【連載/4コマ漫画コラム(8)】お金の調達法②:(社内)投資ファンドの創り方
■融資と違う「投資」で未来を創る
前回は「企業に勤める(若手の)アナタが新規事業等のためにお金を獲得する方法」でした。今回は「企業である程度エラくなった(年くった?)アナタが『若手の提案等に投資ができるように』お金を準備する方法」についてお話ししましょう。一番大事なのは、アナタ自身が「未来を創るのには投資が必要」ということを心底信じることです。
投資は融資と違います。投資は「不確実なものにお金を使う」ことです。融資は「返ってくるのが当たり前なことにお金を使うこと」です。未来は不確実なものです。その不確実な未来に(現在の事業とは異なっていても)挑戦すること無しに会社が持続的に成長・発展することはできません。そのためには「投資が必要」です。
よく、新規事業の提案をすると「使うお金はいつ返ってくるんだ?」とか「売上は100億円は確実に越えるのだろうな」などのコメントをする人が(本当に)多いけれど、その人たちは「投資」ではなく「融資」の概念で考えているのです。それはある意味仕方がないことです。会社のエライ人たちは短期的な業績を常に求められているので、せいぜい1年間の経費と、その経費を使ったアウトプットにしか頭が行かない毎日を送っているからです。しかし、本当の経営者は「未来を創るのには投資が必要」ということを分かっています。課長や部長や専務が分かっていなくても、社長は分かっています。普通は、部長以上の方の中に何割かは分かっている人がいるはずです。(社長以下全てのエライ人が全くそう思っていない会社の方は……残念だけど、諦めて転職するか、自分を殺して会社にしがみつきましょう。)
■「投資ファンド」は「べき枠」で説得する
「未来を創るには投資が必要」と分かっていても、なかなか「投資」のお金を「会社」として準備できないのが通常です。昔は、全てのお金がコンピュータで把握されたりしていなかったので、いわゆる太っ腹な部長(親分肌とも言う)は、「自分のポケットマネー」を他の大きな予算の中に紛れ込ませるなどして、色々な投資をしていました。しかし、ルールとシステムに縛られた現代の会社では、経理の係長が本部長に向かって「このお金はなんでしょうか?予算に計上されていませんが」などと言えるようになってしまったので、なかなか「ポケットマネー投資」は難しいのが現状です。
投資するためのお金は、「ファンド」的な性格を持たせて予算化しておくのが一番いい方法です。「ファンド」は「総枠」は決まっていても、年初に「何に使うか」は決まっていないお金です。通常の経費は、年度が始まる前に「来年度はXXにYY円使う」という形で予算化しますが、「ファンド」では「何に使うかは決まっていないけれど、このくらいの金額を投資として使う」という「枠」だけが設定されているものです。ベンチャーキャピタルもそうなっていますね。ベンチャーキャピタルが準備するファンドは、ファンドのお金が集まった時点では、どこの会社に投資するかは(当然)決まっていません。
そして、経費であれば「節約するほうがエライ」のですが、ファンドは「使いませんでした♡」は最悪です。「意味があるようにきっちりその枠を投資してチャンスを創出する」のが役割です。それでは「投資ファンド」をどうやって作ればいいのか。
最初に考えるのが「べき枠」です。会社のサイズやキャッシュフローや銀行預金を考え、「売上がXXもあるウチの会社であれば、新規事業の領域にYY円くらいは投資『すべき』」という「べき枠」を経営陣に提案するのです。社長に直接提案できれば良いですが、そうでなくても社長に提案ができる立場の人を洗脳、いや、説得して、そういう提案をしてもらいましょう。普段、「鉛筆一本でも無駄にするな!」とかケチケチなことばかり言っている人でも、しっかり話をして、日々は忘れている「経営としての視点」を思い出させれば、「そうだ、投資は必要だ」と覚醒します。(とは言ってもおエライさんの2割くらいしかいませんが……)
「べき枠」は会社全体の視点で作るのが望ましいですが、部門ごとにも「ウチの会社のこの部門では、これくらいは投資すべきだ」という考え方で「べき枠」を作るのも「あり」です。
■「投資」を行うために
「投資」のファンドをどのように運営していくかについては、様々なノウハウやプロセスが必要ですが、一番大事なのは「誰に任せるか」です。「未来の不確実なこと」に外野が一杯口出しをするようでは、投資はできません。
また、当たり前ですが、お金がなければ投資はできません。ちゃんとした儲けが出せる事業(Cash Cow:ミルク(現金)を生み出してくれる牛)があって初めて未来への投資が可能になります。つまり、現業で稼いでいただくのがとても重要です。現業を支えている人たちに敬意を払いながら、「今、こういうことに挑戦しているんだ。皆さんのおかげ!」と頻繁に報告しましょう。新規事業は現業の方々には嫌われているものですから「明るく」「感謝」がポイントです。
できれば、会社が元気なうちに「投資ファンド」を作って、「投資」を文化として定着したいものです。「明日、倒産するかもしれない」となったら「未来」なんて創っているヒマはありませんから。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。