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大企業とパートナーになるには。エンタープライズのプロが教える「キーマンとの付き合い方」

大企業とパートナーになるには。エンタープライズのプロが教える「キーマンとの付き合い方」

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BtoBスタートアップにとって欠かせない「エンタープライズ営業」。大企業を攻略することで事業成長の近道にはなりますが、信用度の低いスタートアップのサービスを導入してもらうのは容易ではありません。

そんな中、次々と大企業への営業を成功させているのがACALL株式会社。大企業向けの働き方改善をサポートするクラウドサービスを提供しており、大手の不動産会社や通信会社をはじめ成長中のメガベンチャーが導入しています。

その実績を支えているのも、大企業との提携です。大手文具メーカー「コクヨ」をはじめ数社の大企業と販売パートナーになることで、自社では実現できないスピードで営業実績を積み重ねています。

それらの取り組みを実現しているのが、国内のアライアンスを先頭に立って推進しているCOO吉元裕樹氏です。前職の大企業でスタートアップとの共創を担当し、提案を受ける側だったからこそわかる「大企業に選ばれるためのノウハウ」を熟知しています。

今回は吉元氏に大企業からスタートアップに踏み込んだ経緯や、どのように大企業とのアライアンスを進めているのか話を聞きました。


▲ACALL株式会社 取締役副社長/COO 吉元 裕樹氏

新卒でベンチャー企業を経て、DICでモビリティ関連の事業責任者として中国を含むアジアを中心に0→1の立上げ、事業を大きくグロース。日産自動車ではカーシェアサービスの事業統括や他MaaS関連で多数のプロジェクトリーダー、同社のMaaS戦略策定に従事。2020年2月よりACALLに入社。

「後世に残るビジネス」を作るためにACALLにジョイン

まずはACALLにジョインするまでの経歴から聞かせてください。

私は社会人としてのキャリアを不動産の営業からスタートしました。経営者だった父を小さな時から見ていて、お客さんと話している姿に憧れ「ファーストキャリアは絶対に営業からスタートしよう」とずっと思っていたのです。

しかし、家庭の事情でわずか数ヶ月で会社を辞めることに。2社目に選んだのは乳製品を扱う専門商社でした。その当時の上司が某大手乳業メーカーでは伝説的な営業マンで、その方からエンタープライズ営業の真髄を学ばせてもらいました。

その後、グローバルな仕事がしたいと思い化学メーカーのDICに移りました。1年目から大きな実績を出すことができ、2年目には海外で新規事業の責任者をするチャンスをもらえたのです。

当時の上司が「2億円を使って好きにやってみろ」と言ってくれて、私が目をつけた市場は中国。当時、世界で主流になっていた「接着剤を使った車の製造法」を、世界有数の自動車大国である中国ではまだ取り入れていなかったのです。苦労は絶えませんでしたが、中国最大の接着剤メーカーへの営業をまとめたことで事業を軌道に乗せることができました。

グローバルでも実績を残してきたのですね。次の転機は何だったのですか。

次の転機になったのは、自動車メーカー「ルノー」との仕事。その仕事をきっかけに、ルノーのパートナーであり前職の日産が声をかけてくれて、新しいチャレンジをすることにしました。もともと営業としてヘッドハンティングされたものの、面接をしていくうちに「0→1、1→10の経験と確かな実績がある」と事業開発の部署で採用してくれたのです。

そこで学んだのはプロの戦略策定やマーケティング。私が配属されたMaaSの部署には大手コンサルティングファームから何名ものコンサルタントが招聘されており、戦略の作り方などを叩き込まれたのです。

ACALLへ転職しようと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

実はもともと転職ではなく、起業を考えていまして。MaaSの部署では毎日のようにスタートアップの起業家と話す機会があり「なんて楽しそうに事業を語るんだろう。自分も起業してみたい」と考えるようになっていました。

しかし、知り合いの投資家や起業家に相談してみると「大企業から起業してうまくいっている人は少ない。まずはスタートアップで圧倒的な成長スピードを経験してみろ。その成長を自分が担えれば更に箔が付く」と言われたんです。中には起業を勧めてくる方もいましたが、大半は転職推し。こんなに多くの人が言うなら、一度スタートアップで働いてみようかなと思って何社か紹介してもらいました。

その中の一社がACALLだったのです。

ー何社か紹介してもらった中で、ACALLを選んだ理由を教えてください。

圧倒的な将来性を感じたからです。代表の長沼が当時から話しているのが「将来的に一社に属する時代は終わる。その時のために、どこでも働きやすい環境づくりを支援するんだ」というミッション。

それを聞いた時、「総労働人口のアロケーション」そんな言葉が私の脳裏に浮かびました。今の日本の労働人口は約7,000万人。それだけの人々を最適な場所に配置するプラットフォームを作れれば、その市場は計り知れません。また、日本で起きる現象はいずれ世界にも広がっていきます。世界中の人が働きたい場所で自由に働ける、そんな壮大な夢に賭けてみたくなったのです。

ー今は起業は考えていないと。

はい。私にとって起業は目的ではなく手段。本当にやりたいのは、後世にまで残る事業を残すことです。人々の行動、生活を変えられるようなインパクトの大きいビジネスを作りたいですし、ACALLならそれができると思っています。

1つのIDであらゆる機能が利用可能。自由な働き方をサポートする「WorkstyleOS」

ーACALLが提供しているサービスについて教えてください。

私たちが提供している「WorkstyleOS」は、ワークスペースのチェックインをオンライン化することで、ハイブリッドワークの実現をアシストし、働きやすさを実現するサービスです。様々なワークスペースともの、行動、人を繋げることができ、例えば受付・入退館の自動化やワークスペース・座席のチェックイン管理などでスマートな働き方を支援します。


最近はオフィスだけでなく、コワーキングスペースやカフェで働く人も増えているため、あらゆる場所をチェックインスポットにすることで、働き方の選択肢も広げています。誰がどこで働いているのか、データも可視化できるので、より高精度なマネジメントも可能なのです。

ー競合他社との優位性はどこにあるのでしょうか?

あらゆる機能を1つのIDで提供できる点です。私たちのサービスは、機能ひとつひとつを見れば競合も存在しますが、それらを全てまとめて提供しているサービスは他にありません。

企業の総務や情報システム部が嫌がるのはIDの管理が複雑になること。複数のサービスを導入すると、それぞれのIDを管理しなければならず手間が増えます。その点、私たちのサービスであれば、1つのIDで全ての機能を利用できるのでID管理が非常に楽になるのです。

また、徹底的な「ユーザードリブン」と「海外事例の研究」により、競合に先んじて新たな機能を追加できるのも私たちの強みです。

マーケティングチームが定期的にユーザーインタビューをしているほか、セールスチームも積極的にユーザーからのフィードバックを集め開発に反映しています。また、日本よりも多彩な働き方が発展している欧米のサービスを参考に、常に競合に先んじて新機能を開発しているのです。

大企業とパートナーになることで急成長を実現

ーエンタープライズ営業に苦戦しているスタートアップが多い中、ACALLが工夫していることを教えてください。

大企業と連携して営業活動をしていることです。例えば販売パートナーの1社であるコクヨさんとは、販売促進の連携をしており、オフィス家具と一緒に、私たちのサービスも販売していただいています。


単なる販売代理店という関係ではなく、コクヨさんが運営する『新しい働き方を模索する実験場「THE CAMPUS」』でも私たちのサービスを利用していただき、シナジーを生み出しているのです。

ーなぜコクヨさんと営業パートナーになれたのでしょうか。

ことの始まりは2020年にシリーズAで出資していただいたことです。コクヨさんが描いている中長期の構想と、私たちのビジョンがマッチしたことで出資していただきました。コクヨさんにとっても10数年ぶりのスタートアップ投資だったようです。

コクヨさんからは「ACALLは現実と未来のバランスがいい」と評価していただいています。

大きなビジョンを描きながらも、足元で現実的な計画を立て、実践していることが評価されたのだと思います。

コクヨさんとの取り組みの成果についても聞かせてください。

これまで約2年弱取り組みを続けてきましたが、数十件もの案件をコクヨさん経由で成約できました。金額に換算すれば、数千万円以上のインパクトです。これは私たちだけでは生み出せなかった成果だと思っています。

取り組みを成功させた秘訣についても聞かせてください。

自分たちがどれくらい本気なのか見せることだと思います。パートナーとなる以上、私たちの本気が見えなければ、向こうも本気で取り組んでくれないでしょう。大企業にとっては、自分たちが数十年かけて培ってきたアセットを投資するのですからなおさらです。

アライアンスを成功させるための「キーマン」の探し方・付き合い方

コクヨさん以外にも複数の大企業と提携しているようですが、大企業と組むメリットを教えてください。

ひとつは信頼を得られること。スタートアップに一番足りないのは社会的信用です。どんなに素晴らしいサービスを作ったとしても、会社の名前が知られていないので、どうしてもお客様は不安になります。しかし、大企業と提携することで「あの大企業が組んでいるなら怪しい会社ではないな」と信用が担保されるんです。

また、多くの学びを得られるのも大企業と組むメリット。大企業でスタートアップとのアライアンスを担当している方は、基本的に視座が高いです。大企業だからこその視点で市場を見ているので、そのインサイトは私たちの事業を成長させていく上でも非常に参考になります。

大企業と提携するには、何を意識すればいいのでしょうか。

まず意識すべきは「焦らないこと」。スタートアップの中には、早く提携を結びたいが故に前のめりに提案する企業も多いです。しかし「御社にもメリットがあるので、すぐに動きましょう」と言われても、大企業はすぐには動けません。大企業には大企業のペースがあるので、それを理解して提案する必要があります。

例えば私は最初のミーティングは30分と短めにして、あえて情報は小出しにします。一度に情報をぶつけるのではなく、まずは興味を持ってもらい、もっと話を聞きたい状態で次回のミーティングを設定します。何度も会いながら信頼を築いていくと、向こうから「今度は〇〇部署の者も同席させます」と現場の方も出てくるはずです。

そこまで信頼関係を築ければ、スムーズに契約を結べるでしょう。

実際に提携を結んでから注意すべきことも教えてください。

大事なのはキーマンではなく「キーチーム」を抑えること。大企業のプロジェクトとなると、どんなキーマンであっても一人の力で動かせるものではありません。そのため、現場を動かせるキーマンと上層部に顔が利くキーマン、複数の方を意識しながら付き合っていきます。

特に大企業と実証実験をする時は要注意。大企業の中には、実験することが目的になっていることも少なからずあります。実験で終わらずしっかり事業化に繋げるには、実験後のビジョンをキーチームとすり合わせしておくといいでしょう。

キーマンはどのようにして探せばいいのでしょうか。

会議中の周りの反応を見て探します。私は大企業と打ち合わせをする時にできるだけ多くの方に参加してもらい、いろんな方に「あなたはどう思いますか」と話を振るんです。そして、他の人が頷くなどの反応をしているのかチェックします。

役職に関係なく、周りに影響力のある人の話には、自然と周りはうなずきながら聞いているもの。話しているときの反応を見ながら、みんなが大きく頷いているようなら、その人がキーマンです。

キーマンとの付き合い方も教えてください。

キーマンを見つけたら、個別に連絡しながらプロジェクトの進め方を相談します。大企業には様々なステークホルダーがいるため、いきなり全体メールで連絡するのはリスクが高いんですね。

そのため、事前にキーマンに「こんなメールを送りたいんですが、問題ありませんか」と相談してからメールします。場合によっては内容を修正したり、タイミングを見計らったり、様々な調整が可能です。

また、大企業と良い付き合いをしたいなら、代わりに社内調整をしておくのもおすすめ。スタートアップにいるとわからないですが、大企業における社内調整は重労働。それを代わりにできるようになれば、大企業からの信頼も高まるでしょう。

「己を知る」をサポートすることで、well-beingを実現していく

ACALLとして、今後はどんな企業との提携を実現していくのか聞かせてください。

パートナーを増やし、当社のビジョンを一緒に実現していける企業と組んでいければと思います。

私たちは「Life in Work and Work in Life for Happiness」をビジョンに掲げ、人々の「くらし」と「はたらく」を自由にデザインできる世界の実現を目指しています。人によって、仕事のオン/オフのタイミングは違うため、本来であれば、仕事のオンのタイミングやオフのタイミングを自分で自由にデザインできるというのが理想だと考えています。そんな理想を追及するには、働く場所や時間によって「生産性が高まるのか」そして「well-beingな状態なのか」を判断するOSが必要になると考えており、ACALLが今後提供していきたいと考えています。

well-beingは、よく「幸せ」と訳されることが多いですが、実は「自分を知ること」という意味もあります。自分に最適な働き方を知ることが幸せに繋がりますし、生産性アップにも繋がるのです。

そのため、同じように世の中にwell-beingをもたらしていきたいという志のある企業ともパートナーシップを組んでいきたいですね。

具体的にはどんな企業なのでしょう。

例えば自分の生産性を知るサービスなどが該当します。自分がどれくらい働き、どれくらいのアウトプットを出したのか、可視化しデータで把握できる会社です。

もう一つはバイタル情報を収集する技術を持っている会社。例えば脈拍や血圧などからストレスの度合いが分かれば、自分がどのような働き方が向いているか分かりますよね。

実際に私たちは鹿島建設さんと組んで、実証実験を行っています。緑などの自然の要素を取り入れた室内空間に、光や音などの環境制御を融合させたウェルネス空間「そと部屋」をACALLのオフィスに設置してバイタルの変化を調べる実験です。


▲鹿島建設との実証実験の様子

心地よい空間で仕事をすることで、リラックス効果を得て生産性が向上するのか、アイディアが出やすくなるかなど多角的に調査しています。実験の途中ではありますが、他の場所で働くよりもストレスが減少しているというアンケート結果が出てきています。

今後も、このような実験を続けて、より働きやすい環境づくりを進めていきたいですね。

最後に、外部の企業と提携する重要性を聞かせてください。

私が思うに、会社経営というのはどんどん複雑になっています。大企業であっても自社だけで複数の事業を全て成功させるのは難しく、オープンイノベーションは欠かせない戦略と言えるでしょう。そのため、大企業も経営を補完しあえるスタートアップの力を求めているはずです。

だからこそ、スタートアップは大企業が何を目指しているのか理解し、お互いにビジョンの重なる部分での共創を提案することが重要です。大企業のビジョン全てを支えるのは無理があるかもしれませんが、その一部分を切り取ればスタートアップが価値を発揮できるシーンは必ずあります。

これから大企業と提携を目指すスタートアップは、大企業のビジョンをしっかり理解し、提案されることをお薦めします。

(取材・文:鈴木光平)

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