TOMORUBA

事業を活性化させる情報を共有する
コミュニティに参加しませんか?

AUBA
  1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3.  「2030年のたんぱく質の取り方とは…?」――“未来の食と健康の課題解決”に挑む、味の素株式会社のオープンイノベーション
 「2030年のたんぱく質の取り方とは…?」――“未来の食と健康の課題解決”に挑む、味の素株式会社のオープンイノベーション

 「2030年のたんぱく質の取り方とは…?」――“未来の食と健康の課題解決”に挑む、味の素株式会社のオープンイノベーション

  • 5894
  • 5294
  • 1686
6人がチェック!

おいしさ設計技術、先端バイオ・ファイン技術を軸に、日本や世界の「食」を100年以上にわたり支えてきた味の素グループ。2030年に「食と健康の課題解決企業」に生まれ変わるとビジョンを掲げ、様々な改革に取り組んでいる。

2020年7月には、未来の新事業開発をミッションとするリサーチ&ビジネス企画部を新設した。経営主導のもと組織横断的な体制を築き、新たな領域での価値創造に向けて、外部企業とのオープンイノベーションを強力に推進していくという。

その味の素株式会社が、10年後、20年後の暮らしと社会を想定し、次世代の価値を創造する共創プロジェクトを始動。5つのテーマを掲げ、7月16日(木)より共創パートナーの募集を開始した。

今回は、日本国内だけでなく、フランス、ロシアでも研究者としてのキャリアを積み、現在はリサーチ&ビジネス企画部を管掌する、専務執行役員 児島宏之氏にインタビューを実施。味の素が目指す姿や新設組織にかける意気込み、そして今回の共創プロジェクトについて話を聞いた。


■味の素株式会社 専務執行役員 リサーチ&ビジネス企画部長 農学博士 児島宏之氏

1985年入社。研究所にてアミノ酸生産菌の育種に携わる。1997年、フランスの味の素ユーロリジン社アミアン工場に赴任、飼料用アミノ酸生産技術の導入を行う。2000年に帰国、新規技術開発に携わった後、2005年にモスクワの研究所に赴任。2009年に帰任し、発酵研究所長に就任。プロセス開発研究所長、バイオ・ファイン研究所を歴任。2019年に研究開発統括へ。研究開発企画部にて策定した中期計画のなかの未来創造プロジェクトが、味の素グループ全体の事業モデル変換タスクフォースの中核に据えられている。


未来の価値を創る、共創プロジェクトに設定された5つの募集テーマ




――7月16日始動の『“未来の食と健康の課題解決”を使命に挑む共創プロジェクト』では、テーマを5つ設定していらっしゃいます。それぞれどのようなことを期待していらっしゃいますか。

児島氏 : 今回の5つのテーマはいずれも、当社1社だけでは到底成し遂げることはできません。しかし、どういう課題があるのか、糸口はある程度見えているような状況です。ぜひ、「我こそは」という方々と共創して、価値を生み出していきたいと思っています。

まず、「①次世代の調理/食事準備による生活の向上」については、調理器具や住宅設備関連の方々と協業する方が、より良いものを早く生み出すことができるでしょう。「②環境に配慮した「たんぱく質」」では、たんぱく質の素材はどこにあり、どのような形で提供するのか、考えていく必要があります。

そして、「③パーソナライズされた“食”で健康を実現」については、健康情報の収集・分析といったテクノロジーの力が不可欠です。「④フードロス問題を未利用原料の活用で解決」では、何をどう活用していくのか、そうしたアイデアから検討していくテーマです。

最後の「⑤環境にやさしい食品包材の開発」においても、当社だけでは新たな食品包材の開発はできません。しかし、包材に要求される性能についての知識を提供する事ができます。

――研究開発畑を歩まれてきた児島さんは、他社と共創する上での味の素グループならではの強みをどう捉えていらっしゃいますか。

児島氏 : やはり、アミノ酸の研究で培った、研究開発力とグローバルに広がる顧客基盤です。たんぱく質は20種類のアミノ酸で構成されていますが、アミノ酸の研究は実に奥が深いのです。アミノ酸には様々な働きがあり、機能があり、アプリケーションがあります。また、それぞれを組み合わせたアミノ酸配合設計の研究も進んでおり、「食と健康」をテーマに多くのソリューションを開発してきました。これらは世界に誇れる当社ならではの強みです。

また、おいしさの設計技術、栄養に関する知識も豊富ですし、顧客への提供方法にも工夫を凝らしてきました。このような当社が持つ強み・ノウハウと、当社にない技術やアイデアを掛け合わせることで、事業の可能性は広がっていくと考えています。




未来からバックキャストして事業開発を行う


――味の素グループでは2030年に目指す姿として、「食と健康の課題解決企業」を掲げていらっしゃいます。その背景を聞かせていただけますでしょうか。

児島氏 : これまで当社にとって、「新しい事業=新しい製品を作ること」でした。スーパーマーケットに行くと、味の素グループの商品が棚にたくさん並べてある、そんな姿を目指していたのです。

しかし急速に変化する世の中において、そうした自社起点の発想のままでは、持続的な成長は期待できません。本当に必要なのは、社会の未来像からバックキャストして事業開発を進め、顧客への提供価値を最大化させていくことです。

たとえば、一人ひとりの健康状態やライフスタイルが変化・多様化する中で、いかに製品とソリューションを組み合わせ、パーソナライズされたサービスを提供するか。それを実現できてこそ、「食と健康の課題解決企業」なのです。



▲味の素グループの「中期経営計画」より、2030年に目指す姿の実現に向けた基本方針。大上段に「食と健康の課題解決」が掲げられている。

――自社起点の発想から脱却し、顧客価値に力点を置いた事業の創出にシフトチェンジしていくということですね。

児島氏 : その通りです。しかしながら顧客への提供価値というものは、必ずしも誰かが答えを持っているというわけでもありません。現在、顧客が認識していない、顕在化していないニーズや価値もあります。iPhoneのように、顧客が気付いていない価値を見つけ、誰にも真似できない価値を創造する。そういったことを、私たちも食と健康をテーマに推進していきたいと考えています。

もちろん、遠回りもするでしょうし、失敗もたくさんするでしょう。私も過去、新規事業を手掛けた際に、失敗を経験しました。iPhone を生み出したApple社だって、すべての製品がヒットしたわけではありません。失敗を繰り返して試行錯誤していかなければ、当社の未来はないと考えています。

――児島さんご自身の失敗経験とは?

児島氏 : 印象的なのは、ある化学会社との共同研究で、バイオプラスチックを開発した時の経験です。「地球にやさしいから売れるはずだ」という理由で、顧客ニーズを十分に検証しないままで走り出してしまいました。その結果、製造コストが高い上、実際の利用シーンで求められる性能を満たすことができなかったため、世に出すことはできなかったのです。

結局それも、顧客への提供価値を考えず、「両社の今の技術なら、これができるだろう」と、自社の技術起点での発想だったことが、失敗の原因だったのだと思います。世の中にない新しいものを作ろうとすると、どうしても今の自社の姿を起点に考えてしまいがちです。

しかし、起点にすべきなのは現在ではなく、未来です。10年後、20年後、世の中がどのように変化し、そこでは何が求められているのかを考え、そこに到達するには今から何を着手すべきなのかを考える。それが2030年に向けて取り組みを開始する上での、一番のポイントですね。




研究開発と事業をシームレスにつなぐ新設部門


――2020年7月、リサーチ&ビジネス企画部を設立したと伺いました。この組織を立ち上げた背景について聞かせてください。

児島氏 : 新たな領域での事業創造をより強力に推進することが目的です。リサーチ&ビジネス企画部は、元々は研究開発企画部という名称の組織でした。

しかし、「未来の顧客価値を起点に、バックキャストで今やるべきことを考える」ためには、研究開発で終わるのではなく、事業までを見据えて仕事をすることが不可欠です。そういったミッションを担うべく、この組織を発足させました。

――研究開発から事業までをシームレスにつなぎ、未来に向けてより素早く柔軟に動ける組織となったのですね。

児島氏 : 実は、「社会の未来像を起点に、バックキャストして事業開発を行う」という味の素グループの全体方針は、研究開発企画部の中期計画から生まれたのです。企業の研究開発部は、比較的中長期のテーマに取り組んでいます。

しかし、すぐに芽の出ない研究テーマは、「いつマネタイズできるのか」「本当に必要があるのか」という声と常に戦わなくてはなりません。真剣に取り組んでいる研究が、途中で「やめろ」と言われるのは悔しいものです。

では、どうすれば止めなくてよくなるのか。それこそが、バックキャストという考え方です。「未来を見据え、そこからバックキャストして、今やらなければならない緊急度の高いテーマに取り組んでいる」と言うことができれば、途中でやめろと言われることはなく、むしろ事業に大きなインパクトを与える重要なテーマだと理解してもらえると考えます。



▲味の素グループのASV経営「2030年の⽬指す姿と2020–2025中期経営計画」より

――新たな組織になることで、研究開発部の頃よりも体制は強化されているのでしょうか。

児島氏 : 人数は大幅に増えたというわけではありませんが、組織構造と役割を変えました。インキュベーショングループ、アクセラレーショングループ、そしてアドミニストレーショングループという3グループで、事業に紐づくように編成しています。

――未来の事業を見据えた組織ということで、メンバーの方々のモチベーションも変わってきていますか。

児島氏 : そうですね。組織のミッションを社員にも浸透させているところで、意識も変わってきています。今はまだ、飛行機で言えば離陸に向けて滑走路を走っているところです。早く大空に飛び立ち、味の素グループの未来のDNA、行動規範になるように育てていきたいですね。

当社には、幸い様々なバックグラウンドを持つ社員がいます。そうした人財が、さらに外部の多彩な発想を持つ人々と共創することで、新たな価値を創出できると考えています。




「うま味」に匹敵する新しい価値創造へ


――最後に、プログラムへの期待、そして応募企業に向けたメッセージをお願いします。

児島氏 : 当社の歴史は、1909年に「味の素」を販売したところから始まりました。これは世界初の「うま味調味料」です。当社は、甘味・酸味・塩味・苦味に続く第5の味「うま味」を世に送り出したのです。

“未来の食と健康の課題解決”を通じて、この「うま味」に匹敵するインパクトを生み出す価値創造に、ぜひチャレンジしたいと考えています。そこには、当社にないアイデアや技術が欠かせません。既存の製品やサービスを改良するのではなく、新しい価値を創るためのコラボレーションができたら幸いです。


取材後記


自社起点から脱却し顧客価値の創造に力点を置くこと、そのために未来からバックキャストすること。この姿勢を児島氏はインタビューの中で幾度も強調していた。世の中の変化に追随するのではなく、先取りをして、今やるべきことを考える。そして決めたことに固執せず、柔軟にアップデートしていく。味の素グループのこうした柔軟な姿勢は、オープンイノベーションに不可欠であろう。
その意志を反映したリサーチ&ビジネス企画部を新設し、新たに挑む『未来の食と健康を、アップデートする共創プロジェクト』は、期待も大きい。テーマに関連した取り組みをしている企業は、ぜひ応募を検討して欲しい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント6件

    0いいね
    チェックしました
  • 田上 知美

    田上 知美

    • 株式会社eiicon
    0いいね
    チェックしました
  • 小野寺崇

    小野寺崇

    • 合同会社クオーレ・ラボ
    0いいね
    チェックしました
  • 早瀬 信行

    早瀬 信行

    • 学校法人 東洋大学 
    0いいね
    チェックしました