未来を突き動かすスポーツ共創の挑戦者たちが集結!コンテストを勝ち抜いた9プロジェクトの最終ピッチに迫る――2025年度「SOIP」DEMODAYレポート<前編>
スポーツ庁が推進する「スポーツオープンイノベーション推進事業(SOIP)」は、スポーツと他産業の連携を促進し、新たな財・サービス創出や社会課題解決を目指すプロジェクトだ。カンファレンスの開催やアクセラレーション支援を通じ、スポーツ団体・企業・自治体などの共創を後押しし、スポーツと他産業の価値高度化と成長を図っている。
今年度の本事業の成果発表の場として、2月26日に東京で開催されたのが『SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS DEVELOPMENT 2025 DEMODAY』である。
当日は2つのコンテンツが披露された。ひとつはスポーツを起点とした先進的共創事例の中から選考を勝ち抜いた、ファイナリスト9チームによる『SPORTS OPEN INNOVATION CONTEST 2025』FINAL PITCH。もうひとつは、「スポーツ×他産業」による、新たな価値創造に挑戦した9チームによる『SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS DEVELOPMENT 2025 DEMODAY』COLLABORATION PITCHである。
TOMORUBAでは、DEMODAYの模様を現地で取材。――上記2つのピッチを<前編>と<後編>に分けて紹介し、スポーツオープンイノベーションが秘める新たな可能性を紐解いていく。<前編>となる本記事では、『SPORTS OPEN INNOVATION CONTEST 2025』FINAL PITCHをレポートする。
2030年度までに「スポーツ市場規模15兆円」へ――スポーツ庁が描く成長戦略
冒頭、プログラム主催者であるスポーツ庁より森山氏が登壇し、開会の挨拶を行った。スポーツ庁では、スポーツ基本計画に基づき「スポーツの成長産業化」を重点施策として推進している。スタジアム・アリーナ改革やDX推進などに加え、他産業との連携の促進を通じ、2030年度までにスポーツ市場15兆円規模の実現を目標に掲げているという。
森山氏は、スポーツの持つアセットと他産業を掛け合わせることで新たな価値創出が可能だと強調。「日本という国や社会をより豊かにする力を、スポーツは持っている」と述べ、「今日の場が皆さんの心に届くような1日になることを願っている」と会場に呼びかけた。
▲スポーツ庁 民間スポーツ担当 参事官補佐 森山健 氏
続いて、司会者より『SPORTS OPEN INNOVATION CONTEST 2025』FINAL PITCHの概要が説明された。本取り組みは、スポーツ産業の成長・拡大と、新価値創造に向けた機運醸成を目的に、スポーツ×他産業による先進的な共創事例を全国から募集して、「革新性」「経済性」「社会性」の3つの観点で顕彰するコンテストだ。4つの顕彰カテゴリーが用意され、9人の審査員による評価で決定する。
<顕彰カテゴリー(4つ)>
■最優秀賞/革新性・経済性・社会性の全項目において成果を上げており、最もスポーツの裾野を広げることに成功したモデル事例を顕彰。
■デジタル・イノベーション賞(革新性)/デジタルの導入や、革新的なDX技術との融合により、新たな体験価値を生み出し、スポーツ産業の可能性を広げた取り組みを顕彰。
■ビジネス・デベロップメント賞(経済性)/スポーツと他産業の連携によって、新たな市場の開拓や、収益・事業の拡大に成功し、経済的インパクトを生み出した取り組みを顕彰。
■ソーシャル・バリュー賞(社会性)/地域連携の座組を構築し、健康増進、地域活性、女性活躍などの社会課題の解決と、それによるスポーツ関係人口の増加に寄与した取り組みを顕彰。
<審査員(9名)>
■平地大樹 氏(プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社 代表取締役 クリエイティブディレクター)
■伊藤仁成 氏(MTG Ventures 代表パートナー / 地域と人と未来株式会社 代表取締役)
■常盤木龍治 氏(パラレルキャリアエバンジェリスト / 株式会社EBILAB 取締役ファウンダーCTO CSO / 岡野バルブ製造株式会社 取締役 軍師 DX推進本部長 / eiicon 地方創生アンバサダー)
■石塚大輔 氏(スポーツデータバンク株式会社 代表取締役)
■長田新子 氏(一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長)
■安元淳 氏(株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役COO)
■大浦征也 氏(パーソルイノベーション株式会社 代表取締役社長)
■中馬和彦 氏(株式会社みずほフィナンシャルグループ/株式会社みずほ銀行 執行役員CBDO)
■森山健 氏(スポーツ庁 民間スポーツ担当 参事官補佐)
このコンテストで壇上に立ったのは、127件の応募から選考を勝ち抜いたファイナリスト9チーム。審査員や来場者が見守るなか、スポーツを起点に描いた構想や成果、さらにその先に見据える未来像が次々に披露された。ここからは、受賞チームによるピッチの模様を、受賞者から順に紹介していく。
【最優秀賞】『スキマ時間を体力に変える、駅前高地トレーニング「ハイアルチ」』
●発表タイトル:スキマ時間を体力に変える、駅前高地トレーニング「ハイアルチ」
High Altitude Management株式会社 × ダイキン工業株式会社 × 城西大学
駅前高地トレーニング「ハイアルチ」を展開するHigh Altitude Managementは、子どもの運動不足という社会課題に着目。「子どもの体力低下は国力の低下に直結する」と警鐘を鳴らす。そこで、同社が提案するのが、多忙な子どもでも短時間で確実に体力を身に着けられる高地トレーニングだ。同サービスは、都心で低酸素環境を再現し、30分で2時間相当の運動効果を得られるという。
このトレーニングスタジオを子ども向けに安全最適化し、放課後のスキマ時間で通える場所に設置。結果はすでに出ており、入会半年以内において、9割以上の子どもで体力測定数値が向上、継続率も96.4%と高水準を維持、子どもの会員数も増加傾向にあるという。背景では、株主でもあるダイキン工業の気圧を変えず酸素濃度のみ制御する技術と、城西大学駅伝部監督による独自メソッドが支えている。
High Altitude Managementの坪井氏は、自身の過去を振り返りながら「才能よりも体力が私の挑戦を支えてくれた。体力は挑戦を支えるインフラだ」と述べ、子どもの挑戦を支え、国力を支えるインフラとして、この事業を社会に広げたいと語った。
▲最優秀賞受賞にあたり坪井氏(写真中央)は、改めて体力向上を通じて「子どもたち、そして日本の挑戦を支えていきたい」と抱負を語った。
【デジタル・イノベーション賞】『ランナーから健康増進へ拡張する汗乳酸測定サービス』
●発表タイトル:ランナーから健康増進へ拡張する汗乳酸測定サービス
株式会社グレースイメージング × ミズノスポーツサービス株式会社 × High Altitude Management株式会社
慶應義塾大学医学部発のグレースイメージングは、運動の質を高めるには、個人に合った運動強度を把握し、継続することが重要と考え、適切な運動強度が分かる汗乳酸センサーデバイスとレポート作成クラウドを開発している。これにより、運動の質を可視化し、個々に最適なトレーニングが可能となる。実際、利用者の50代男性は測定結果をもとに運動内容を見直し、適正速度を1.5キロ以上向上させたという。
2023年にはSOIPを通じて出会った「さいたまマラソン」運営者と協力し、参加者向けに測定会を実施。定期測定希望者は100%にも達し、高いニーズを確認した。現在はミズノスポーツサービスが「LacttoRUN30(らくっとらん30)」としてこのサービスを提供。また、駅前高地トレーニングスタジオ「ハイアルチ」でも導入され、高地トレーニングの効果をデータで可視化できるようになったという。
今後は、健康寿命の延伸や未病・予防をテーマに、アクティブシニア3,600万人への展開を目指す。グレースイメージング・真鍋氏は、「スポーツの現場で磨かれた技術を、次世代の健康インフラとして社会に広げていきたい」と展望を述べた。
▲登壇した真鍋氏(写真左から2番目)は、2023年の採択後の進展をこの場で報告できた喜びを語り、「運動の力でヘルスケアを支えていきたい」と今後への意欲を示した。
【ビジネス・デベロップメント賞】『幼保を起点にしたダンサー就業モデルの構築』
●発表タイトル:幼保を起点にしたダンサー就業モデルの構築
株式会社JOYKU × エイベックス・エンタテインメント株式会社
エイベックス・エンタテインメントは、小中学生を主な対象としたダンススクール「エイベックス・ダンスマスター」を展開している。過去20年間で延べ5万人の受講生を育て、ダンスの認定講師も700人超を輩出した。このスクールの幼稚園・保育園への展開を狙うなかで出会ったのが、保育士など専門職版のスポットワークマッチング事業を展開するJOYKUだ。今回、JOYKUのマッチングアプリを通じて、ダンサーと園の契約・勤怠・請求・支払いまでを自動化した。
背景には三者の課題があった。保護者はスクールへの送迎負担、園は新カリキュラム導入負荷、ダンス講師は夕方に稼働が集中するという構造だ。そこで、未稼働だった午前中の保育時間に講師の稼働時間を設定。その結果、稼働の安定化と報酬向上を同時に実現できたという。導入した園では保護者満足度98.1%、保育士も9割が満足と回答。累計2,000以上のレッスンを無事故で実施し、施設継続率も98.5%に達した。これらの実績をもとに、全国約7万の幼保施設への展開を狙う。
JOYKU・廻氏は、「スポーツ人材の価値はスタジアムではなく“生活圏”で最大化できる。ダンスを起点に次世代の教育インフラを実装したい」と述べ、子どもの体験機会とダンサーの就業機会を同時に広げる構想を示した。
▲廻氏(写真中央)は、「子どもたちは日本の宝」と述べ、幼児期からダンスに触れることで得られる運動能力・協調性・自己表現力の向上は、保育・幼児教育の質の向上にも直結すると強調。スポーツやエンタテインメントの力を活かし、保育園・幼稚園・学童などへのダンス導入を起点に、地域行政や教育委員会とも連携した持続可能な幼児の体験機会を全国展開したいと語った。
【ソーシャル・バリュー賞】『ハイパフォーマンスキャンプ(HPC)―ジムを凌駕する農地へ』
●発表タイトル:ハイパフォーマンスキャンプ(HPC)
京都大学アメリカンフットボール部 × やまもと建設株式会社(農業部) × 株式会社フリゴ
京都大学アメリカンフットボール部、やまもと建設、フリゴの3者は、ジムを凌駕する農地をコンセプトに「ハイパフォーマンスキャンプ」について発表。現在のアスリートは、実戦で求められる予測不能な事態への対応力や、逆境への適応力が十分ではない。一方、農業においては高齢化と人手不足が深刻だ。
そこで、農作業を通じて、ジムでは鍛えにくい瞬時の適応力や判断力などを養おうというのが「ハイパフォーマンスキャンプ」だ。同時に学生による農業支援により、地域の活性化も図る。実際、やまもと建設が立地する茨城県稲敷市で実施したキャンプでは、参加者らが「自然と声を掛け合い、チーム力が高まる姿が見られた」という。
さらに、富士通グループの動作解析技術(Human Motion Analytics Platform)の活用により、身体知性を可視化し成長過程をデジタル資産化する構想も提示。農業による汗や努力を資産として蓄積する仕組みを「汗の資産化」と呼び、農業を食糧生産の場からデータ・人的資本開発の場へとアップグレードする狙いを強調した。京都大学アメリカンフットボール部・丸山氏は、「このハイパフォーマンスキャンプは地方の観光資源となり、地域の活性化につながる」と可能性を示した。
▲京都大学の丸山氏は、学生の登壇者が自分だけで緊張したと振り返りつつ、「学生から日本を元気にしたい」と述べ、「この事業を本気で進めていく」と意欲を示した。
「アスリートエコノミー」や「リアルタイム字幕と手話ダンス」など独自の視点が光る5チームが登壇
続いて、惜しくも受賞には至らなかったものの、独自の視点が光った他の登壇5チームのピッチをダイジェストで紹介する。
●発表タイトル:アスリートエコノミーを基盤とした新市場創出
ASFAN × 株式会社Omit
※デジタル・イノベーション部門登壇
ASFANとOmitは、「ファン参加型のスポーツ経済圏」について発表した。現役アスリート334人への調査では、約3人に1人が金銭的不安を理由に引退を考えた経験があることが明らかになった。この現実を踏まえ、ファンの応援をアスリートの資産に変える仕組みファンクラブ『ASFAN』を構築。現在、230名のアスリートと5万人以上のファンが参加し、20以上の競技に広がっている。ASFANから年間3,000万円の収益を得る選手も生まれ、競技を続けながら経済的自立を実現できるモデルが既に稼働している。さらに、地域との関係性を強化していく展開も目指している。
●発表タイトル:リアルタイム字幕と手話ダンスで挑むギネス世界記録
株式会社ユーディフル × 株式会社アイシン
※デジタル・イノベーション部門登壇
日本には約3,000万人の音声情報だけでは不十分な人がいる。この現状を踏まえ、手話ダンスを展開するユーディフルは、アイシンのリアルタイム字幕技術を導入。同社運営のダンススタジオでは、レッスンの内容や会話をすべて可視化し、ダンスイベントでもリアルタイム字幕を実装。聴こえる・聴こえないに関係なく楽しめる環境を実現した。手話ダンス参加者からは「字幕があることでダンスの楽しさが変わった」との声も紹介された。
●発表タイトル:地域課題が研修資源。社会性と経済性を両立するゼブラ収益モデル
株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブ × 株式会社みらいワークス
※ビジネス・デベロップメント部門登壇
大企業はイノベーション人材の不足に悩む一方、地方のプロスポーツクラブは運営課題を多く抱えている。湘南ベルマーレフットサルクラブとみらいワークスは、この二者をマッチングし、イノベーション人材を育成する研修モデル『B-SPARK』を開発した。受講者は小田原のクラブ拠点に集まり、2日間の短期集中型でクラブのリアルな課題に挑戦する。すでにサービス開始から1年が経過しているが、参加者総合満足度は92%に達し、クラブが得た売上は230万円規模を実現。クラブは課題解決と収益獲得、大企業は修羅場経験による人材育成という成果を両立している。
●発表タイトル:病児・障がい児のプロスポーツ興行参加を標準化する共創事業
特定非営利活動法人AYA × 楽天グループ株式会社
※ソーシャル・バリュー部門登壇
病気や障がいを理由にプロスポーツの観戦が難しい子どもや家族がいる。家族は万一の体調急変を心配し、スポーツチームは医療知識がない中での事故リスクを懸念しているからだ。この課題に対し、医師が運営するNPO法人AYAは、スタジアムでの医療安全プロトコルを策定。緊急時の動線確保や医療従事者の最適配置などを整備した。これをもとに楽天グループでは、サッカーの試合でのエスコートキッズや野球の試合でのグランドキーパー体験を提供。子どもたちが興行を支える一員として参加を楽しんだことが紹介された。
●発表タイトル:【スポーツ×地域共生】商業施設を活用した地域コミュニティ活性
クラブツーリズム株式会社 × COEDO KAWAGOE F.C株式会社 × イオンタウン株式会社
※ソーシャル・バリュー部門登壇
全国700万人のアクティブシニア顧客基盤を持つクラブツーリズムは、年間500万人が訪れる商業施設「イオンタウンふじみ野」内で、「cotokoto」というまちのコミュニケーションスペースを運営している。また、COEDO KAWAGOE F.Cは川越市に根差したサッカークラブだ。クラブのスポンサー同士で新たに開始したのが「cotokotoひろば」という子ども食堂や居場所をつくる取り組みであり、ここでは、体験ワークショップや救命教育などの社会課題解決型プロジェクトなどを展開。スポーツクラブと商業施設が地域連携の核となる活動としての発展を目指しているという。
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記事の<前編>では、『SPORTS OPEN INNOVATION CONTEST 2025』FINAL PITCHの模様を詳報した。続く<後編>では、9チームが共創アイデアを発表した『SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS DEVELOPMENT 2025 DEMODAY』の現場レポートをお届けする。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)