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味の素(株)CIOは食・健康マーケットの変化をどう捉える?食のエコシステムを構築する“2030年計画”に迫る!

味の素(株)CIOは食・健康マーケットの変化をどう捉える?食のエコシステムを構築する“2030年計画”に迫る!

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おいしさ設計技術、先端バイオ・ファイン技術(※)を軸に、日本や世界の食・栄養・健康・医療を支えている味の素グループ。2030年に「食と健康の課題解決企業」に生まれ変わるとビジョンを掲げ、新たな領域での事業創造に向け強力に共創とイノベーションを推進している。

同社では昨年度に引き続き、2021年度の共創プロジェクト『Ajinomoto Co., Inc. OPEN INNOVATION』のパートナー募集を開始した。今年度は、「WELL-BEING」と「地域・地球との共生」を対象領域とし、それぞれ2つずつ募集テーマを設定。パートナー企業との共創による社会課題解決を目指す。

パートナー企業募集開始にあたり、共創プロジェクトを管掌する執行役専務 Chief Innovation Officer(CIO)研究開発統括 白神浩氏に、インタビューを実施。――食・健康を取り巻くマーケットの変化やトレンドについて、白神氏はどのように捉えているのか?それをふまえて、現在、味の素(株)が掲げるビジョンや戦略、共創プロジェクトのテーマや特徴・メリットなどについて話を伺った。

【WELL-BEING】

① 新たな食の楽しさやおいしさ そしてそれを通じた幸せの提供

② 健康や栄養を軸としてパーソナライズされた食のカスタマージャーニーを提供

【地域・地球との共生】

① 環境に配慮したフードサイクルの実現・代替タンパク質の活用

② 持続可能なシステムによる地球のサステナビリティへの貢献

※バイオ・ファイン技術…アミノ酸のはたらきをベースにした味の素(株)のプラットフォーム技術で、微生物や酵素の力を活用する「バイオ・テクノロジー」、種々の原料から有用物質を生産する「ファイン・ケミカル」、栄養・生理機能などを評価し、利用法を開発する「機能性評価技術」などから成る。



■味の素株式会社 執行役専務 Chief Innovation Officer(CIO)

研究開発統括 白神 浩 氏

入社後、研究所にて医薬品のプロセス開発に携わる。新規事業開発、人事、ライセンスなど様々な部門を経験するなかで、ベルギー、米国サンディエゴに駐在。その後、川崎のバイオ・ファイン研究所の所長を務め、2021年4月より現職。

食と健康を取り巻く環境が激変する今こそ、味の素(株)が貢献できる

――はじめに、ここ数年の食品業界を取り巻く環境や消費者の変化を、どのように捉えていらっしゃるのかお聞かせください。

白神氏 : この数年でDXが進展するなかで、生活者のライフスタイルや価値観が激変しました。特にコロナ禍で、内食が増えるなど食生活にも大きな変化が見られますし、運動の機会や社会的な接点の減少は、心身の健康にも大きな影響を及ぼしています。味の素(株)(以下、味の素)はこれまでアミノ酸をベースとして、食と健康に対するソリューションを開発・提供してきましたが、今こそ私たちが貢献できる時代と言えるでしょう。

たとえば、減塩です。塩分の摂取量と健康寿命には相関性があることがわかっています。「味の素®」で“うま味”をきかせることによって、塩分を控えても素材や調味料の味を引き立たせ、減塩につなげることができます。

また、たんぱく質はアミノ酸が長く連なったもので、食事で摂ったたんぱく質は分解されてアミノ酸となり、それがまた結合してからだをつくります。そういう意味で、私たちはアミノ酸の力で、人間の代謝にも影響を及ぼすことができるのです。メタボリックシンドロームやフレイルの予防など、たんぱく質が重要なカギを握る健康課題も多いことからも、人生100年時代に向けて、味の素の技術力やノウハウを活用できると考えています。

――既に製品・サービス化されているものはあるのでしょうか。

白神氏 : アミノ酸のはたらきを活かした健康サプリメントを提供しています。例えば、スポーツを快適に続けるために重要なアミノ酸類をバランスよく配合した「アミノバイタル®」や、加齢によって衰える筋肉の合成をサポートすることにより歩行機能の向上に役立つ「アミノエール®」、アミノ酸のはたらきによって睡眠をサポートする「グリナ」、特定のアミノ酸を組み合わせて補給することで「抵抗活力」をサポートする「抵抗活力アミノ酸シスチン&テアニン」などが挙げられます。最近では7種必須アミノ酸「Amino LP7」の摂取が、認知機能の一部をサポートするという機能を発見しました。この発見をベースとして、新製品「脳活セブンアミノ」を発表しています。

また、「アミノインデックス®」という、血液中のアミノ酸濃度バランスから、さまざまな疾病リスクを評価するサービスも提供しています。これは1回の採血で、がん・脳卒中・心筋梗塞の三大疾病や糖尿病、さらには認知機能低下のリスクを評価することもできます。

認知症の予防には、食事・運動・睡眠のバランスが重要です。当社はアミノ酸の力で食事の面から貢献できますが、他の要素はオープンイノベーションで多様な技術やデータを持つ外部とつながり、共創を進めていくことが必要だと考えています。


商品の提供にとどまらず、体験までを一貫して届ける食のエコシステム構築を目指す

――食や健康を取り巻く状況が大きく変化するなかで、味の素としての戦略や実現していきたい世界観について、ぜひ教えてください。

白神氏 : 味の素では、「食のカスタマージャーニー」というものをつくっています。これは、健康状態を知る、どうなりたいか考える、何を食べるか決める、買い物に行く、調理したものを喫食する、外食する、振り返る、体験を共有するといった、食に関するお客様の一連の行動や体験のことです。

いま、スマートショッピングやスマートクッキング、バーチャルダイニングなど、スタートアップ等から様々なサービスが誕生しています。味の素としては、献立提供サービスとして「AJINOMOTO PARK(味の素パーク)」を運営していますが、こうした取り組みをデジタル化していくと共に、外部のサービス等とつながりながら、良質な食の体験を提供するエコシステムの構築を目指しています。

そしてその先には、サービスを利用することでいつの間にか人々が健康でいられて、人生100年時代をイキイキと過ごすことができる、そういった世界の実現を目指しています。それが、味の素が2030年に目指す姿であり、パーパスとして位置付けている「食と健康の課題解決企業へと生まれ変わる」につながっていくのです。

――大きなビジョンに向けて、今回の共創プロジェクトが果たす役割とは、どのようなものでしょうか。

白神氏 : 当社の強みは、アミノ酸のはたらきを活用して様々なプラットフォーム技術を開発し、それをイノベーションにつなげ事業を実現していることです。アミノ酸のはたらきをベースに、先ほどお話しした認知症の予防以外にも、アスリートへの栄養食や、医薬品、電子材料、それから最近では再生医療など、広範な領域を手掛けています。ただ、どちらかというとモノ、製品の提供にとどまっている事業が多いことも事実です。

今後は世の中のニーズに応えるだけではなく、顧客の期待を超えるサービスやソリューションの提供を実現していかねばなりません。そのためには、食と健康にとどまらず、CX(顧客体験価値)やウェルビーイングを高めていくことも必要でしょう。オープンイノベーションによって、外部の様々な技術や視点とつながることにより、顧客体験価値、生活者のウェルビーイングを高めていく取り組みを進めたいですね。

――少し話題は逸れるかもしれませんが、白神さんご自身のキャリアのなかで、アミノ酸の可能性を実感したエピソードがあればぜひお聞かせください。

白神氏 : 私が入社して研究所に配属となり、最初に担当したテーマのお話しをしたいと思います。1980年代、突如現れた疾患、AIDS(後天性免疫不全症候群)の拡大が米国を中心に大きな社会問題となっていました。その頃、アメリカ国立衛生研究所(NIH)より、ある核酸系の医薬品がHIVウイルスに効果があるという情報が発信されました。しかし、その医薬品を患者様に提供できる製造法は、世の中にありませんでした。

味の素は、調味料の原料として核酸を製造していたことから、いち早くチームを組成し、核酸を原料にターゲットとなる核酸医薬品の製造プロセス開発の検討を開始。医薬品として妥当な価格で、患者様に必要な量の製造が可能なプロセスを世界に先駆けて開発し、当社はアメリカのAIDS患者さんの治療に使うことができる医薬品の、唯一の製造会社となりました。入社して早々に、企業研究者として社会価値を創造し、貢献することを体験できたのです。


「WELL-BEING」「地域・地球との共生」の領域でパートナー企業を募集

――続いて、今回の共創プロジェクトについてお伺いしたいと思います。対象領域として、大きく「WELL-BEING」と「地域・地球との共生」の2つを設定していらっしゃいますが、その背景について教えてください。

白神氏 : 味の素では、2030年のビジョンに向けたアウトカムとして、「10億人の健康寿命の延伸」「環境負荷50%削減」を掲げています。そこから、共創プロジェクトでは2つの領域を設定しました。

「WELL-BEING」については、食のカスタマージャーニーのなかで、新たな食の楽しさやおいしさ、それを通じた幸せの提供。あるいは、食や健康・栄養を軸としてパーソナライズされたカスタマージャーニーの提供をしていきたいと考えています。

「地域・地球との共生」は、SDGsに大きく関わる領域です。当社は持続的なフードシステムを構築することへの貢献を使命としています。当社で製造する「味の素®」やアミノ酸の主な原料は、天然のさとうきびをはじめとする農作物です。そうした原料を生産する農業から、持続可能なフードシステムを回していくことは、企業の存続にもかかわります。そこで、環境に配慮したフードサイクルの実現や、サステナビリティへの貢献にも重点的に取り組んでいきます。


▲2030年のビジョンに向けたアウトカムについて、味の素の「経営方針(中期経営計画)」より抜粋

――具体的には、どのようなパートナー企業と共にシナジーを創出したいとお考えですか?

白神氏 : 「WELL-BEING」では、アミノ酸に限らず、様々なソリューションを検討している企業と組んで新たな価値を創造したいと考えています。地球や社会のWELL-BEINGを実現するチャレンジを、ぜひ多くのパートナー企業とともに挑んでいきたいですね。

また、「地域・地球との共生」の持続的なフードシステム構築のところでは、気候変動や食資源の持続可能性の確保、生物多様性の保存などに、一緒に取り組んでいただけるパートナー企業を探しています。

――実際、白神さんご自身もパートナー企業と共に、共創プロジェクトを進めていったご経験はあるのでしょうか?

白神氏 : 私はこれまで2度海外駐在をしていますが、駐在先ではいずれもM&Aで買収した企業に勤務しました。1度目は1990年代にベルギーの100年以上歴史ある会社で、医薬品の製造に携わりました。そして2度目は2013年、アメリカのサンディエゴのバイオ医薬のスタートアップ企業です。海外経験だけでも貴重ですが、”味の素色”に染まっていない会社に飛び込んで一緒に働くことは、非常に良い経験になりました。

味の素のマネジメントでは、パートナーとなった相手の会社を自社の色に染めるのではなく、パートナーの良いところを一緒に伸ばし、場合によっては取り入れシナジーを創出していく姿勢があります。私も、そのスタンスでパートナー企業とお付き合いをしてきましたし、そのやり方が、よりよい共創を実現するために重要だと考えています。

味の素(株)がパートナー企業に求めるのは「食と健康の課題解決」への共感

――今回の共創プロジェクトの特徴やメリットについても、ぜひお聞かせいただきたいです。

白神氏 : まず大きな特徴としては、共創窓口となるR&B企画部です。もともとはR&D=研究開発企画部であった組織を、R&B(Research & Business)という研究と事業開発を統括した部門に変更しました。

それにともない、メンバーも技術系だけではなく、社内の事業部経験者や、社外で新規事業立ち上げや起業を経験した人材を採用し、ダイバーシティに富んだチームを編成しています。アミノ酸の技術開発の強みに加え、顧客基点・顧客価値創造の視点、あるいはアントレプレナーシップを強化しながら、事業開発を進めているのです。

当社は「オープンアンドリンクイノベーション」の視点を数年前から強化しており、川崎にはクライアントイノベーションセンターを設置。スタートアップから大企業、そしてアカデミアまで、多様な共創パートナーとの取り組みを進めています。

また、2020年12月、R&B企画部内にCVCを設置しました。ですので、CVCからの出資検討もメリットの一つと言えます。それから事業部でも、代替たんぱく質、DtoC、調理ロボットなどのスタートアップへの出資、提携や、食品から医薬品までBtoB・BtoC両面で多彩なプロジェクトを推進するなど、共創ノウハウも着実に蓄積されています。そうしたノウハウを提供できる点もメリットと言えるでしょう。

――白神さんは研究開発を統括していらっしゃいますが、応募企業と研究所や適切な技術などをつなぐことも可能でしょうか。

白神氏 : それはもちろんです。研究所では、R&B企画部と共に「未来創造プロジェクト(PoF:Picture of the Future)」を進めています。これは既存事業ありきではなく、2030年の社会課題や生活者のニーズを起点に、味の素グループがどういう独自の価値を創造していくかを考え、そのために必要な事業テーマの立ち上げや 、技術ロードマップを策定していくプロジェクトです。

そこで、研究所は技術イノベーションの視点から、R&B企画部は社会・地球環境・生活といったビジネスイノベーションの視点から課題を整理して未来を予測、バックキャスティングしていくのですが、やはりその実現には自社だけでは限界があります。だからこそ外部との共創が重要ですし、未来を実現するためのパートナー像は常に具体的なイメージを持って探索をしています。

――最後に、共創プロジェクトへの期待や、応募を検討している企業へのメッセージをお願いいたします。

白神氏 : 味の素グループが掲げる「食と健康の課題解決」というパーパスに、社内の研究者や事業部門、生産部門すべての人財が共感し、全員でその実現に向かっています。そのため、まずは私たちのビジョンに共感していただけるパートナーを募集しています。

短期的な提携はもちろんですが、中長期的に目指す方向や志が同じであれば、先々でつながる可能性が大きくなります。社会や地球に対する想い、未来社会で実現したいこと、生活者の幸せのための取り組みなど、様々なアイデアを持つ方とどんどんつながり、ともに切磋琢磨しながらチャレンジしていきたいです。


取材後記

未来に向けたビジョンやアウトカムを明確に掲げ、全社が一体となってイノベーションを推進する味の素グループの姿がうかがい知れるインタビューだった。理想を掲げるだけではなく、事業モデル変革を推進するR&B企画部がプロジェクトの窓口となり、共創における具体的議論が進められる体制にしていることも大きな特徴だ。実際に、アカデミアやフードテック、ヘルステックスタートアップとの共創事例も生まれている。さらには、CVCを設置するなど、変革に向けた具体的な取り組みを進めている。

「WELL-BEING」「地域・地球との共生」、2つの領域に関連した取り組みをしている企業、味の素が描くビジョンに共感する企業は、ぜひ応募を検討して欲しい。

※共創プロジェクト『Ajinomoto Co., Inc. OPEN INNOVATION』の詳細はこちらをご覧ください。


(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:山﨑悠次)

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