technology(技術経営))教育というのがあります。MOTは「技術資産をマネージして(活かして)事業にしよう」というのが表向きの意味ですが、実はその根幹には「技術者は技術のことしか分からないから経営全般で必要な財務知識などを教えてあげよう」という考えが流れています(と言い切ってしまってすいません)。
穿った見方をすると「技術者は技術バカだから経営というのを教えてやろう」という上から目線的な教育です(これも言い切ってしまってすいません……)。もちろん、短期的に網羅的に知識として学ぶのであればMOT教育は有効な手段ですが、一番身につくのは「実際に困って」→「学ぶ」ことなので、都度都度分からないことに出会った時に学ぶのを「私は」オススメします。
MOT的な「欠けている必要知識を学び直す」のも新規事業を進めるためには必要ですが、それ以上に大事なのは「なぜこの新規事業をやらなければならないのか」について改めて自分事として納得できるかどうかを「広い視点で」学ぶことです。「SDGsに書いてある項目に関係しているから」という浅いレベルではなく、歴史や人類史や心理学や社会学や哲学や宗教や地政学や生物学など多岐に渡る視点から学び「そうだな、この事業がこの問題を解決するはずだ」ということにつながる学びができれば、最初は担当させられた受け身のテーマが自分事に変化し、本気度が格段に増します。
新規事業は新規なので、これまで自分が知らなかった世界を学ぶのに最高のネタ元です。そして、学んでいるうちに、推進している新規事業そのものではなく別の関連した課題などに出会え、新たな新規事業のアイデアにもつながっていきます。
リベラルアーツ系がやりたいことにつながる
ここまで書いたのは「既に新規事業のテーマにアサインされた方」の学びについてですが、「自らの想いを実現するために新たな新規事業を興す」というのが本来の学び直しに直結するケースです。
一般的な学校教育を終えて社会人になり、会社での仕事だけを粛々とやっていても「自分がやりたいこと」には中々出会えません。日々、仕事以外の時間で仕事とは関係のない「なんとなく気になる領域や話題」の本や情報に触れ続けるのが大事です。所謂「リベラルアーツ系」の学習がそれに当たります。日々の仕事には直結しない「自由人として生きるための学問」です。
大学では専門課程前の「一般教養」として捉えられがちですが、「(なんとなくでいいので)自らの興味で学びたいリベラルアーツ系」を見出して学ぶことが、自分がやりたいことに出会える王道となると思います。そして社会人大学に入学するとか、セミナーコースに参加するとか本格的な学び活動に踏み込むのもいいでしょう。
何が「リベラルアーツ系」なのかについてはネットなどで調べてください。私は先ほど書いた「歴史・人類史・心理学・社会学・哲学・宗教・地政学・生物学」などが好きです。
最近よく言われている「リカレント教育」は「次の仕事に直結するスキルを身につける学び」という場合が多く見受けられます。せっかくの人生。まずは「自分がやりたいこと」を見出す学びを続けていただきたいものです。
一方、自分のことを振り返ってみると、自らやりたいと思う新たな領域との出会いのきっかけの多くは「知り合い」でした。変わったことをやっている知り合いの話を聞いたり、知り合いが進めてくれた本を読んだりしたことでした。会社の仕事とは違う知り合いを広く持っていたのが財産だったなあ、と今頃になって感謝しています。
そして今もあれこれの知り合いから刺激を受け続けているので、これからも学んで活動するぞぉ!!(会社を辞めて5年経って、同じ類のことばかりやっている感じが少しあるので反省を込めて。)
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。
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