スポーツギフティング、真空乾燥、倉庫DX化、飲食店の省力化――山梨県内企業×スタートアップの共創ワークショップから生まれた4つの事業アイデアとは?
リニア中央新幹線の開通により、東京(品川)から約25分で結ばれる山梨県。本州の中央に位置する地理的優位性を持つ地域で、中央自動車道、東富士五湖道路などと合わせて、中部横断自動車道の整備により、新たな交通の要衝になることが期待されている。
そんな山梨県が今年度、開催している共創プログラムが『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM』だ。県内企業4社(山梨放送/内藤ハウス /メイコー /アルプス)がホスト企業となり、解決したい課題やビジョンを掲げて全国から共創パートナーを募集。山梨県の協力も得ながら、パートナー企業とともに共創事業を創り上げる。
本プログラムの一環で、1月11日に共創事業の骨子を練り上げるワークショップが開催された。山梨県防災新館で行われたこのイベントには、ホスト企業と採択されたパートナー企業4社(エンゲート/wash-plus/eyeForklift/TechMagic)、それにメンターと県庁職員などが集まり、それぞれの視点から活発に意見を出しあった。
――そこで本記事では、ワークショップ終盤でお披露目された、共創ビジネスプランの内容をレポートする。
【ホスト企業4社の募集テーマと採択企業】
■株式会社山梨放送 『山梨の地域活性につながる地域メディアとしての新たな価値創造』(採択企業:エンゲート株式会社)
■株式会社メイコー 『真空技術を活用した新たな価値創出』(採択企業:株式会社wash-plus)
■株式会社内藤ハウス 『人手のいらない次世代物流倉庫の創出』(採択企業:eyeForklift株式会社)
■株式会社アルプス 『飲食店における省人化・無人化に向けた共創』(採択企業:TechMagic株式会社)
参考記事:イノベーション創出に本気の山梨県が共創プログラムをスタート! 県内企業4社がスタートアップとの共創で生み出したい事業とは?
【山梨放送 × エンゲート】 “スポーツギフティング”の仕組みで、山梨のスポーツシーンに新風を!
山梨放送はテレビ・ラジオ事業を展開するローカルメディアで、山梨県を主な放送対象エリアとしている。山梨放送と山梨日日新聞社を中核とする山日YBSグループでは、イベント・広告・印刷・旅行など幅広い事業を展開。2024年で創業70周年を迎えることから、地域社会との関わりも深い。
そんな同社は、『山梨の地域活性につながる地域メディアとしての新たな価値創造』を募集テーマに掲げて共創パートナーを募集。応募のなかから、スポーツギフティングサービスを展開するエンゲートを採択し、事業共創に進むこととなった。
■発表タイトル:山梨スポーツファンエンゲージサービス
▲株式会社山梨放送 営業局 営業企画部副部長 小林大悟 氏
山梨放送とエンゲートの共創チームは、県内のスポーツ振興を通じた地域活性化施策を発表した。具体的には、エンゲートの提供するスポーツギフティングサービスを活用する。これは、ファンが購入などで得た応援ポイントを、応援したいチームや選手に贈ることができるサービスだ。今回の共創事業のターゲットとなるのは、山梨放送の視聴者も含めたスポーツチームのファン、チームのスポンサー企業、山梨のスポーツチームである。
同チームは、それぞれが抱える課題を次のように想定する。まずファンは「直接的な応援ができない」「ギフティングするにしても、お金がなければ楽しくない」といった課題がある。一方、スポンサーは「ROI(費用対効果)が見えない」、スポーツチームは「運営資金の限界」「ファンとの接点が少ない」などの課題を持つ。これらに対処するために考えたアイデアが次の通りだ。
まず、山梨放送のスポーツ番組内にQRコードを設置し、読み取ってくれた視聴者にエンゲート内で使用できる応援ポイントを付与。そのポイントで山梨県内のスポーツチームにギフティングをしてもらう。応援ポイントの原資はスポンサー企業から得たいと話す。ギフティングをしてもらったお返し(リワード)として、ファンへの特別な体験を提供したり、スポンサーの店舗でファンが商品を購入すると応援ポイントが付与されるといった仕組みの構築も目指す。早速準備にとりかかり、3月に開催する山梨放送主催のスポーツイベントのなかで実運用を開始したいとの構想を語った。
【メイコー × wash-plus】 “衣類の真空乾燥”で世界の洗濯事情に変革を起こす!
山梨県を拠点とするメイコーは、真空とプラズマの高度な技術を有する企業だ。半導体・フラットパネルディスプレイ・クリーンエネルギー産業向けの製造装置を、設計から製造、据え付けまで一貫して手がけている。
そんな同社が本プログラムで掲げた募集テーマは『真空技術を活用した新たな価値創出』だ。従来とは異なる分野へと進出し、新規事業を打ち立てていくことが狙いだという。そしてコインランドリー事業を手がける wash-plus をパートナーに迎え、事業共創に挑戦することになった。
■発表タイトル:真空技術を活用した新たな価値創出と、衣類における減圧乾燥機の開発
▲株式会社wash-plus 代表取締役 高梨健太郎 氏
壇上に立った wash-plus 代表の高梨氏は、家庭用と業務用の2つに分けて洗濯業界の現状を説明。家庭用では、降水日数やPM2.5の増加、共働きの時短ニーズから洗濯乾燥機がよく売れていると話す。一方、業務用のリネンサプライ業界では、燃料や人件費の高騰から経営の厳しい状況が続き、倒産する洗濯工場が増加。その結果、ホテルや病院などリネンを扱う法人のなかには、自社内で洗濯を行うところも出てきている。だが、従来の100Vの電気式乾燥機では乾燥に時間がかかり、ガス式ではダクトが必要となるため設置が難しい。燃料費の負担も重いという。
そこで、救世主となりうるのがメイコーの真空技術を活用した「減圧乾燥機」である。減圧すると液体の沸点が下がるという原理を活かし、効率よく乾燥させるというものだ。まだ実験は行っていないものの、減圧乾燥をすれば乾燥時間を短縮できる可能性がある。乾燥時間を短縮できれば、光熱費の節約や稼働率の向上といったメリットが期待できる。家庭の時短ニーズにも対応できるだろう。熱を使わないことから衣類に与えるダメージを軽減できたり、減菌できる可能性もある。
まずは、減圧乾燥による効果を測定する実験から開始し、乾燥に成功すれば特許を出願したいと話す。その後、ビジネスモデルなどを検討していきたいという。「今までは熱による乾燥が主だった。ヒートポンプ式が出てきたが、そこまで普及しておらず乾きも悪い。一方で、真空乾燥は一定の業界で研究開発され、進化して実用化されている。今回、衣類と真空が結びつくことで、衣類の減圧乾燥という発明が生まれるかもしれない。世界を変える可能性も秘めている」と熱意を込めた。
【内藤ハウス × eyeForklift】 “フォークリフトの目”で物流倉庫の可視化・デジタル化・生産性向上を実現!
プレハブ・システム建築や自走式立体駐車場などの建設事業を展開する内藤ハウスは、56年以上にわたり黒字経営を維持する優良企業だ。山梨を本拠地に東北から九州まで13の拠点を保有する。2023年9月に策定した中期経営計画では、建物を作るだけにとどまらず、顧客や社会が抱える課題を解決する“ビルディングソリューションズ”に力を入れる方針を示している。
今回は『人手のいらない次世代物流倉庫の創出』という募集テーマで共創パートナーを募集。2024年問題に直面し、人手不足が深刻化する物流倉庫において、省人化・無人化を図っていくことが狙いだ。そして、このテーマに興味を持ち、共創パートナーとして名乗り出たのが、物流の課題解決に取り組む富士通発のスタートアップ eyeForklift である。両社で描く物流倉庫の未来像とは。
■発表タイトル:荷さばき(入出庫・検品・棚卸)作業効率化と次世代物流倉庫の設計
▲株式会社内藤ハウス 経営企画部 担当課長 島村柊平 氏
物流業界は今、人手不足をはじめとした多くの課題を抱えている。それらの課題をeyeForkliftの持つ屋内位置測位技術を活用しながら解決していくことが、本チームのビジョンだ。ターゲットは内藤ハウスの既存顧客に多い中小の物流業や製造業。約1000平米規模の倉庫を持つ企業である。
提案するソリューションのポイントは、天井に貼付したマーカーとフォークリフト搭載の全天球カメラをもとに在庫の位置をリアルタイムで収集・蓄積できるeyeForkliftの技術。蓄積したデータを倉庫運営の改善と倉庫建築設計の提案に活かすことができる。
具体的な実証実験先候補として、段ボール製造会社、倉庫運営会社、特産品生産者などを挙げる。顧客や業種毎に抱える課題が異なるため、まずは仮説を立てて複数社にヒアリングを行い、課題を確認することから開始する。最初は倉庫内作業の可視化を実現し、次に倉庫レイアウトのデジタル化と在庫管理の自動化、そして生産性向上へと段階的に進めていく考えだ。
また、導入コストを下げるため、月額使用料をもらうSaaS型で提供したいと話す。導入後の省力化提案などで、さらなる収益化を検討していきたいという。既存倉庫の運用効率化と、新設倉庫の設計最適化の両面で提案を進めるそうだ。
【アルプス × TechMagic】 “調理ロボット”で地方の飲食店やSA/PAを省人化・無人化!
アルプスは山梨県を拠点に、高速道路のパーキングエリア・サービスエリア(SA/PA)や公共施設、外食・小売店舗の運営を行っている企業だ。新規事業の開発も積極的に進め、これまでに40以上の新規店舗を開店してきた実績を持つ。
そんな同社は今回『飲食店における省人化・無人化に向けた共創』をテーマに据えて、共創パートナーを募集。応募のなかから、調理ロボットを開発する TechMagic を採択した。飲食の現場を知り尽くしたアルプスと、テクノロジーを使いこなす TechMagic が描く次世代の飲食の形とは。
■発表タイトル:地方の飲食店(SA/PA)における省人化・無人化モデル
▲株式会社アルプス 代表取締役社長 金丸滋 氏
両社が着目した課題は、飲食店やSA/PAの人手不足や人件費高騰だ。とくにSA/PAでは、夜間に走行するドライバーも多いことから本来は24時間営業を理想としているが、人手不足や人件費の観点から営業ができず、機会損失になっているという。こうした状況に対し、TechMagicの調理ロボットを導入することで、飲食店の省人化・無人化を実現し、機会損失の軽減につなげたいと話す。
同社の調理ロボットは、自動で洗浄や調理、供給、盛付が行えるという。味の品質に関しても、プロの料理人の味を再現でき、すでに大阪王将においてトップ層の料理人の味を再現することに成功している。人の手を介さないため、ヒューマンエラーの撲滅にもつなげられる。これらのロボット技術を導入することで、飲食店の抱える人手不足の課題に対処していきたいと話す。
まずは、年度内の実証実験として、山梨県庁舎内にあるカフェで2月中旬よりデモ検証を行う予定だ。想定しているメニューは焼きそばと肉野菜炒めの2品。運用上の課題の洗い出しやユーザーの反応確認、店舗スタッフのトレーニング検証などを実施する。その結果を踏まえて、他店舗やSA/PA内にある飲食店への導入も検討していきたい考えだ。最後に「実証がはじまったら、焼きそばと肉野菜炒めをぜひ食べに来てください」と呼びかけ、ピッチを締めくくった。
「2024年の幕開けにふさわしい、希望に満ち溢れた内容だった」
すべてのプレゼンテーションが終わった後、2人のメンターが総評を行った。篠原氏(エバーコネクト 代表取締役)は、発表の完成度の高さに感嘆しつつも、「まだ行動は1ミリもできていない。これを実現して初めてスタートラインだ。ネクストアクションを着実にクリアしながら、実現に漕ぎつけてほしい」と参加者にエールを送った。
▲エバーコネクト株式会社 代表取締役 CEO 篠原 豊 氏
メンターの村田氏(eiicon 執行役員)は、「どのチームもネクストアクションが決まっており素晴らしい」と賞賛したうえで、「今後、実証をしてみて『少し違う』と思うことや、『ここがうまくいかない』ということが出てくると思う。そこをいかにスピーディーに進められるかが重要なポイントだ」と話す。「今日決めたことに固執しすぎず、その場で臨機応変に変化させていくことも意識的にやっていくとよい」とアドバイスした。
▲株式会社eiicon 執行役員 村田 宗一郎 氏
最後に、本プログラムの主催者である山梨県庁の森田氏が登壇し、総評と閉会の挨拶を行った。
森田氏は、「どのチームの発表も、2024年の幕開けにふさわしい明るいテーマであり、希望の満ち溢れるものだった」と評価。「3月の成果発表会だけを目指すのではなく、本日の発表のなかにあったように『世界を救う』という気概を持って、それぞれのテーマに取り組んでほしい」と期待を込めて語り、ワークショップを締めくくった。
▲山梨県産業労働部 スタートアップ・経営支援課 スタートアップ支援担当 主査 スタートアップ創出・誘致マネージャー 森田考治 氏
取材後記
スポーツシーンの活性化や物流業界・飲食業界の課題解決は、山梨県のみならず全国に横展開できる可能性を感じた。また、真空乾燥機については、その実証結果次第で世界中の洗濯シーンに大きな変革をもたらすかもしれない。これから4つの共創チームは、ニーズ検証や実証実験を進め、3月7日に開催されるDEMODAY(成果発表会)でその結果を発表する予定だ。約2カ月という短期間ではあるが、共創事業の進捗に引き続き注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)