IoT、ローカル5G、画像認識、ビッグデータ――東芝の最先端技術を活用したオープンでスケールフリーな共創プログラムに迫る
エネルギー・社会インフラ・電子デバイス・デジタルソリューションなど、社会を支えてきた東芝の技術。現実やモノなどのフィジカルの世界のあらゆるデータを、サイバー空間のデジタル技術により解析・分析・理解し、実世界にフィードバックすることで新たな世界を創る、CPS(サイバーフィジカルシステム)戦略を掲げている。
その東芝が、オープンイノベーションプログラム「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2020」を始動。様々な事業分野での豊富な知見と実績、技術、ノウハウと、社外のデジタル技術やビジネスアイデアを掛け合わせ、幅広いパートナー企業と新たな可能性を探ろうとしている(応募締切5/31)。
5月13日(水)、プログラム説明会がオンラインで配信された。当日は、執行役上席常務 最高デジタル責任者 島田太郎氏がプログラム始動の背景などを説明。さらに、IoT、画像認識、5G、ビッグデータといった各募集テーマの担当者から、共創によって目指すことや、求めるパートナー企業などについてプレゼンテーションが行われた。本記事では説明会の模様を詳しく紹介していく。
「サイバーとフィジカルの融合で、実世界に新たな価値創出を目指す」
株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者 島田太郎氏
説明会のオープニングでは、執行役上席常務 最高デジタル責任者 島田太郎氏が、東芝のビジョン、そしてオープンイノベーションに取り組む背景、そして今回のプログラムにかける想いを語った。
まず島田氏は、東芝が掲げるCPS(サイバーフィジカルシステム)戦略について解説。「東芝製品は、世の中の様々な場に存在しています。そうしたフィジカルから生み出される情報を、サイバーにコネクトすることで、新たな価値創造ができるのではないかと考えています」と述べた。
続いて、東芝がオープンイノベーションを非常に重視している背景として、「私たちは樹形図などを作って組織を平面的に分類・整備しがちですが、現実はそうではありません。この世界は不平等で、例えばインターネットのリンクも、非常に多くのリンクのある少数のWebと、ほとんどリンクのない多数のWebが存在します。こうしたスケールフリー・ネットワークを生み出すことで、臨界点を超えると一気に変化するパーコレーション現象が起こります。イノベーションを起こすためには、スケールフリー・ネットワークを生み出すことが必要です」と話した。
さらに島田氏は、こうした中で重要になってくるのがデータであると言い、東芝のデータ事業であるスマートレシートを紹介。そしてIoTの民主化に向けたifLinkや、業種や企業の枠を超えた「ifLinkオープンコミュニティ」について話した。
また、東芝がAI関連特許グローバル3位であることや、リアルタイム画像認識プロセッサViscontiについて言及し、「こうした価値ある技術や製品を東芝は多く擁していますが、それらを現状の用途以外のところでどう活用していくのか?それが、社内ではなかなか生まれてきません。そこで、オープンに議論をしたいと考えています」と語った。
そして最後に、社内でピッチ大会を重ね、事業化に向けて多数のプロジェクトが走っていることに触れ、「社内だけではなく社外のパートナーと共にイノベーション創出に取り組んでいきたい。一緒に、オープンでスケールフリーなネットワークを創っていきましょう」と締めくくった。
Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM 2020プログラム説明
株式会社東芝 CPS×デザイン部 エキスパート プログラム事務局 相澤宏行 氏
続いて、プログラム事務局の相澤氏が、概要についての説明を実施した。相澤氏は「東芝の技術や顧客ネットワークと、社外のみなさんのデジタル技術・ビジネスアイデアを掛け合わせ、幅広い可能性を探っていきたい」と呼びかけ、さらに「受発注ではなく、両社にとって新たな価値となる共創プログラム」であることを強調した。
事業化判断における項目は下記の4点となる。
(1)新規性 新たな価値を生み出す共創アイデアであるか
(2)市場性 市場・業界を理解した上での共創アイデアであるか
解決したい課題とソリューションは明確であるか
(3)実現可能性 実現に向けた計画性があるか
(4)事業拡張性 中長期を見据えたビジネスモデル・収益モデルが構築されているか
募集テーマ説明(東芝 各事業会社)
次に各募集テーマの担当者より、領域についての説明、求めるパートナー像、共創メリットについての説明が行われた。
#01「さまざまなモノやサービスをオープンにつなぐ新たなユーザー体験」
株式会社東芝 CPS×デザイン部 CPS戦略室 エキスパート 千葉恭平 氏
まずは、株式会社東芝 CPS×デザイン部 CPS戦略室 エキスパート 千葉恭平 氏が登壇。様々なモノやサービスをオープンにつなぎ新たなユーザー体験を迅速に共創する、「ifLink」についてのプレゼンテーションを行った。
ifLinkとは、「誰もがカンタンにIoTをつかえる」ことを目指した、デバイス連携プラットフォームだ。たとえば「コーヒー豆の在庫が少なくなったら、発注する」のように、「IF(もし○○な状態なら)、THEN(どのようにアクションをする)」の組み合わせで、センサーや家電、機械、モビリティ、Webサービスなど様々なモノを簡単にリンクすることが可能となる。
プログラミングの知見のない人でも簡単にIoTがつくれる「IF-THENカード」や、異なる多様な視点でアイデアを発想する「IF-THEN大喜利ワークショップ」など、様々な事業者やユーザーとアイデアを出し合う場も設けているという。千葉氏は、「外部共創を加速することによって、ifLinkのユースケースを皆さんと増やしていきたい」と語った。
続いて千葉氏は、一般社団法人ifLinkオープンコミュニティを紹介した。ifLinkコミュニティは、誰もが簡単にIoTを使える世界を目指し、東芝が2020年3月に設立。IoT、フィンテック、モビリティ、通信、保険、金融、エネルギー、エンターテインメント、メーカー、スタートアップ、学生、非営利団体など、業種や競合関係を超えて100社以上の賛同を集めている。3月30日にはYouTubeでキックオフイベントを開催した。
「コミュニティで取り組むのは、アイデアを素早くカタチにして発信していくことです。そのために、企業を超えて迅速に連携し、アイデアを増やし、共創パートナーを見つけて広げていきます。つながるモジュールの数が増えれば増えるほど、みなさんにとってのビジネスチャンスと、ユーザーにとってのうれしさが増えます」と、千葉氏はifLinkのビジョンやネットワーク効果について話した。
ifLinkオープンコミュニティでは、同じ目的を持った異なる企業が集い、これからまさに本格的な活動が始まろうとしている。まさに今が、絶好の共創スタートのタイミングといえるだろう。
最後に千葉氏は求める共創パートナーとして、「エッジデバイス、センサー、Webサービスなど、ユニークなアセットやアイデアがあり、ビジネスを飛躍的に広げたいという方をお待ちしています」と述べ、「ぜひ一緒に、ワクワクする、スケールする新しいビジネスを創りましょう!」と呼びかけた。
・ifLinkコミュニティブログ:https://note.com/iflink_community
・キックオフイベント:https://www.youtube.com/watch?v=qDtLT1Gy87U
#02「リアルタイムの画像認識で新たな価値創出」
東芝デバイス&ストレージ株式会社 半導体事業部 システムデバイス事業統括部 シニアエキスパート 富樫雄一 氏
続いてのテーマは、「リアルタイムの画像認識で新たな価値創出を目指す」。東芝デバイス&ストレージ株式会社 半導体事業部 システムデバイス事業統括部 シニアエキスパート 富樫雄一氏がプレゼンテーションを行った。
自動車の先進安全機能などで高く評価されている、リアルタイム画像認識LSI「Visconti(TM)」。本テーマは、このViscontiに新たな動画処理やアプリケーションを組み合わせることで、従来にないソリューションを創出し、社会課題解決を目指すというものだ。
まず富樫氏は、Viscontiの特徴を説明。画像センシングをエッジで実現するSystem On ChipであるViscontiには、(1)高速・高性能画像認識エンジン (2)低消費電力で同時に様々な処理が実行できる (3)車載など過酷な環境で動作 といった3つの利点がある。
しかし(1)に関しては、多くのAI画像認識エンジンが備えている機能であるため、独自の強みとしては(2)(3)だ。Viscontiは、主に車両に設置される多数のカメラに搭載されているが、車載以外にも監視カメラなどエッジでの画像認識用途で価値を発揮している。クラウドでの画像認識では、ネットワークの負荷や、高速応答性などに問題があるが、ViscontiのようなエッジAIでは、その問題が解決できるため、スマートシティへの展開もできる。
こうした、東芝の高度な技術が結集されたViscontiを「フィジカルからサイバーへ動画をデータ化するキーデバイスと定義しなおし、新たな価値創出を行っていくこと。そしてViscontiをベースにしたエッジAIのエコシステムを構築し、社会問題の解決に取り組むこと」が本テーマの目的だと、富樫氏は語った
そのために募集するパートナーは、主にAIソリューションや動画ソリューションといったアプリケーション開発者や、システムインテグレータといった企業となる。「Viscontiを使って機能を開発したいという方。または既に製品や技術はあり、その価値を上げたいという方。あるいは画像を使ったサービスを運用しているが、それ以外にもエッジチップを使って対応デバイスを広げていきたいという方。そういった方々にぜひ手を挙げていただき、世の中の課題を一緒に解決していきたい」と、富樫氏は締めくくった。
#03「ローカル5Gの活用で製造業・社会インフラへの新たな価値創出」
東芝インフラシステムズ株式会社 社会システム事業部 通信システムソリューション営業部 エキスパート 加藤靖智 氏
「今回、私たちがパートナー企業との共創で実現したいポイントは、ローカル5Gのビジネス化に向けたアプリケーション創出と、差異化技術の導入です。当社からは、検証フィールドの提供と、当社顧客基盤への展開を行う予定でいます」と、冒頭から語りかけたのは、東芝インフラシステムズ株式会社 社会システム事業部 通信システムソリューション営業部 エキスパート 加藤靖智氏だ。
50年以上にわたり、放送・防災・通信システムにかかわる製品を提供している東芝。それらの技術をもとに、2004年から携帯事業者に通信エリアを拡張するカバレッジソリューションを提供している。オフィスビルや駅、地下街、空港、ショッピングモール、ホテルなどで活用されており、現在は5G向けのカバレッジソリューション装置を開発しているところだという。
そうした中、2019年12年にローカル5Gという仕組みが制度化された。これは、工場などエリア限定であれば、誰でも5G通信事業者になれるという制度だ。5Gには、高速・大容量・低遅延・多接続という特徴があるが、ローカル5Gはそれらに加えて、高い安定性、高いセキュリティ、柔軟なエリア展開が可能となり、新たな通信インフラとして注目されている。
東芝では、培ってきた強みを活かして、ローカル5Gのシステムインテグレータとして新たなソリューション事業拡大を狙っている。2020年度下期から、東芝グループ最大規模の工場である府中事業所(敷地面積:東京ドーム14個分、人員:約1万人)でPoCを行う予定だ。そこで導入効果を測定した上で、2021年度以降に東芝グループの事業所に展開し、プラント、交通、通信放送、物流、ビルと言った当社の顧客基盤への展開を目指したいと考えている。
しかしながらローカル5Gには、インフラ構築コストやアプリケーション創出に課題がある。その解決は、東芝の技術やスキームだけでは難しく、パートナー企業との共創が不可欠だ。そこで、府中事業所でのPoCパートナーと、その後の事業化パートナーを募集している。
「ローカル5Gという新たなビジネスチャンスを活かして、工場や、当社顧客基盤への新規ソリューション創出に向けて共創できる方々を募集します。また、ローカル5Gの特徴を活かして製造プロセスをサポートできないかとも考えています」と、加藤氏は述べた。
さらに、求めるパートナーとして、(1)製造業・インフラ向けサービスで新たなアイデア・仕組みを持つ企業 (2)データ管理ソリューションに強みを持つ企業 (3)ネットワーク技術について特徴・強みを持つ企業 を挙げた。
#04「ビックデータのリアルタイム分析で新たな価値創出」
東芝デジタルソリューションズ株式会社 デジタル人材開発部・技術管理部 商品企画担当 スヘルマン・アンガ 氏
最後に登壇したのは、東芝デジタルソリューションズ株式会社 デジタル人材開発部・技術管理部 商品企画担当 スヘルマン・アンガ氏だ。東芝では、IoTやビッグデータに適した高スケーラブルなデータベース「GridDB」を開発している。GridDBは、スマートファクトリーや、自動車の運転技術のモニタリングなど、オープンソースデータベースとして、世界中で使われている。
たとえば、先進的な自動車技術システム製品を提供するデンソーインターナショナルアメリカで、GridDBは採用されている。ドライバーの運転技術をモニタリングし、運転に危険な兆候があると、リアルタイムでドライバーに警告する。また、運転技術の分析結果を自動車保険への反映に活用している。
「これまでのビッグデータシステムは、リアルタイムで可視化はできても、多くの場合、分析は後から行っていました。それは、大量のデータの蓄積・分析を、同時に行うことができるデータ基盤がなかったからです。しかしユーザーは、ビッグデータであってもリアルタイムの分析を求めています。それを、みなさんと一緒に実現したいと考えています」と、アンガ氏は、プログラムに参加する理由を語った。
また、GridDBと組むことで、「従来より大量かつ高頻度のデータを使って、分析すること」「データ収集しながら、リアルタイムに分析・フィードバックすること」が可能になる。
それからアンガ氏は、求めるパートナー企業は「大量・高頻度のデータを扱い、リアルタイムに分析して、ユーザーに価値を提供するIoTソリューションベンダー」、そして取り組みたい領域として「株取引の自動化」「広告配信の最適化」「災害対策」「現場作業の自動化」を挙げた。
今回のプログラムで東芝と組む共創メリットは、技術支援とプロモーションの2点。「我々が、アプリやデータベースの設計を支援します。他のオープンソースデータベースは、日本ではほとんど技術支援を受けることができません。また、当社のプレスリリース、ハンズオンセミナー、Webサイト、SNSなどで、みなさんのソリューションをプロモーションしていきます。ぜひ、これからGridDBとともにIoTソリューションを一緒に創りましょう」と締めくくった。
取材後記
オンライン説明会は全体で1時間半ほどだったが、150〜200名が最後まで離脱せず視聴を続け、プログラムへの関心の高さを感じられた。また、PoCフィールドとして府中事業所の提供、さらには東芝のテクノロジーや顧客基盤など、メリットも非常に大きい。
5月31日に応募が締め切られ、6月19日までに参加企業が決定する。そこから3か月間のインキュベーション期間を経て、10月に社内審査会を開催。採択された共創アイデアは、本格的に事業化を目指す。締め切りまで残り少ないが、ぜひ応募を検討して欲しい。
※応募方法など詳細はコチラからご確認ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵)