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【AI編】共創実現に向けたAI開発・利用契約の交渉はどう進める?「モデル契約書」に沿って弁護士が解説

【AI編】共創実現に向けたAI開発・利用契約の交渉はどう進める?「モデル契約書」に沿って弁護士が解説

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特許庁のオープンイノベーション推進プロジェクトチームが運営している『オープンイノベーションポータルサイト』には、有力な新技術を持つスタートアップと事業会社によるオープンイノベーションを想定した契約書の雛形『モデル契約書』が公開されています。

同資料は2020年6月に『モデル契約書Ver1.0』が公開されて以降、着々とアップデートを重ねています。本記事では2022年2月に開催された同資料の活用ポイントを解説したセミナー『初心者でもわかる!失敗しない事業会社×スタートアップのオープンイノベーションのための契約ポイント解説セミナー』から、契約書作成や交渉のポイントを紹介します。

※モデル契約書の主要ポイントを解説したパンフレットが間もなく公開される予定なのでお楽しみに!

セミナーは想定シーンごとに「新素材編」「AI編」に分かれて解説されましたが、「新素材編」に続き、本記事では「AI編」のポイントを解説します。セミナー講師は特許庁のオープンイノベーション契約ガイドラインのAI分野を担当した柿沼太一氏(STORIA法律事務所 代表パートナー/弁護士・弁理士)が担当しました。


▲セミナー講師を担当した弁護士・弁理士の柿沼太一氏

【想定シーン】人物の姿勢を推定するAIを開発するスタートアップとリハビリ機器メーカーの共創

モデル契約書のAI編では、下記のようなシーンを想定しています。

●複数の動画・静止画データを基に人物の身体形状および関節点を独自の AI アルゴリズムにより推定する技術を持つスタートアップX社

●介護施設向けリハビリ機器の製造販売メーカーY 社

●Y社は介護施設における被介護者の見守り用に高度な機器を有するカメラシステムの製造販売を検討しており、X社に問い合わせた

●Y社の動画データをX社に渡し、介護施設にベースモデルが導入可能か検討することに

●X社としては早期にY社との共創を実現し、障害者施設や保育施設に横展開したい

●X社は既存の協業先(スポーツ・フィットネス業界)には、モデルを納品するのではなくSaaS方式でサービスを提供している


▲解説資料(セミナー開催時点(2022年2月))より抜粋

参照ページ:モデル契約書 ver1.0 秘密保持契約書(AI) 

NDA、PoC、R&D契約で重要になるポイント

想定される契約書は4つのフェーズに分かれています。

1.秘密保持契約(NDA)

2.技術検証(PoC)契約

3.共同研究開発(R&D)契約

4.利用契約

このうちNDA、PoC、R&Dについては重要なポイントがいくつかあります。

NDA契約書で重要になるのは「NDAを締結して行う無償の業務の範囲は?」「秘密情報の範囲を定義する」「提供データの利用に関するトラブルを防止するには?」の3点。また、PoC契約書で重要になるのは「PoCで開発した学習済モデル等は提供すべき?」「検証業務は『期待した結果』が出るまで実施する?」「知的財産権の帰属先はどうすればよい?」の3点。

そしてR&D契約書でポイントになるのは「成果物の権利の帰属」と「各成果物の提供方法」の2点です。

「利用契約」に関するポイントを解説

PoC、R&Dと順調に進んで、利用契約まで話が進むと、利用条件を両社ですり合わせなければなりません。このケースの場合、すり合わせるべきトピックはいくつかあります。

1.AI精度の保証ができるか、また第三者の特許権非侵害を保証できるか

2.ひとつの高精度なモデルを複数社に提供するのか、提供先ごとにカスタマイズしたモデルを提供するのか

3.Y社は自分たちが提供したデータで作られたモデルなので利用を独占したい

――これらはどうすり合わせるべきでしょうか?

■AIの精度の保証が難しい

今回のケースでメーカーY社はスタートアップX社に対してAIの精度を保証できるか質問していますが、柿沼氏は「AIはあくまで学習に用いられたデータから一定の法則を見いだすものであるため、開発後のAIを実装した後に、未知のデータが入力された場合の精度を保証するのは難しい」と解説します。

また、Y社は今回の技術が第三者の特許権を侵害していないことを保証できるかX社にたずねています。しかし、X社が世界に大量に存在している特許を全て調査することは実質的に不可能なので、「X社が知る限り特許侵害はない」とするのが合理的です。

■独占か非独占か、データの利用範囲をどう設定するか

今回のケースでスタートアップX社がメーカーY社にモデルを提供する場合、モデルをY社に独占で提供するか、非独占で提供するかを決めなければいけません。Y社としては、自社のデータを提供して作り出したモデルなので独占的に利用したいところです。

ただ、X社としては独占的にモデルを提供してしまうとビジネスモデルが成立しない危険があります。当然ですがX社は、Y社以外にもモデルを販売していかなければなりません。仮にY社が求めるように、すべての提供先それぞれから個別のデータを受け取りカスタマイズして独占で提供するとなると下図のようになります。


このパターンだと、X社において全てのカスタマイズモデルをメンテナンスする必要があり、X社の管理コストは著しく上昇してしまうため、利用料を高めに設定しなければなりませんが、そのような利用料設定に応じる相手先企業がどれだけあるか不透明であり、X社のビジネスモデルが成立しない可能性があります。


そのため、X社としては各社にカスタマイズモデルを非独占で提供したいとY社に提案します。非独占ならば、ひとつのモデルに多くのデータが蓄積され精度は向上しますし、提供先が増えたとしてもメンテナンスするモデルはひとつで済むため、利用料を合理的な価格まで抑えることができます。このようにモデルの精度、X社の管理コスト、Y社の利用料という点から、X社及びY社いずれにとっても非独占パターンのメリットが高いといえるのです。

■利用料は貢献度によって合理的な条件を設定

柿沼氏は利用料の設定は「貢献度によって合理的な条件にする必要がある」と言います。例えば上の図だとA、B、C社はデータ提供をしていますが、D、E社はモデルを利用しているだけです。

貢献度を利用価格に反映するには「データ提供者に対する利用料の割引」と「モデルから得られた収益のデータ提供者への分配(レベニューシェア)」がありえますが、柿沼氏は「レベニューシェアは成り立ちにくい」と話します。なぜならデータ提供者が増えるほどレベニューシェアにおける合理的な分配基準の設定が難しくなっていくからです。結果的に、今回のケースも、スタートアップX社は、データ提供者であるメーカーY社のモデル利用料を①通常の最安値から一定期間さらに割引する、②初期費用の負担を求めない、という形を落とし所にしています。

【編集後記】知財・法務リテラシーが乏しいスタートアップの最初の武器に

スタートアップが初めて事業会社と共創する場合、知財・法務担当が不在のケースが多いでしょう。それを逆手にとった事業会社による搾取的な契約が問題になっていますが、モデル契約書はそういった不平等を解消するためのツールです。モデル契約書がスタートアップの武器として使われることで、共創の質がボトムアップされることでしょう。

(編集:眞田幸剛、取材・文:久野太一)

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