「Yume Pro」第2期スタート | OKIのイノベーションプロセス構築の“仕掛け人”が語る、新たな方向性とは?<前編>
2017年よりイノベーション活動を推進している沖電気工業(OKI)。2018年4月にはイノベーション推進部を発足させ、イノベーション創出活動「Yume Pro」(ユメプロ)もスタート。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)に提示された社会課題をもとにテーマを設定し、さまざまな共創パートナーとオープンイノベーションを進めている。さらには、社内でのイノベーション文化醸成のための教育も進めるなど、急ピッチに変革に取り組んでいる。
2019年4月、「Yume Pro」は第2期を迎えた。イノベーション推進部部門長に、OKIのイノベーション活動初期から携わる藤原雄彦氏が就任。今期は「ヘルスケア」「物流」「まちづくり」「海洋保全・資源」をテーマに据え、社内連携もより強化し、新たな事業機会の創出を目指すという。
――より進化を遂げたOKIが描く未来、そして今後の「Yume Pro」の方向性とは?藤原氏へのインタビュー<前編>では、藤原氏のこれまでのキャリアをお聞きしながらイノベーション創出活動の必要性や、第2期「Yume Pro」の全体像についてお話をうかがった。
▲沖電気工業株式会社 経営基盤本部 イノベーション推進部 部門長 藤原雄彦氏
1987年入社。交換機の開発に従事し、局用交換機サブシステムのプロダクトマネジャーとしてアトランタに駐在。帰国後はモバイルルータの商品企画、マーケティング部長、共通技術センタ、情報通信事業本部 IoTアプリケーション推進部 部門長を歴任。イノベーション推進には準備期間から携わり、2019年より現職。
■IoT、5G×自動運転などを牽引する中で、イノベーションの必要性を痛感
――まずは、藤原様のこれまでのご経歴を聞かせてください。
藤原氏 : 武蔵工業大学(現:東京都市大学)機械工学科を卒業し、1987年にOKIに入社しました。入社後は交換機の開発に従事し、その後NTT通信研究所との共同研究で局用交換機のサブシステムを開発。その装置を海外に展開するために、プロダクトマネジャーとしてアトランタに駐在。海外通信キャリアへの販売を行いました。
日本に帰国後は、移動体関連モバイルルータの商品企画を手掛け、マーケティング部長へ。そして共通技術センターのセンター長を務めました。それからIoTアプリケーション推進部 部門長として、海洋・音響、5G×自動運転、スマートシティなどのプロジェクトを推進し、2019年にイノベーション推進室の部門長に就任しました。
――以前からOKIのイノベーションの取り組みには関わってこられたのでしょうか。
藤原氏 : OKIは2017年から社長の鎌上のコミットメントのもと、イノベーションの推進を急ピッチで進めてきましたが、実は私もイノベーション活動の立ち上げ段階から関わっていた初期メンバーなのです。
OKIは「Yume Proプロセス」という、SDGsの目標達成を目指し、パートナーとの共創により仮説を立案、検証しながら、新たなビジネスモデルを構築するプロセスを用いてイノベーション活動を進めていますが、その原案作りも私が主導で進めました。
◆Yume Proプロセスについての詳細はコチラをご覧ください。
――そうだったのですね!もともと、既存事業に携わる中で、イノベーションの必要性を感じていらっしゃったのでしょうか。
藤原氏 : そうですね。いわゆる受注・開発型モデルというOKIの従来のビジネスモデルの中で私も経験を積んできたのですが、ビジネス環境の変化やテクノロジーの発展に伴い、変革の必要性を痛感していました。
そこで当社のChief Innovation Officer(CINO)である横田と共に、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)のイノベーション塾に通い、SDGsについての理解も深めながら、OKIのイノベーションマネジメント改革の仕組みづくりを進めました。――JINのイノベーション塾では、大きな衝撃を受けましたね。長年、「モノ」から入る発想をしていましたが、これからは「コト」の時代だ、何を解決するのかから考えていかねばならないと、頭のスイッチが切り替わりました。
――OKIは2017年、沿岸重要施設に侵入しようとする不審者等を検出する「水中音響沿岸監視システム」を開発されたそうですね。この開発を牽引されたのが、当時IoTアプリケーション推進部の部門長だった藤原様だと聞きました。これは、まさに「解決すべき課題から、イノベーションを創出する」というプロジェクトだったのではないでしょうか。
藤原氏 : そうですね。これはまさに、JINのイノベーション塾を受けながら手掛けたプロジェクトでした。四方を海で囲まれる日本において、密漁は一つの大きな課題です。たとえば北海道のある漁協では、ナマコの密漁により年間約5000万円の被害を被っているそうです。SDGs14にも、「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」と設定されています。
従来、密漁の監視は水上にカメラを設置して行われていました。しかし密猟者は監視カメラに捉えられないよう、天候の悪い夜間を狙うため、なかなか密猟が減らないという課題がありました。そこでOKIのセンシング技術を用いて新たな密漁監視システムの開発を提案したのです。
もともとOKIは防衛分野にて、水中音響センサの開発を進めていました。悪天候の中でも密漁船の音や、密漁ダイバーの呼吸音までも、周波数で判別できるほどのものです。これを用いて密猟者を察知したら、ネットワークでデータを防災センターに送る、IoT監視システムを構築し、実証実験を行いました。商用化はこれからですが、有識者の方々からも高い評価を頂いています。まさに、社会課題をIoTで解決する仕組みを開発できた、イノベーティブなプロジェクトだったと思います。
■「Yume Pro」第2期では、社内連携も強化し、OKI全体のリソースを活用
――次に、2期目を迎えた「Yume Pro」の全体像について伺っていきたいと思います。まず、今期の「Yume Pro」の方向性を聞かせてください。
藤原氏 : 2019年度の基本方針としては、「次期中期経営計画に向けたOKIグループ全体のイノベーションを統括推進し、Yume Proによる事業創出を目指す」を掲げています。ポイントとしては3点、(1)新規ビジネス創出(2)プロモーション(3)社内文化改革です。
昨年度はOKIがイノベーション活動に本気で取り組んでいることを世の中に伝えるべく、イベントの登壇などプロモーションに注力していました。また、社内でのイノベーション創出文化醸成のために、社員に対する研修『イノベーション塾』(※)も進めました。しかしながら、第1期ということで、試行錯誤の状態であったと思います。(2)と(3)においてはかなり力を入れることができたと思いますが、肝心の(1)に関しては、仮説から入っていくというよりは、プロダクトの開発を急いでしまったかもしれません。
そこで第2期である今期は、今一度イノベーション活動の原点に回帰し、「Yume Proプロセス」をしっかりと推進していこうとしています。まずは顧客の困りごとから仮説を映像まで浮かぶ“絵”に仕上げること。それをもとにBMC(ビジネスモデルキャンバス)に表現し、顧客と共にビジネスモデルを徹底的に磨いていく。そして合意が取れたら、PoCで検証していく。そうすることで、新規ビジネス創出を成し遂げられると考えています。
▼イノベーション塾で活用しているビジネスモデルキャンバス(BMC)
――体制についても、昨年とは異なる面があるのでしょうか。
藤原氏 : 昨年度は試行錯誤の時期でもあったため、イノベーション推進部単体での活動が多かったのですが、今期は事業部門や営業部門との連携を強化し、OKIグループ一体となってイノベーション推進を進めていきたいと思います。また、事業分野においても、「ヘルスケア」「物流」「まちづくり」「海洋保全・資源」という4つに明確化しました。OKI全体のリソースを活用し、アグレッシブに進めていきたいですね。
――既存事業部との協力体制を築く上で、社内のイノベーションへの理解は不可欠です。社内での『イノベーション塾』を受講した社員も増えたことで、文化の醸成やイノベーションへの理解が進んでいる実感はありますか?
藤原氏 : そうですね、かなりの手応えを感じています。昨年度は、社内で1059人の社員がイノベーション塾を受講しました。これは、どこの企業に話しても驚かれるほどの数字です。外部へのプロモーションはもちろん、こうした内部からの風土変革も同時に実行したことで、社員に「OKIのイノベーション活動に対する意欲」が認識され、新しいことを始める気運が高まってきました。
実は最近、社員を対象にビジネスアイデアコンテストを実施したのですが、既存事業部や営業から、予想を超える数の応募が寄せられました。以前のOKIであれば、そこまで応募は集まらなかったでしょう。本当に驚きました。これは、イノベーション活動の文化醸成が進んでいる証だと思います。
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「Yume Pro」の第2期を牽引する藤原氏のインタビュー前編では、同氏のこれまでのキャリアからイノベーション創出の必要性を感じたエピソード、そして新たな「Yume Pro」の全体像についてお話をうかがった。明日掲載するインタビュー後編では、第2期「Yume Pro」が掲げるテーマなどについて詳しく話を聞いた。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)