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国内企業 “初” イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を導入するOKIのIMS“Yume Pro”とは?―「OKI Innovation World 2020」レポート(前編)

国内企業 “初” イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を導入するOKIのIMS“Yume Pro”とは?―「OKI Innovation World 2020」レポート(前編)

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2020年10月に「社会の大丈夫をつくっていく。」という新たなキーメッセージを掲げ、中期経営計画2022を発表した沖電気工業株式会社(以下、OKI)。同社は、創業150周年を迎える2031年に向けて「提案発信型企業」への変革を図っており、全社一丸となったイノベーションの取り組みを推進している。

2020年12月3日、OKIのイノベーション活動を共創パートナーに紹介することを目的に「OKI Innovation World 2020」が開催された。イベントには、代表取締役社長執行役員の鎌上信也氏をはじめ、多数の経営陣、共創パートナー、若手イノベーターなど幅広い顔ぶれが登壇し、それぞれの取り組みや成果事例、イノベーションへの熱い想いなどを語り合った。

当日はプログラムが3時間半にも及ぶなど、イベントは大きな盛り上がりを見せた。TOMORUBAでは、前編・後編と2回にわたってその白熱の様子をレポートしてお届けする。

まず前編では、OKI社長 鎌上氏によるオープニングトーク、OKI役員陣が参加したイノベーション戦略をテーマにしたセッション、さらにOKIの若手イノベーターたちが未来の日常について語り合ったセッションを紹介していく。


「OKI’s Innovation」―イノベーションは「天才依存型」ではなく「全員参加型」の時代へ

●オープニングトーク

まず開演にあたって登壇したのは、OKIの代表取締役社長執行役員である鎌上信也氏だ。


鎌上氏は、新型コロナウイルスの感染拡大など、昨今の社会的状況の変化の速さに触れ、「このスピードに乗り遅れないためには、イノベーティブな活動が日常となり、幅広いパートナーの皆様との共創を大切にしながら、一緒に社会課題の解決に取り組んでことが重要」と語る。VUCA時代のなかで、「提案発信型企業への変革」を実現するため、OKIはイノベーションが日常的に生まれる組織づくりに力を注いでいるという。

その代表的な取り組みが、2017年度から企画・導入・展開をスタートした「Yume Pro」だ。Yume Proは、共創によりSDGsに掲げられた社会課題を解決することを目指す、OKI独自のマネジメントシステム。これまで3,000名近くの社員がイノベーション研修を修了するなど、取り組みは社内全体に浸透しており、鎌上氏も「毎年イノベーティブなコンセプトやソリューションが生まれてきました」と導入の成果を強調する。


一方で鎌上氏は、社会課題解決には、民間企業や自治体など、幅広いパートナーとの共創が欠かせないとしたうえで、その両者間の共通言語となる「OSのようなシステム」が必要だと訴える。そのシステムこそIMSだ。

IMSはイノベーション・マネジメントシステムの略称で、2019年7月にISO 56002として国際規格化(ガイダンス規格)された。OKIは、IMSを国内企業で先駆けて導入し、社内の他のマネジメントシステムと連携させることで、さらなるイノベーションの加速を狙うという。鎌上氏は「イノベーションプロセスを踏まえた活動を行い、持続的成長を実現することにより、よりイノベーティブな企業へ変換できると考えております」と、締め括った。

●オープニングセッション「OKI’s INNOVATION」

続いて、壇上にはOKIの役員を含めた3名と、日本のIMSを牽引するJapan Innovation Network代表理事 西口尚宏氏をモデレーターに迎え、OKIが取り組む「全員参加型イノベーション戦略」についてのパネルディスカッションが行われた。

<登壇者>

■一般社団法人Japan Innovation Network代表理事 西口尚宏氏

■沖電気工業株式会社 取締役専務執行役員 ソリューションシステム事業本部長 坪井正志氏

■沖電気工業株式会社 執行役員 チーフ・イノベーション・オフィサー 横田俊之氏

■沖電気工業株式会社 イノベーション推進センター長 藤原雄彦氏


パネルディスカッションでは、冒頭、OKIがイノベーションを中心に据えた経営改革に取り組むまでの経緯が語られた。

長年、OKIは、大手顧客などを中心に、顧客が求める技術やソリューションを提供するビジネスモデルを維持してきたが、VUCA時代のなかで、提案型のソリューションが求められる機会が増えていったという。当時の問題意識について、執行役員兼チーフ・イノベーション・オフィサーの横田俊之氏は「提案発信型のビジネスにチャレンジする企業文化がなかったので、そういった点をどう変えていくかというのが大きな課題でした」と振り返る。

課題に直面するなかで、横田氏はイノベーションを組織的に創出するIMSの存在を知る。そのアイデアを経営会議で報告したところ、鎌上氏をはじめとした経営陣から賛同が得られたため、横田氏は2017年10月にIMSを社内に実装するプロジェクトチームを組成。約2ヶ月で企画をとりまとめ、2018年4月から「Yume Pro」をスタートさせる。以来、OKIは約3年間に渡り、IMSの浸透と定着を図ってきた。


では、そうした活動により、社内にはどのような変化があったのか。西口氏から3名の経営陣に質問が向けられた。

まず、最初に回答したのは、取締役専務執行役員でありソリューションシステム事業本部長を務める坪井正志氏。坪井氏は「顧客との関係の変化」を挙げる。顧客の要求に応える従来型のビジネスモデルの場合、顧客自身が要件を定義するため、それに対するコミットメントが求められた。しかし、顧客の課題解決を目的とする提案発信型のビジネスモデルの場合、仮説の検証段階から両者が協力してプロジェクトを推進するため、顧客とはパートナーの関係が築けるのだという。


イノベーション推進センター長の藤原雄彦氏は、「OKIの強みを対外的に発信できるようになった」と答える。藤原氏は「顧客と仮説を検証し、合意を得るなかで、『どうしてOKIがそれをやるの?』という問いが挙がってくる。そこで、顧客に対して、我々の得意分野をきっちりアピールできないといけないので、外部に対する発信が非常に重要」と語り、情報発信に対する意識が社内でも変化しつつあるとした。


横田氏は、IMSが実装されたこと自体が、大きな変化だと回答する。横田氏によれば、これまでもOKIのなかでイノベーションは起こっていたが、それは「一握りのスーパースターが作ってきたので、どうシステマチックに起こすのかが分からなかった」。しかし、3年間の活動を通して、IMSが社内に浸透し、成熟度が増すなかで、同社が目指す全員参加型のイノベーションに近付きつつあるのだという。

ここで話題は、ある特定のイノベーターが起こす「天才依存型イノベーション」と、組織的な活動により生み出される「全員参加型イノベーション」の対比について語られた。

坪井氏は「イノベーションは、ある組織内の異端児が、経営者に隠れて、密造酒のように創り上げるもの」という世間的な論調があることを指摘したうえで、「イノベーティブな組織活動や企業活動も可能ではないかと思う。しかし、属人性を脱却するためには仕組みが必要で、その点でIMSの導入には価値があった」と語った。

それに呼応して、西口氏は、世界におけるイノベーションへのトレンドに言及。西口氏はIMSの国際規格化に日本代表として携わった経験を持つが、その活動のなかで「欧米をはじめとした世界各国では、すでにゲームチェンジが起こりつつあり、天才や異端児に依存してイノベーションを起こす考え方は古くなっている」と話す。

こうした流れを受けて、横田氏は全員参加型イノベーションのポイントについて解説。横田氏は「イノベーションは新規事業だけでなくて、既存事業や働き方など日常業務でも必要なもの。ISO 56002には12項目の支援措置が規定されていますが、リソースのほとんどが既存の事業部やコーポレート部門に属する。これらを新規事業で活用できるようにするためには、社内の全員がイノベーションを理解していることが必要です」として、全員参加型イノベーションの重要性を強調した。


一方で、坪井氏は、「既存事業を担う部門でも全員参加型イノベーションが良い影響をもたらした」と語る。「最近ではDXの流行もあり、既存事業の分野でも顧客が新しいことを求めている。しかし、社内では『既存事業』という先入観が強く、これまでイノベーションに対してコミットできない風潮もありました。そこでIMSに則ることで、少なくとも事業のプロセスにおいては、イノベーティブな動きができると、既存事業の部門が意識し直すきっかけになりました」と、IMS導入による手応えを示した。

最後に、西口氏がパネルディスカッション全体を総括。「OKIが全員参加型のイノベーションを、社長をはじめとした経営陣のコミットメントにより、現場を巻き込みながら強力に推進していることがわかりました。そしてその秘訣が、取り組みを主導するOSとしてのYume Proを策定し、成熟、浸透させてきたところにあるということも分かり、大変貴重な機会でした」と締め括った。


「Future Talk」―OKIの若手イノベーターが考える”未来”

「Future Talk」と題したセッションでは、OKIのイノベーション推進センターに所属する若手イノベーター4名が登場し、「若手イノベーター達が描く、未来の日常」をテーマの主軸とし、2つの設問に沿って議論が交わされた。

OKIの「中期経営計画2022」の中で、注力分野として位置づけられたAIエッジ技術を研究テーマとしている20代〜30代前半の研究員達は、未来をどのように描き「社会の大丈夫」を生み出していこうと考えているのか?本セッションのモデレーターはeiicon company 代表の中村亜由子が務めた。

●Talk Session「若手イノベーター達が描く、未来の日常」

<登壇者>

■沖電気工業株式会社 イノベーション推進センター

AI技術研究開発部 山本康平氏

 AIをエッジデバイスに実装するためのモデル軽量化に取り組む。

AI技術研究開発部 近藤愛氏

 柔軟なサプライチェーンを実現するためのAI間自動交渉技術の開発を担当。

センシング技術研究開発部 ファン・チョンフィ氏

 車載カメラなどから得たデータをもとに、画像解析技術の開発に携わる。

企画室ロボティクス技術チーム 青池祐香氏

 AIエッジロボット開発プロジェクトに参画後、ロボティクス技術の開発に従事。

■eiicon company 代表 中村亜由子


モデレーターの中村氏による「未来の日常はどう変えられるのか」という問いかけから始まった。

これに対して山本氏は、未来の交差点をイメージし「AIエッジ技術の発展によって、例えば交通の領域は今よりもはるかに安全になる」と答える。山本氏が思い描く未来の交通シーンは、自動車や歩行者だけでなく、自動運転車、ロボット、ドローンなどが行き交うイメージ。そう言ったものがAIエッジ技術により高度になるだけでなく、町中にAIエッジでつながったインフラがあり、それらが繋がることで、安心安全な交通環境が実現するという。

これに対してファン氏は、「海や空のイメージはどのように考えているのか?」と問い、山本氏は、「海の交通では船舶に、また空であれば今後増えていくドローンに、AIエッジを搭載させる。そうすることでカメラやレーダーの監視能力を高めて、自動で互いを認識し、衝突するような事故を未然に防ぐことができるのではないか」と答えた。


中村の「未来の日常はどう変えられるのか」という問いについて、近藤氏は「AI同士が協調するサプライチェーン」をイメージしていると語る。企業のAI同士が協調することで企業間のリソースの共有や有効活用が実現するとし、ゆくゆくは、サプライチェーンそのものがAI連携の基盤上にある社会が実現するのではないかとした。

この意見に対して青池氏は「企業ごとにAIの理解度やそれぞれが持つリソースに違いがあり、AI連携する上でそれが課題になると思う。そうした課題についてはどのようにアプローチしているのか?」と質問した。

近藤氏は、「現在、AI協調を物流業界に適用することに取り組んでおり、実際に現場からは”輸送依頼はFAXでやりとりしているのにどうしたら良いの?”、”社内のデータ整備が追いつかない”といった声も出ている。様々な実証実験に取り組むことで、AI協調にメリットがあることのエビデンスを獲得し、それをもって”電子化することは悪いことじゃない”と丁寧に説明していく」と答えた。


中村は、さらに「未来の世の中に必要な技術とは」と質問を重ねた。

ファン氏は、「より高精度・高い環境耐性・リアルタイムな画像センシング技術」だと答えた。天候やシチュエーションを問わず、人やモノをリアルタイムで認識できる画像センシング技術が実現すれば、交通領域などでより高度な安心安全が実現できると述べた。

これに対して山本氏は、「今後、画像センシング技術の世界展開を見据えたときに、例えばファンさんの出身であるベトナムでは現状の技術をそのまま動かすことができるのか?」と質問。「正直、難しいと思います」というファン氏は、続けてこのように語った。「ベトナムは、バイクによる交通がとても多い国。一方で日本のような先進国で得られたデータは自家用車やトラックが多いため、バイクは検知しづらいという課題が出てきてしまう。さらに天候についてもベトナムは激しい雨が多く、センシングが難しい。このようにその国や地域特有の現場の課題を意識して、適用できる画像センシング技術が必要になってくる」


青池氏は「未来の世の中に必要な技術とは」という中村からの問いかけに対して、「多数のロボットを集中的に管理・運用する技術」だと答える。今後の社会ではますますロボットの普及が進むことから、案内ロボットや消毒ロボット、配膳ロボットなど様々なタイプのロボットの乱立が予想される。クラウドを活かしながら、それらを一元的に管理・運用する技術は、いずれ求められるはずだと語った。

さらに近藤氏からの「多数のロボットを集中管理するというクラウド的な考え方と、OKIが注力するAIエッジの考え方は矛盾するように感じる」という指摘に対して、「ロボットが自分で稼働できる限りはエッジでの処理を続け、人間の判断が必要なときにアラートを上げて操作を任せる。はじめは人間一人が10〜20台管理できるような形態から、ゆくゆくは100〜200台など管理できる数を増やしていけるような開発を実現していきたい」と回答した。


取材後記

3時間半に及ぶイベントのなかで最も印象的だったのは、社長の鎌上氏をはじめとした経営陣から若手イノベーターたちに至るまで、登壇者の全員が一貫して未来社会にビジョンを抱いている点だった。OKIが提示する「全員参加型のイノベーション」が名目ではなく、実践され、磨き続けられていることがひしひしと感じられた。

明日掲載する「OKI Innovation World 2020」レポートの<後編>は、「OKI’s Solution & Co-Creations」と題してプレゼンテーションされたOKIと共創パートナーによるイノベーション事例や、OKI チーフ・イノベーション・オフィサー 横田氏のクロージングトークの模様を紹介する。

(編集・文:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)