国内企業 “初” イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を導入するOKIのIMS“Yume Pro”とは?―「OKI Innovation World 2020」レポート(後編)
2020年12月3日、沖電気工業株式会社(以下、OKI)は「OKI Innovation World 2020」を開催。国内でも先駆けて、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)の国際規格「ISO56002」を導入し、2017年からは独自のマネジメントシステム「Yume Pro」も推進してきた同社のイノベーション活動が続々と紹介された。
その模様をTOMORUBAでは前後編に分けて徹底リポート。前編では、OKIの経営陣によるIMSをテーマにしたパネルディスカッションや、若手イノベーターたちが思い描く未来社会についての討論をお届けした。
続いて、後編ではOKIの具体的なイノベーション事例や、共創パートナーたちとのオープンイノベーション事例が語られたセクション「OKI’s Solution & Co-Creations」の様子をレポート。
人口減少に伴う、恒常的な労働力不足。頻発する自然災害。そして、新型コロナウイルスの感染拡大――「社会課題解決」を軸に、新たな組織に生まれ変わろうとするOKIは、これらの問題にどのようなソリューションを提供するのだろうか。その一端が垣間見える内容となった。
AIエッジコンピュータを基軸にした、4つのイノベーション事例
●「ニューノーマルに向けたイノベーション戦略」
「OKI’s Solution & Co-Creations」は、イノベーション推進センター長 藤原雄彦氏による、ISO 56002を活用したDX・イノベーション戦略の紹介からスタートした。
▲沖電気工業株式会社 イノベーション推進センター長 藤原雄彦氏
藤原氏は冒頭、OKIを取り巻く、国内外の市場環境について解説。現在、国外では「持続可能な社会」の実現に向けた取り組みが加速しており、国内でも「Society 5.0 for SDGs」が宣言されるなど、社会課題解決が行政や企業の責任になりつつあることを説明した。
そうした市場環境に対してOKIは、長年取り組んできた「ものづくり」の実績と、自動車やIoT機器などのデバイスにAIを搭載する「AIエッジコンピュータ」の技術を生かし、社会課題解決のソリューションを提供していくという。こうした方針のもと、同社が現在、取り組んでいる以下の4つの事例を藤原氏は紹介した。
・総合防災対策ソリューション
SDGsが掲げる社会課題の解決を目指すOKIは、昨今、頻発する自然災害へのソリューション開発に取り組んでいる。それが防災情報システム「DSP Core」を用いた総合防災対策ソリューションの構想だ。このソリューションは、同社の強みであるAIエッジコンピュータと水位監視、画像監視システムを連携させ、河川の氾濫など災害の危機をいち早く感知し、市町村の防災対策に情報共有するほか、周辺住民のスマートフォンに災害情報を通知するもの。平成29年には、国土交通省実証実験を行っており、現在ソリューションの構築が進められている。
・AIエッジロボット
ニューノーマル時代に向けた非対面・非接触、人手不足の解消を実現するため、OKIはAIエッジロボットの高度遠隔運用の構築にも取り組んでいる。高度遠隔運用とは、1人の人間が複数のAIエッジロボットを遠隔運用することで、従来よりも高度な稼働を実現し、より多様な業務の遂行を可能にする技術。将来的には、人による遠隔支援で、24時間働き続けるロボットソリューションを目指している。
・多点型レーザー振動計
近年、不安視される社会インフラの老朽化。OKIは社会インフラを支える機械設備の安定稼働を実現するソリューションも手掛けている。その一例が、多点型レーザー振動計。これは光通信技術の強みをセンシング分野に応用し、機械設備の振動をモニタリングすることで、不具合や故障などの予兆保全をするもの。今後は、AIエッジロボットとの連携により、機械設備を遠隔で計測・予兆保全する技術の開発をねらっている。
・ヘルスケア
コロナ禍により急速に高まったヘルスケアへの関心。OKIは、睡眠改善をはじめ、生活習慣を改善する行動変容サービスの開発も行っており、様々な事業会社との共創プロジェクトを推進中だ。そこで目指すのは、医学的知見による健康的な生活週間をサポートする「行動変容・睡眠改善ソリューション」。同社がこれまで研究してきた行動変容のアルゴリズムと行動変容データの掛け合わせにより、個人ごとにカスタマイズされた健康促進ソリューションを実現したいという。
メインプロダクトの革新―既存事業でもイノベーションを続けるOKI
●「イノベーション創出事例の紹介」
藤原氏に続いては、OKIのコア事業である自動機事業を統括する池田敬造氏が登壇し、ATMや現金処理機といった、同社のメインプロダクトの領域におけるイノベーション事例について紹介した。
▲沖電気工業株式会社 上席執行役員 コンポーネント&プラットフォーム事業本部自動機事業部長 池田敬造氏
池田氏は、事例の紹介に先立って、「『イノベーション』というと、いかにも難しいことのような印象を持つ方もいるが、ほんのわずかな工夫からイノベーションは起きるということを、多くの方に知っていただきたい」と語る。自動機事業部は、新たな技術の開発ではなく、既存の技術を洗練させたり、別の領域に移植したりすることで、新価値の創出に取り組んでいるという。
その一例として、池田氏が挙げたのがLTE回線で通信する店舗型ATMだ。従来、コンビニなどに設置されているATMは、光回線で通信していたため配線や設置場所の確保に手間を要した。そこで、自動機事業部は、2キャリアのLTE回線を併用するアイデアで、安定した通信環境を実現し、ATMを無線化した。これにより、店舗側は配線などに制約されずにATMを設置できるようになり、さらに音声サービスの提供も可能になった。
そのほか、池田氏は、画面に触れることなくボタンが反応する「ハイジニック タッチパネル™」や、ATMで利用されている映像監視・分析技術を錠剤やカプセルの鑑別に転用した「持参薬鑑別機」、宅配荷物のサイズや重要などを自動測定し、送料などを即時に算出する「宅配受付機」などの事例を紹介。いずれも「非対面・非接触」や「高齢化」、「労働力不足」などの社会課題の解決に向けたソリューションだと解説し、「ニューノーマル時代においても、OKIは自動化技術を武器に、社会に安心安全の生活をお届けしていきます」と、今後の展望を述べた。
ALSOK、セイノーとの共創事例―最先端技術で、警備、物流分野に新たな価値を生み出す
OKIのYume Proでは、SDGsに掲げられる社会課題の解決を目指す手段として、共創パートナーとの仮説検証や事業化など、オープンイノベーションを積極的に推進している。このパートでは、イノベーション推進センターイノベーション推進部長の加藤圭氏がモデレーターとなり、2社の共創パートナーとの取り組み事例が紹介された。
●ユースケース01「警備システムのイノベーション」綜合警備保障株式会社
まず、登壇したのは、綜合警備保障株式会社(以下、ALSOK)の桑原英治氏。OKIが注力する高度遠隔運用の技術は、オフィスビルや商業施設などの警備・施設管理の分野において活用が見込まれることから、OKIはALSOKとの共創に活路を見出している。
▲綜合警備保障株式会社 開発企画部新規事業担当 執行役員待遇 桑原英治氏
桑原氏は、まず昨今の警備業を取り巻く環境について解説する。2002年以降、警備サービスの市場拡大とともに、侵入窃盗件数が約5分の1にまで減少するなど、警備業は治安維持・向上に一定以上の役割を果たしている。しかし、その一方で、近年、特殊詐欺やストーカー事案などの件数は増加傾向にあり、ソフトターゲットを狙ったテロの脅威も高まりつつある。こうした犯罪や脅威に対応するためには、その予兆を先取りして捉え、未然に犯行を防ぐ新たな警備モデルが求められる。
そこで、桑原氏は「警備業における最先端技術の活用」の重要性を訴える。不審人物の行動を監視・分析するAI技術、高精細映像で精度の高い異常検知を行う4Kカメラ、大容量の映像を低遅延で伝送できる5Gインフラ。これら3つの技術を桑原氏は「現在版三種の神器」と称して、新たな時代の警備業を支えるキーテクノロジーだとした。
そして、OKIとALSOKは、これらキーテクノロジーに関する共創に数々取り組んできた。その一例が、総務省の主催する「令和2年度地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」だ。これはALSOKと共に、京急電鉄、NTTコミュニケーションズによる3社のコンソーシアムにより実施される実証実験。ここにOKIはAIエッジロボットの高度遠隔運用コックピットと360°の俯瞰映像を自由視点で提供するフライングビューの技術が提供される。
京急電鉄の駅施設において、ドローン、ロボット、AIカメラなどによる監視・巡回を行い、それらをローカル5Gで繋ぎ、遠隔地の監視センターで一括に監視・制御する警備モデルの実現を目指した。巡回に用いられたALSOKの警備ロボット「REBORG-Z」には、OKIが開発したフライングビューが搭載されており、監視映像の多視点での閲覧・分析が可能になっている。
今後は、この警備モデルをビルや商業施設など複数の場所で導入し、それらを一か所の監視センターで監視・制御できる仕組みの確立を急ぐという。
発表の最後に桑原氏は、今後、オリンピックをはじめとした大規模イベントが国内で続々と開催されることに触れ、最先端技術を活用した警備の必要性がますます高まっていると言及。「OKI様には警備のイノベーションのための新たなテクノロジー・ソリューションの開発を望みます」と、OKIの今後に期待を寄せた。
●ユースケース02 「オープンイノベーションで変わる、未来の物流」セイノーホールディングス株式会社
次に共創事例を紹介したのは、セイノーホールディングス株式会社(以下、セイノー)の加藤徳人氏。OKIはコロナ禍によるEC需要の増大や物流業界における慢性的な人手不足といった社会課題の解決を目指し、サプライチェーン構築の完全自動化に取り組んでいる。そのなかで、物流業界大手であるセイノーとも共創が活発化させている。
▲セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 室長 加藤徳人氏
加藤氏は、物流業界におけるセイノーの特徴として「多彩なアセットを保有している点」を挙げる。同社は輸送事業を主軸としながらも、自動車販売事業、燃料・資材などの販売事業、IT事業など、幅広い事業を展開している。そうした多彩なビジネスを通して蓄積したアセットが、同社の共創における最大の武器だ。
加藤氏が室長を務めるオープンイノベーション推進室も、社会課題や市場環境の変化に対して、自社の保有アセットと共創パートナーの技術を掛け合わせることで、新たな価値の創出を目指しているという。
そうしたなかで、現在、構想されているのがOKIの物流ソリューション「LogiConnect®️」とセイノーの配送データ連携だ。従来の物流ビジネスでは、荷主が保有する受発注データと配送事業者の配送データは連携しておらず、配送事業者は出荷指示を受けてからドライバーや車両の手配を行うのが一般的だ。そこで、同室はセイノーが保有する配送データを開放し、LogiConnect®️と連携させることで、配送全体のデータが統合され、発・着荷主の業務効率化や配送事業者のリソースの最適化などが実現できるとしている。
この共創は、現在、検討中の段階ではあるが、加藤氏は「製造業などのお客様が利用するロット単位での商品配送の市場に導入すれば、大きなインパクトが得られるのではないか」と、拡大の余地は十分にあると指摘した。
また、データなどの無形資産だけでなく、車両や不動産などの有形資産もセイノーの共創を後押ししている。例えば、同社が保有する約30,000台のトラックについて、加藤氏は「自社が保有する車両のため、センシング機器などを搭載でき、そこから大量の走行データを収集することが可能です」と説明。そのほか約70,000個の航空コンテナや、約4,000室の社宅など、多彩な有形資産を生かした共創が可能だとした。
最後に、加藤氏は2019年12月にセイノーが設立した国内初の物流ロジ特化型のCVC「Logistics Innovation Fund」について紹介。今後は、事業創出だけでなく、ベンチャー出資も積極的に行い、オープンイノベーションをさらに加速させていきたいと意気込みを語った。
IMSを実践し、検証しながら成熟度を高めていく
「OKI Innovation World 2020」の閉幕にあたって、沖電気工業株式会社 執行役員 チーフ・イノベーション・オフィサー 横田俊之氏が、イベントの総括を行った。
横田氏は、ここでも再度、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)の重要性を強調する。顧客の要求に応える受注型から提案発信型へのビジネスモデルの転換は容易ではないが、今後もOKIのIMS“Yume Pro”を実践・推進することで、中期経営計画2022に掲げた目標を達成するという。
そして最後に、横田氏は「IMSは作って終わりではなくて、検証しながら成熟度を高めていくのが大事なポイント。次回のOKI Innovation Worldでは、より一段と成熟度が増した姿を皆さんにお見せしたいです」と意気込みを語り、イベントを締め括った。
▲沖電気工業株式会社 執行役員 チーフ・イノベーション・オフィサー 横田俊之氏
取材後記
新規事業、既存事業、そして警備や物流といった領域でのオープンイノベーション。「OKI Innovation World 2020」のセクション「OKI’s Solution & Co-Creations」では、OKIの様々な部門において、イノベーションが実際に萌芽しつつあることが語られた。
記事前編のレポートで語られたIMSやYume Proがイノベーションにおける「OS」だとすれば、セクション「OKI’s Solution & Co-Creations」では数多くの「アプリケーション」が快調に作動し、社会に向けて新たな価値を生み出している様子が確認できた。2017年10月からスタートしたIMSの実装プロジェクト、そして2018年1月からスタートしたYume Proの取り組みが実を結んだ結果といえる。
OKIは今後も、「提案発信型企業」への変革を図り、イノベーションを繰り返していくだろう。ますます加速していく同社の動きから目が離せない。
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)