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相模原発、加飾印刷技術でアップサイクル紙に新価値を――デュプロ×kitafukuが挑む共創プロダクト開発の舞台裏

相模原発、加飾印刷技術でアップサイクル紙に新価値を――デュプロ×kitafukuが挑む共創プロダクト開発の舞台裏

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相模原市が主催する『Sagamihara Innovation Gate』(以下、SIG)は、市内企業の新規事業開発や課題解決を支援するオープンイノベーションプログラムだ。2023年度からスタートした同プログラムは、市内外の企業をマッチングし、技術やノウハウを持ち寄ることで、新たなプロダクトやサービスの創出を伴走支援する環境を提供している。

2024年度の『SIG』を通じ、紙加工機メーカーのデュプロ(相模原市)と、クラフトビールの副産物を再生紙にするスタートアップ・kitafuku(横浜市)が出会った。両社は共創事業として、デュプロの加飾印刷や紙加工技術を活かしたクラフトビールペーパーの新たな製品群を企画・制作。「アップサイクル」をテーマとした新しい価値の創出に挑んでいる。

本記事では、デュプロの取締役・中村良之氏、kitafukuの代表・松坂匠記氏と取締役・松坂良美氏への取材を通じ、両社がどのように事業を立ち上げ、試行錯誤を経て具体的な成果に結び付けたのかを紹介する。相模原から生まれたこの取り組みが、どのように社会実装への道を歩んでいるのか――その過程を、本記事でたどりたい。

紙加工機の専門メーカーも共鳴、ビール製造の副産物をアップサイクルした「クラフトビールペーパー」

――まず、デュプロ社の事業概要と、共創に取り組むことになった背景についてお聞かせください。

デュプロ・中村氏: 当社は、紙を加工する機械の開発・製造・販売を長年手がけてきた会社です。しかし昨今はデジタル化が進み、紙市場の大きな構造変化が起きています。そうした中で、紙が持つ可能性から新たな価値を生み出していきたい――こう考えたことが、新規事業開発や今回の共創に取り組む背景となっています。

▲株式会社デュプロ 取締役 事業開発プロジェクト 中村良之 氏

――相模原市が主催するオープンイノベーションプログラム『SIG』を知ったきっかけは何だったのでしょうか。

デュプロ・中村氏: きっかけは、相模原市の担当者から本プログラムをご案内いただいたことです。当社としても新規事業の開発を進めていく必要性を認識していた時期でもあり、検討のうえ参加を決定しました。

これまで、他社と一緒に製品の改善などに取り組んだことはありましたが、今回のように新規事業テーマの探索段階から着手し、そこから共創パートナーを見つけていく取り組みは初めてです。「手探りな部分もありましたが、まずは挑戦してみよう」と考え、『SIG』に参加することにしました。

――kitafuku社はどのような事業をされているのですか。

kitafuku・松坂(匠)氏: 2019年に共同創業者である妻(松坂良美氏)とともに、「地域の課題を二人三脚で解決する」をミッションに掲げて会社を立ち上げました。現在は、クラフトビールの製造過程で生じるモルト粕をアップサイクルし、紙を作る事業を展開しています。

当社が拠点を置く横浜市はクラフトビール醸造所が全国でも特に多い地域ですが、製造時に出るモルト粕が十分に活用されていないという地域課題がありました。「これをどうにかできないか」と考え、試行錯誤を重ねた末に、モルト粕を使った再生紙づくりにたどり着いています。

▲株式会社kitafuku 代表取締役 松坂匠記 氏

――『SIG』に参加された理由もお聞かせください。

kitafuku・松坂(匠)氏: より大きな価値創出を目指すには、外部パートナーとの連携が不可欠だと考えたためです。紙は製造するだけでは価値になりません。印刷や加工などさまざまな工程を担う企業との連携があって初めて事業が成り立ちます。実は、私も妻も元システムエンジニア。製紙業界に明るくなかったので、紙加工のプロであるデュプロさんのお話を伺い、技術の高さに驚きました。それに、同じ神奈川県内で特に注目が集まっている相模原市へも事業を広げていきたい思いもあり、『SIG』に参加を決めました。

――数あるパートナー企業候補の中で、デュプロ社がkitafuku社と取り組もうと判断された決め手は何だったのですか。

デュプロ・中村氏: 当社としては、紙に新たな価値を付加したいという思いがありました。その中で、kitafukuさんが手がけている「クラフトビールペーパー」の取り組みに強く惹かれたのが率直な理由です。松坂さんとお話しする中で、この紙を世の中に届けたいという強い熱意も伝わってきたため、「ぜひ一緒に取り組みたい」と考え、パートナーとして選ばせていただきました。

世界で唯一、クラフトビールペーパーに「輝き」を灯す――難加工を突破した相模原のものづくりの底力

――続いて、共創プロジェクトの具体的な内容をお聞きしたいです。

デュプロ・中村氏: kitafukuさんの「クラフトビールペーパー」をより付加価値の高い製品にするため、当社の加飾印刷や断裁技術を活用して、加工検証に取り組みました。

――どのような役割分担で進められたのでしょうか。

kitafuku・松坂(匠)氏: 大枠としては、私たちが企画やマーケティング、それにクラフトビールペーパーの調達を担い、デュプロさんには開発面を担っていただくという役割分担です。お客様の要望を形にするための手段を、デュプロさんに検討・対応いただきました。

――2025年3月に開催された『SIG』の成果発表会では、実際に両社で形にされたプロダクトを披露されました(※レポート記事)。改めて、どのような製品が仕上がったのか教えていただけますか。

kitafuku・松坂(匠)氏: クラフトビールペーパーを使用した「ノート」「名刺」「名刺ボックス」「ギフトボックス」を制作しました。中でもノートは反響が大きく、横浜に寄港する豪華客船「飛鳥Ⅲ」の船室に置かれるアイテムとして採用されるなど、具体的な成果も生まれています。

▲クラフトビールペーパーを使った製品群。デュプロ社の持つ「加飾印刷技術」により、紙の表面に立体的な質感と輝きを付与。素材の風合いを活かしつつ、手に取る人の感性に響く高級感を実現している。

――両社が共創を進めるにあたり直面した課題はありましたか。また、どのように乗り越えたのかもお伺いしたいです。

デュプロ・中村氏: 技術面では、アップサイクルペーパー特有の目が粗い性質に苦労しました。インクを吸ってしまい、思うような仕上がりにならなかったのです。しかし、前処理の方法を見直すなど試行錯誤を重ねた結果、現在は安定して高い品質で生産できるまでになっています。

また、取り組みスタート時は、この紙をコーヒーやお酒といった商材の包装材として活用する案を検討していました。特別な紙で包むことで、内容物の価値も高められるのではないかと考えたからです。ただ、アップサイクル包装に魅力を感じてもらえはしたものの、採用していただくのは難しかった。そこで、松坂さんからの提案で、ノートや名刺といった用途に切り替えることにしたのです。

――技術面と用途面の課題を乗り越えてこられたのですね。松坂さんはいかがですか。

kitafuku・松坂(匠)氏: やはり「最初の一人目のユーザー」に出会うまでが最大の関門でした。当初は相模原市内企業や自治体での採用を目指して奔走していましたが、先に他地域での導入が決まったんです。その実績が転換点となりました。「相模原発の取り組みなら関わりたい」と制作を支えてくれるパートナーが現れ、副市長もこの挑戦に共鳴してくださいました。このようなプロセスを経ながら現在に至っています。

――松坂さんから見て、共創パートナーとしてのデュプロ社の魅力は、どういった点にありますか。

kitafuku・松坂(匠)氏: やはり、ものづくりのプロである点ですね。私たちの無茶な要望にも本当に粘り強く向き合い、形にしようとしてくださる。その姿勢に大きな信頼を感じています。

kitafuku・松坂(良)氏: 小ロットへの柔軟な対応も、非常に魅力的でした。例えば、複雑な裁断が必要なギフトボックスをつくる場合、「まずは50個だけ」といった依頼は、通常なかなか受けてもらえません。パッケージ製品等の少量生産は難しく、1万個程度が最低ロットになることが多いのです。しかしデュプロさんは、裁断できる機械メーカーでもあるため、検証のために少量でもスピーディに形にしてくださいました。その対応力には本当に助けられました。

▲株式会社kitafuku 取締役 松坂良美 氏(この日は生後間もないお子さんを抱きながら取材に応じてくれた)

kitafuku・松坂(匠)氏: それと、クラフトビールペーパーのような環境配慮型の紙に対して、加飾を施せるのはデュプロさんだけなんです。これまでも他社でメタリック印刷などは試してきましたが、金箔をのせるような煌びやかな装飾となると、デュプロさんの仕上がりの質は一段違います。

実際、トレーディングカードのサンプルを複数社で試作したのですが、デュプロさんで印刷したものを手渡すと「これ、めちゃくちゃ良いね!」と周囲の反応が明らかに変わります。こうした点からもデュプロさんの加飾技術の高さを感じます。

――中村さんにもお聞きしたいのですが、クラフトビールペーパーはデュプロ社にとっても未知の素材だったと思います。挑戦することへの迷いはありませんでしたか。

デュプロ・中村氏: おっしゃる通り、このようなアップサイクルペーパーは、当社ではほとんど扱ったことがありませんでした。しかし、将来的にはサステナブルな紙は必ず需要が高まると考えています。いずれは取り組むべき課題だと思っていたので、今回、挑戦する機会ができてよかったと思っています。

地域の魅力を発信するプロダクトとして豪華客船でも採用――インバウンド需要も見据えた新展開

――今回のプログラムで誕生したクラフトビールペーパーのラインナップとしては、ノート、名刺と名刺ボックス、ギフトボックスだということですが、現状、どのぐらいの価格で販売されているのですか。

kitafuku・松坂(匠)氏: 主力のノートは、2冊セットで1,000円などケースバイケースです。BtoBだと先ほどご紹介した豪華客船や、企業や個人事業主の購入も多いです。名刺ボックスの発注も増えていて、1,000箱は制作しています。

――どのような顧客がメインターゲットなのでしょうか。

kitafuku・松坂(匠)氏: 主に想定しているのは、高所得層やインバウンドのお客様です。特に、サステナブルを意識しているような人たちに届けていきたいと考えています。インバウンドのお客様に関しては、ただのサステナブルな商品ではなく、そこに日本だからこその何かをプラスして、お届けしたいと思っています。

現在、その第一歩として、観光協会さんや自治体さんと一緒に、クラフトビールペーパーを使ったノートづくりのワークショップを開催しています。また、今後は国際会議などの場にも展開していくことを目指し、そうした機会を通じて 様々な国、世代へ認知を広げていきたいと思っています。

――先ほど、豪華客船「飛鳥Ⅲ」に納品したというお話がありましたが、それはどのようなきっかけで実現したのですか。

kitafuku・松坂(匠)氏: 横浜銀行さんからのご紹介です。「飛鳥Ⅲ」で実施されている『ASUKAⅢ meets 47都道府県』という、各地の地域商材を紹介する企画の中で、神奈川県の商材として船室に置きたいというご相談をいただきました。数ある商品の中から当社のノートを選んでいただけた理由としては、サステナブルである点に加え、お客様が持ち帰ることのできるアイテムであること、さらに印刷まで県内で完結している点などを評価いただいたのではないかと考えています。

台湾のイベント出展で見えた確かなニーズ――サステナブルな新素材と高度な加工技術で、グローバル市場を拓く

――今後、このプロジェクトをどのように発展させていきたいとお考えですか。

kitafuku・松坂(匠)氏: 直近では、2027年に横浜市で開催される国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)に向けて準備を進めています。さまざまな来場者が見込まれる中、デュプロさんと一緒に付加価値のある商品を届けていきたいです。また、『SIG』参加当初から、地域課題をビジネスにして、グローバルに展開していくことを見据えています。それは変わらず海外展開も引き続き目指しています。

――グローバル展開という観点では、2025年に台湾で開催されたアジア最大級のスタートアップイベント『InnoVEX2025』に出展されました。現地での反響はいかがでしたか。

kitafuku・松坂(匠)氏: 日本でもそうですが、クラフトビールペーパーに加飾や立体感が加わったことで、手に取った瞬間に「おっ」と驚いてもらえるようになりました。見た目の質感や光り方、触れたときの手触りから直感的に魅力が伝わるようになったのは、大きな変化だと感じています。

実際、イベントでもノートはとても好評で、「SNSでシェアしてくれたら1冊プレゼント」という企画を行ったところ、またたく間に配布分がなくなりました。中には「シェアの方法は分からないけれど、どうしても欲しい」とおっしゃって台湾ドルを差し出される方もいて、戸惑いつつもうれしい反応でしたね。

――素晴らしいですね。中村さんにもお聞きしたいのですが、機械メーカーであるデュプロ社にとって、この取り組みは新しい挑戦だったと思います。社内での受け止め方はどうでしたか。

デュプロ・中村氏: 社内にはもともと「新しいことに挑戦していこう」という風土があり、本プロジェクトについても厳密なゴール設定を求められるというより、「まずは取り組んでみよう」という受け止め方でした。社長も「挑戦してみるといい」という考えで、適宜報告を行いながら進めています。

――『SIG』に取り組んでみての感想もお聞きしたいです。

デュプロ・中村氏: これまでは、外部企業と密にコミュニケーションを取りながら開発を進める機会は多くありませんでしたが、今回のような共創の形を経験したことで、大きな刺激を受けています。松坂さんの動きを見ていると、フットワーク軽くさまざまな場所に行かれますし、そこで得た情報を次に活かされており、その姿勢には学ぶ点が多いと感じています。また、『SIG』への参加を通じて、相模原市内の企業と接点を得られたことも、意義のある機会だったと捉えています。

取材後記

今回の取材を通じ、異なる分野の企業が「紙」という共通の素材を軸に、新たな価値創出に挑む様子が見えてきた。技術面での壁、用途の見直し、最初の顧客を得るまでの苦労――そうした試行錯誤の積み重ねが、豪華客船の船室にノートが採用されたり海外での反響という形で実を結びつつあるのだろう。『SIG』は、そうした共創の可能性を引き出す場として、着実にその役割を果たしている。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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  • 眞田幸剛

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