パーソル | アジア最大級のHRカンパニーが仕掛ける「BPO×テクノロジーでの業務リデザイン」
人材派遣のテンプスタッフやanやdodaといった求人メディア、人材紹介などの幅広い人材サービスを提供するパーソルグループ。今年4月に、「オープンイノベーション推進部」という他社との共創に特化したセクションが新設された。それからわずか数ヶ月後、第1弾として、新しいオープンイノベーションプロジェクトが始動した。――それが、「UNICORN」だ。
オープンイノベーション推進部と、BPO領域を担うパーソルテンプスタッフによる合同プロジェクトである「UNICORN」は、共創パートナーの持つテクノロジーを活かすことで、ミドル・バックのオペレーション業務で課題となっている「定型業務の自動化/生産性向上」や「生産活動の成果最大化」に留まらず、「多様な人材の働く機会の創出」にも取り組んでいくという。
そこでまず、パーソルグループがオープンイノベーションに取り組む背景を、パーソルホールディングスのイノベーション推進本部本部長・岩田亮氏に聞いた。次に、「UNICORN」で目指すBPO領域の新たなビジネスモデルや世界観について、プロジェクトを牽引するパーソルテンプスタッフ 取締役執行役員・高倉氏と、パーソルホールディングス オープンイノベーション推進部部長・長野氏の2名に伺った。
ビジョン実現に向け、オープンイノベーションを加速させる。
――パーソルグループでオープンイノベーションを管掌する岩田さんにお聞きします。2018年春にはグループ内にオープンイノベーションに特化した部署を新設したと伺いました。なぜいまパーソルグループはオープンイノベーションに関心を寄せているのでしょうか?
岩田氏 : 現在、私たちが提供しているサービスは基本的に、派遣やBPOを通じた「労働力の提供」と、Webメディアや人材紹介を通じた「人材のマッチングビジネス」の2つ。パーソルグループのビジョン「人と組織の成長創造インフラへ」を実現に向けて、これまで埋めることのできなかった課題解決のポイントが、まだ多くあるのではないか。――そうしたホワイトスペースを埋めるため、2018年4月よりイノベーション推進本部を新たに立ち上げました。約500億円の粗利を目指し、パーソルホールディングスのCOO直下で、本格的に取り組みを進める体制をとっています。
その第1弾として、今回「UNICORN」というプロジェクトを立ち上げたオープンイノベーション推進部では、事業側からの出資も検討しつつ様々な取り組みをスタートしています。イノベーション推進本部は、これまでパーソルグループになかった機能ということもあり、既存事業の革新と新領域の開発を通して、グループビジョンの実現に向けて、会社全体をドライブさせる存在だと私自身も期待しています。
▲パーソルホールディングス株式会社 イノベーション推進本部 本部長 岩田亮氏
多様な人材の働く機会の創出
――次に、「UNICORN」を牽引するキーマン、パーソルテンプスタッフ・高倉氏と、オープンイノベーション推進部部長・長野氏に登場いただきます。お二人にはまず、今回の新規プロジェクト「UNICORN」を立ち上げた経緯についてお聞かせください。
高倉氏 : オープンイノベーションに取り組むBPO領域は、パーソルテンプスタッフの派遣事業が母体となっています。私たちのBPO事業と一般的なアウトソーシングとの大きな違いは2つ。1つは、オンサイトに強みを持つこと。ブラックボックス化して成果のみを求めるのではなく、手さばきを含めた業務量の設計を、お客様の目の前で行う「ライブ感」が特徴です。2つ目は、スタッフィングカンパニーであることと言えるでしょう。
他社では、自分達で「採用」「教育」「選定」「配属」という流れを組んでいますが、私たちは、派遣事業が母体であることから登録の段階でスタッフ選定がなされている。また、雇用先である派遣先企業のスタッフデータがノウハウとして蓄積されているため、人材の有効活用に関して、他社と異なる仕組みを持っている。これまでは、こうした差別化によって業績を伸ばしてきました。
しかし、お客様もしくは、派遣スタッフの仕事を代行するアウトソーシングであることから、コストカットを前提とした仕組みに限界を感じていました。今後、お客様の様々なニーズに応えることや競争優位性を担保するために、「オンサイト」「スタッフィングカンパニー」という私たちの特徴を、テクノロジーと掛け合わせることでどのようなことが実現できるのかが「UNICORN」を立ち上げるキッカケでした。
▲パーソルテンプスタッフ株式会社 取締役執行役員
パーソルホールディングス株式会社 執行役員 派遣・BPOセグメント BPO領域担当 高倉敏之氏
長野氏 : もうひとつポイントして挙げられるのが「業務のリデザイン」です。私たちはこれを特に重要視しています。というのも、「人」を軸にデータを分析してビジネスにつなげるパーソルグループの中で、私たちだけが「業務」を中心に据えたマネージをしてオペレーションを構築し、効率化するミッションに取り組んでいるからです。
コンサルタントがお客様先でヒアリングした内容を基に業務設計を行い、様々な人の意見を聞きながらより良いものへと磨きあげる。そして、人をマネージする会社として、単純な定型業務を人の手で行うのではなく、よりクリエイティブな分野でスタッフが価値発揮できる環境をつくる。そのために、ITを活用しようという話になりました。
▲パーソルホールディングス株式会社 イノベーション推進本部 オープンイノベーション推進部 部長 長野和洋
――「UNICORN」を通じて実現すべき目標は、大きく分けて「①定型業務の自動化/生産性向上」、「②生産活動の成果最大化」、「③多様な人材の働く機会の創出」の3つとお聞きしました。それらをより詳しく教えていただけますか。
高倉氏 : まず大前提として、お客様となる法人企業側に対しては、コア業務に集中してもらい、ミドルバックのオペレーション業務については、ファブレス化させていく。ローコストでハイスピードといった高い品質を提供したいと考えています。また、当社に登録いただいている派遣スタッフのみなさんに対しては、より価値ある業務のできる体制をつくりたいと思います。当社のスタッフである16歳から90歳までの幅広い年齢層に対して、個々に合わせた雇用機会の創出を目指します。「人生初めての仕事はパーソルから。最後の仕事もパーソルで」というのが、私個人の想いでもあります。
長野氏 : 新たな雇用機会の創出という観点で言えば、自治体との協業は非常に魅力的です。最近の事例だと、シルバー世代に仕事を紹介できない自治体との共同経営で、アウトソーシングのオフサイトセンターを立ち上げました。
特徴としては、働く意欲のある方にセンター内で具体的な業務を見てもらい、仕事への理解を深めていただく。これは、自治体の雇用創出における政策に直結するとともに、私たちとしても地域の有力なスタッフの獲得につながります。また、働く方にとっては、家の近所でやりがいのある仕事につくことができます。三方にとってメリットがあるこの施策を1年半ほど前から進めて、この度10月4日に東京都・東村山市での実施に至りました。
高倉氏 : 民間に比べて改善できる余地が多くある公共領域は、当初から検討していました。住民票の交付や国民健康保険、介護・育児の手続きといった窓口業務を、私たちが数多く請け負っていたことから、こうした市民向けサービスを、テクノロジーで変革できればと考えています。
価格競争に巻き込まれやすい一般の派遣事業に比べて、スタッフとパートの人数調整や業務デザインの変更など、原価コントロールをこちらが工夫することで利益率を担保できる。公共系は、決してビジネスとして儲からない分野ではありません。こうしたことから、公共系は注力している業界のひとつです。
定型業務を自動化し、生産性向上を目指す
――注力する”業界”のひとつは公共系ということですが、注力すべき”業務”でいうと、どのような業務になりますか?
高倉氏 : 私たちの感覚として、営業事務が最も業務が自動化されず属人的に行われていると感じています。通常の事務作業は、データ入力にしろ、コール業務にしろ、ある程度スクリプトが決まっています。
しかし、営業事務は、フロントとなる営業とのつながりによって、様々な変数が発生し業務の効率化がしにくい。ここに着目すると、営業がやりやすい環境をミドルバックの営業事務が受け入れやすい環境をつくる、また不確定要素の多い業務を整理して、シンプルなやり方に変えていく。そのために、AI-OCRで請求書を読み込んで次の工程に流すといった業務をデザインする必要があると考えています。
長野氏 : こうした施策を着手できない主な理由は、通常業務の事務系ミドルバックに対して、企業側が予算やパワーをかけられないことです。ロットが小さいことや、複雑多岐に渡るビジネスをどう整理するかという課題に人や時間、予算を割けない。
しかし、私たちにとっては、逆にチャンスでもあります。私たちが代わりに業務設計を行いカタチにする。構築した業務システムを納品して、契約終了後に自社の社員で対応できるやり方にしても良いと考えています。
高倉氏 : さらに言えば、これまではコストセンターとなるオペレーションを請け負ってきましたが、今後は利益を極大化するプロフィットのアウトソースを組み込んでいきたいです。いわゆるキャッシュが生まれる仕組みを、もうひとつ作りたいと考えています。
現在、取引の20%が営業事務なのですが、営業行為と絡んでいるサービスは、ひとつもありません。今後は、お客様のプロフィットな部分にも携わりながら、営業活動の裏方業務におけるオペレーションの入口から出口まで対応して、営業と営業事務をひとつのカテゴリーとしてパッケージ化することで、新たなビジネスの基盤にしていきたいですね。
コア業務の成果を最大化する
――先程の営業事務とパッケージ化すると話されていた営業については、どういったニーズがあるのでしょうか。
高倉氏 : 地方の中小規模の取引先のケアであったり、商品知識を身につけてリテール商材を扱ったり、休眠顧客の掘り起こしなどが挙げられますね。人数的な問題で対応できない部分を、デジタルマーケティングを活用しながら、お客様側の営業がリターンのある領域へ集中できる体制をつくる。営業におけるオペレーションのコンサルティングと、実際のオペレーション、それに伴う先程お話した裏方の事務業務。ここまで包括的なサービスを行っている企業はあまりないので、ここにデジタルマーケティングを掛け合わせると、ひとつの形としておもしろいのではないかと思います。
――お話しいただいた業界・業務を含めパーソルグループとして、今回の共創プロジェクトでどういったリソースを提供できるのでしょうか。
長野氏 : まず、母体となる派遣事業を手掛けるテンプスタッフの拠点が全国にあり、その全てにスタッフィングの機能があることが強みです。これによって、東京で請けた案件で福岡に人を送りたいといったニーズにも速やかに対応できますし、派遣する人材についても多様性が違います。
また、データについても、質・量ともに違いがあります。勤怠はもちろんのこと、個人の働きぶりも営業やお客様先からヒアリングした内容をデータ化し把握しています。これは、業務のリデザインを行う上で有効に活用できます。例えば、派遣スタッフの稼働時間が全体の60%、アウトソースのフルタイムで80%、パートが90%であるならば、これらを掛け合わせることで、最も低コストかつ効率的な業務デザインを構築できます。
高倉氏 : 企業側だけでなく、働く人に対する価値も広げていきたいと考えています。現在、全国600ある受託プロジェクトには、それぞれ現場でスタッフと業務をマネージする弊社社員(プロジェクトリーダー、PL)が1名います。この600名のPLをオンラインマネジメントできるプラットフォームをつくりたい。――派遣スタッフからリーダーなどのマネジメント業務、さらにその先へとステップアップできる環境を用意したいですね。
長野氏 : 日本を視点に考えた時、生産性の維持・向上を目指すためのポイントは3つあると思います。1つは、「成長産業への労働人口の移動」。2つ目が「多様な人材の労働参加」。3つ目は、「一人あたりの生産性向上」。
今回の「UNICORN」を実行するBPO事業は、それらの全てに寄与する事業だと考えています。属人化された業務を、より多くの方が出来る業務へと変換することで、16歳から90歳といった幅広い年齢の派遣スタッフのみなさんが適材適所で働ける。あるいは、本来4人かかる作業を2人でできるようにするなど、いずれも業務デザインを新たに構築し、IT化を促進することで実現できると思います。
取材後記
労働人口が年々減少していくという大きな社会課題を抱える日本。生産性を向上させながら、限りある労働のリソースを最適化するのは、急務だといえるだろう。今回話を伺った「UNICORN」は、パーソルグループが抱える人的なリソース・ノウハウと最新のテクノロジーを掛け合わせることで、そうした社会課題の解決に寄与できるプロジェクトになる可能性を秘めている。パーソルグループと共に、人がより価値ある仕事を、組織がより生産的になる社会に、挑戦したい企業の方は、ぜひ今回の機会を活かしていただきたい。
※「UNICORN」についての詳細情報はこちらをご覧ください。
(構成:眞田幸剛、取材・文:平田一記、撮影:加藤武俊)