ビジネスが生まれやすい環境、福岡市の国家戦略特区とは?
eiiconでは、全国の自治体が官民で取り組んでいるオープンイノベーションに迫る新シリーズをスタート。その第1弾として、今回は福岡県の県庁所在地・福岡市を取り上げます。
福岡市は高島宗一郎市長が就任した2010年以降、スタートアップやIT企業の誘致を積極的に推進しています。さらに福岡市には大企業の本社や支店が多くオフィスを構えており、九州大学をはじめとした有名大学も軒を連ねています。
まさに、オープンイノベーションを起こすための要素である「産官学」の土壌が整っている街と言えるでしょう。
さらに、福岡市がイノベーションに強い理由は国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されている点です。特区に指定されることは国の規制にとらわれない事業創出の後押しとなります。
それでは、福岡市でオープンイノベーションに取り組んでいる産官学の主なプレイヤーやプロジェクトを紹介していきます。
国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」でできることとは?
そもそも国家戦略特区とはなんなのでしょうか。首相官邸ホームページには以下のように記されています。
「国家戦略特区」は、“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度です。平成25年度に関連する法律が制定され、平成26年5月に最初の区域が指定されました。
これまでの特区と異なる点として、地方自治体だけでなく、国・自治体・民間が連携することでスピーディーに大胆な施策を実施できることが特徴です。福岡市は、創業の支援と雇用の創出に取り組む国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されました。
国家戦略特区として取り組める規制改革メニューが数多くあります。福岡市はそのうち18のメニューが適用され、認定事業数が39(令和元年5月末現在)と国家戦略特区の自治体の中で2位の採用数となっています。
福岡市が取り組む規制改革メニューの一部を紹介すると、「スタートアップ法人減税」「スタートアップ人材マッチングセンターの設置」「創業人材等の多様な外国人の受入れ促進」などがあります。
これらの規制改革メニューを駆使することで、福岡市はオープンイノベーションが起こりやすい土壌を作っているのです。
西鉄の「スマートバス停」オープンイノベーションプログラム
ひとつ、民間主導のオープンイノベーションプログラムを紹介します。西日本鉄道(西鉄)が主催するプログラム「西鉄Co+Lab」では、「BUS STOP 3.0」と題してバス停をアップデートさせる取り組みのパートナーを探しています。
バス停をテクノロジーによってアップデートし、人々の暮らしをより豊かにする「スマートバス停」の創出を目指すプロジェクトです。
九州の人々にとって不可欠なインフラとなっている西鉄が仕掛けるオープンイノベーションプログラムは、福岡における民間企業の盛り上がりを牽引しています。
▲「スマートバス停」は西鉄グループの西鉄エム・テックと安川電機の関連会社であるYE DIGITAL社が共同開発し、西鉄バス北九州管内で2018年から試験運用している。
関連記事:「スマートバス停」を活用して未来の街づくりを――西鉄Co+Lab「BUS STOP 3.0」の全貌とは?
官民共同施設「Fukuoka Growth Next」での手厚いインキュベーション
福岡市の国家戦略特区を象徴する施設が「Fukuoka Growth Next(通称FGN)」です。FGNは官民共同で運営されているインキュベーション施設で、スタートアップと支援者が集まります。
福岡市だけでなく、地元企業と連携した育成プログラムの提供や、アクセラレータープログラムとの連携や資金調達機会を創出しています。
産官学民のオープンイノベーションプロジェクト「Fukuoka D.C.」
「福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)」は産官学民一体型のシンク&ドゥタンクです。福岡の国際競争力を磨くためのプロジェクトを推進しており、具体的にはeiicon labでもレポートした電動キックボードのシェアリングサービス「Lime」の実証実験の実施をサポートするなどの活動をしています。
2010年から2020年の期間で、福岡都市圏の雇用を+6万人、域内総生産(GRP)を+2.8兆円、人口を+7万人に到達させることを目標に、将来的に福岡を「東アジアのハブ」にすることを目指します。
関連記事:KDDI出資の電動キックボード『Lime』試乗してみた!ラストワンマイルの移動手段となるか?
地元有力企業が集結した「Startup GoGo」によるオープンイノベーションファンド
福岡のスタートアップを語るうえで欠かせないのがスタートアップ支援組織の「Startup GoGo」です。Startup GoGoはスタートアップイベントの開催・運営をする一方で、九州を中心にオープンイノベーションを推進するファンドを2019年4月に組成しています。
ファンドには西日本鉄道株式会社、九州電力グループの株式会社QTnet、株式会社新出光、福岡銀行といった地元有力企業が参画しており、期待感の高さが伺えます。
福岡で盛り上がるベンチャーキャピタル
福岡のベンチャーを取り巻く環境のなかでも特徴的なのは、福岡エリアを対象にしたベンチャー支援の豊富さです。
ふくおかフィナンシャルグループ子会社の「FFGベンチャービジネスパートナーズ」、九州地域に注力する「ドーガン」、元サムライインキュベートの両角氏が立ち上げた「F Ventures」、大学発ベンチャーに注力する「QBキャピタル」などがその一例です。
ベンチャー支援が東京一極集中になりつつある中で、九州地域にフィーチャーしたVCの存在は、福岡に資源が集まっていることを裏付ける存在です。
関連記事:福岡のベンチャーキャピタリスト3名がスタートアップ支援プログラム「S.C.A.L.E.」を始動
福岡県による地方創生オープンイノベーションプログラム
福岡は市だけでなく、県としてもオープンイノベーションに注力しています。福岡県は2018年11月に「地方創生オープンイノベーションプログラム」を主催しました。
福岡が抱える地域課題の解決をテーマにアイデアを公募し、JR西日本、IDEX、西鉄などの地元大企業と共にワークショップを開催、検討の結果採用されれば大企業のアセットを活用して事業化を目指すことができます。
福岡市は産官学民によるオープンイノベーションの手本となるか?
冒頭でも述べたように、高島市長の就任をきっかけに福岡市はベンチャー、テック、オープンイノベーションの街として生まれ変わりつつあります。
大企業とベンチャーが地域に共存していますし、VCによるベンチャーサポートも日に日に進化しています。地方都市でこれほどオープンイノベーションの土壌が整備されている地域は類を見ないでしょう。
産官学民が共同で作り上げたオープンイノベーションの街として、他の自治体の手本となるようなケースとして福岡市が発展することに期待したいですね。
さて、eiiconの連載「地方創生のオープンイノベーション」で次に紹介する地域は「静岡県」です。大都市である東京と名古屋の中間に位置し、地方都市としてはこれ以上ないほどの”好立地”である静岡県が取り組む画期的なオープンイノベーションへの取り組みを解説します。
(eiicon編集部 久野太一)