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「地方から課題を発信せよ」宮崎の官民キーマンが語る

「地方から課題を発信せよ」宮崎の官民キーマンが語る

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新型コロナウイルスを契機に、「密な都市」を避け、「疎な地方」を志向する人たちが増えている。こうした中、地方の現状に興味を持っている人も多いのではないだろうか。あるいは、地方の自治体・企業とコラボレーションし、新たな事業を創出したいと考える人もいるかもしれない。

本記事で紹介するのは、九州の太平洋側に位置する「宮崎県」だ。宮崎県といえば、県民所得に占める一次産業の比率が高く、きゅうりやピーマンなどの栽培がさかん。ブロイラー飼養羽数や近海かつお一本釣漁獲量では全国1位に輝く。年間を通して温暖な気候から、プロスポーツチームのキャンプ地としても知られている。

そんな宮崎で活動するキーマンが集まり、去る7月28日、オンラインイベントが開催された。主催は「日本青年会議所 九州地区 宮崎ブロック協議会」、テーマは『withコロナ時代の地方創生』だ。

イベント後半のパネルディスカッションには、宮崎を離れた後、Uターンし、官と民の第一線で活躍する3者が登壇。それぞれの立場から、地方の現状や課題、新型コロナ前後での変化、新型コロナ下で工夫している点などを共有した。ここでは、パネルディスカッションで語られた内容を中心に、オンラインイベントの模様をレポートする。

企業の再興にも、オープンイノベーションは有効

オンラインイベントは、eiicon company曽田によるセミナーからスタート。セミナーでは、具体的な事例をまじえながら、「オープンイノベーションがどのような取り組みなのか」について説明が行われた。その中で、とくに地方経済と関連が深い部分として、業績が好調であるにも関わらず、経営者の高齢化と後継者不足により、廃業を余儀なくされている企業も多いことを指摘。それを打開する方法として、オープンイノベーションは有効だと紹介した。

また、オープンイノベーションを実践するにあたって、重要なポイントについても解説。とくに、初期フェーズである「構想~立ち上げ期」が重要だと話す。まずはゴールの設計を行い、しっかり目的・目標を定めることが成功のカギであると強調した。


最後に、オープンイノベーションを行う目的は、『企業価値の向上』であるとし、既存事業の延長・新規事業の創出、いずれの取り組みにおいても『自社だけでは成しえない』ことを、他社と共創することによって実現する手法として有効だと伝えた。

「地方」が抱える、最大の課題とは?

ここからは、パネルディスカッションで語られた中身の一部を抜粋して紹介する。

【パネルディスカッション登壇者】

■コマツ宮崎株式会社 専務執行役員 後藤 健太氏

大学卒業後、大手建設機械メーカーである株式会社小松製作所に入社。本社でマーケティング業務に携わる。その後、宮崎県にUターン。現在は、家業である同社販売代理店のコマツ宮崎株式会社を経営する。


■宮崎市議会議員 山口 俊樹氏

大学卒業後、大手ディベロッパーに勤務し、都市開発・営業・人事などに携わる。その後、宮崎県にUターン。2015年の宮崎市議会議員選挙で初当選し、現在、最年少の宮崎市議会議員(2期目)を務める。


■有限会社浅野水産 経営企画マネージャー 浅野 龍昇氏

進学を機に上京。大学在学中より国会議員の書生(秘書)を経験。その後、水産団体や市長政務秘書をへて、家業である有限会社浅野水産に入社。漁業AI事業の立ち上げを進めている。同社で手掛けた事業で、OPEN INNOVATION AWARD 2019(eiicon主催)の「Industry Challenge賞」を受賞。

■eiicon company AUBA Enterprise事業部 Sales GroupLeader 曽田 将弘 ※モデレーター


1つ目のテーマは、「地方の現状と課題について」だ。これに関して、コマツ宮崎を経営する後藤氏は、地方の抱える大きな課題が「人手不足」であると指摘。とりわけ建設業界は深刻で、5年後に必要だと予測されている労働人口が350万人であるのに対し、130万人不足するとの推計もあると説明する。

そして人手不足の理由として、少子高齢化による人口減少、都市部への人口流出、業界の魅力の発信が足りないことを挙げた。こうした現状を踏まえ、「生産性を高めることが課題」だと述べた。

漁業に関わる浅野氏も同じ見方を示す。宮崎県は高校生・大学生の流出が全国でワーストであることに触れ、若者の流出を防ぐために「魅力的な仕事を創出していくことが必要だ」と主張。しかし、地方はシルバー民主主義が顕著なので、「新しいことをやろうとすると足を引っ張られることが多い」との問題点も挙げた。そんな中でも、若者をつなぎとめるために、工夫していくことが重要だと語った。

一方、市議会議員の山口氏は行政に関わる視点から、「地方の行政は課題が多すぎて、どれから手をつけるべきかが分からない状態だ」と指摘。地方は行政に求められる期待が大きすぎるのだという。

たとえば、大都市では大手ディベロッパーが街づくりを進めてくれるが、地方はそういった企業も少ない。そのため、街づくりを含めたすべての役割を、行政に求められる傾向にある。結果的に行政は、「守備範囲や役割が大きくなりすぎて、耐えきれなくなっている」と現状を分析した。

新型コロナが、「地方」にもたらした変化


続いてのテーマは、「新型コロナウイルスが、地方の生活・ビジネス面に与えた影響とは?」だ。この質問に対し、市議会議員の山口氏は、「政策決定の方法が変わった」と説明する。これまで自治体は、成功している他の自治体から真似ることが多かった。しかし、新型コロナ対策については、「すべての自治体に同じ宿題を与えられている状況」なのだという。

地方自治体は今、正解もなく先進事例もない中で、何をすべきかの意思決定を行わなければならない。加えて、新型コロナ対策費として国から地方自治体に多額の交付金が配布されるが、答えのない中で「どう使っていくべきなのか、悩んでいる」と、地方自治体の現状を報告した。

一方、コマツ宮崎の後藤氏は、ビジネスの観点から新型コロナによる変化について、従来は対面での法人営業が主流で、取引先との阿吽の呼吸で買ってもらうことが多かったと話す。しかし、コロナ禍で対面での営業が困難となったため、「メールやWEB会議システムを使った商品説明へとシフトしつつある」と共有した。

これに対し、モデレーターの曽田が「WEB化への障壁はなかったのか?」と質問を投げかけたところ、後藤氏はローカルでは建設業界の代替わりが進み、30代・40代の経営者が増えているため、「まったくといっていいほど、違和感なくオンライン化している」と回答した。

浅野水産の浅野氏は、新型コロナによる変化について「魚価安に直面している」と訴える。価格下落の原因は、飲食店休業の影響も考えられるが、相場は2月からすでに下降しているため、明確な理由は分からないという。

さらに街の変化について、「人の流れが激減し、店舗の閉店も相次いでいる」と、宮崎の現状について共有した。山口氏もこの話につけ加える形で、「ホテルの収入がゼロになり、本当に困っているとの声が挙がっている」と報告。打開策として、GoToキャンペーンなどもあるが、「まずは域内でどう消費していくかが、これからの勝負だ」と語った。

「業界イメージの変革」が、ビジネス推進のカギ

こうしたwithコロナの状況下において、「ビジネスを推進するにあたり、工夫している点は?」と聞かれた浅野氏は、新型コロナの影響により就活生が県外に出づらい現状を好機ととらえているとし、この好機を利用して、スタートアップ志向の強い若手が集まるコワーキングスペースでピッチを行うなど、積極的に発信を続けていることを説明。

発信量を増やした結果、6名もの学生インターン生が同社の事業に参加することになったと、成果を共有した。これほどの人数が参加することは、コロナ前では考えられなかったという。また、若手に魅力的な職場だととらえてもらうため、「AI事業の立ち上げを一緒にやろう」「今なら起業経験が積める」というように、伝え方も工夫したと教えてくれた。


▲浅野氏が経営企画マネージャーを務める浅野水産の「第五清龍丸」。一本釣り漁法で、かつおを一匹一匹釣り上げている。

同じく業界イメージ刷新の文脈で後藤氏は、建設業界のイメージ戦略について次のように話す。宮崎の建設業界は経営者が若返りしているため、作業着なども見た目のよいものに変わっているという。

また、コマツとしても建機をロボットととらえてもらえるよう、打ちだしの工夫をしていると説明。コマツのICT建機は、衛星からデータを取得して、ドローンを飛ばして、設計データを流し込むと、ロボットのように半自動で動かすことができる。

こうしたロボット操縦者としてのカッコよさに加え、高い技能レベルが必要ないため、初心者や女性でも馴染みやすいという訴求にすることで、担い手の間口を広げているのだという。

withコロナの今こそ、行政と組むチャンス

山口氏はwithコロナ下でビジネスを推進するヒントとして、新型コロナの影響で「自治会の集まりがすべてなくなっている」ことを明かす。20代や30代の若手はオンラインへとスムーズに移行できるが、70代・80代の高齢者はハードルが高い。しかし、今の集まれない状況が長引くなら、高齢者も含めて「一気にWEB化できるチャンスはある」と語った。

また、行政の立場から企業へのメッセージとして、withコロナ時代は「行政とタッグを組むチャンスだ」と断言する。なぜなら地方自治体は、コロナ対策として配布された交付金をどう使うのか、この先1~2カ月で組み立てていかねばならない。

こうした状況だからこそ、企業などからの提案を求めているという。「コロナ対策には正解がないからリスクをとれる。今まで聞いてくれなかったことも、聞いてくれるチャンスだ」と話した。

モデレーターの曽田が、「どのように声を吸い上げているのか?」と尋ねたところ、山口氏は、関連団体からの要望を収集していることに加え、SNSやDMから届いた要望なども行政に向けて投げていると説明。「気軽に提案してほしい」と答えた。

地方発OIを成功させるためには、まず「課題を発信せよ」


最後のテーマは、「地方発のオープンイノベーションや新しいビジネスの創出を、推進していくには?」だ。この問いに対して浅野氏は、「自社の持つ課題・問題を言語化するだけでオープンイノベーションが可能だ」と話す。

たとえば、「農業のこの部分に困っている」「パン屋のこの部分に困っている」と発信するだけで、ソリューションを持つ企業に出会える可能性は高まるという。一方で、発信をしていくためには、課題を翻訳できるスキル・人材などが必要であることをつけ加えた。

山口氏は浅野氏の話に関連して、行政は「課題を見つけるのが苦手だ」と説明。地方自治体の問題点として、問題が起こっているからとりあえず蓋をしようとするが、それが本質的な課題の解決になっていないことも多いと指摘する。「ここが問題なんだよ」と教えてもらえると、動き出しやすいと話した。

一方、後藤氏は自社を事例に持論を展開する。後藤氏は、「スマートコンストラクション(※1)」のコンセプトがメーカーから共有された時、事業として成り立たないと考えたという。しかし、測量コンサルティングに強みを持つ他社とパートナーシップを組むことで事業が成立した。

※1: スマートコンストラクション(SMART CONSTRUCTION)=建機メーカーである小松製作所が提案する施工ソリューション。現場全体をICTで有機的につなぐことで、生産性の向上を目指す。 https://smartconstruction.komatsu/

今では、スマートコンストラクションが、収益の柱になるまで成長したことを共有し、このことから「一旦諦めて、他社に助けを求めることも大事だ」と考えを伝えた。

パネルディスカッション後の質疑応答では、「課題を出したい場合、どこに出せばいいのか?」との質問が出た。これに対して、曽田は「AUBAです!と言ったら宣伝になっちゃいますかね(笑)」と笑いをとりながら、自社HPのほか、FacebookやNewsPicksに会社公式アカウントを作成するなど、課題を出す手段はいくらでもあると回答した。

この回答に加えて、AUBAを通して協業先と出会った浅野氏は、AUBAに掲載してみたところ、約40社からメッセージが来たことを共有し、「気軽に発信してみることが大事だ」と伝えた。

そして最後に、主催した宮崎ブロック協議会の会長 安藤 靖 氏より「我々ローカルの企業が、課題や弱みに向き合うことで新しい価値を創出できると知る良い機会になった」との言葉があり、イベントを締めくくった。


取材後記

3者それぞれの視点から、宮崎県の現状や課題が見えてきた今回のパネルディスカッション。宮崎県の話ではあるが、他県と共通する箇所も多いのではないだろうか。

オープンイノベーションの文脈では、「今が行政とタッグを組むチャンス」というアドバイスや、ビジネスを推進するための方法として「他社に助けを求めるのも一手」「気軽に課題を発信することも大事」というメッセージが印象的だった。地方にはリアルな課題が山のようにあるという。今、地方にこそ、大きなチャンスがあるのかもしれない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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