急成長市場でなおかつ汎用性の高い【AI×画像認識】の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。eiicon labの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回は【AI×画像認識】の領域で生まれている共創の事例を見ていきます。画像認識はAI活用のなかでもメジャーな利用用途で、すでに実用的な事例も出ており、将来的にも拡大していく見込みがある分野です。
画像認識の市場規模や将来性とともに、興味深い共創事例を5つ紹介します。
市場は95%成長率を続け、2023年度には1500億円規模に
画像認識AIは様々な用途で利用されます。ミック研究所の公開した調査では画像認識AIは主要5分野と呼ばれる「検査・検品、セキュリティ、マーケティング、物品管理、測定・観察・探索」において特に成長が見込まれています。
同調査では、画像認識AIの国内の市場規模は2018年度には53億円となっており、2023年度には1500億円にまで成長すると推定しています。驚くべきことに、年平均成長率95.1%増という急成長です。
出典:AI(ディープラーニング)活用の画像認識ソリューション市場の現状と展望【2019年度版】
AI×画像認識の共創事例
ここからはAI×画像認識での共創事例を5つ紹介していきます。
【センスタイムジャパン×商船三井】「にっぽん丸」で船舶画像認識システムの実証実験を開始
センスタイムジャパンと、商船三井は2019年9月より共同で、新たな船舶画像認識・記録システムを開発し、商船三井のグループ会社である商船三井客船の“にっぽん丸”に搭載、実証実験を開始しました。
同実証実験は、センスタイムのAIプラットフォームを用いた認識技術に商船三井の持つ知見を盛り込んで開発した、他の船舶などを認識する画像認識エンジンと、商船三井の持つGPU(画像処理ユニット)を搭載した端末と超高感度・超高精度カメラを接続することで、高精度に船舶を認識し、また、それらを自動記録するというものです。
この技術は商船三井の目指す「自律航行船」の実現に向けて必要な要素技術のひとつとなる、「見張りの自動化」に貢献する期待が持たれています。
関連記事:センスタイムジャパン×商船三井|にっぽん丸でAI技術を活用した船舶画像認識システムの実証実験を開始
【ソニー×エムスリー】新型コロナ対策で協業、画像診断支援AIの開発などに着手
ソニーとエムスリーは2020年4月、新型コロナウイルス感染症の治療に従事する医療関係者、および病と闘う患者の方々に対し、両社のテクノロジ-と知見を集結して貢献すべく、協業を開始することを発表しました。
取り組みのうちのひとつとして、全国の医療現場に対し、新型コロナウイルス感染症疑い症例の診断を支援するための胸部CT検査画像の診断支援サービス、画像診断支援AIの開発と普及があります。
また両社は、新型コロナウイルス感染症対策以外の医療領域においても新たな価値創造を探索する取り組みとして、ソニーのスタートアップ創出支援プログラム「Sony Startup Acceleration Program」を活用し、ソニー社内で医療分野におけるアイデアを公募しプロジェクト化することで課題解決を目指すとのことです。
関連記事:【ソニー×医療情報専門サイト運営のエムスリー】 新型コロナ対策で協業、画像診断支援AIの開発などに着手
【ヤマハ×DMP】農業や低速度領域の自動化に向けて業務資本提携
ヤマハ発動機は2019年5月より、同社製品の自動化・自律化に向けたAI開発力の強化を主な目的として、AIコンピューティング分野に強みを持つ「ディジタルメディアプロフェッショナル(DMP)」との業務資本提携に関する契約を締結し、DMPが発行する第三者割当による新株式引き受けを決定しました。
ヤマハはAIが今後の制御技術の核と捉えており、DMPとの提携によりDMPのディープラーニング、画像処理・画像認識技術を同社製品や技術と組み合せることで、低速度自動・自律運転システムや農業領域でのロボット活用、各種モビリティの先進安全技術など新たな価値創造を進め、ヤマハらしいモビリティやソリューションを社会に提供していくとのことです。
【Liberaware×KCCS】ドローンによる図書館の書架自動撮影「AI蔵書点検システム」試験導入
Liberawareは2020年3月、千葉県船橋市・西図書館における京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の「AI 蔵書点検システム」試験導入に伴い、蔵書点検の無人化を目指し、特殊小型ドローン「IBIS」の自動飛行・撮影と「AI 蔵書点検システム」との連携について検証を実施することを発表しました。
Liberawareのドローン「IBIS」は小型であることから安全性リスクも低く、試験に採用されることになっています。これまで蔵書点検は専用の機器を使って1冊ずつ読み取って、図書データと突合させていましたが、同システムの導入で業務効率を改善できるか検証します。
関連記事:Liberaware×KCCS | 船橋市の図書館の「AI蔵書点検システム」試験導入でドローンによる書架自動撮影の検証を実施|eiiconlab 事業を活性化するメディア
【WorldLink&Company×金沢大学】5GとAIを活用した橋梁点検システムの実証実験に成功
ドローンの販売や産業向けソリューションなどを展開する、WorldLink & Companyは2020年2月、金沢大学理工研究域地球社会基盤学系の藤生慎准教授らの研究グループと協同開発を進めている橋梁点検システムが、5GとAIを活用した実証実験に成功したことを発表しました。
これまで老朽化した橋梁点検に画像認識AIをはじめとしたICTを活用した効率的な方法が模索されてきましたが、転送データが膨大なことがネックとなっていました。このシステムを、NTTドコモが提供する「ドコモオープンイノベーションクラウド」上に構築し、さらに高速な5G通信を利用してAI診断に必要なデータを伝送し、分析することに成功しています。
これによって、橋梁点検の時間とコストが低減されるだけでなく、より安全・効率化することに貢献することが期待されます。
関連記事:WorldLink&Company×金沢大学 | 共同開発した橋梁点検システム、5GとAIを活用した実証実験に成功
【編集後記】汎用性の高い画像認識AI、誰がリードするか
紹介してきたように、画像認識AIの活用事例は汎用性が高く、どのような領域でも活躍できるポテンシャルがあることがわかります。汎用性が高いということは、反対に考えれば「この仕事、画像認識AIで効率化できるかも」と気づくのが難しいということです。
そういった意味では、船橋市の蔵書点検のAIとドローンを活用する事例は鋭い観点の切り口に感じます。船橋市がAIの導入に積極的だからこそ、実証実験の実施にまでたどり着いたのでは?と推測します。つまり、企業なり自治体がリードすることが、画像認識AIの普及のキーになるのではないでしょうか。