「think 2030」 vol.2 | グロービス・キャピタル・パートナーズ 今野穣氏
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を目前に控え、日本社会・経済は大きなターニングポイントを迎えようとしている。そうした中、日本国内ではオープンイノベーションが徐々に浸透し、大企業やスタートアップの共創による新規事業創出が形になってきた。――しかし、米中貿易摩擦、イギリスのEU離脱、消費税増税など、明るいニュースばかりとも言えないのが現状だ。
シリーズ企画「think 2030」では、激動を予感させる2020年のその先、「2030年に向けた企業×オープンイノベーションの未来」という視点から、日本の企業・ビジネスパーソンの進むべき道を考えていく。
今回は、グロービス・キャピタル・パートナーズの代表パートナー、今野穣氏が登場。12年以上にわたって「投資家」として手腕を発揮すると同時に、ベンチャーの「共同経営者/経営支援者」としても活躍。イノベーションの最前線を知る今野氏から2020年後に見える“景色”について語ってもらった。
■株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 今野 穣 氏
経営コンサルティング会社を経て、2006年7月にグロービス・キャピタル・パートナーズ入社。約12年にわたり、主にIT領域での投資活動を手がけている。主な投資担当先にライフネット生命保険、ブイキューブ、みんなのウェディング、アカツキ、ビープラッツ、Quipper、SAVAWAY、キラメックス、Vasily、スマートニュース、ビズリーチ、yappli、Akippa、アグリメディア、READYFOR、Creema、リノベる、などがある。
リセッションがあったとしても、イノベーションへの投資は必要不可欠
――早速ですが2030年に向け、日本の経済/企業活動やビジネスパーソンの在り方がどのように変化していくのか。今野さんはどのように予測しますか?
グロービス・今野氏 : いきなりですね(笑)、難しい質問です。一例として、アメリカの状況を見てみると、時価総額上位を見ると、GAFAに代表されるようなスタートアップが占めています。では、日本はどうなるか。――私は、「日本型の産業進化」があるのではないかと考えています。つまり、大企業がそのまま日本を牽引する存在であり続ける可能性があるということです。
――と言いますと?
グロービス・今野氏 : そのままというとやや語弊がありますね。内的・質的変化は伴います。おそらく大企業はベンチャー企業を取り入れながら変化を遂げていくでしょう。その上で、今と法人格としては変わらず大きな影響力を発揮していくということです。例えば、金融大手がベンチャー企業と連携しながらFinTechをやり切るかもしれない。もちろん、その際には、オープンイノベーションは重要なキーになることは言うまでもありません。
――なるほど。時間軸で見ると、直近ではどのような変化があると見ていますか。
グロービス・今野氏 : きっとここ数年でリセッション(景気後退)が起こるはずです。規模やインパクトは予測できませんが、ダウントレンドが生じたときの大手企業の動きはとても大事になってきます。2008年のリーマンショックのときは、大手企業や金融機関がイノベーションから手を引き、守りに入りました。
しかし、今回はその選択肢を取らない可能性があり、むしろR&Dやイノベーションのアウトソースというエコシステムが加速する可能性すらあると思っています。なぜなら、大手企業が成長するために、イノベーションは必要不可欠だからです。生き残るためにはそれしかない。背に腹はかえられない状況とも言えるのです。
――大手企業はどのような動きが必要になるでしょうか。
グロービス・今野氏 : 一つは段階的ではあれ、成功に必要な十分な資金をしっかり投資することです。例えば、5億円で起こせる変革には限界があります。どんな事業でも、投資効率的な観点からすると、ユニコーン企業(時価総額1,000億円)を輩出するには、100億円〜200億円単位の投資をすることが求められると思います。
もう一つは外部との連携を図りながら、事業のポートフォリオを組み替えることです。自社ですべてをやり切ろうとすると、旧来型の意思決定やスピード感、チャレンジに対する寛容さなどの点で、逆に成長を阻害する要因になりかねません。その意味でも、オープンイノベーションは欠かせないことなのです。
相性のいいインフラ企業とベンチャー企業
――オープンイノベーションに相性のいい企業はあるでしょうか。
グロービス・今野氏 : インフラ企業は相性が良いと思います。具体的には、電力、通信、鉄道、不動産などです。インフラ資産はベンチャー企業が持ちえないものです。一方、インフラ企業はソフトウェアやアプリケーションを苦手としていることが多いので、相性という意味では非常にいいのではないでしょうか。実際、インフラ企業にはオープンイノベーションに積極的なところが多い。これはご存知の通りでしょう。大手通信会社などはトップが牽引役となり、イノベーションに乗り出しています。
――メーカーなど他の領域はどうでしょうか。
グロービス・今野氏 : 相性という観点では、なんとも言えない側面があります。そもそも、現状のビジネスでイノベーションを起こすのは非常にハードルが高い。ですから、イノベーションを目指すなら、ビジネスモデルの大きな変換が必要になるでしょう。
例えば現在、シェアリングやXaaS/サブスクリプションなどの影響を受け、モノを大量に作って売るというビジネスモデルが成り立たなくなっています。特に若い世代はモノを買わなくなりました。メーカーや小売は、モノを売るという発想を捨てることも視野に入れなくてはありません。そうしたことが柔軟に行えるのであれば、シェアリングやXaas/サブスクリプション系のベンチャー企業などと連携することで、エコシステムとしてのイノベーションの実現可能性を高められると考えられます。
――大手企業がビジネスモデルを刷新し、本格的にイノベーションに乗り出す場合、まず行わなければいけないのはどのようなことでしょう?
グロービス・今野氏 : 適材適所の人員配置です。特にエース人材の配置については慎重に検討する必要があるでしょう。というのも、エース人材といっても、大手企業の中の“エース”とイノベーションに適切な人材はまた別だからです。
大手企業の場合は、ミスをしないことが一つの重要な評価基準ですが、イノベーションを実現させるには失敗はつきものです。アントレプレナーと向き合うならアントレプレナーシップを持っている人材ではないと信頼関係が構築できません。その点を加味して適切な人材を配置しないと、うまくいくものもうまくいなくなってしまいます。
――イノベーションというと、若手社員が担うものというイメージもあります。仮に今の担当者がこのまま担当を続けると、10年後には20代は30代、30代は40代となります。そのまま担当を続けられるでしょうか。
グロービス・今野氏 : もちろん、続けられます。特にBtoBの分野では、産業知見やネットワークという観点においては、むしろ若い世代では対応が難しいでしょう。実際、アメリカのユニコーン企業でも40代が中心となり腕を振るっています。成長分野に身を置くことで自身をますます高めていくこともできますので、ぜひイノベーションを牽引し続けてほしいですね。
大きな資本で、大きな事業を動かしていきたい。
――今後、日本におけるイノベーションをより活発にするために、今野さん自身がどのようなことを手がけていきたいとお考えですか。
グロービス・今野氏 : ファンドとしては数十億円単位の大きな投資を手がけていきたいと考えています。これには、先ほど言及した、大きな資本で大きな事業を作り、産業リーダーシップを発揮し得る会社を支援する、大手企業の変革を支援していく、というところに積極的な投資を行いたいという思いがあります。ユニコーンになるような会社に対して、ハンズオン支援をし、常にリードインベスターとして起業家に寄り添っていくために、我々も率先して資金力を具備しておくことが重要だと考えています。
――私たちeiiconも、オープンイノベーション支援を通して大手企業の変革に貢献している感触があります。
グロービス・今野氏 : そうですね。オープンイノベーション1.0が“企業同士の出会い・マッチング”だとすると、今は2.0、すなわち“事業化(成果)”というフェーズに入っているでしょう。
eiiconさんはマッチングという点で大きな役割を担い、十分に機能しています。次は事業化(成果)について、各企業やイノベーターたちを強力にサポートするパートナーになってもらえればと思います。これから、大手もベンチャー企業も行動変革が必要になるはずです。しかし、現状では見えていないところも多いと考えられますので、eiiconさんが啓蒙・教育する立場になることを期待しています。
(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:古林洋平)