【INNOVATION VITAL CHECK#1〜東急編〜】イノベーションスコアを可視化するツール「INNOVATION VITAL」提供開始!大企業オープンイノベーションの先駆者、東急の結果は?
オープンイノベーションを実践するには、自社の状況やフェーズを明確に把握する必要がある。しかしながら、多くの企業がオープンイノベーションを手探りで進めており、うまく進まない原因が特定できておらず、それゆえ改善も難しいという実態がある。
また属人的な取り組みで生み出してきたものから、企業として持続的にイノベーションを生み出していくために、取り組みの組織化・仕組み化が求められている。
そこでeiicon companyでは、オープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」がもつデータやノウハウをもとに、自社の新規事業創出レベル「イノベーションスコア」を可視化・分析できる国内初のサービス「INNOVATION VITAL」(イノベーションバイタル)の提供を開始した。
「INNOVATION VITAL」の特徴としては大きく以下の3つ。
(1)新規事業創出につながるイノベーションレベルのスコア化
(2)eiicon companyのノウハウを結集した新規事業創出モデルをツール化
(3)コンサルタントが分析からイノベーション推進体制構築までを伴走支援
これにより、企業がオープンイノベーションを実践するうえでの状況やフェーズを踏まえ、事業化を全面的に支援していくというものだ。可視化をすることで、どの課題から優先的に取り組むべきか明確になり、具体的な行動への落とし込みへ繋げることが出来る。
――そこで、オープンイノベーションの先駆者である大企業担当者に「INNOVATION VITAL」を受講していただき、どのような結果と気づきを得たかに迫る新企画【INNOVATION VITAL CHECK】を始動!
第一弾に登場していただいたのは、東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボの福井氏、武居氏、金井氏の3名だ。同社は2015年「東急アクセラレートプログラム」(TAP)を開始し、数々の共創事例を生み出してきた。そして2021年、TAPを「共創プログラム」から「共創プラットフォーム」(東急アライアンスプラットフォーム)へ、リブランディングを果たし、さらに進化を続けている。
グループ社員の、誰もがオープンイノベーションという選択肢を当たり前に持ち、より迅速かつ円滑に事業共創を推進するために、組織化・仕組み化をより強化しているのだ。
そんな同社の企業としての事業開発におけるイノベーションスコアは、どのような結果になったのだろうか。実際の数値を踏まえつつ、TAPが成果を上げている理由にも踏み込んでいく。聞き手は、eiicon companyのシニアコンサルタントである松尾真由子だ。
「適切な発信とソーシング」「全社戦略との整合性」が非常に高い結果に
eiicon・松尾 : 今回、「INNOVATION VITAL」を受けていただきありがとうございます!本日は診断結果のフィードバックとともに、スコアの要因や、ご感想を伺っていきたいと思います。
まずイノベーションスコアは、「全社戦略との整合性/OIの明確化」「方向性の明確化」「体制プロセスの整理」「事業化/協業判断基準の明確化」「適切な発信とソーシング」の5つの分析項目から見ていきます。
5つの項目がそれぞれ3.0以上あることで、「組織としてイノベーション創出にむけた土台がある」といえます。何かが欠けていれば事業創出の難易度は各段に上がりますので、スコアが高い項目の強みを活かしながら全体項目3.0以上を目指していくことをお勧めします。
オープンイノベーションの組織化・仕組み化に力を入れている東急様のスコアは全体的に高く、さすがイノベーションの土台がしっかりとしていらっしゃると、社内でも話題でした!
総評としては、全社戦略との整合性や、方向性の明確化、誰が実践するかといった体制プロセス整理が一定出来ていることから「イノベーション創出活動」を十分に実践できる状態は創り出せていると言えます。
一方で、事業化/協業判断基準の明確化においては、マイルストンの明確化や、協業判断基準の明確化などスコアが低い部分は、今後のイノベーション実践において、ウィークポイントとなりうるポイントの再設計・再構築をお勧めします。
全社戦略・方向性や役割は明確なため、事業化に向けた実践時の具体的なプロセスやチェックゲートなどをもう一段明確にしていくことで、よりイノベーションを事業化に結び付けるための組織への昇華に繋がっていくかと思います!
それでは、5つの分析項目の詳細をみていきましょう。
●適切な発信とソーシング
5つの分析項目のうち、特に「適切な発信とソーシング」は高いスコアが出ており、東急さんの大きな強みといえます。オープンイノベーション領域の模範となる姿ですね。細かな項目でも4を超えており、ブランドイメージの構築や外部への訴求は非常によくできている状態だと言えるでしょう。
ただ少し気になったのは、成果指標のところです。今後さらに一段高めていくには、指標がマイルストンごとに定められているといいでしょう。
●全社戦略との整合性/オープンイノベーションの明確化
この項目は、長くオープンイノベーションを実施していらっしゃるだけあって、しっかりとできています。特に「全体戦略が明確に示されている」「全社戦略と新規事業戦略が紐づけられている」は4を超えています。
一方で、「イノベーションの重要性が社内浸透している」、「クローズドイノベーションとのすみ分け」は、他項目と比較して低い数値が出ています。新たな事業創出には、イノベーション活動を各人が”自分事化”することが、社内推進力に大きく影響を及ぼします。組織内での新規事業における言語化と発信を積極的に行うことをお勧めします。
●方向性の明確化
こちらの項目も、高い数値といえます。なかでも、「何を目的とするのか定まっている」、「自社のリソースが明確になっている」が、高い数値がでています。イノベーション創出を行う上での方向性や、どのような課題をどう解決するのかが明確だといえます。
しかし、イノベーション活動においてのマイルストンの設計(状態目標・定量目標)は中長期・短期ともに同様に「できていない」結果が出ています。かつ、回答者間で乖離が大きくみられた項目で、認識の相違があると考えられます。今後、マイルストンの設計と社内・チームでの共通認識を持つことが、持続的なイノベーション創出に重要でしょう。
●体制プロセスの整理
こちらの項目も、イノベーション創出活動を十分に実践できる状態だといえます。TAP自体もプログラムからプラットフォームへ進化させていることもあり、「組織化できている」ことにおいても非常に高い数値がでています。
特に決裁者/実践者などが明らかであるという項目においても、高いスコアが出ており貴社の強みと言えるでしょう。
ただ、実践プロセスの策定や経営資源の確保、担当者の評価・インセンティブは平均を下げています。
イノベーション創出に向けて「誰がやるか」は明確ですが「どうやればいいか」「どこに聞けば活用できるか」など、具体的なプロセス化やその明示化、そして必要な経営資源へのアクセシビリティを高めることが必要です。
●事業化/協業判断基準の明確化
全体の中でも少し低く、細かな項目では1点台もみられました。こちらの項目は、「実際に事業として進みだせるか、プロジェクトを前に進めていくための設計ができているか」を測るものです。
トップのコミットメントについては良い数値がでており、全社の意思決定者(経営陣)と、実際に共創プロジェクトを進める部門のトップ(決裁者)を巻き込めていると言えるでしょう。
一方で、マイルストンを明確にしていくことや、協業判断基準を明確にしていくことなど、具体的な改善ポイントがみられました。
この結果を踏まえて、ネクストステップを提案いたします。事業化・協業するうえで、どのタイミングで誰が何を判断するのかを明確にし、それを明文化していくことで社員が同じ認識を持てる状態をつくり、社内・社外へ浸透させていくといいでしょう。
そのためには、事業化までのマイルストンやチェックゲートの策定ができている必要があります。あわせて、判断基準やチェックゲートを改善・回収するタイミングを、設計段階から設けることをお勧めします。
バリューチェーンリストで、全事業の戦略や課題を可視化
eiicon・松尾 : まずはこのような結果を踏まえて、率直な感想お聞かせいただけますか?
東急・福井氏 : 質問が細部にわたり、同じようなことでも観点をずらしながら聞かれるので、付け焼刃の回答だとつじつまが合わなくなるなと感じましたね。最初は、「ちょっとよく見せたいな」と思うじゃないですか。でも、回答を重ねていくうちに、少しずつそれもできなくなって、「この観点で、果たしてちゃんとできていたかな」と内省するきっかけにもなったと思います。
▲東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 福井崇博 氏
eiicon・松尾 : 続いて、スコアが高い項目の理由についても紐解いていきたいと思います。「全体戦略との整合性/オープンイノベーションの明確化」「方向性の明確化」は、高い数値が出ていました。こちらは、TAPとして意図的に取り組んでいらっしゃることはありますか?
東急・金井氏 : TAPに参加する事業部やグループ会社のすべてに最低でも年に1回戦略についてヒアリングをおこなっています。そして各事業のバリューチェーンリストを作成して、どこに課題を持っているのか、どの部分でオープンイノベーションを活用していくのか、そして共創相手はスタートアップがいいのか、それとも大手ベンダと組むべきなのか、その場で議論をしています。
eiicon・松尾 : なるほど、事業全体の戦略と課題を把握したうえでオープンイノベーション実行の判断をするため、整合性が取れているということなのですね。バリューチェーンリストとは、どのようなものですか?
東急・武居氏 : 横軸に各事業のバリューチェーン、そして縦軸にテクノロジーやサービスのジャンル等を記載し、一元化しているリストです。どこに何が足りないのか、それは具体的にどのようなモノなのかが可視化されています。
現状、TAPに参加しているのは27事業者であり、TAP事務局の5人だけではすべての事業プロセスを細かに把握することは困難です。そのため、可視化をしてソーシングに役立てています。さらに、事業部やグループ会社が作成したバリューチェーンリストを共有してもらってヒアリングやディスカッションをすることで、同じ課題認識を持ったうえで会話ができるという利点もあります。
▲東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 武居(たけすえ)隼人氏
選ばれるために、実態を正しく発信することが重要
eiicon・松尾 : 続いて、東急様の最も大きな強みともいえる「適切な発信とソーシング」についても伺いたいです。なぜそこに力を入れていらっしゃるのでしょうか。
東急・武居氏 : 選んでもらえるために、というのが最も大きいですね。今では当たり前のように言われていることですが、大企業の方が選ばれる側だということは、私たちも強く認識しています。そして、選んでもらうには、まず知ってもらうことから始まります。
ただ、露出しているだけで中身が伴わなければ、結局選んでもらえないでしょう。特に最近は大企業のオープンイノベーションは当たり前ですから、発信の仕方も重要です。そこで今年、TAPをリブランディングした際、具体的な戦略や方向性、そして何が必要なのかをホームページにしっかりと掲載するように気を付けています。
eiicon・松尾 : 発信する時に注意すべき点、陥りがちな失敗があればぜひ教えてください。
東急・武居氏 : これまでのオープンイノベーションの取り組みの中で、ちゃんと事業化にまで至っている、あるいはしっかりと活動を継続している実態があれば、明確に発信していかなければ厳しいと思います。私たちも、特にリブランディング以降は強く意識して発信するようにしています。
東急・福井氏 : 考えていること、実際に行っていることを正しく伝えることは大事ですね。TAPでは、実は今年度は昨年度の2倍以上のペースでPoCや事業化が進んでいます。一つひとつの案件も、グループ各社のリリースで、「この案件はTAPの応募を通して」等、TAPについての情報を入れています。そうした具体的な事例のなかで、少しずつTAPを東急グループ全体でスタートアップ等に浸透させていく、その地道な取り組みが実を結んできているのかなと思います。
eiicon・松尾 : リブランディングにおけるプロモーションは広報等と連携しましたか?
東急・福井氏 : リブランディングについては広報もメディアアプローチをしてくれたり、見せ方の相談に乗ってくれたりしていました。何かリリースの時だけ相談に行くというよりは、普段から他のメディア記事などを共有したりして理解してもらい、一緒にやっていく体制を少しずつ築いています。
メンバーとの議論や、社内を動かすツールとしても「INNOVATION VITAL」を活用したい
eiicon・松尾 : 先ほど福井さんから、細かな質問を重ねるなかで、内省できたというお話しがありましたが、自己認識と結果はおおむね一致していらっしゃいましたか?
東急・福井氏 : 「体制プロセスの整理」は、力を入れているところなので、思ったよりスコアが低いなと感じました。細かなプロセスについては、改善が必要ですね。
また、「社内浸透」は、いままさに取り組んでいるところです。TAPには、事務局の私たち、それから各事業部・グループ会社のTAP担当、さらにその先に現場(それぞれの事業内での各担当)の社員がいます。現状、各事業のTAP担当者までには浸透できていますが、その先の現場とは温度差がまだあるため、対策を進めています。
東急・武居氏 : 回答を進めるなかで、各社の案件の可視化についてはもっと取り組みが必要だと感じました。実際に事例は多数出てきていますが、「あの案件はなぜ成功したのか?」「なぜ失敗したのか?」、それらをより掘り下げて分析を行うことで、さらに事業化の基準などが明確にしていけるのではないかと思います。
東急・金井氏 : 各事業の課題は整理できているものの、細かな戦略ベースではまだまだ整理や可視化しきれていないと再認識しました。戦略として、オープンイノベーションとクローズドイノベーションをどうすみ分けていくのか、精査が必要ですね。
▲東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 金井純平氏
eiicon・松尾 : 「INNOVATION VITAL」は、状態をスコア化、可視化することで、イノベーション活動の今後に役立てていただくという趣旨で始めました。今回の結果が、貴社のオープンイノベーションにどのように活かせそうか、ぜひお聞かせください!
東急・福井氏 : この結果を見て、改めて自分たちに不足していることや、発信についての強みを再認識できたと感じています。明確に数値で出るため、良いツールだと思います。また、社内を動かす説得材料にもなるのではないでしょうか。このような客観的なデータをもって説明すると、理解を得やすいと思うので、今後活用していきたいです。
東急・武居氏 : 自分の認識と、チームの認識が合致している点、乖離している点が分かることがいいと思いました。自社オープンイノベーションの強み・弱みを把握することはもちろん、改めて戦略を確認する際にも役立てるはずです。自分の感覚値と結果が異なる項目もあったため、これを機にチーム内での議論を進めていきたいですね。
東急・金井氏 : これまで漠然と「このあたりは課題だな」ととらえていたことが、「INNOVATION VITAL」で浮き彫りになり、言語化されたと思います。「事業化/協業判断基準の明確化」は、まさに以前から課題だと思っていたところなので、今後改善を進めたいと思います。
取材後記
オープンイノベーションに取り組む企業は確実に増えているが、そもそも担当者の新規事業経験が浅い、体制や仕組みが整っていない、そもそも戦略が明確になっていないなど、様々な課題がある。意志をもってチャレンジする企業が増えているからこそ、何がうまくいっていて何が課題なのか、しっかり見定めていくことで、その1歩を着実に前に進むものに繋げられるのではないか。
強力な推進力のある人材が自力でイノベーションを進めることもあったが、持続的なイノベーション創出につなげるには、組織として状態を把握していく必要があるだろう。「INNOVATION VITAL」はスコアを可視化するのみならず、具体的なアクションまで助言できるという点も、大きな特徴だ。ぜひ、自社のイノベーションの課題がなかなか明確化できないという企業に、受講をおすすめしたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)