
松尾研発のスタートアップ・Athena Technologiesと常陽銀行が連携──ローカルLLMで銀行業務の革新へ
東京大学・松尾研究室発のスタートアップ、株式会社Athena Technologies(アテナテクノロジーズ)は2025年7月8日、常陽銀行と共同でローカルLLM(大規模言語モデル)を活用した銀行業務の効率化に向けた実証実験(PoC)を開始したと発表した。
この取り組みは、インターネット接続不要の閉域環境で生成AIを活用することで、秘匿性の高い業務を安全かつ効率的に遂行することを目的としている。
金融業界の課題に“ローカルAI”で切り込む
金融機関では、膨大な非構造化データを人力で処理する業務が依然として多く、生産性の向上やヒューマンエラーの削減が大きな課題となっている。今回のPoCは、こうした課題に対し「セキュリティ重視型の生成AIソリューション」という新たなアプローチで挑むものだ。
Athena Technologiesは、松尾研究室出身者が立ち上げたスタートアップ。生成AIを特定業務に特化させることで、銀行の現場ニーズに即したツールの提供を目指している。
実証実験で検証される5つのユースケース
PoCでは、以下の5つの業務ユースケースについてローカルLLMの有効性を検証する。
業務文書の自動生成
関連資料をもとに稟議書・報告書などのドラフトをAIが作成。
データ加工・比較の効率化
過去の案件データを自動で抽出・比較し、分析資料を作成。
専門文書の多言語翻訳
金融・会計分野における英訳・和訳などの高精度な翻訳。
情報セキュリティ対応の自動化融資審査支援
秘匿情報の自動検知とマスキング処理による匿名化。
融資審査支援
複数データの統合分析により、審査判断を支援する資料を自動生成。
これらは銀行内の情報セキュリティを確保したうえで、業務の精度・スピードを高めることを狙っている。
両社のコメント 安全性と実用性の両立を目指す
常陽銀行は今回の連携に対し、「地域と顧客の未来を支える金融機関として、先端技術の安全で実践的な活用に取り組む」とコメント。物理的に外部と遮断されたシステムを構築することで、個人情報や機密情報の保護と業務効率化を両立させる狙いだという。
Athena Technologies代表の阿部武氏は、「金融業界は安全性と利便性のバランスが難しい領域。ローカルLLMであれば、外部と接続することなく柔軟なAI活用が可能となり、新たな業務改革の一手となりうる」と意気込みを語る。
高セキュリティ分野に特化した生成AIの開発を加速
Athena Technologiesは今後、金融や防衛など高セキュリティ領域での生成AIの活用を視野に、ローカル環境でのLLM基盤開発にさらに注力していくという。
情報を外部に送信せずに業務改革を進められるローカルLLMは、今後の金融業界におけるAI活用のスタンダードとなる可能性もある。今回のPoCを通じて得られる知見と成果が、銀行業務におけるAI導入の道筋を示すものとなるか注目が集まる。
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(TOMORUBA編集部)