【連載/4コマ漫画コラム(29)】イノベーターなら知っておきたい日本企業と海外企業の違い① ~ビジネスはゲーム@シリコンバレー~
「では族」ではなく
「では族」という言葉があります。「アメリカでは」「イタリアでは」というように「では」を多用する元駐在員の奥さんとかがこのパターンにはまりがちです。「日本企業と海外企業の違い」というお題目だと、どうしてもそういう物事をステレオタイプに捉えた内容になりがちです。そのため、できるだけ一般論ではなくて、私が実際に経験して「おー、違うなあ」と感心した事例を紹介したいと思います。今回はシリコンバレーでのお話しです。
解任
シリコンバレーで企画し、プロトタイプを作り、様々な経緯があった後に事業化・発売にこぎつけた「ある新規事業」でしたが、なかなか思ったように売上が伸びない。毎月のようにその子会社化したグループに、日本から役員がシリコンバレーに訪問して、経営会議(ボードメンバー会議)を行って、事業戦略などを議論していました。私は当時40歳くらいで、この新規事業の企画~立ち上げに携わっていました。
そのチームのCEOはいつものように「計画は未達」「原因の想定」「次に展開する新たな戦略」のようなプレゼンをしていました。何度も何度も繰り返されてきた光景でした。
CEOのMr.Dが堂々とプレゼンをしている時に、ボードメンバーの一人が手を挙げました。
「Mr.D、STOP!ちょっと席を外してくれ。ボードだけで話をしたい」
そう言われ、Mr.Dは事業メンバーを連れて素直に部屋から出て行きました。私はボードメンバーではありませんでしたが、部屋に残りました。この事業の実質の中心人物の一人だったからです。
「やっぱり、もう無理だな。やめよう」とそのボードメンバーが口を切り、数分の議論(というか意見交換)の後、Mr.Dを部屋に呼び戻しました。
「この事業は止める。YouもCEOから解任する」
そうボードメンバーのチェアマンが告げ、会議は突然終了しました。
「お前が正しかった」と言われ
実は、私はこの会議のだいぶ前から、各ボードメンバーに「止めましょう」という話をしてきました。自ら立ち上げた事業でしたが、成功への道筋が見えず、湯水のようにお金が出て行っていたからです。しかし、中々ボードメンバーは止める決断までは至らずにいました。
解任劇の直後に、ボードメンバーの一人であったアメリカ人が寄ってきて、「Hide(私のこと)、お前が正しかった。止めずに引っ張ろうとしてきた私たちが間違っていた」と言ってきました。事業を提案して立ち上げた本人としては複雑な思いでした。
驚きのリアクション
実はこの会議は金曜日にあり、その翌日の土曜日に、解任されてしまったMr.Dとボードメンバーのゴルフが予定されていました。
「いくらなんでも明日のゴルフは無理だろうな」と思って、Mr.Dに一応聞いてみました。そうすると、「No problem。明日のゴルフを楽しみにしているよ」というのです。「え?」という感じでした。その話を日本から来ていたボードメンバーに伝えると、少し驚いた後に、「そうか、大したもんだなあ。日本人だったら恨みつらみが蓄積して顔もみたくない、となるよなあ」と感心していました。
その晩は、Mr.Dともう一人の駐在員の3人で一緒に飲みに行きました。落ち込んでいるだろうから慰めようかと思っていたら、いつもと同じ感じでとても明るい。かなり無理をして事業の成功に突っ走ってきたことから解放されたのかもしれません。
そして翌日―――。
解任したボードメンバーと解任されたMr.Dは何事もなかったように楽しくゴルフを一緒にしました。なんか感動してしまいました。
真剣なゲーム
日本では、新規事業などが失敗しそうになると「誰が責任を取るんだ!腹を切る覚悟があるのか!」などと、悲壮感に溢れた事態に陥ることがよくあります。もちろん、シリコンバレーでも成功に向けて「真剣(シンケン)に」努力をしますが、日本のように「深刻(シンコク)に」はならない。言葉の感じは似ていますが、全然違う。
それは、彼らにとっては「ビジネスはゲーム」だからです。失敗したら、また最初からやり直せばいい。ゲームもとっても難しいものだけれど、楽しまなきゃ、ということがベースにあります。だから人を恨んだりはしない。せいぜい「運が悪かったな」と思うくらいです。
日本でも子供たちがはまっているのは「ゲーム」。「あ、死んじゃった」「もう一回やろう」です。この子供たちが大きくなったら日本でも「ビジネスもゲームだ」というようなチャレンジや失敗をいとわない人達が増えてくるでしょう(と期待したい)。
もう一度言いますが、シリコンバレーでは「ビジネスはゲーム」です。
あ、「では族」になってしまっている……。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。