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【INNOVATION VITAL CHECK#2〜JR東日本スタートアップ編〜】 イノベーションスコアの可視化によって明らかになった同社の強みと弱みとは?

【INNOVATION VITAL CHECK#2〜JR東日本スタートアップ編〜】 イノベーションスコアの可視化によって明らかになった同社の強みと弱みとは?

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オープンイノベーションを実践するには、自社の状況やフェーズを明確に把握する必要がある。しかしながら、多くの企業がオープンイノベーションを手探りで進めており、うまく進まない原因が特定できておらず、それゆえ改善も難しいという実態がある。

また属人的な取り組みで生み出してきたものから、企業として持続的にイノベーションを生み出していくために、取り組みの組織化・仕組み化が求められている。

このような状況の中、eiicon companyでは、オープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」がもつデータやノウハウをもとに、自社の新規事業創出レベル「イノベーションスコア」を可視化・分析できる国内発のサービス「INNOVATION VITAL」(イノベーションバイタル)の提供を開始した。

――そこで、オープンイノベーションの先駆者である大企業担当者に「INNOVATION VITAL」を受講していただき、どのような結果と気づきを得たかに迫る新企画【INNOVATION VITAL CHECK】を開始。シリーズ第二弾では、JR東日本スタートアップ株式会社の柴田氏、隈本氏、佐々木氏が登場。3名に「INNOVATION VITAL」を受診いただいた。

JR東日本グループのCVCとして2018年に設立されたJR東日本スタートアップは、アクセラレータープログラムの実施を通じて毎年20社以上のスタートアップと共創を進めてきた。そんな同社のイノベーションスコアはどのような結果になったのか?実際の診断結果を踏まえつつ、同社の新規事業創出における強みや課題に迫っていく。聞き手は、eiicon companyのシニアコンサルタントである松尾真由子だ。


▲JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長 柴田裕氏


▲JR東日本スタートアップ株式会社 シニアマネージャー 隈本伸一氏


▲JR東日本スタートアップ株式会社 アソシエイト 佐々木純氏

自分たちの活動や組織について、改めて考えさせられる質問が多かった

eiicon・松尾 : 今回は「INNOVATION VITAL」を受けていただきありがとうございます。本日は診断結果を共有させていただくとともに、スコアの高い項目、低い項目、それぞれに関する取り組み内容や実感値とのギャップなどもお伺いしたいと思いますが、まずは受診いただいた段階での率直な感想をお聞かせいただけますか?


JR東日本・柴田氏 : 質問に答えながら自分たちの活動や組織について、頭の中を整理できた気がしています。イノベーション活動への理解度に関する質問がありましたが、階層ごとの浸透度合いについては深く考えたことがなかったので、「私たちが発信したイノベーション活動に関するビジョンを、受け取った側の人たちはどこまで理解しているだろうか」と、改めて考えさせらました。

また、当社がCVCであることもあり、JR東日本本体の立場で答えるべきか、それともJR東日本スタートアップの立場で答えるべきかと、判断に迷う質問もあったというのが正直なところです。

JR東日本・隈本氏 : 確かに「ビジョンや方針をどこまで組織に浸透させられているか」といったタイプの質問に関しては、まだまだそこまで到達できていないなと感じながら回答していました。オープンイノベーションに関する評価・インセンティブ設計に関する質問などもありましたが、組織全体に本気で根付かせるためには、そのような部分にまで切り込んでいく必要があるのかもしれませんね。

JR東日本・佐々木氏 : 私は担当者としての立ち位置で回答したのですが、ビジョンや方針、価値観の共有に関する質問について、今の自分がそれらを明確に言葉にできるかというと、やはり難しいなと感じました。スタートアップの方々と一緒にPoCを回していくような実務については常に関心を持っているものの、ビジョンなどの大きな話については、そこまで強く意識できていなかったと気づかされました。

eiicon・松尾 : 今回はJR東日本スタートアップの皆さんだけに回答いただきましたが、JR東日本本体の経営層の方々、あるいは現場の方々にも受けていただくことで、グループ全体としてのスコアを計測してみてもいいかもしれませんね。


診断結果:「全社戦略との整合性/OIの明確化」に強みがあることが明らかに

eiicon・松尾 : それでは皆さんの回答をもとにした診断結果のフィードバックに移らせていただきます。総評としては、イノベーション活動と全社戦略との間に整合性があり、会社としてオープンイノベーションの目的が定まっているという結果が出ています。

自部門の構築、実際に活用できるリソースの整理、プロジェクトごとのブランディング戦略など、ボトムアップでの活動は活発な一方、全社での組織を上げての活動に向けて取り組むべきポイントは見受けられます。

全社戦略との整合性がある点において、会社としてイノベーション活動の重要性の認識や活動自体への合意はある状態だということが見受けられますので、よりイノベーション活動基盤を強固にしていくために経営陣を含めた対話の機会を持ち、明確化されていないポイントの整理をしていくことをお勧めします。


●全社戦略との整合性/オープンイノベーションの明確化

5つの大項目の中でも「全社戦略との整合性/OIの明確化」のスコアが、もっとも高くなっています。とくに中項目の「全社戦略と新規事業戦略が紐付けられている」、「全社戦略が明確に示されている」はと高い水準を示しており、貴社の強みとなっているようです。

一方で「トップからの発信があり、イノベーションの重要性は社内浸透している」、「クローズドイノベーションの領域とオープンイノベーションの領域が明確にすみ分けられている」と少し低いスコアとなっています。トップの発信を自身の言葉に置き換えて話す機会や各個人が自社のイノベーション戦略を語る機会が限定されている可能性があるため、自社のイノベーション戦略の言語化・発信を積極的に推進することをお勧めします。

●方向性の明確化

こちらの項目の中でも「現実的に活用できる自社のリソースが明確になっている」が高い水準であり、PoCについて豊富な実績を持つJR東日本スタートアップさんらしいスコアであると感じます。規模の大きい企業において、社会実装する上での必要なリソースが調整できる良い状態であると言えます。一方で「マイルストンが定まっている」、「何を目的とするのか定まっている」、「参入市場が明確になっている」、スコア平均を下げています。幅広く様々な可能性を模索される貴社ならではだと考えますが、さらなる事業化・収益化を目指すためにも、意思統一しやすいよう明確化していく必要があると考えられます。

●体制プロセスの整理

自社におけるイノベーションを生み出すための体制が整っていることを表すこの項目は、良いスコアとなっています。

特に、イノベーション部門の組織構築・裁量が明文化についても非常に良い結果で、JR東日本の出島であるこの組織の存在や、皆さんの裁量の大きさが現れていますね。

しかし、決裁の所在や実践のプロセスについては、平均値を下げてしまっています。「誰がやるか」については明確であるものの、「どうやればいいか」「どこに聞けばいいか」といった部分に関しても具体的なプロセスを整理される必要があるかもしれません。

●事業化/協業判断基準の明確化

こちらは全体の中でも低い項目が多く、改善が必要であるという結果が出ています。事業化・共創パートナー選定における全社統一の判断基準の設置、事業創造のスタートから事業化に至るまでのチェックゲートの明文化に着手されることをお勧めします。

●適切な発信とソーシング

この項目は、「パートナー企業にとっての自社と共創するメリットの整理」など高いスコアがでています。

これまで数多くの共創を手掛けてきたからこそ、ターゲットに打ち出すメリット・訴求ポイントがしっかりと整理され、磨き込まれているようです。

一方で、全社としてのオープンイノベーション戦略への設計、各メンバーへの戦略への落とし込みに関する項目が低いため、これらの改善が必要になりそうです。


メディアの評価よりも「INNOVATION VITAL」の診断結果の方が実態に近い

eiicon・松尾 : 診断結果についてお伝えさせていただきましたが、いかがでしょうか。感想をお聞かせいただけますか?

JR東日本・柴田氏 : 様々なメディアからJR東日本のオープンイノベーションを評価いただける機会が増えていますが、現状の「INNOVATION VITAL」の五角形の大きさこそが当社の実体に近いと思います。まだまだ課題が山積みですし、やらなければいけないことがたくさんあると感じました。

JR東日本・隈本氏 : 自分たちが自覚していた通りの結果が出ていると思います。「適切な発信とソーシング」などは、ある程度できていると思いますし、JR東日本スタートアップ内での手法や進め方についてはノウハウも貯まってきていますが、それらがプロセス化されていないことが弱みにつながっていますよね。

結局、事業化の判断についてはプロジェクトごとに、その場その場の判断になってしまっているので、上手くいく事例もあれば、そうではない事例も発生しています。その点を変えていかないと組織としてブーストしないという課題感が、より明確になったと思います。


JR東日本・佐々木氏 : 評価に関しては真摯に受け止めたいと思います。私自身は「オープンイノベーションでスキームを作るなんて不可能だ」と考えていたのですが、今回のようにオープンイノベーションに必要な要素を細かく分割して見せていただけると、大きなスキーム構築は難しいとしても、小さな要素ごとに少しずつ改善を進められるのではないかと感じました。

また、様々な項目が可視化・数値化されているので、上層部に対して稟議や提案を通す際の参考資料としても有効に活用できそうな気がしています。

eiicon・松尾 : 「パートナー企業にとって、自社と共創するメリットが整理できている」、「本プロジェクトにおける訴求ポイントが明確になっている」といった項目については高いスコアが出ています。このような外部への発信に関して、普段から意識して取り組まれていることはありますか?

JR東日本・柴田氏 : 私たちの活動が、アクセラレータープログラムを中心に回っていることが大きいかもしれません。キャピタリストが集まっているようなCVCではないので事業共創に特化せざるを得ないという事情もあるのですが、だからこそ当社のアクセラレータープログラムでは、「JR東日本のインフラを使って新しい事業やソリューションを生み出しましょう!年度内に必ずPoCを行い、結果が出たものを事業化します」といった感じで、極めてわかりやすいアピールを行い続けていますからね。

eiicon・松尾 : 「現実的に活用できる自社のリソースが明確になっている」も高水準のスコアですが、どのような背景・理由があるとお考えですか?

JR東日本・佐々木氏 : JR東日本スタートアップのメンバーは、全員がJR東日本からの出向者なので、メンバーそれぞれが様々な部門・現場でのバックボーンを持っています。そのため、アセットやリソースを活用する際にも「どの部門に相談すれば許可がもらえそうか」ということが感覚的に理解できるんですよね。そこは強いと思います。

JR東日本・隈本氏 : グループ会社や部門ごとに、少しずつ協力者を増やし続けてきたことが大きいかもしれません。最初は一人しか協力者がいなかった部門であっても、その一人を起点にして次から次へと新しい人を巻き込むことで、協力者のネットワークを広げていったイメージですね。そのような取り組みがリソースの明確化につながっていると感じます。

eiicon・松尾 : 「全社戦略と新規事業戦略が紐付けられている」、「全社戦略が明確に示されている」といった項目も高スコアです。こちらについてはいかがでしょうか?

JR東日本・柴田氏 : 当社が立ち上がったタイミングの前後に、JR東日本が中期経営計画を発表したのですが、その中でオープンイノベーションが重点項目の一つに掲げられており、JR東日本スタートアップという当社の社名も併記されていました。

全社戦略である中期経営計画の発表と当社の立ち上げが重なったことで、私たちとしても「自分たちこそがJR東日本におけるオープンイノベーションの最前線である」という意気込みを持ってスタートできましたし、JR東日本側も当社をそのような組織として位置付けているはずです。

eiicon・松尾 : そもそもJR東日本自体がオープンイノベーションに本気だったからこそ、貴社が誕生したということですね。

JR東日本・柴田氏 : 当グループのトップは国鉄時代に経営破綻を経験していますからね。その分だけ他の大手企業の経営者よりも危機感が強く、本気で新規事業創出に取り組むマインドを持っていると考えています。


様々な組織・部署・人々と一緒に物事を進めるためのエンジンとして活用したい

eiicon・松尾 : 「INNOVATION VITAL」を活用し、貴社の新規事業創出レベルを様々な角度から可視化・数値化させていただきましたが、今回の診断結果を活かしたネクストアクションなどがあればお聞かせください。

JR東日本・佐々木氏 : 最初にお話しした感想と近い話になってしまいますが、私のような担当者は、「ビジョンは社長や管理職の人たちが作るもの。自分たちはそれを受け取るだけ」と、少しフワッとした感じで捉えていましたが、今回の診断結果を拝見したことで、自分たち一人ひとりがビジョンを認識しておく必要性を強く感じました。

さらに言えば、「担当者だからPoCなどの実務をやっていればOKだ」とは考えずに、今回の診断結果を発奮材料にして組織作りやプロセス作りにも関わっていきたいと思いました。

JR東日本・隈本氏 : 「INNOVATION VITAL」の診断結果は、JR東日本本体も含めて様々な部署や担当者と一緒に物事を進める際のエンジンとして活用できるのではないかと考えています。

今まで認識できなかった組織のレベルや状態が数値化されたことで、ぼんやりと感じていた課題が明確になりましたし、いざ数字や点数になると「気になるから何とかしよう」とい考えてくれる人もたくさんいると思うんですよね(笑)。

JR東日本・柴田氏 : 「イノベーション部門の組織構築ができている」、「自部門の裁量が明文化されている」といった項目のスコアが高いとご説明いただきましたが、このような項目が評価されたことは励みになります。

当社は「日本最大のインキュベーターになる」というJR東日本本体とは異なる独自のビジョンを掲げて活動しています。他の大企業のCVCであれば、ビジョンや目標を親会社に決められてしまうケースもあると思いますが、今回の診断結果なども踏まえると、改めて当社には大きな裁量と自由が与えられていることを実感しました。

一方で「オープンイノベーション担当者と、協力部署担当者の評価・インセンティブ設計がなされている」という項目については低いスコアがついていたので、こちらは何とかして制度・体制を構築する必要があると感じています。現在の当社は設立4年目ということで意識の高いメンバーだけが集まっていますが、今後、組織が大きくなって人数が増えた際には、どうしても必要になってきますからね。今のうちから着手すべきだなと思いました。


取材後記

今回の活用事例取材を通して「INNOVATION VITAL」が、実際にオープンイノベーションに関わる人々が無意識的に感じていた課題、気づくことができなかった問題点の可視化・数値化に力を発揮するサービスであることが理解できた。会社・組織・プロジェクト参加者など、多くの人たちの間で現状の課題・問題点を客観的な数値で共有し合うことができれば、新規事業創出に必要な基盤作りがスピーディーに進むかもしれない。

オープンイノベーションの取り組みがスムーズに進まない企業はもちろん、偶発性に頼っていたイノベーションの成功確率を向上させたいと考える企業にとっても有効なサービスとなりそうだ。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:山﨑悠次)


■連載一覧

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  • 前川 誠次

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