企業・自治体の連携によって新型コロナウイルスの課題解決に取り組む――注目を集めるプロジェクトとは ?
新型コロナウイルスの累計感染者数は、全世界で約879万人、日本国内では約1万7864人となっている(2020年6月21日現在)。世界の新規感染者数が1日で15万人を超えたという報告もあり、WHOが「ウイルスは今も急速に拡大していて危険である」と声明を発表するなど、いまだ予断を許さない状況が続いている。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、経済や暮らしなど広範囲に大きなインパクトをもたらし、多くの課題が浮き彫りになってきている。
そうした中でeiiconでは、「新型コロナウイルスの課題解決に挑むスタートアップ・大企業の取り組み」という記事を4月6日に掲載。自社の強みを生かした新型コロナウィルスへの対策を打ち出しているスタートアップや大企業の取り組みをまとめた。今回は、その第2弾として、新たに打ち出された企業や自治体の取り組みについて紹介していきたい。
医療崩壊を防ぐ、さまざまな連携プロジェクト
まず紹介したいのは医療領域における取り組みだ。
デジタル聴診デバイス「ネクステート」を開発したシェアメディカルは、豊田地域医療センターとNTTスマートコネクトと連携協定を締結し、新型コロナウイルスの診察支援をスタートさせた。「ネクステート」は、Bluetooth無線通信機能が内蔵されているため、患者自身に聴診器を当ててもらえれば、医師が直接触れずに聴診し、飛沫感染リスクを抑えることができる。(※上写真:豊田医療センターの発熱外来にてネクステートを用いて診察する様子)
●シェアメディカル、豊田地域医療センター、NTTスマートコネクトと連携協定を締結、新型コロナウイルスの診察を支援
なお、eiiconではシェアメディカルの代表・峯啓真氏にインタビューを実施し、豊田地域医療センター・NTTスマートコネクトとの連携の経緯や、”with/afterコロナ”の医療業界について詳しく話を聞いた。
●【インタビュー】コロナで混乱する医療業界を救う次世代聴診デバイス。実現を可能にした「フルーガル・イノベーション」とは
次に、大企業が関わる医療領域の取り組みについて紹介していきたい。
ソニーは、医療情報専門サイトを運営するエムスリーと連携し、画像診断支援AIの開発や、無料Web講演会の開催、医療関係者向け負荷低減ソリューションの開発を開始する。さらに、ソニーのスタートアップ創出支援プログラム「Sony Startup Acceleration Program」を活用することで、ソニー社内で医療分野におけるアイデアを公募しプロジェクト化し、課題解決を目指すという。
●【ソニー×医療情報専門サイト運営のエムスリー】 新型コロナ対策で協業、画像診断支援AIの開発などに着手
ヘルステックベンチャー・Ubieは、NTT東日本・西日本と連携。全国の医療機関向けにパブリッククラウド上で提供するAI問診システム「AI問診Ubie」において、NTT東日本・西日本の高セキュアなVPNプランを共同提供している。「AI問診Ubie」は、これまで患者が紙に手書きしていた問診を、タブレットに入力することで、電子カルテへの転記の手間を省くシステムであり、新たに追加した「COVID-19トリアージ」機能は、新型コロナ対策にもなるという。
なお、Ubieは「NTT東日本のアクセラレータプログラム」を通して、NTT東日本と協業を開始したということだ。
●【ヘルステックベンチャー「Ubie」×NTT東日本・西日本】 「AI問診Ubie」において、高セキュアなVPNプランを共同提供
自治体が推進する課題解決プロジェクトとは
医療領域に続いて紹介したいのが、自治体による取り組みだ。
特に注目を集めているのが、神戸市の迅速の動きだ。4月20日に神戸市の地域課題解決プロジェクト「Urban Innovation KOBE」が公募を開始した「STOP COVID-19×#Technology」は、現在世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの対策となり得るテクノロジーや提案を全国のスタートアップから募集するプログラム。
審査はフルオンラインで実施し、最短2営業日以内の審査、関係部署との調整も最短1週間以内を目標にし、最短即日での実証実験も検討するなど、スピード感を重視しているのが特徴となっている。eiiconでは、プロジェクトを担当する神戸市の武田氏にインタビューを行い、その詳細について伺った。
●【インタビュー】「新型コロナウイルスにオープンイノベーションの力で立ち向かう」神戸市主催のプログラムがスピーディに推進できる理由とは?
実際に、「STOP COVID-19×#Technology」の採択企業も出てきており、プロジェクトが進み始めている。その1社が、手軽にデータ分析からAI予測、量子コンピュータ活用ができるクラウドプラットフォームを開発・提供するグルーヴノーツだ。
同社は神戸市と協働し、ビッグデータから街の状況の見える化、人の密集度合いやモノの販売動向等に関する分析やシミュレーションモデル等の作成・提供を通じて、地域の実情に応じた感染防止や経済活動の維持に貢献する取り組みをスタートさせた。
●グルーヴノーツ×神戸市 | ビッグデータから街の状況を可視化する実証実験を開始
また、Helteが提供する日本語でのグローバルコミュニケーションサービス「Sail」も採択され、実証実験が開始されている。今回の実証実験は、新型コロナウィルス流行に伴う外出自粛で休止した神戸の日本語教室の外国人受講者と、対面でのコミュニケーション機会を制限され孤立化する神戸のシニアとを「Sail」でつなぎ、日本語で交流する場を提供するという試みとなっている。
●Helte×神戸市 | コミュニケーションサービス「Sail」で実証実験を開始
神戸市以外でも、企業との連携に意欲的な自治体として挙げられるのが、大阪府だ。
企業間の配送を担うフリーランスのドライバーと荷主をつなぐマッチングアプリケーションである「PickGo」を活用し、新型コロナウイルスの影響による配送減少で仕事を求めるドライバーと、買い物代行需要者の課題を解決すべく、「PickGo 買い物代行」というサービスの開発・展開を実施したCBcloudが、大阪府と連携。コロナ禍での経済活動の冷え込みに直面する地域の個店をサポートしている。
●CBcloud×大阪府 | 地元経済活性化のために「PickGo 買い物代行」で連携開始
さらに、大阪府はサイボウズと連携。業務アプリ開発プラットフォームであるkintone(キントーン)を活用して「新型コロナウイルス対応状況管理システム」を作成した。大阪府が作成した同システムは、新型コロナウイルス感染症患者の健康状態等の把握や、各種情報の集計を効率化することが可能という。
また、大阪府は同様の課題を抱えている全国の自治体を支援するため、大阪府モデルのシステムをテンプレート化し、要望があった自治体に対して提供を開始するという。
●サイボウズ×大阪府 | 新型コロナウイルス対応状況管理システムを作成し全国自治体へのテンプレート提供を開始
一方、茨城県つくば市では、Society 5.0 社会実装トライアル支援事業において「With・Afterコロナの生活スタイル」をテーマに設定。接触機会を低減しつつ、市民の移動、買い物、娯楽・スポーツ、食事、学び、新しい働き方、市内経済活動の活性化など、市域の課題を解決する技術・製品やサービスなど、全国から広く提案を募集している。
●【茨城県つくば市】 つくばSociety 5.0 社会実装トライアル支援事業を開始、テーマは「With・Afterコロナの生活スタイル」
紙文化/ハンコ文化の課題に取り組む連携
医療や自治体の取り組みを紹介してきたが、その他にも新型コロナウイルスによって表出した課題解決に向けて、さまざまな企業が連携を開始している。
コロナ禍で在宅勤務/リモートワークが進む状況下で、注目を集めたのが日本の「紙文化/ハンコ文化」だ。書類に押印するためだけに出社を余儀なくされるといった声も聞かれた。そうした中で、弁護士ドットコム×LayerXの取り組みは目を見張るものがある。
Web完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」を提供する弁護士ドットコムと、テクノロジーを活用した業務プロセスのデジタル化を推進するLayerXが業務提携。変革を求められている大企業や行政機関の電子契約導入に向けた、業務設計およびシステム開発をLayerXが担い、組織ごとに必要となるAPIや署名技術などについてクラウドサインと連携。共同で技術開発を進めることにより、あらゆる組織規模や環境下に対応する電子契約の導入と運用を目指すという。
●弁護士ドットコム×LayerX | クラウドサインと共同で大企業・行政機関のDXを推進するため業務提携
また、マネーフォワードシンカとGMO VenturePartnersは、新型コロナウイルス感染症拡大による先行き不透明な状況を受け、GMO-VPの投資先であるスタートアップ企業に対する支援を目的とした「新型コロナ・リセッション対策プログラム」を開始した。
同プログラムは、GMO-VPの投資先企業を対象として、資金調達やM&Aなどの経営・財務戦略、組織づくり、オフィス選定、バックオフィスの最適化など、コロナショックを受けて見直しが必要な企業の経営課題に対して、GMO-VPとマネーフォワードシンカが幅広い知見をもとにアドバイスを実施する支援策となっている。
●マネーフォワードシンカ×GMO VenturePartners | 「新型コロナ・リセッション対策プログラム」を開始
そして最後に産学連携による取り組みも紹介したい。東京大学と日本ペイントホールディングスは、両組織の包括的な共同研究および人材交流を、高度なレベルで推進する産学協創協定を締結。本協定を通じて、“塗料とコーティング”を軸に、抗ウイルス技術を含む新型コロナウイルス感染症の拡大防止に資する技術や、感染拡大が終息した後に訪れる新たな社会の課題解決に向けた技術の実現に注力する。
●【東京大学×日本ペイント】 産学協創協定を締結、“塗料とコーティング”を軸に、ポストコロナ時代の社会課題解決へ
(eiicon編集部)