物流業界の次世代デファクトスタンダード創出を目指す『TLCC』が第2弾マッチングイベントを開催!大手5社が語った「今、共創で実現したい未来」とは?――『TLCC MATCHING DAY #02』レポート
東京都が実施する「TIB CATAPULT(グローバルイノベーションに挑戦するクラスター創成事業)」の令和7年度採択クラスターである『Tokyo Logistics Co-Creation Cluster(以下、TLCC)』の第2弾イベントとなる「MATCHING DAY #02(リバースピッチ+交流会)」が7月29日、東京・虎ノ門で開催された。
『TLCC』とは、物流領域に関わる企業が連携し、調達から配送まで産業全体の社会課題解決に挑む共創型クラスターのこと。物流領域に面的なイノベーションを起こすことで、人々の暮らしを支える物流のデファクトスタンダード創出を目指している。
“物流大手企業が本気で語る「今、共創で実現したい未来」”と題した本イベントは、物流業界をリードする企業のリバースピッチを通じて各社が抱える課題や共創ニーズを紹介するとともに、参加者同士の交流を促進し、新しい連携プロジェクトやビジネスモデルの創出につなげることを目的としている。
イベント当日は、参加したスタートアップやオープンイノベーション・新規事業者担当者たちが真剣な眼差しを送る中、物流事業者5社(住友倉庫、上組、日本GLP/Monoful Venture Partners、郵船ロジスティクス、ヤマトホールディングス ※登壇順)がリバースピッチを行い、物流業界や各社の課題に基づく共創と連携の必要性を訴えた――。本記事ではイベント当日の模様をレポートする。
▲「MATCHING DAY #02」の参加者は100名を超え、会場は熱気に包まれた。
PoCの壁を越え、社会実装に向けたオープンイノベーションを目指す取り組み
イベントの開始に先立ち、東京都 スタートアップ戦略推進本部の阿部圭悟氏が挨拶を行った。阿部氏は官民協働によってグローバルなスタートアップの輩出を支援する「TIB CATAPULT」の取り組みに加え、「TIB CATAPULT」から組成された『TLCC』についても紹介した。
『TLCC』では、物流企業とスタートアップが集い、オープンイノベーションの手法を用いて物流領域の課題解決を目指すとともに、スタートアップのグローバルな成長とスケールアップを支援していくと説明。また、単なるマッチングにとどまることなく、「PoCの壁を越え、社会実装に向けての支援に注力していく」と強調した。
続いて、東京都とともに事業を推進する株式会社eiiconの担当者が『TLCC』の具体的なスキームについて解説し、「この取り組みによって人々の暮らしを支える物流業界のデファクトスタンダードを創出していきたい」と力強く語った。
以下に、物流大手5社が「共創で解決したい課題/実現したい未来」について語ったリバースピッチの模様を登壇順にお届けする。
【株式会社住友倉庫】
物流インフラを基盤に、ネットワーク協創による社会課題解決と次世代物流の創出を実現する
同社は、祖業である倉庫業を中核に港湾運送業・国際輸送業・陸上運送業などの物流事業を展開するとともに、物流事業用地などを活用した不動産事業も営んでいる。
2026年度から2030年度までの新たな中期経営計画において「事業領域の拡張と挑戦風土の醸成」というスローガンを掲げた同社は、成長戦略の一つに「オープンイノベーション型の次世代産業創出」を打ち出し、社内にイノベーション推進課を設立するなど、社外の多様なステークホルダーとの共創・連携を推進しているという。
「物流インフラを基盤に、ネットワーク協創による社会課題解決と次世代物流の創出を実現」というコンセプトに基づき、同社は3つの共創テーマを提示した。
「(1)AIエージェントによる物流データ連携」では、荷主や運送会社などの関係各社がそれぞれ異なる業務システムを使用することで発生する非効率の解消、「(2)人とロボットが協働する物流スタンダード」では、協働型・自律型のマテハン技術やフィジカルAI技術を活用した労働力不足への対応、「(3)汎用的なスマート物流オペレーション」については、エッジAIなど複数の技術の組み合わせにより、多品種・変動環境でも機能する物流オペレーションの構築を目指すとした。
▲共創を推進していくにあたり、住友倉庫が提供できるリソースやアセット
同社は「当社の持つ実証環境や物流ノウハウと、皆さんの技術・発想を掛け合わせることで、物流課題の解決のみならず新たなサービスや事業機会の創出につなげていきたい」と語り、ピッチを締めくくった。
【株式会社上組】
国内最大級の港湾アセットを開放し、物流の常識を覆すスマートポートと“創貨”による新商流を実現する
来年で創業160周年を迎える同社は、港湾物流と倉庫業を中心に事業を展開する総合物流企業だ。港湾物流に関しては国内の主要六大港を中心に全国で港湾輸送を展開するほか、東京と神戸に単独のターミナルを持つなど国内最大級の港湾アセットを有している。
同社は、「人材・技能労働力不足」「脱炭素化・エネルギー需給のミスマッチ」「既存物流モデルの限界と“創貨”への進化」を、自社単独では解決できない港湾物流の課題として認識し、『TLCC』に参画したという。“創貨”とは、「貨物に先端技術で付加価値を与え、新たな物流を生み出す試み」を意味している。
共創に関しては3つのテーマを設定した。「(1)AI等で実現する港湾オペレーション最適化と貿易DX」では、自社のリアルアセットと先端ITを融合させ、次世代のスマートな港湾・貿易モデルの共創を目指す。「(2) 新エネルギーの最適解に挑む脱炭素ポートの構築」では、東京都江東区・海の森を拠点にカーボンニュートラルを目指すとともに、水素ステーションの黒字化など経済性と実用性の両軸を見据えた仕組みを構築する。
▲上組とトヨタエルアンドエフ東京、エスケイエムのJVによる商用インフラ、「海の森水素ステーション」
最後の「(3)スマートポートから挑む農産物の創貨と輸出入の拡大」では、農作物に新たな付加価値を加えることで、既存顧客や環境に依存せずに輸出入を拡大する新しい事業の創出を目指すとした。
同社は、「国内最大級の港湾アセットを開放し、物流の常識を覆すスマートポートと創貨による新しい物流の実現を目指すためにも、まずは社会実装を見据えて皆さんと事業の形を作っていきたい」と熱意を見せた。
【日本GLP株式会社/Monoful Venture Partners】
2028年竣工・ALFALINK東京昭島の施設開発と入居企業を強力に支援するソリューション開発に向けて
2026年9月に運営施設のブランド名を「GLP」から「Marq(マーク)」へと刷新する同社は、日本国内で187カ所・合計350万坪超の物流不動産を運営する。開発からリーシング、プロパティマネジメントまでのすべてを自社で一貫して行えるリソースを有しているほか、同社の運営施設には大企業を中心に290社のテナントが入居しており、3PLや荷主、EC企業などとの強固なネットワークを強みとしている。
同社が開発・運営する物流施設の中でも、10万坪以上の延床面積があり、複数棟で構成される大規模多機能型物流施設は「ALFALINK(アルファリンク)」と呼ばれている。2028年以降、東京都昭島市に、総延床面積25万坪超、国内最大級の物流施設となる「ALFALINK東京昭島」が順次竣工する予定であり、「ALFALINK東京昭島における共創メンバーを募りたい」と説明した。
▲「ALFALINK東京昭島」の完成イメージ
同社の持つスタートアップとの共創イメージは、ALFALINK東京昭島を始めとする物流施設開発における技術協力、入居企業の事業成長を後押しする実行力のあるソリューションの開発、そして物流施設を核とした地域共生の促進だ。
同社は、「入居企業の事業成長を後押しする」というスローガンのもと、先進的物流施設の開発だけでなく、物流事業者の課題解決を後押しするソフトサービスも提供している。当日は、そのソフトサービスの一例として、入居企業の生産性向上に寄与する「自動化・ロボティクス導入の支援」、入居企業の事業成長と販路拡大への貢献を目的とした「荷主と入居企業のマッチング支援」、入居企業の人材採用やESGの取り組みに直結する「地域共生・ESG」等のサービス領域を紹介するとともに、特にソフト領域で共創できるスタートアップに期待していると強調した。
同社は、「単なる物流センターではなく、街を一緒に作っていくイメージです。ALFALINK東京昭島をフィールドにして、皆さんと一緒に新しい物流を作っていくつもりです」とメッセージを送った。
【郵船ロジスティクス株式会社】
トータルコストシミュレーター構想。“どう運ぶか”を、コストだけでなく戦略で選ぶ時代へ
同社は、「“どう運ぶか”をコストだけでなく戦略で選ぶ時代へ」をテーマに掲げ、トレードオフの関係にある輸送コストと在庫コストを適切に比較し、荷主の戦略的かつ合理的な意思決定を促す「トータルコストシミュレーター構想」について説明した。
現状、荷主企業と物流企業の間では、目に見えやすい輸送コストが議論の中心になりやすい。その一方で在庫の保管コストやキャッシュの拘束、金利などは見過ごされており、経営目的に応じた最適かつ合理的な輸送戦略の立案には、まだ改善の余地が残されている。それらの原因は、輸送管理と在庫管理のツール・部門・データの分断(サイロ化)と、商品・頻度・モードなどの変数が多すぎることにあるという。
同社が構想するトータルコストシミュレーターは、必要なデータを事前に取り込み、頻度・モード・発注量・リードタイムといった条件変数を加えることで、輸送コストと在庫コストを統合的に可視化するものだ。それにより「顧客は複数のシナリオを比較した上で輸送戦略を設計・判断できるようになる」と説明した。
▲コストを統合可視化することで輸送戦略を描く、「トータルコストシミュレーター構想」
共創企業に求める知見・技術には、計算・推論に関わる最適化アルゴリズム、シミュレーション、AIによるシナリオ提案・推奨、データ統合・クレンジング、UI/UX設計などが挙げられた。
同社は、「当社からはシミュレーションのもとになる各種データ資産、物流ノウハウ、現場インサイト、グローバル荷主との接点、PoCの実施機会などを提供できると考えています。物流の意思決定をより戦略的なものに変えていきたいと考えている方は、ぜひお話しできればと思います」と呼びかけた。
【ヤマトホールディングス株式会社】
世界各国のプレイヤーとイノベーションを推進中。共創企業とともに新たな物流の創出を目指す
「宅急便」で知られる同社は、社員数約17万人、セールスドライバー約5.3万人、集配車両4.2万台(いずれも2026年3月末時点実績)を有する物流業界のキープレイヤーであり、「少しの改善でも、全社に広げれば大きな効果が得られる会社である」と自社の特徴について説明した。
同社は自社内にイノベーション推進機能を有し、CVCによる出資やLP出資、新規事業開発なども積極的に推進している。とくに近年は海外パートナーと提携することで、ロボティクス・マテハン・AI・トラベルテック・サプライチェーンなど世界各国の様々な最先端技術にアプローチしているという。
今回のイベントでは、ヤマトグループが社会課題解決のために取り組んでいる「労働力不足への対応」「デジタル化の推進」「お客さまの受け取り利便性の向上」といった様々なテーマに対して、新たな価値や新たな物流の創出を目指す企業を幅広く募集したいと呼びかけた。
また、同社はこれまでの共創事例として、Bounce社と共創したインバウンド向けの手荷物一時預かりサービスや、SpiralAI社と共創した多言語に対応した生成AIの技術を用いたサイネージ型観光案内サービス、Shinkei社の魚の活締め自動化ロボットを用いた実証プロジェクトなどを紹介した。
同社は、「連携・共創のスタイルに明確な“型”はないと思っています。私たちもスタートアップの皆さんの真剣さに負けない熱量を持って取り組んでいるので、当社の取り組みに興味を持っていただける方は、ぜひ積極的にお話しさせてください」と力強く語った。
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5社によるリバースピッチ終了後は、会場に集まった参加者が登壇企業と1対1で直接対話を行うスピードデーティングが実施された。各社のブースでは物流業界の課題、互いの有する技術・リソース・アセット、具体的な共創アイデアなどに関する熱量の高い議論が交わされた。
また、スピードデーティング終了後のフリーネットワーキングでは、登壇企業・スタートアップ・新規事業担当者といった所属企業間の垣根を越え、多種多様な座組で活発な意見交換が行われた。
取材後記
人口減少による労働力不足や働き方改革、様々な法規制の強化、社会からの脱炭素要請など、物流業界は大きな変革期を迎えており、解決すべき課題も多岐にわたる。
そして、そのような課題のほとんどが一社単独では解決できない複雑な課題であることも明らかだ。今回で『TLCC』のMATCHING DAYは2度目の開催となるが、登壇した5社はもちろんのこと、彼らのピッチに耳を傾けていた参加者それぞれが切実な課題感を持ち、本気で課題解決を目指している熱量と意気込みが伝わってきた。
今後も『TLCC』を軸とした物流業界の面的イノベーションを目指す共創・連携の輪が広がることにより、人々の暮らしを支える物流業界の次世代デファクトスタンダードが生まれることを期待したい。
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(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)