当事者意識を育てる現場とは?リディラバ鈴木氏が語る課題解決のノウハウ
「社会の無関心を打破する」
数々の社会問題解決に取り組むリディラバのホームページの冒頭に書かれている言葉だ。リディラバは働き方、介護、安全保障、選挙制度、TPP、憲法改正、食の安全安心など、幅広いテーマの社会問題に取り組んできた、まさに課題解決のプロ集団。
リディラバは様々な事業を展開しており、社会問題の現場で当事者との対話の場を作る「スタディツアー」や、音楽フェスのような空間で開催される社会課題カンファレンス「R-SIC」(アールシック)などで存在感を増している。
これらのアプローチは一見ユニークなものに見えるが、その実、非常にロジカルな観点で事業に向き合っている。今回は、リディラバで法人事業部に所属しながら前述の社会課題カンファレンス「R-SIC」の責任者を務める鈴木哲平氏に話を聞いた。
鈴木氏の語る正しい課題把握の方法、効果的なコラボレーションの形、そして組織における当事者意識の育て方などのエピソードから、企業のオープンイノベーションの現場にも共通するヒントが見えてきた。
■リディラバ鈴木哲平
リディラバ法人事業部所属。R-SIC事業責任者。2017年インターン生を経てリディラバに入社。イノベーション事業開発をミッションとして、企業や官公庁と社会課題を結びつける役割を担う。
■当事者が「当事者意識」をブーストする
ーー いきなり核心に迫る質問をしますが、組織が正しく課題をキャッチアップするためにはどのような視点が必要でしょうか。
二つあると思ってます。ひとつは、事業を作る人間としてのロジカルな視点です。企業として社会課題に取り組むには、取り組む理由を明確に提示しする必要があります。私たちが取り組んでいるのは社会課題ですが、社会課題は人口減少していく日本で伸びていく数少ない分野です。さらに、産業規模や強豪の不在を考えてもまだまだブルーオーシャンだと言えます。社会課題に取り組むことには合理性があるし、事業としてペイする。そういった論理的な認識を持つことが前提です。
でも、重要なのはロジックだけではないと思っています。もうひとつ大事なのは業務を遂行する力です。ミッションを前に進めていく力や、顧客の課題を深掘りしていく力が社会課題を解決していく上で大きな要素になります。もっと言えば、社会課題の現場にいる当事者の目線を通した、精度の高い「当事者意識」を持てているかが重要です。
ーー 社会課題の当事者でない人が当事者意識を持つことは簡単ではなさそうですね。
はい。私たちが展開する「スタディツアー」は、まさに当事者意識を加速させるための事業です。社会課題の現場を訪問し、社会課題の解決に人生をかけて向き合っている人と直接交流するプログラムになっています。
企業の方々が現場の取り組みや熱意に触れることで、ロジックだけでなく感情で「この課題に貢献したい」と思ってもらえます。これまで関心のなかった社会課題が、自分にとって「解くべき問題」に見えてくるんです。こういった態度変容が私たちがスタディツアーで目指していることのひとつです。
そもそも社会課題は、当事者たちだけのリソースで解決できないから「社会」課題になっているので、その現場に企業から新しいリソースを入れることで、課題解決を進めていきたいと思っています。
▲リディラバでは”膨大なフードロスのこれからを考えるツアー”など、さまざまな社会課題の現場に足を運ぶ「スタディツアー」を実施している。
■社会課題解決に「システム」の概念を
ーー なるほど。では当事者意識を持った企業や人は、どんなアプローチで課題解決に取り組めばいいんでしょうか?
社会課題の解決というと、署名やボランティア、デモなどの「アクティビティ」が印象的かもしれませんが、私たちは「システム」での課題解決を意識しています。
リディラバとつくば市との取り組みを例としてお話しします。そもそも、自治体の課題解決アプローチって、基本的には税収でまかないますよね。壊れた道路を直すとかも税収を財源にした課題解決です。
でもそのやり方って、持続可能じゃないのは明らかなんです。人口減少は止まらないので収入(税収)も減っていく、でも社会課題という支出は増えいくわけですから。
この問題を最適化するために、リディラバはつくば市と包括協定を結んでいます。どういうことかというと、つくば市全体で発生する様々な課題をいったんリディラバがまるっと吸い上げるんです。そのうえで、各課題の解決に最適なプレイヤー探しをつくば市と一緒に進めていきます。今まで各課がそれぞれ課題解決のプレイヤーを探していたところを、包括協定によってその手間が省けます。さらに、A課とB課の課題をマージして事業者Aにお任せしよう、といった効率化の余地も生まれます。
要するに、今までは“1(行政の各課)対1(事業者)”の取り組みが同時に複数ライン走っている構図でしたが、リディラバを間に挟むことで“1(行政)対1(リディラバ)対n(事業者)”というシンプルな構図にしていきたいと思っています。
お話ししたのはあくまでも一例ですが、個別の課題解決とは別に、課題解決のシステム自体をアップデートしたいと思って事業を進めています。
▲2019年3月、つくば市とリディラバは持続可能都市推進に関する連携協定を締結した。(写真は、つくば市長・五十嵐立青氏のFacebookページより抜粋)
■社会課題の現場はなぜ当事者意識を育てるのか?
ーー 当事者意識の作り方をもうちょっと深掘りしたいのですが、どんな環境が当事者意識を作るのでしょうか?
私自身スタディツアーを実施する中で気づいたのですが、実は社会課題の現場と当事者意識・主体性の醸成はすごく相性が良いんです。なぜなら「貢献領域」がすごく大きいんですよね。
例えば大企業が取り組むとある経営課題があるとします。経営陣や役員はこの問題解決に知恵を絞ります。課題解決のために経営コンサルに何千万円を支払う場合もあるでしょう。この課題に一社員として取り組むとして、「こんな貢献ができる!」と明確にイメージを持てる人は多くないかと思います。
一方で社会課題の現場はどうでしょう。極端な例ですが、地方に行くと、若いだけで喜ばれることがありますよね。若いだけで社会に貢献している感覚になります。ほかにも個人でできそうな貢献領域がたくさん見つかります。できそうなことがたくさん浮かぶという意味で、社会課題の現場が当事者意識や主体性と相性がいいと考えています。
■当事者意識を生むカンファレンス「R-SIC」
ーー リディラバでは国内最大規模の社会課題カンファレンス「R-SIC」が今年も7月27日、28日に開催されますよね。R-SICでも当事者意識をブーストするような仕掛けがあるのでしょうか?
R-SICの特徴は、とにかく社会課題の現場で活躍している人に登壇していただいていることです。ホームページから登壇者の方々を見てもらうとわかるんですが、みなさんがご存知ない人が多いはずです(笑)。なによりも、現場で熱量の高い取り組みをしている方々の温度感を直に触れていただきたいんです。
今って、情報だけ欲しいと思えばカンファレンスの内容を書き起こしたネット記事でも十分じゃないですか。1時間の話が5分で読めてしまう。それでも、わざわざ私たちがカンファレンスを開催する意義は、情報だけではない熱量を伝えることにあります。隣に座っている人が同じ問題意識を持って、同じセッションを聴いているという出会いに価値があると思っています。先ほども「ロジックよりも感情」とお話ししましたがまさにそれで、結局感情が刺激されることが社会課題解決の推進力に直結します。R-SICがこの時代にあえてカンファレンスという形式をとっているのも、当事者意識を持ってもらうための仕掛けです。
一般的にカンファレンスは「出会いの場」なのですが、R-SICはもう一歩踏み込んで「課題を一緒に解決したい人との出会いの場」を提供したいです。これはリディラバとして大事にしている価値観でもあります。
▲R-SICには、当事者意識を持ってもらうためのさまざまな仕掛けがある。
■“フェス型構造”で新しい課題と人に出会う
ーー カンファレンスの設計で特にこだわった部分はありますか?
カンファレンスでは、同時に5つのセッションが走ります。初日は5×4セッション、2日目は5×5セッションが行われるタイムテーブルです。
これだけ数多くのセッションがありますが、チケットは1日券と2日通し券しか売っていません。聴きたいセッションがひとつしかなくても、1日券を買わないといけない。となると、せっかくだから他のセッションも聴こうと思ってもらえます。この設計にした狙いは、R-SICを今まで知らなかった社会課題に出会う場にしたかったからです。
ーー 音楽フェスで新しいアーティストと出会うのと同じ構造ですね。「せっかくだから」という気持ちが新しい発見を生み出します。
まさにそうですね。それが狙いで音楽フェスのような構造にしています。同時に5つのセッションを走らせているのも、フェスの構造を意識しています。同じ会場で同じ音楽を聴いている人に対して親近感を抱きやすいように、同じセッションを聴いている人とも親近感を持ってもらえるはずです。
▲今年のR-SICは、7/27〜28の2日間にわたり日比谷BASE Qでされる。
ーー タイムテーブルを見て珍しいと思ったのは、セッションとセッションの間の休憩が30分と長いことです。何か狙いがありますか?
セッション間の休憩時間はネットワーキングタイムも兼ねています。だいたいカンファレンスのネットワーキングタイムって、全行程終了してからの懇親会に設けられますよね。でも、今その瞬間に会場に居合わせた人たちで交流することに意味があるはずです。
ーー 参加者同士のネットワーキングって、上手に促してあげないと活発に行われないイメージがあります。
まさに、今回のR-SICで注力しているのは参加者同士の交流です。ひとつ、ネットワーキングを円滑にする取り組みとしては、R-SIC常連のお客様には、R-SICアンバサダー的な役割として率先してコミュニケーションを取ってもらう予定です。常連さんはFacebookのR-SICファンページに招待していて、数百人規模のグループになっています。このグループでは常連のみなさんにアンバサダーとなっていただいて、むしろ運営側に近い気持ちでR-SICに参加してほしいと呼びかけています。
アンバサダー的な取り組みは一例で、このようなコミュニケーションを促す仕組みがところどころに散りばめられています。参加者も一緒にR-SICを作っている意識を持ってもらえるはずです。
この記事を読んでいただいた方にも、ぜひ当日は積極的にコミュニケーションをとっていただき、R-SICを盛り上げてくれたら嬉しいです。
【R-SIC 2019概要】
・開催日時
7月27日(土) 11時30分から18時30分まで
7月28日(日) 10時30分から19時15分まで
※申し込み締切日時7月28日(日)19時15分
・開催場所
日比谷BASE Q (東京都千代田区有楽町1丁目1-2 東京ミッドタウン日比谷 6F 日比谷駅直通、有楽町駅より徒歩5分)
・参加費
1日券 ¥3,000
両日券 ¥5,000
・主催団体
一般社団法人リディラバ / 株式会社Ridilover