産官学連携によって革新的な酸化制御技術を事業化するプロジェクトが内閣総理大臣賞を受賞!「第6回 日本オープンイノベーション大賞」で選ばれた16の取り組みとは?
2024年2月14日、内閣府は「第6回 日本オープンイノベーション大賞」の受賞者を発表。今回は、内閣総理大臣賞を始めとする13の賞が16の取組・プロジェクトに授与された。同賞は日本のオープンイノベーションをさらに推進させるために、内閣府が主導。今後のロールモデルとして期待される先導性や独創性の高い取り組みを称えるものだ。
2018年度より開始された「日本オープンイノベーション大賞」は、オープンイノベーションの取り組みの中で、模範となるようなもの、社会インパクトの大きいもの、持続可能性のあるものについて、担当分野ごとの大臣賞、経済団体、学術団体の会長賞の表彰をすると共に、各賞の中で最も優れたものを内閣総理大臣賞として表彰している。
【表彰の種類】
内閣総理大臣賞、科学技術政策担当大臣賞、総務大臣賞、文部科学大臣賞、厚生労働大臣賞、農林水産大臣賞、経済産業大臣賞、国土交通大臣賞、環境大臣賞、スポーツ庁長官賞、日本経済団体連合会会長賞、日本学術会議会長賞、選考委員会特別賞
――本記事では、内閣総理大臣賞及び各賞の受賞プロジェクトについて紹介していく。
日本MA-T工業会が、『内閣総理大臣賞』を受賞
極めて顕著な取組等が認められる個人又は団体に対して授与される『内閣総理大臣賞』には、革新的な酸化制御技術「MA-T System®」のオープンイノベーションプラットフォーム『日本MA-T工業会』が選ばれた。
これは産官学連携によって、MA-T®の更なる発展と新たな事業価値の創造を目指すのを目的としたもの。大学発ベンチャー(株式会社dotAqua)設立で、次代の創薬を担う若手研究者育成の好循環システムを構築している。
▲画像出典:一般社団法人日本MA-T工業会プレスリリース
第6回 日本オープンイノベーション大賞 受賞取組・プロジェクト一覧
「第6回 日本オープンイノベーション大賞」では、13の賞が16の取組・プロジェクトに授与された。内閣総理大臣賞は上記の通りだが、その他にも多岐にわたる取り組みが高い評価を得ており、以下にその概要を紹介していく。
なお、各取り組みの詳細や受賞ポイントなどは、「日本オープンイノベーション大賞」のWebサイトにも掲載されている。あわせてご覧いただきたい。
■内閣総理大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
日本発革新的酸化制御技術MA-T Systemによるオープンイノベーション
<内容>
創薬相談を機に化学・高分子化学方面でイノベーションが起こり、食品衛生、農業、林業、新素材、エネルギーなど広範囲をカバーする日本MA-T工業会やMA-T学会を立ち上げた。大学発ベンチャー(㈱dotAqua)設立で次代の創薬を担う若手研究者育成の好循環システムを構築していく。
<効果>
MA-T® 応用展開として、感染制御、医療・ライフサイエンス、食品衛生、農業・林業、エネルギー、表面酸化(マテリアル)の6つの分野を中心に開発を推進し、社会実装を進めている。日本MA-T工業会への加盟企業104社、賛助会員13団体。 MA-T® に関連する大学発ベンチャーが2社(dotAqua、HOIST)起業された。
<応募機関>
(一社)日本MA-T工業会、(大)大阪大学、(株)dotAqua、アース製薬(株)、(株)エースネット
■科学技術政策担当大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
産官学連携による新規抗がん薬MALT1阻害薬の創出
<内容>
【産】である大手企業から独立したスタートアップChordiaが、【学】である京都大学及び宮崎大学が見出したアカデミアシーズを軸に、【官】であるAMEDそして官民ファンドCAPのサポートを受け新規抗がん薬の創出を完了。
<効果>
2020年に小野薬品への国内最大級の大型導出完了。MALT1阻害薬の成功に引き続く新た
な産学連携がChordiaと京都大学の間で次世代腫瘍分子創薬講座として進行中。
<応募機関>
Chordia Therapeutics(株)、(大)京都大学、(大)宮崎大学、
京都大学イノベーションキャピタル(株)、(公財)京都高度技術研究所
■総務大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
セキュリティシステムのインフラとデータをリテールに活用して店舗運営現場の働き方を変える「dot-i(ドットアイ)」
<内容>
セコムとDeNAが連携して協働プロジェクトを推進。セコムでは既設セキュリティインフラを活用することで、別途の回線コスト、機器コスト、工事費用が不要とした。DeNAでは未活用のセキュリティデータをリテール向けの「新しい意味」に翻訳し、新しい UX を創造。両者の連携によって既存のアセット を活かしながら店舗運営の働き方改善、労働力不足解消も実現していく。
<効果>
4業態で延べ50カ月以上に渡るプロトタイピングと価値検証で生のニーズを吸収。検証成果として、店舗管理者の常駐不要効果、SV等複数店舗管理負担とコスト低減効果が観測した。
<応募機関>
セコム(株)、(株)ディー・エヌ・エー
■文部科学大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
分子動力学ソフトウェアGENESISの開発と社会実装
<内容>
理研R-CCSと理研数理の連携により、研究開発・技術指導は理研が、理研数理が窓口機能を提供することによって、産業界からの個別の問題解決に役立つ技術指導をスムーズに行うことを実現。さらに、理研数理が事務運営を行い、理研が研究紹介を行う「GENESIS ユーザー会」をユーザーと開発者が交流する場として設定した。
<効果>
新型コロナウイルススパイク蛋白質に関する3本の論文が合計68回引用。「GENESIS ユーザー会」は過去6回の研究会を実施し、参加者は延べ141名に及ぶ。GENESIS を利用した商用ソフトウェアが2つ開発され、販売されている。
<応募機関>
(国研)理化学研究所、(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所、(株)理研数理、(株)JSOL、Quantum Simulation Technologies,Inc.
■厚生労働大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
リアルとバーチャルの融合により小児心臓外科手術を支援する新しい心臓シミュレータの開発
<内容>
日本小児循環器学会の支持を得て、国立循環器病研究センター、東京大学大学院新領域創成科学研究科、(株)UT-Heart 研究所、PIA(株)、ジャパンメディカルデバイス(株)、(株)クロスメディカルの自立した先進的6機関による産学官連携コンソーシアムを形成し、 各機関の専門性・役割分担を明確にし、プロジェクトを効果的に持続可能な形で開発を実践している。
<効果>
「3D 心臓モデル」は 2023年7月に薬事承認され、現在保険収載に向け準備中。「ped UT-Heart」は特定臨床研究により先天性心疾患に特化したプログラム開発を終え、2024年から医師主導治験 を開始し、2026 年に薬事申請予定。
<応募機関>
(国研)国立循環器病研究センター、(学)東京大学、ジャパンメディカルデバイス(株)、PIA(株)、(株)クロスメディカル
■農林水産大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
「ロボット技術で水産資源管理の課題解決に挑む!(ズワイガニ編)」
<内容>
いであ社はSIP1期において東京大学や九州工業大学等から技術移転を受け、ホバリング型AUV「YOUZAN」を開発・導入した。大学が研究的に実施してきたAUVによる調査技術を基に、民間が中心となって自治体の抱える課題を解決する、産学官の相互補完により、新たな利活用技術を開発して社会実装を目指すオープンイノベーションな取組。
<効果>
2021 年には国土交通省が主催する「海の次世代モビリティの利活用に関する実証事業」に応募し採択された。実証実験を行い、ホバリング型 AUV の有効性を実証、次に向けた課題解決と他への応用に取り組んでいる。
<応募機関>
いであ(株)、福井県水産試験場、(学)東京大学、(学)九州工業大学、(株)ディープ・リッジ・テク
■経済産業大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
鉄道会社による社会課題解決型ベンチャーの起業・市場創造と拡大
<内容>
両事業とも起業時から全国展開、新製品開発の各段階で自治体、学校、大・中小企業との連携によるオープンイノベーションを発現。「ミマモルメ」では同社を中心としたコミュニケーションチャネルを構築し、スムーズに新サービス開発を実施できる体制を構築
<効果>
導入数:「ミマモルメ 」約2,000校、全サービス計1,157,033 人
営業収益:「ミマモルメ」16 憶円、「プログラボ」 9億円
<応募機関>
(株)ミマモルメ
■国土交通大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
官民連携DXによるAI道路点検サービス「ドラレコ・ロードマネージャー」
<内容>
東京大学発のスタートアップ企業であるアーバンエックステクノロジーズ社が保有するAI画像分析技術を三井住友海上が提供する全国約5万台の通信機能付きドライブレコーダーへ内蔵。従来は自治体等による定期的な目視点検が必要だった道路損傷個所を自動的に検出するサービスを共同開発した。
<効果>
2021年12月のサービス開始以降、50以上の案件対応、20自治体へ有償提供を実施しており、国土交通省インフラメンテナンス大賞をはじめ、各省庁からの表彰も複数受賞。実績として1自治体・1ヵ月あたり平均約500台のドラレコが走行し、約15万件の道路損傷を検出している。
<応募機関>
三井住友海上火災保険(株)、(株)アーバンエックステクノロジーズ
■環境大臣賞
<取組・プロジェクト名称>
リサイクリエーション活動「つめかえパックの回収と水平リサイクル」
<内容>
回収を行った店舗で水平リサイクル品を発売することで「資源循環を見える化」し、消費者が実感できる取組とした。また、競合同士が協働 ・資源循環に取組む姿勢が、販売・物流などサプライチェーン全体での参画企業の増加へとつながり、資源循環の広めるために必要な「同業他社/異業種の両面での協働」を実現している。
<効果>
花王と協力企業では使用済みつめかえパックを再びつめかえパックに利用する選別方法、再生技術、製膜・製袋技術を開発。2023年5月には花王、ライオン両社から、水平リサイクルを実現した「おかえりつめかえパック」を初めて発売した。
<応募機関>
花王(株)、ライオン(株)、(株)イトーヨーカ堂、ウエルシア薬局(株)、(株)ハマキョウレックス
■スポーツ庁 長官賞
<取組・プロジェクト名称>
温室効果ガス排出量世界最少スニーカー「GEL-LYTEⅢ CM1.95」の開発
<内容>
サプライヤーでの再生可能エネルギーの調達や、複数のバイオ由来材を活用したカーボン・ネガティブ・フォームの開発、製造工場と連携した材料ロス削減やバイオ燃料を活用した輸送プランの採用など多岐に渡る連携を実施し、バリューチェーン全体で排出量削減に取り組んだ。
<効果>
最も排出量の多い材料・製造段階で約 80%削減するなど従来スニーカー比で排出量を約1/4とし業界の新しいベンチマークに。また、今回確立された計算手法により、幅広い製品での排出量の把握を自社内で行うことができ、今後の製品の排出量の可視化・削減につなげ。
<応募機関>
(株)アシックス
■日本経済団体連合会会長賞
<取組・プロジェクト名称>
日本発の貿易DXプラットフォーム「TradeWaltz®」の開発と普及
<内容>
TradeWaltz®の開発・サービス提供の他、貿易手続き電子化に向けた検討を行う「貿易コンソーシアム」も事務局として運営。会員企業は2023年12月現在200社以上にわたり、商社やメーカー、銀行、保険、物流企業、ITベンダー、公的機関など貿易業務に携わる企業が多く参加。
<効果>
業務時間を44%削減できる他、手続き進捗も可視化。2022年4月に商用版リリース後、1年間で63社が利用開始。同年には5カ国(JP、SG、TH、AUS・NZ)のプラットフォームで連携実証に成功。APEC首脳会議付設「貿易DXシンポジウム」で成果発表し、他約10カ国から相談あり。
<応募機関>
(株)トレードワルツ
■日本学術会議会長賞
<取組・プロジェクト名称>
電気の力で減塩食の塩味を約1.5倍に増強する技術の開発、その技術を活用した製品「エレキソルト」の開発
<内容>
キリンホールディングスと明治大学 宮下芳明 研究室は、2019 年から共同で「電気味覚」の技術開発に取り組み、減塩食品の塩味を約 1.5 倍に増強させる独自の電流波形を開発。2023 年イグ・ノーベル賞(栄養学)を受賞するなど、電気味覚技術で世界的に高い評価を受けている。
<効果>
大手通信会社の社員食堂や生活雑貨店でワークショップなどの実証実験を実施。外食市場での展開可能性や小売店舗での受容性を確認するとともに、減塩食の塩味が約 1.5 倍 増強して感じられることを実証、食事の満足度が向上したとの回答を約 65%得ることができた。
<応募機関>
(大)明治大学、キリンホールディングス(株)
■選考委員会 特別賞(全4プロジェクトが受賞)
<取組・プロジェクト名称>
環境配慮コンクリート:T-eConcrete 実装プロジェクト
<内容>
CCUによる炭酸カルシウム製造の技術開発は各所で行われ、必要なカルシウムやCO2は多 くの産業から排出されるため全産業から参加を募るとともに、全国での早期実装に向け商品 化技術や流通力の補完のためT-eConcrete®研究会を組織するなど、異業種、スタートアッ プ、省庁・自治体、海外機関などと知財を含む連携構築を実現。
<効果>
・Carbon-Recycleの社会実装開始を2030年から2021年に前倒し(以降,累計10件,実績) ・セメント・ゼロ型の適用を急増(累計:2020年度 23m3→2023年度 7,874m3(見込み))
・2030年単年度のCO2排出量を25万t削減(当社分のみ,外販を除く)(見込み)
<応募機関>
大成建設(株)
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<取組・プロジェクト名称>
「電力データ×AI でのフレイル検知」産官学連携で 高齢化社会課題に挑む
<内容>
JDSCが「フレイル検知 AI 技術」を開発し、ネコリコが「社会実装システム」の開発・運用を担い、 中部電力が全国自治体を対象に「フレイル検知サービス」をローンチし、2023 年は三重県東員 町に加えて、長野県松本市、三重県鳥羽市へ導入。
<効果>
「e フレイルナビ」導入自治体:3か所
経済効果試算(長野県松本市・3年実施の場合)医療費介護給付抑制効果は約16億円
フレイル対策コンソーシアムへの参画:5自治体、アカデミア4団体、企業10社
<応募機関>
(株)JDSC、(大)東京大学、中部電力(株)、(同)ネコリコ、三重県 東員町
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<取組・プロジェクト名称>
日本発の脳健康産業の創出に向けた「BHQ Actions~楽しく無理なく脳を健康に するための 18 の行動指針~」の社会実装
<内容>
「BHQ Actions」を用いて企業や自治体から提供されるフィールドを活用し、異分野の研究者 が様々な研究を進め、成果を広く共有している。研究成果を参考に各企業の強みを活かした 多様な製品群を様々なシーンや場所で利用できる相互補完的かつ共進化的な活動を推進。
<効果>
・10の研究機関、33の民間企業及び、10の自治体、30の病院との連携を実現。
・3年後に30の研究機関、100の民間企業、5年後に50の自治体、150の病院を目標。
<応募機関>
(一社)ブレインインパクト、BHQ(株)、(大)神戸大学
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<取組・プロジェクト名称>
技術と教育によるゼロ・フェイタリティな交通社会の実現 -安全な未来とまちづくりデザイン-
<内容>
新潟大学は、事故データの解析や運転者の行動の研究を通じて具体的な対策を提案し、運転 支援技術、事故予測モデル、交通シミュレーションなどの技術を開発することで実用的な交通安全支援ツールを開発・提供する。新潟県警察本部は、交通事故の原因やパターンを調査・分析して事故傾向を把握し、対策の根拠を示すとともに、交通安全キャンペーンや教育プログラムを通じて地域住民に交通安全の重要性を広く啓発する。
<効果>
・交通事故発生件数:県内事故多発地点での事故発生数が前年度9件→0件に減少
・交通安全活動への地域住民参加者数:計900名(活動数70回)
・ゼロフェイタリティに向けた研究成果報告数:12回
<応募機関>
(大)新潟大学、新潟県警察本部
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