海外発AI画像診断技術 × 15万人の医師ネットワークで仕掛ける医療4.0への第一歩
総合商社、丸紅株式会社の完全子会社として2020年4月に設立されたクレアボ・テクノロジーズ株式会社は「日本やアジア諸国の医療現場に最先端の技術を届ける」ことを使命に、特に人工知能を応用した診断支援製品などを医療機関に提供することを目指している。
一方、プロフェッショナルのエージェンシー事業などを手がける株式会社クリーク・アンド・リバー社のグループ企業、株式会社メディカル・プリンシプル社は「ドクターの生涯価値の向上」「医療機関の価値創造への貢献」を理念に、医師の転職・アルバイト紹介「民間医局」を運営するなどしている。
両社はAUBAを通じて出会いを果たし、AIを応用した診断支援製品が医師や医療機関のニーズを満たすものなのかという検証をスピーディーにスタートさせた。現在までに共創は順調に進んでいるという。両社はどのような思いを持ち、どのように共創を進めているのだろうか?
――クレアボ・テクノロジーズ 代表取締役社長 山田 理一氏とメディカル・プリンシプル社 事業開発シニア・ディレクター 金井 真澄氏にインタビューした。
<取材対象者>
▲クレアボ・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 山田理一氏
※同社PRページ https://auba.eiicon.net/projects/31253
▲株式会社メディカル・プリンシプル社 事業開発(新企画)シニア・ディレクター 金井真澄氏
※同社PRページ https://auba.eiicon.net/projects/25130
約15万人以上の医師ネットワークを活用した共創が、スピーディーにスタート
――共創事例のお話に入る前段として、まずはお二人の仕事のミッションやそれぞれの事業内容をご紹介いただきたいと思います。まずはクレアボ・テクノロジーズの山田さんからお願いします。
山田氏 : 私は、丸紅のイノベーション推進室の室長を担っており(2023年3月31日迄)、社会課題を当社のお客様が持つ知見やノウハウで解決できないか、という視点で、これまでにないビジネスの創造、付加価値の創出を目指しています。丸紅のグループ会社として2020年に設立されたクレアボ・テクノロジーズには立ち上げ当初から携わっており、2022年3月に社長に就任しました。
当社では、海外の医療機器を日本の医療機関に広める役割を担っています。具体的には、AIを用いた画像診断の支援ソフトウェアなど(胸部CT画像の診断を支援する「画像解析ソフトウェア VIDA Insights」)を扱っています。
画像診断は、米国をはじめ、欧州、台湾、韓国などで活発に開発されています。そういった最先端のテクノロジーを日本に持ち込み、医療の現場をより良いものにしたいと考えているのです。
▲クレアボ・テクノロジーズのビジネスモデル。医療機器メーカーと医療現場の担当者とをつなぐ橋渡しを担っている。
――では次にメディカル・プリンシプル社の金井さん、お願いします。
金井氏 : 現在18分野・約34万人超にまでネットワークが拡大しているプロフェッショナル・エージェンシー、クリーク・アンド・リバー(C&R)グループにおいて、医療分野で事業を展開するメディカル・プリンシプル社に所属し、新規事業の開発に携わっています。
メディカル・プリンシプル社は医師向けの求人サイト「民間医局」などを運営しており、その中で、人材や転職先を紹介するだけにとどまらず、「医療×○○」という掛け合わせで新しいことはできないかと模索しています。特に若手医師を中心に、「医師が医療以外も学ぶ必要がある」との気運が高まっていて、プログラム医療機器や治療用アプリの登場がこの流れに拍車をかけています。
医療現場の変革を目指すことは、医療4.0やストリート・メディカルという言われ方もすることもあります。そうした節目の時代に、当社や、プロフェッショナル・エージェンシーとして18の専門領域を持つクリーク・アンド・リバーグループにできることがあるはずだと考えて、活動を展開しています。
▲メディカル・プリンシプル社は、医師向けなどの様々なサービスを展開している。
――今回、両社はオープンイノベーションの取り組みを始めました。共創を行うことになったきっかけを教えてください。
山田氏 : お伝えしたように当社は海外のAI画像診断の支援ソフトウェアを国内の医療機関に広めたいと考えているのですが、医療機関にはコネクションが薄く、アクセスの充実を図る必要がありました。そうしていたところに、AUBAを通じてメディカル・プリンシプル社さんを紹介いただき、すぐに連絡しました。
金井氏 : 山田さんからAUBAを通じてご連絡をいただいたのが、2022年4月です。それからすぐにZoomでコミュニケーションを取りました。その後、クレアボさんが横浜の展示会に出展されるということで、実際に会いに行ったのです。
当社は、医師や医療機関との接点は豊富にある一方、民間企業の方とはなかなか知り合う機会が持てませんでした。AUBAには、クレアボさんを含め、いつも非常に質の高いマッチングをサポートいただき、とても助かっています。
――メディカル・プリンシプル社さんは、約153,000人という登録会員(医師)に加え約17,000の契約医療機関があり、国内有数のネットワークを有しています。そのようなリソースを活用した共創に取り組んだということですね。実際の共創はいつごろにスタートしたのですか。
山田氏 : 4月にコンタクトを取って、6月には何人か医師の方を紹介していただきました。実際にやってみないとわからないことも多いので、じっくり検討しても仕方ないという思いはありましたね。金井さんたちも今回のことは初の試みとのことで、お互いに新たなチャレンジを始めました。
金井氏 : 山田さんはこういう医師を紹介してほしいと、ニーズが具体的だったので、動きやすいところがありました。おっしゃる通り当社としても新たな試みで前例のないことだったので、スモールスタートにしました。組織的に動くというよりは、何人かの医師の方に個別にインタビューする形を取ったのです。
コスト面の課題をクリアし、新たな試みが順調に動き出す
――2022年4月に初めてコンタクトを取ってから2ヶ月ほどでスモールスタートされています。非常にスピード感を持ってオープンイノベーションを進められた様子がうかがえますが、共創を進めるに当たって、何か障壁や障害となるようなことはありませんでしたでしょうか。
金井氏 : 当社でも新しいことを始めようとしていた時期でしたので、大きな障壁や障害はありませんでした。とはいえ、まったく何もなかったわけではありません。例えば社内からは、「これまでお仕事の紹介をしていたのに、急に別の情報が届いたら驚いて医師の退会が出るのではないか」との懸念がありました。しかし、医師の方にも思った以上に好意的に受け入れてもらえ、順調な滑り出しを見せたと思います。強いて言えば、経営陣とのサービス価格面での折り合いが、共創に当たり苦労した点です。
――コスト面の課題はどのように克服したのですか。
金井氏 : 経営陣としては、従来のサービスと同様の価格設定にしようとします。これに対し私は、新規事業ではまず顧客に使って貰わないと始まらないこと、さらには新しいことに挑戦させて貰えるメリットが当社にもあることを理解してもらって、適正な価格で折り合えたと思います。
山田氏 : 当社にも大きな障壁や障害はありませんでした。金井さんには柔軟かつスピーディーに対応いただき、思い描いていたことが実現できています。
――山田さんは、メディカル・プリンシプル社さんのどのようなところに良さを感じていらっしゃいますか。
山田氏 : そうですね、メディカル・プリンシプル社さん以外でも、医師のネットワークを強みにしている会社があり、実際にサービスを申し込んだことがあります。ただ、その会社は確かにネットワークはあるものの、実態が伴っていないと言いますか…。単にサービスに登録しただけで一度もやり取りをしたことがない医師もネットワークの一員にしているのではないか。そう感じることが多々ありました。
対して、メディカル・プリンシプル社さんは、実際に医師との懸け橋になり、コミュニケーションが取れるよう場を整えていただけますので、共創パートナーとしてとても心強いです。
金井氏 : 当社は全国に拠点を置き、必要に応じて現地に足を運んで医師と対面しながらネットワークを築いています。おかげさまで、医師から「身近な存在」と捉えられることもあり、コミュニケーションが取りやすく、また、本音を引き出しやすくなっていると自負しています。
うまくいった大きな要因の一つは、最初から100%の成果を求めなかったこと
――これまでの成果を教えてください。
山田氏 : AIを用いた画像診断の支援ソフトウェアなどの臨床ニーズの獲得がまず大きな目標でした。ニーズのある製品をお届けできるかということを測りたかったのです。医療機関に対しては認可のない製品を営業することはできません。新規参入の場合は、現場がどんなものを求めているかつかみきれず、場合によってはニーズとかけ離れた製品を持ち込んでしまうことすらあるでしょう。場合によっては軌道修正も必要で、それが事前にできるかどうかはとても大きなことです。
そうしたことを考えると、当社にとって金井さんたちはなくてはならない存在になっています。また、事業化に向けての成果という意味では、医師の方たちから好評を受け、商談直前まで来ている製品もあります。これからの成果にも期待を寄せています。
金井氏 : 医師の臨床ニーズをヒアリングできた点は、私たちも大きな成果だと捉えています。ただ最終的には、製品を医療現場に届けることが本当の成果だと思います。そこに繋がるまでは引き続きサービスの改善を続けてゆきたいと考えています。
――今回の共創が順調に進んでいる理由はどこにあるとお考えでしょうか。
山田氏 : お互いに100%を求めなかったからではないでしょうか。新しいチャレンジですので、互いに改良や改善をしながら、共に歩みを進められたことが大きいと思っています。もし最初から完璧な成果を求めていたとしたら、オープンイノベーションはできなかったのではないでしょうか。
金井氏 : まったく同感です。当社はこれまで人材を中心に据えており、臨床にまではあまり目が向けられていませんでした。しかし、山田さんたちと共創したことで、新たな事業へと大きく視界が拓けました。互いに協力しながら新たな分野に挑戦できたことを、本当に嬉しく感じています。
真の成功に向けて、まだまだやるべきことは多い
――最後に、今後の展開についてぜひお聞かせください。
山田氏 : これまでのところ、非常に順調に進んでいます。お互いにリソースを持ち寄り、補完し合いながら事業化を目前に控えています。後は、この事業をどれだけスケールさせるかです。現状では、まだまだ手探りなところがあり、規模も控えめにしています。今後、規模を拡大させ、事業としてのインフラが整えば、さらにスピーディーに製品を医療機関にお届けできるようになると思っています。
金井氏 : AIを用いた画像診断の支援ソフトウェアなど、先端のテクノロジーを用いた医療機器はこれからますます必要となってくるはずです。最先端の機器を導入することで、医療の質的向上を実現させ、患者様の健康や命に貢献、さらには医師の働き方改革にも寄与する。そこまでたどり着いてはじめて、私たちの仕事に意味があったと言えると思うのです。
取材後記
クレアボ・テクノロジーズとメディカル・プリンシプル社は「医療現場を変える」という共通した大きな目標を持ち、共に前に進んでいる。オープンイノベーションの好例と言えるだろう。さらに、やりたいことや実現したいこと、それに向けての現状の課題も明らかになっており、そのことが両社の共創をさらに加速させることになっている。
オープンイノベーションはあくまで手段であり、目的ではない。そのことをよく教えてくれる事例となっているのではないか。今後、両社が「真の成功」に向けてどのような展開を見せるか。ますますの飛躍に期待を寄せたい。
(編集・取材:眞田幸剛、文:中谷藤士)