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桑名×スタートアップの共創から現場改善DXサービス「GEMBA」が誕生――『くわなスタートアップ・オープンフィールド』構想のモデルケースに迫る

桑名×スタートアップの共創から現場改善DXサービス「GEMBA」が誕生――『くわなスタートアップ・オープンフィールド』構想のモデルケースに迫る

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三重県桑名市では2024年3月、スタートアップとの共創を戦略的に推進するため『くわなスタートアップ・オープンフィールド戦略』を策定した。この戦略は、桑名をフィールドとした課題解決や新たな挑戦を通じ、スタートアップとの共創を生み出し続けることを理念とした「くわなスタートアップ・オープンフィールド」の構築を掲げるものだ。

この構想を実現すべく2024年度に始動したのが、事業共創プログラム『MASH UP! KUWANA』。同プログラムに採択されたスタートアップが、桑名市役所、市内事業者、地域団体等のプレイヤーとともに自らの共創プランを実証する。2024年度の同プログラムでマッチングしたのが、本記事で登場する大洋産業株式会社と株式会社GEMBAだ。

愛知県に拠点を置くスタートアップ・GEMBAは、桑名市内で鋳物製品を製造する大洋産業と連携し、現場改善DXサービス「GEMBA」の共創トライアルを実施した。実際の現場での試験運用を通じて改良を重ね、2025年春、正式リリースに至った。TOMORUBAでは両社に取材し、リリースに至るまでのプロセスや、「くわなスタートアップ・オープンフィールド」の意義に迫った。

アナログな紙運用に限界を感じていた現場と、DX構想を携えたスタートアップの出会い

――まず、GEMBAの藤井さんにお伺いします。御社が桑名市に興味を持ち、『MASH UP! KUWANA 2024』への参加を決めた理由を教えてください。

GEMBA・藤井氏: 『MASH UP! KUWANA』がスタートする約1年前、私たちは「STATION Ai(※1)」の前身である「PRE-STATION Ai」に入居し、デジタル防災をテーマに自然災害対策に取り組んでいました。そこに、桑名市の皆さんも視察に来てくださり、意見交換をする中で「何か一緒にできたらいいですね」と話したのが最初です。

その後、桑名市が『MASH UP! KUWANA』というプログラムを立ち上げられました。ちょうどその頃、当社では私が長年経験してきた製造業の現場管理経験を活かした新規事業を構想しており、労働災害をテーマとしたサービスに挑戦しようとしていたタイミングでした。

東海エリアは製造業が集積しており、桑名市にも多様な製造業が立地しています。桑名市の「現場」の課題解決につなげられる可能性を感じていた時期と、このプログラムの開始が重なり、ぜひ一緒に取り組みたいと考えたのです。

※1)STATION Ai=愛知県名古屋市にある、日本最大級のオープンイノベーション拠点かつスタートアップ支援拠点。

▲株式会社GEMBA 代表取締役 藤井聡史 氏

――プログラムに応募された時点では、まだサービスは完成しておらず、構想段階だったということですね。そもそも、製造現場の改善・保全・安全衛生を一元管理できるアプリ「GEMBA」を開発しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

GEMBA・藤井氏: きっかけは、このプログラムに応募する少し前に出展した展示会でした。当時、私が手がけていた防災関連のサービスを見てくださった製造業の方が、「これ、工場の中でも使えるよね」と言ってくださったんです。私も長くデンソーの製造現場で働いてきた経験があるため、振り返ってみると、工場の中ではいまだに紙で記録し、それをExcelにまとめ直し、写真を取り込んで整理するといった作業が多く残っていると気づきました。

そうした分断された業務を1つのソフトウェアに集約できれば、まとめる作業に費やしていた時間を業務の改善に使えるようになるのではないかと感じたのです。「これは解決できる課題だ」と考え、今の取り組みに至っています。

――寺田さんにもお聞きしたいのですが、鋳物製造業を手がける御社が『MASH UP! KUWANA 2024』やGEMBAという会社に関心を持った理由は何だったのでしょうか。

大洋産業・寺田氏: 私が藤井さんに最初にお会いしたのは、2024年12月に開催された「MASH UP! KUWANA」のイベントです。その少し前に、桑名市役所の方や藤井さんが当社へ来てくださり、プログラムの案内をしてくださいました。その際は私の上司が対応したのですが、何社か来られた中でも「藤井さんの会社は面白そうだから、『MASH UP! KUWANA』のイベントを見学してきたらどうか」と言われ、私が参加することになりました。

さらにその少し前の話になるのですが、2024年の春頃に当社で安全衛生委員会(※2)が立ち上がり、私が2024年度の推進責任者に任命されていました。藤井さんがおっしゃったように、現場を巡回し、問題点を手書きして写真を撮り、それをパソコンで打ち直して共有するという作業をしていたのです。

担当社員も通常業務と並行して対応するため、負担は少なくありませんでした。藤井さんのプレゼンで、こうした課題を改善する取り組みだと聞き、強く関心を持ったのが最初のきっかけです。

※2)安全衛生委員会=労働災害防止や作業環境改善などについて、会社と従業員が協議する組織。常時50人以上の労働者を使用する事業場に設置義務がある。

▲大洋産業株式会社 安全衛生委員会2024年度推進責任者 寺田孝三 氏

高温設備や重量物を扱い、外国人労働者も増加――鋳物製造現場の「安全確保」の難しさ

――御社の場合、どういった形で安全衛生委員会を実施されているのですか。

大洋産業・寺田氏: 私たち部長級のメンバーに加え、各職場から1名ずつ選任して委員を構成し、月に1回、約1時間の委員会を開催しています。また、その1~2週間前には現場巡回も行っています。こうした取り組みの背景には、当社代表の影山の「出社したときと同じ姿で自宅に帰ってほしい」という強い思いがあります。安全を最優先にしたうえで生産活動を行うという考えのもと、この委員会を運営しています。

――特にどのような場所や業務で労働災害が起こりやすいのでしょうか。御社が感じている安全確保の難しさについて教えてください。

大洋産業・寺田氏: やはり火を扱う工程があるため、高温設備によるやけどなどのリスクがあります。また、重量物を扱う作業も多いのですが、手作業で運ぶ場面も少なくありません。そうした人と重量物と車両が往来する環境の中で、いかに安全を確保するかが最も難しい点だと考えています。

加えて、当社は小規模な製造体制から拡張を続けてきた関係で、人が歩く通路などの動線設計が十分に確保できていない部分もあります。後から人の通路やフォークリフトの車道を整えようとしても、スペースの制約があり簡単ではありません。さらに、外国人技能実習生にも協力していただいているのですが、言語が違う中で、安全手順を共有し、確実に実行していく難しさも感じています。

▲大洋産業の工場内。鋳物を製造する過程において火を扱うこともある。

――藤井さんは大洋産業の課題を初めて聞いたとき、どのような感触を持たれましたか。

GEMBA・藤井氏: 鋳造の現場は熱源を扱うので、安全衛生の観点から見ても課題の多い領域だと感じました。私も前職では製造業の生産技術部門で、同様の安全対策に携わっていましたが、やはり安全性を高めようとすると作業性や品質が悪くなるなど、トレードオフの関係になることも多いです。そのバランスを見極めながら対策をしていかなければなりません。毎回100点満点の対策は難しく、少しずつ改善を積み重ねていく必要があります。

ただ、その改善の知見を紙で管理していると、過去の積み重ねが見えづらいですし、生き字引のようなキーパーソンが抜けると、過去の事例などがすべて失われることもあります。日本は少子高齢化ですし、人材の流動化も進んでいます。そのため、知見を紙ではなくデジタルで紡いでいく仕組みには大きな価値があると感じましたし、当社が貢献できるとも思いました。

――寺田さんは、藤井さんの構想にどういった期待を感じられたのですか。

大洋産業・寺田氏: 安全衛生委員会は定例の取り組みとしては進んでいくのですが、改善して現場に落とし込むところまでは至らず、課題が保留のまま残っている状況でした。改善できた割合も低く、結果につながった施策は多くありません。委員会発足から半年ほど経って、やはり一段上に引き上げるためのさらなる原動力が必要だと感じていましたから、藤井さんの力を借りて、この取り組みをもう一段階引き上げたいと思いました。

現場の声をもとに改良を重ねてリリース――業務効率、情報共有、再発防止で効果を実感

――2024年12月の『MASH UP! KUWANA 2024』をきっかけに両社の共創が始まり、2025年の春頃には「GEMBA」アプリが正式にリリースしました。この約半年間、どのようなプロセスで取り組みを進めてこられたのでしょうか。

GEMBA・藤井氏: 2024年12月にご挨拶をさせていただいて、翌年の3月頃にはデモ用のタブレット(デモ機)をお渡しし、使用感や改善点のフィードバックをいただきながら改良を重ねました。並行して、皆さんがお持ちの端末にインストールできるよう、App StoreやGoogle Playの公開申請も進めました。そして、2025年4月末に社内公開までこぎつけ、GW明けから正式に導入していただいたという流れになります。

――大洋産業では、実際に「GEMBA」アプリを導入することで、どのような変化がありましたか。

大洋産業・寺田氏: 巡回時においては、これまでのように紙をめくりながら確認するのとは違って、アプリ上で完結できるので明らかに早くなりましたし、その後の入力作業もすぐ終わります。導入前に、この業務にどのぐらい時間がかかっているのか調べてもらい、試算表を作成していただいたのですが、それを見た際に「なるほど」と感じた通り、実務でも担当者の業務スピードが上がりました。

また、上司から部下、先輩から後輩へと情報を伝達する際も、これまでは伝わっているようで伝わりきらない部分がありましたが、このアプリを使えば、「誰が確認済で、誰が未確認なのか」が分かります。周知の速度も段違いに速いですし、写真付きで注意点が共有されるので、視覚的にも分かりやすい。結果として、トラブルの再発防止につながっていると感じています。

――業務スピードから情報共有、さらには再発防止まで、まさに現場のあり方が劇的に変わったのですね。開発者として今のお話を聞いて、藤井さんはいかがでしょうか。

GEMBA・藤井氏: 皆さんのご意見をいただくことで、「GEMBA」の使い勝手はどんどん良くなっていると感じています。私たちのアプリのユニークな点は、デジタルマップ上にデータを可視化できる点ですが、一方で取りまとめ担当の方にとっては、作業工数削減や周知のしやすさも重要なポイントだと分かりました。

そこで、当初は盛り込んでいなかった一覧画面のサムネイル表示の追加にも対応。工場内での掲示や書き込みもできるよう、一覧画面をPDFで出力し、印刷できる機能も追加しました。さらに、取りまとめ担当の方にヒアリングしたところ、「マップ上に案件ナンバーを表示してほしい」とご意見もいただいたので、その点も約1カ月で改修しています。こうした現場の声を受けて素早く改善できる点は、スタートアップならではの良さだと思っています。

▲「GEMBA」の画面。工場がデジタルマップ化されており、巡回時のチェックも効率的になったという。

――現場のリクエストに即応しながら、一緒にプロダクトを開発されたのですね。

GEMBA・藤井氏: そうですね。実際にアプリを使う担当者の方にも、「新しいことに取り組んでよかった」と感じてもらうことが大事だと思っています。紙やハードでは変えにくいことも、デジタルならすぐ改善できます。そうした体験を通じて、楽しさや効果を実感していただけると嬉しいです。

大洋産業・寺田氏: 当社で実際に「GEMBA」の導入へ向けて関わったのは入社年次の浅い社員もいるわけですから、そうした若手にとってスタートアップの代表と一緒に仕事をさせてもらえるのは貴重な経験でした。機能のアップデート情報も逐次いただけますし、そこには同じ製造業で出た問題点の説明も含まれています。こうしたブラッシュアップの過程を経験することができ、私たちも多くを学ばせてもらっていると思います。

『くわなスタートアップ・オープンフィールド』発のプロダクトを地域全体へと広げる

――今後、このプロダクトをどう発展させていくお考えですか。

GEMBA・藤井氏: 私自身も製造現場で10年以上働く中、労働災害が発生する場面を目にしたこともあります。そのたびに対策を立てても、なかなか他の現場へ横展開できないという課題意識を持っていました。私たちが提供している「GEMBA」というアプリは、その課題を解決できるのではないかと思っています。また、安全管理に限らず、他のさまざまな業務への応用も検討していきたいです。加えて、海外からの労働者も増えているため、多言語対応も必ず実装したいと思います。

――桑名市内の他企業へも広げていけそうですね。

GEMBA・藤井氏: そうですね。大洋産業さんで実際に使っていただいていることが、市内企業の皆さんにとって導入の安心材料になっていると思います。実際、桑名鉄工協同組合さんの紹介で、新たに1社での活用がスタートしました。やはり仲間内や地域の中で、誰か1人でも「使ってみて良かった、広めたい」という生の声を発信してもらえる環境を作ることが大切です。こうした取り組みを丁寧に積み重ねながら、地域全体にプロダクトを広げていければと思っています。

――寺田さんからも、「GEMBA」アプリに対する今後の期待をお聞かせください。

大洋産業・寺田氏: 先ほどお話が出ましたが、まだ外国人技能実習生には「GEMBA」が行き届いていません。実習生にも労働災害は起こりうるため、多言語対応を進めていただけると安心して使えます。また、マップと写真やデータを連動させる仕組みは、安全管理だけでなくSDGsや環境管理の面でも役立つと考えています。私たち中小企業にとって、環境管理の面も大変な作業ですので、こうした機能が組み込まれると助かります。

さらに、個人の生産高や技量の数値化にも展開できる可能性があるアプリだと感じています。将来、「大洋産業は最初に「GEMBA」を導入した会社なんだよ、見る目があったでしょう」と自慢できるようなサービスに成長してくれると嬉しいですね。

――今回の共創は、桑名市が進める『くわなスタートアップ・オープンフィールド』構築の一環でもあります。実際に参加されてみてどうでしたか。

GEMBA・藤井氏: 今回のように市内企業と単独でつなげていただけたことに、桑名市のパワーと本気度を感じました。トップである伊藤市長のパワフルさによるところも大きいと思いますが、それだけでなく、周囲の皆さんがトップの決定についていき、自走しておられる様子には力強さを感じます。

――寺田さんからも、『くわなスタートアップ・オープンフィールド』の活動に対して期待することをいただければと思います。

大洋産業・寺田氏: 桑名市には多くの中小企業があり、皆さんに支えられながら長年事業を継続しています。私たちの会社も、今回のような市のサポートを通じて新たなきっかけを得ることができています。昨年12月のイベントでは、全国から面白い取り組みをされている起業家が参加され、頭の中が活性化されて大きな刺激を受けました。こうした取り組みが今後も続き、さらに魅力ある場へと発展していくことを期待しています。

取材後記

今回の取材で見えたのは、個別企業同士の共創にとどまらない、桑名市が構想する共創基盤の輪郭である。桑名市役所や地域団体がハブとなり、スタートアップと地域企業を結びつけ、新たな事業が生まれている。その成果や「新たな取組にチャレンジするマインド」が地域企業へ実利として還元され、挑戦の機運が次の挑戦を呼び込む。こうした好循環の仕組みこそ、桑名が目指す『くわなスタートアップ・オープンフィールド』の姿なのだろう。次にこの循環へ加わり、新たな価値創出をともに描くのは、どんな挑戦者だろうか。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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