共創気質 ー Huber. × 東急電鉄 ー <後編>
9/25に東京・日比谷BASE Qにて開催されたイベント「CHANGE THE RULES eiicon meet up!!」に、東急電鉄・後藤修平氏とHuber.の代表・紀陸氏が登壇。三井不動産・BASE Q運営責任者である光村圭一郎氏をモデレーターに迎え、”オープンイノベーション実施の裏側”についてのトークセッションが開催された。東急電鉄が開催している「Tokyu Accelerate Program」を通じて2016年に出会った両社は、スピーディーに共創を進め、その間に東急電鉄がHuber.に対して2度出資。さらに、後藤氏はHuber.に出向し、執行役員として同社の牽引する役割も担っている。
――TAPでの出会いからたった2年間で、多様なオープンイノベーションを実現できた理由とは?記事<前編>では、そのポイントの①〜③を見てきたが、今回の記事<後編>では残りの④〜⑥を紹介していく。
<登壇者・モデレーター紹介>
【写真右から二番目】 登壇者/東京急行電鉄株式会社 経営企画室 経営戦略部 管理課 課長補佐 兼 観光事業開発部 企画開発課 後藤修平氏
2003年に東急電鉄に入社。鉄道事業本部を経て、2013年から経営企画室に異動。2016年からは観光事業開発部 企画開発課を兼務している。さらに、株式会社Huber.に出向し、主にセールス部門を担っている。
【写真右】 登壇者/株式会社Huber. 代表取締役CEO 紀陸武史氏
前職はフリーランスのビジネスプランナーとして、電通にて未踏領域(ビックデータ・機械学習・IoTなど)の新規事業・サービス開発のPMとして活動。その後、2015年4月に株式会社Huber.を設立。また、ソフトバンク・孫正義社長の後継者育成を目的として設立された「Softbank Academia」の外部一期生でもある。
【写真左から二番目】 モデレーター/三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 統括 光村圭一郎氏
出版社勤務を経て2007年三井不動産入社。オフィスビルの開発、プロパティマネジメントの経験を経て、新規事業開発に携わる。2014年に企業人・起業家・クリエイターのコラボ拠点「Clipニホンバシ」を立上げ、2018年には東京ミッドタウン日比谷に「BASE Q」を開設。大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供もスタートさせた。
ポイント④ | 経営層の考えていることを知る。
「なぜすぐに利益が見込めないスタートアップに出資するのか?」など、大企業における中間マネジメント層の反対意見が、オープンイノベーション推進の障壁になることも多々ある。それを乗り越えるために東急電鉄・後藤氏は、「トップが何を求めているか、何を考えているかを理解しようとしている」と話す。
実際に後藤氏は、東急電鉄の社長である髙橋和夫氏と同じ大学出身というつながりもあり、食事をする機会もあるという。そうした場を介して、トップのビジョンやメッセージを知ることができ、経営に近い視点を得ることができている。また、後藤氏は経営企画室に所属しているため、取締役会に出席することもあり、そこでも経営層の目線や視点を得ているという。
ポイント⑤ | 強固な信頼関係。
「後藤さんには隠しことは一切していません。私たちが苦しいことも全てさらけ出しています」というHuber.の紀陸氏。ポイント③でも示したように、後藤氏の物事を進める力は非常に高く、スタートアップと同じ温度感を保っている。それが、Huber.との強固な信頼関係につながっているという。
続けて紀陸氏はこう話す。「現在、後藤さんはHuber.に出向してもらっていますが、最初にその話をメンバーに話したら、“それは最高だ!”というリアクションが返ってきたんです。社内からは”後藤さんなら大歓迎”の声があちこちから聞こえてきましたね。うちのメンバーからの信頼もとても厚いんです。もちろん、僕自身も後藤さんの人柄も好きでしたし、仕事に対する姿勢や意思決定の質なども高く、出向してくれて、とても嬉しかったですね」。
ポイント⑥ | 社内の顔色を窺うよりも、目線を上げて大きなビジョンを見る。
後藤氏がHuber.に出向することで、共創のスピードは格段に上がっているという。後藤氏の業界内ネットワークを活かし、Huber.は東急電鉄以外の鉄道事業者とも接点を持ち始めている。しかし、そうした後藤氏のアクションに対しては、社内から否定的な意見が聞かれることもあるそうだ。
それに対して後藤氏はこのように語る。「東急は今、渋谷の再開発に力を注いでいます。東急が渋谷をより魅力的なものにして、外客を誘致するためには会社の枠を超えてコンテンツ開発をしなくてはなりません。マーケット全体を広げるためには、東急という会社組織や枠組みに固執していられません」。
――実際に外客誘致のコンテンツ開発のために、現在最も力を注いでいるのが、東急電鉄がHuber.と共に京都・渋谷の2箇所にオープンさせた複合型観光案内所「WANDER COMPASS」だ。同施設内には、外国人観光客の希望を聞きながら旅のプランを一緒に考えるHuber.のスタッフが常駐。また、Huber.が提供する、外国人観光客の潜在的な旅行ニーズを端末上でヒアリングする「たび診断(R)」の専用端末を設置する。
これには、年間数千億円というマーケティング費用を投下する大手旅行情報サイトと同じ土俵に立つのではなく、訪日外国人とリアルな場で深い接点を持つことでHuber.のマーケティング力を高めていこうという戦略もある。「豪徳寺」という観光資源の発見のときと同じように、「WANDER COMPASS」で得た情報がHuber.にとってビジネスの源泉になる可能性があるのだ。
まとめ | オープンイノベーションを加速させる6つのポイント
TAPを通して出会った東急電鉄とHuber.。この2社がオープンイノベーションを加速させた要因には以下の6つがあった。ぜひ、オープンイノベーションを推進させる際のヒントにしていただきたい。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:加藤武俊)